慟哭のシヴリングス

ろんれん

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姦邪Ⅰ -家出編-

第7話 2度目の妹

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 この世界での俺の妹の名前は、フェリノートというらしい。女の子らしくない、変な名前だ。

 ……2度目の、妹である。

 未だあの日の出来事が脳裏に焼き付いている。例えどんな幸福を得ようと、俺がそれを忘れる事は絶対に無いだろう。
 あれから今もなおずっと、俺の心の中には誰も教えてくれない疑問がこびりついている。“何で俺が生きているんだろう”と。転生してまで、こんな狂った家庭に生まれてまで生きる理由なんてもう無いのに。

「えぇ……いぃー」

 産まれてまだ数日しか経っていないフェリノートが、ベビーベッドの中で女の子らしい高い声を出す。
 顔の形、髪色、瞳の色、何もかもが違う。今の俺の家族にも、前世での俺の妹にも。
 きっとコイツは俺と違って、両親や環境に愛されながら不幸を知らずに生きていくのだろう……自分から不幸だなんて言うのはどうかと思うが、今の俺の境遇を不幸と言わずしてなんて言うんだ。

 フェリノートの世話は、最初の1年は俺と同様にシェリルが付きっきりで世話をしていた。しかし俺も男も、シェリルがフェリノートの世話をしている時は関わるどころか近寄る事すらしなかった。
 シェリルはお目当ての男との子供を、自分の胎から産んだ事実に喜んでいた。それを邪魔したくない……というのは建前で、実際は幸せそうなシェリルを見たくなかっただけだ。


 
 フェリノートは俺と同じく、普通よりもかなり早い段階で立ったり流暢に喋れるようになった。だが……不倫によって産まれた子という罪深き存在である報いなのか、生まれつき盲目であった。
 だから常に誰かが側に居なくてはいけないのだが……シェリルは仕事復帰し、男も毎日残業の為、その役割は消去法で兄である俺になった。

「……あっ」

 丸暗記出来るほど読んだ本を黙々と読んでいると、家のどこからかフェリノートの声が聞こえてきた。俺は急いで本を閉じて声の方向……廊下に向かって走ると、そこには倒れたフェリノートの姿が。

「お、おい!! 何か用事がある時は俺を呼べって何回も」
「来ないで!! ……触らないで」

 駆け寄ろうとしたその時、フェリノートは大声で俺に向かって叫んだ。しかし最後の声は、怯えているのか震えていた。
 いつもは何か言いたげな表情でこちらを睨みつけながらも、無言で俺の手を掴んでいたフェリノートだったが……いよいよ感情が抑えきれなくなったのだろう。

「っ!?」
「貴方は……私の兄なんかじゃ、ない……!」
「チッ……俺だって不本意だけど、残念ながら俺はアンタの兄なんだよ! 大体、アンタが怪我すると面倒なんだよ……!」

 俺はイライラしながらそう言って、倒れるフェリノートの元まで歩くと、倒れるフェリノートの身体を持ち上げる。

「嫌ぁっ!! やめてっ……離してぇっ!!」
「そういう訳にいかないって言ってるだろ!! 今のアンタは、一人じゃ何も出来ないんだから!!」
「一人じゃ……何も……」
「あぁそうだ。俺の事が嫌いでもいい、兄だと思ってなくてもいい……でも今は、一人で何かできるようになるまでは、嫌でも俺の手を借りてくれ」
「っ……」

 フェリノートは悔しそうな唸り声を出すと、手探りで俺の手を探し始める。俺はその手をそっと優しく握ると、フェリノートもぎゅっと握り返してきた。

「で、どこ向かう気なんだ?」
「……別に」
「別にって……俺を困らせたかっただけか?」
「……一人でも歩けるように、リハビリ」
「そ、そっか。手伝える事があれば手伝うけど」
「……」
「勘違いするな、アンタが一人で移動出来るようになれば俺が後々楽だから手伝うだけだからな。ほら、アンタだって早く歩けるようになった方が良いだろ」
「……じゃあ、まっすぐ歩く練習」
「オッケ。じゃあ一旦端に移動しよう」

 こうして俺とフェリノートの、リハビリ生活が始まったのであった。
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