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後日談
強欲と嫉妬と怠惰
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エール商会の商会長であるレティーの誘拐事件。
その事実を知っているものは少ない。
当然、それに関わった当事者達も口を噤んでいる。
その大きな理由は、七代商家が関わっていたためだ。
国の根幹となる元七代商家が、誘拐事件を引き起こしたという外聞は、他国に知られるとよろしくない。だからこそ、エードルンドの国王は七代商家の多くに緘口令をしいたのだ。
当然、処罰は下されている。
すべてを消し去るかのように。
しかし、一番の当事者であるステファニー・モーリア。
彼女は事件が終わった一年後も生きていた。それは、事件後の取引にあった。
「……精神操作魔法について知ってること、ですって?」
「そうだ。媒体をどこから手に入れたか、術式をどこから学んだか、精神操作魔法の使い手についてなど、つまびらかに話せば命は助けてやる」
事件後、ステファニーの取り巻き達はすぐに処刑された。
そして、そろそろ自分の番だと思っていたステファニーだったが、看守から言われた言葉は想定していなかった。
「嫌」
「なぜだ?」
命に執着のない様子のステファニーに、看守は訝し気な視線を向ける。
だが、対するステファニーは嘲笑するように鼻で笑った。
「どうせ生き残っても奴隷落ちが精々でしょ? そんな人生、絶対送ってやるものですか」
「内容次第ではその限りではない」
「……どういうこと?」
重篤な犯罪者の至る場所。
それは、死、以外にあり得ないのだが、極まれに立場や状況で許される場面が出てくる。
多くは犯罪奴隷として使い捨てられるものだが、今回はそうではなかったらしい。
「……陛下は精神操作魔法についての情報がお望みだ」
「へぇ……。不安なのね。無理もないのかしら。新しい商会長の力には逆らえないでしょうから」
「陛下に対する不遜な言葉に目をつぶるのはこれが最後だ」
途端に威圧感の増した看守に気を良くしたステファニーは、けらけらと笑う。
「そんなに、怒らないでよ。いいわ。待遇次第では情報を渡しましょう。それでいいのね?」
そのやり取りの末、今、ステファニーは辺境に建てられている塔に幽閉されることとなったのだ。
◆
そうして辺境にある塔に幽閉されて、五年が経った。
長い長い時間。
永遠に続くかのようなその時間を、ステファニーは無為に過ごしていた。
特に娯楽のないそこで、彼女はぼんやりと外を眺めながら時間が過ぎるのを待っていた。
真新しい塔の壁には、なにものだかわからないつるが伸びている。
毎日肘を置いて過ごしている窓のヘリは、少しだけ黒ずんでいた。その黒ずみを見ながら、ステファニーは憎しみを募らせていく。
自分を陥れた、レティーに向けて。
そのレティーの噂は、一人の家政婦からのつたない情報からも伝わってきた。
本当に一言二言しか話さないが、その一端から、レティーが幸せに生きているのがわかるのだ。
強欲の魔女は、そこに嫉妬を積み重ね、彼女の中の大罪はだんだんと大きくなっていった。
風で、土で、雨で汚れていく様は、彼女の心を表していた。
「本当に、最低な人生だったわ」
誰に語るでもなく言葉を落とす。
そう。
最低だった。
前世で持っていたゲームの知識が活かせる世界。そんな世界で好き勝手に生きられると思っていたのに。
なぜ、自分はこんなにも虐げられ、心さえ醜くなっても生きているのか。
涙さえ流れなくなった自分の心が限界だったことは、とうの昔に気付いていたのに。
◆
そんなある日。
ステファニーがいつも見てる景色に異物が入り込んだ。
それは、一人の少年。
まだ幼さの残る少年は、草原の向こうからまっすぐに塔に向かってくると、真下に立ってステファニーを見上げてくる。
だが、彼女は見下ろすだけで何も話さない。
「あなたは大罪を司る魔女だと聞きました! どうか、その英知を私に授けてくれませんか!?」
何を言ってるんだ?
突然叫び始めた少年をみて思わず眉をひそめた。
「私はこれから旅をしなければなりません! そのためには武器が必要なのです! 私は、何としても目的を達しなければならない! お願いです! どうか、力を貸してください!」
どんな噂が広まってるのよ。
呆れを吐き出すようにため息とつくと、ステファニーは無視を決め込んだ。
どうせ、何もしゃべらなければどっかにいくだろうと思ったのだ。
だが、少年は、じっとステファニーを見つめるだけだ。
顔を引っ込めようとしたその時、彼女はふと前世の記憶が頭をよぎる。
――ゲーム序盤だと、あの洞窟に武器があったっけ。
おそらくはあっちにあるだろう洞窟に向けて視線が向いた。
別に思い出したから、つい見てしまっただけだ。
だが、少年はステファニーが向けた視線と同じ方向をみて両手を握りしめている。次の瞬間には、目を大きく見開きながら再び声を上げていた。
「強欲の魔女様! 必ずやその期待に応え、旅の一歩を踏み出して見せます! どうか見ていてください!」
そういって少年は去っていた。
その後ろ姿を、ステファニーはつまらなそうに眺めていた。
「何、あの子。変なの」
苦笑いと言えど、笑ったのは五年ぶりだった。
◆
一年が過ぎた。
まだ生きているのかと自分に呆れもしつつ、しぶとく生きていることに納得もしている。
本当に死にたいなら、きっとここに来る前に死を選んでいるのだから。
しかし、それにしてももう自分が何のために生きているのかわからなかった。
人とのかかわりは家政婦だけ。
それ以外だと、一年前にやってきた変な少年だけだ。
だからだろうか。
時折思い出すのだ。
あの少年のまなざしを。
透き通った、綺麗なその眼球を。
その視線に貫かれた、自分自身の存在を。
それを思い出すことで、なぜだか救われるような気がしていたのだ。
日々、そんなことを考えていたステファニーだが、再び現れたのだ。
心に住まうあの少年が。少しだけたくましくなった顔をして。
「強欲の魔女様! あなたのお導き通り、この剣を手に入れました! そして、この剣で、私は町の人を救うことができた。迫りくる魔物達を蹴散らすことができました! 本当にありがとうございました!」
だが、ステファニーはしゃべらない。
たまたま視線を向けただけで、そこからお目当てのものを手に入れるだなんて。
そんなの常人じゃ不可能だし、あの視線だけを信じて探し続けるなど愚の骨頂だ。心底あきれ果てたステファニーは、息をするのも忘れて彼を見下ろす。
「次は、火山に住まう竜を倒しに行きます! 必ずや、あなたの期待に応えて見せましょう!」
期待なんてしてない。
そう心でつぶやくが、同時に彼女の中で警笛が鳴った。
それは、少年が言った竜を倒しに行くという言葉。それは、その剣では成し遂げられない所業だ。
竜を倒すためには、あるキーアイテムが必要だ。
そして、それを手に入れるには――。
そんなことを思っていると、すでに少年は背を向けていた。
ステファニーは、なぜだか焦る気持ちで思わず口を開いていた。
「き、北の神殿に行きなさい」
その声が聞こえたのだろう。
少年が振り向くと、これでもかと目が見開いていた。
そして、慌てたように塔に駆け寄ると、顔を赤くして叫ぶ。
「か、必ず北の神殿に行き、そして竜を討伐してきます! 必ず、必ずです!」
その必死な形相になぜだか恥ずかしくなり、ステファニーは窓の中に顔を引っ込めた。
さすがに隠れれば声をかけてこないのだろう。
しばらくしてそっと外を覗き込むと、少年はすでに歩き始めていた。
どこかほっとしたのもつかの間、突然振り返った少年は信じられないことを口にした。
「強欲の魔女だなんて、そんな呼び名はあなたには似合わない。美しい声と、見目麗しい顔、そして、清らかなその心には」
誰のことを言っているんだろう、と思いながら、当然自分に向けて言われたことはわかっている。
再び顔を隠したステファニーの心臓は早鐘のようにうち、顔は赤い。
なぜ自分がこんな状況になっているのかわからないまま、彼女はぎゅっと自分を抱きしめた。
◆
その後も、一年後、また一年後と少年は現れた。
その都度、困難に打ち勝ち、また困難に挑もうとする少年にステファニーは心惹かれていた。
だが、自分は幽閉されているだけの人間だ。
できることは、こうして彼に知識を預けるだけ。
そう思いながら、彼女は自分の持つ知識を彼に授けていく。
そして、彼が最初にやってきてから六年目。すでに少年というには大人びた彼が叫ぶ。
「強欲の魔女様……おそらく、私がここを訪れるのは今日が最後になるでしょう」
突然の告白、ステファニーは容易に狼狽えた。
彼女の心には、すでに彼が住んでいたのだから。
一年に一度だけ会える彼を生きる糧にしていたのに。
「ど、どうして!?」
慌てたように前のめりになるステファニーをみて、少年は優しく微笑んだ。
「今度の旅からはおそらく帰れません」
「どういうこと……?」
怪訝な視線を向けるステファニーに、人懐こい笑みを深めた少年だが、その笑みはどこか物悲し気だ。
「詳しいことは言えません。ですが、およそ人では勝つことのできない存在に挑まなければなりません。ですから、もう来れないと思うのです」
その言葉に、ステファニーはすぐに思い至る。
いわゆるラスボスというやつだ。
ゲームでいうと、今自分が生きているのは二作目にあたるストーリだろう。
もしゲームと同様だとしたら、邪神に囚われた聖教国と言われる宗教国家の枢機卿が最後の敵だった。
その敵の恐ろしさを思い出し、彼女は咄嗟に叫んでいた。
「あ、あいつに挑んではダメ! だって、あなたじゃ勝てない――」
少年に対する否定。
その言葉を吐き出した直後にステファニーはすぐに口を塞いだ。
だが、少年は彼女の失礼な物言いにも笑みを絶やさず、ゆっくりと言葉を返す。
「やはり知っていたのですね……」
その視線の先には、ステファニーしか映っていない。
「私は挑まなければならない。あなたがくれた数多くの知識……そのおかげで私は困難に打ち勝てた。あなたがいたから生きてこれた。心から……感謝しかない」
ステファニーが見下ろす先には、たくましくなった少年が立っている。しかし、今日ばかりはその体躯がとても小さく見えたのだ。
「強欲の魔女の言うことを鵜呑みにするな!!」
突然叫んだ少年の声に、ステファンーはびくりと肩を震わせた。
「幾度となくそう言われてきましたが、私はどうしてもあなたが悪い人だとは思えなかった。あなたを信じたおかげで、私は救われた! あなたは強欲の魔女なんかじゃない! 私を勇者にしてくれた女神だ!」
「……勇者?」
ステファニーは聞きなれない言葉に胸がざわりとした。
あのゲームに勇者なんて存在しない。
いるのは、主人公と攻略対象者だけだ。彼らが協力して邪神に打ち勝つのに。なのに、なぜ勇者なんて存在が。
そんな疑問を持っていると、彼は一本の剣を取り出した。
それは、最初に視線だけで伝えたアドバイスで手に入れた剣。その剣を、少年はおもむろに地面に置く。
「私は、あなたがくれる知識だけを求めてここに来たのではありません。たった一人、すべてを背負わされた私には味方などいませんでした。そんな中、あなただけは助けてくれた。それがとても嬉しかったんです。ですから、もし私に剣をささげる相手がいるとしたら……それはあなたしかいない」
「まって……どういう」
「できることなら、もっと早く生まれ、出会い、あなたをお守りしたかった」
そういうと、少年は踵を返し歩いていく。
ステファニーは、その彼に声をかけることしかできない。
「まって! お願いだから――」
かつての彼女なら。
きっとこの時、自分の身の可愛さに、助けてくれと言っただろう。
だが、自然と漏れた言葉は違っていた。
「――生きて帰ってきて!」
その言葉を聞いた少年は立ち止まる。
そして、ぽつりと言葉を落とした。
「私は……私の名は、アルフレッド。あなたをいつか迎えに来るものの名です」
そういって彼は去っていった。
ステファニーは、忘れないように、刻むように、慈しむように、なんども彼の名前を呟いていた。
◆
その数か月後。
世界は沸いた。
忍び寄っていた危機を、勇者が打ち破ったというのだ。
いつもは不機嫌な家政婦でさえ、ステファニーに嬉しそうにその話題を話していく。
――あぁ、アルフレッドは打ち勝ったのね。
そう心の中でつぶやくと、その心は温かく火がともったようだった。
今までに感じたことのない充足感が彼女の中を埋め尽くす。
だが、きっと彼は来ない。
そんな確信が彼女の中にはあった。
第六感と言えばそうだし、家政婦が言っていた話には、勇者がどこかの姫君と婚約したという話も聞いたからだ。
聞くところによると、彼はまだ二十にもなっていないという。
今年ですでに三十歳を迎えるステファニーでは、つり合いなんてとれやしない。
そんなことはわかっているのだ。
だから、悲しくもなんともない。
思えば、レティーの屋敷を奪おうとしたのも、自分の強欲さから生まれたものだ。
別に、数遠くの愛を得ることが幸せではなかったのに。
そんなことに今更気づくなんて遅すぎるけれど。
そして、憎しみと嫉妬を募らせた私は、ここにきて十二年間何もやってこなかった。
強欲と嫉妬と怠惰。
その三つに支配された自分の人生は、きっとこのまま終わるのだと悟ったのだ。
だが、それでいい。
それでいいのだ。
自分のしてきた罪にはとうの昔に気付いていた。その罪に気づいていながらも醜く生きながらえてきたのだ。
そのおかげでアルフレッドのためになれたとしたら。
それは、とても幸せなことなのだから。
「それじゃ、今日もここまでです。ではまた明日」
「えぇ、今日もありがとう」
家政婦との短いやり取り。
思えば、十二年もの間、彼女にはたくさん助けられた。
さんざん恨み節やら嫌味を言われてきたけれど、母親くらいの年齢の彼女がいなかったら、孤独に殺されていただろう。
そう思って彼女のたくましい背中を見ていると――。
「ステファニー様。最近、表情が柔らかくなりまたね」
「え?」
思いがけず、彼女から言葉がかけられた。
「最近のあなたといるのは苦痛じゃありませんよ。すこし、遅い気もしますけれど」
「な、なによ……」
「ふふ、では今度こそ、失礼します」
そういって、彼女は帰っていった。
ステファニーは、どこか気恥ずかしさもあったのか、そのままぼんやりと窓の近くに座った。
すべてを失った。
そうして初めて大事なことに気付けるなんて。なんとも皮肉なものだと自嘲しながら、沈みゆく太陽を眺める。
もう暗くなる。
油など満足にないここでは、暗くなれば寝るしかない。
太陽が沈みきるまえに、寝自宅を整えなくては。
そう思って立ち上がろうとしたその時、ふと急に視界が暗くなる。
――雲かな?
そう思って見上げた先には、太陽を背負った人影がいた。
逆光になって顔など見えない。けれど、そのシルエットには見覚えがあった。
「なんで……」
その呟きは、嗚咽にまぎれて消えていく。そして、彼女はそのまま影に包まれた。
◆
アルフレッド。
聖教国から選ばれた勇者。
平民から成りあがった彼は、たった一人で困難に打ち勝ち、そして邪神の化身を滅ぼしたとされている。その戦いは苛烈を極めたが、彼はその右腕を引き換えに世界を救ったのだ。
だが、突如として消息を絶ち、以後は表舞台には表れない。
こんな逸話がある。
勇者が世界を救えたのは、実は魔のものと取引をしていたおかげだと。世界に失望した彼は再び世界を混沌に陥れようとその魔のものと暗躍したのだとか。はたまた彼には旅の間支え続けてくれた想い人がいて姫君の婚約を蹴りその想い人と生涯を過ごしたとか。中には、彼の力を脅威に思った貴族たちが、彼を罪人として塔に捕らえただとか。
様々は話が語り継がれ真偽は定かではないが、彼の墓地だけは今も確かなものとして残っていた。
そこは、辺境に建てられたの塔。
その塔は朽ち果てているが、そこの壁に彼と数人の名前が彫られて墓標になっていた。
その事実を知っているものは少ない。
当然、それに関わった当事者達も口を噤んでいる。
その大きな理由は、七代商家が関わっていたためだ。
国の根幹となる元七代商家が、誘拐事件を引き起こしたという外聞は、他国に知られるとよろしくない。だからこそ、エードルンドの国王は七代商家の多くに緘口令をしいたのだ。
当然、処罰は下されている。
すべてを消し去るかのように。
しかし、一番の当事者であるステファニー・モーリア。
彼女は事件が終わった一年後も生きていた。それは、事件後の取引にあった。
「……精神操作魔法について知ってること、ですって?」
「そうだ。媒体をどこから手に入れたか、術式をどこから学んだか、精神操作魔法の使い手についてなど、つまびらかに話せば命は助けてやる」
事件後、ステファニーの取り巻き達はすぐに処刑された。
そして、そろそろ自分の番だと思っていたステファニーだったが、看守から言われた言葉は想定していなかった。
「嫌」
「なぜだ?」
命に執着のない様子のステファニーに、看守は訝し気な視線を向ける。
だが、対するステファニーは嘲笑するように鼻で笑った。
「どうせ生き残っても奴隷落ちが精々でしょ? そんな人生、絶対送ってやるものですか」
「内容次第ではその限りではない」
「……どういうこと?」
重篤な犯罪者の至る場所。
それは、死、以外にあり得ないのだが、極まれに立場や状況で許される場面が出てくる。
多くは犯罪奴隷として使い捨てられるものだが、今回はそうではなかったらしい。
「……陛下は精神操作魔法についての情報がお望みだ」
「へぇ……。不安なのね。無理もないのかしら。新しい商会長の力には逆らえないでしょうから」
「陛下に対する不遜な言葉に目をつぶるのはこれが最後だ」
途端に威圧感の増した看守に気を良くしたステファニーは、けらけらと笑う。
「そんなに、怒らないでよ。いいわ。待遇次第では情報を渡しましょう。それでいいのね?」
そのやり取りの末、今、ステファニーは辺境に建てられている塔に幽閉されることとなったのだ。
◆
そうして辺境にある塔に幽閉されて、五年が経った。
長い長い時間。
永遠に続くかのようなその時間を、ステファニーは無為に過ごしていた。
特に娯楽のないそこで、彼女はぼんやりと外を眺めながら時間が過ぎるのを待っていた。
真新しい塔の壁には、なにものだかわからないつるが伸びている。
毎日肘を置いて過ごしている窓のヘリは、少しだけ黒ずんでいた。その黒ずみを見ながら、ステファニーは憎しみを募らせていく。
自分を陥れた、レティーに向けて。
そのレティーの噂は、一人の家政婦からのつたない情報からも伝わってきた。
本当に一言二言しか話さないが、その一端から、レティーが幸せに生きているのがわかるのだ。
強欲の魔女は、そこに嫉妬を積み重ね、彼女の中の大罪はだんだんと大きくなっていった。
風で、土で、雨で汚れていく様は、彼女の心を表していた。
「本当に、最低な人生だったわ」
誰に語るでもなく言葉を落とす。
そう。
最低だった。
前世で持っていたゲームの知識が活かせる世界。そんな世界で好き勝手に生きられると思っていたのに。
なぜ、自分はこんなにも虐げられ、心さえ醜くなっても生きているのか。
涙さえ流れなくなった自分の心が限界だったことは、とうの昔に気付いていたのに。
◆
そんなある日。
ステファニーがいつも見てる景色に異物が入り込んだ。
それは、一人の少年。
まだ幼さの残る少年は、草原の向こうからまっすぐに塔に向かってくると、真下に立ってステファニーを見上げてくる。
だが、彼女は見下ろすだけで何も話さない。
「あなたは大罪を司る魔女だと聞きました! どうか、その英知を私に授けてくれませんか!?」
何を言ってるんだ?
突然叫び始めた少年をみて思わず眉をひそめた。
「私はこれから旅をしなければなりません! そのためには武器が必要なのです! 私は、何としても目的を達しなければならない! お願いです! どうか、力を貸してください!」
どんな噂が広まってるのよ。
呆れを吐き出すようにため息とつくと、ステファニーは無視を決め込んだ。
どうせ、何もしゃべらなければどっかにいくだろうと思ったのだ。
だが、少年は、じっとステファニーを見つめるだけだ。
顔を引っ込めようとしたその時、彼女はふと前世の記憶が頭をよぎる。
――ゲーム序盤だと、あの洞窟に武器があったっけ。
おそらくはあっちにあるだろう洞窟に向けて視線が向いた。
別に思い出したから、つい見てしまっただけだ。
だが、少年はステファニーが向けた視線と同じ方向をみて両手を握りしめている。次の瞬間には、目を大きく見開きながら再び声を上げていた。
「強欲の魔女様! 必ずやその期待に応え、旅の一歩を踏み出して見せます! どうか見ていてください!」
そういって少年は去っていた。
その後ろ姿を、ステファニーはつまらなそうに眺めていた。
「何、あの子。変なの」
苦笑いと言えど、笑ったのは五年ぶりだった。
◆
一年が過ぎた。
まだ生きているのかと自分に呆れもしつつ、しぶとく生きていることに納得もしている。
本当に死にたいなら、きっとここに来る前に死を選んでいるのだから。
しかし、それにしてももう自分が何のために生きているのかわからなかった。
人とのかかわりは家政婦だけ。
それ以外だと、一年前にやってきた変な少年だけだ。
だからだろうか。
時折思い出すのだ。
あの少年のまなざしを。
透き通った、綺麗なその眼球を。
その視線に貫かれた、自分自身の存在を。
それを思い出すことで、なぜだか救われるような気がしていたのだ。
日々、そんなことを考えていたステファニーだが、再び現れたのだ。
心に住まうあの少年が。少しだけたくましくなった顔をして。
「強欲の魔女様! あなたのお導き通り、この剣を手に入れました! そして、この剣で、私は町の人を救うことができた。迫りくる魔物達を蹴散らすことができました! 本当にありがとうございました!」
だが、ステファニーはしゃべらない。
たまたま視線を向けただけで、そこからお目当てのものを手に入れるだなんて。
そんなの常人じゃ不可能だし、あの視線だけを信じて探し続けるなど愚の骨頂だ。心底あきれ果てたステファニーは、息をするのも忘れて彼を見下ろす。
「次は、火山に住まう竜を倒しに行きます! 必ずや、あなたの期待に応えて見せましょう!」
期待なんてしてない。
そう心でつぶやくが、同時に彼女の中で警笛が鳴った。
それは、少年が言った竜を倒しに行くという言葉。それは、その剣では成し遂げられない所業だ。
竜を倒すためには、あるキーアイテムが必要だ。
そして、それを手に入れるには――。
そんなことを思っていると、すでに少年は背を向けていた。
ステファニーは、なぜだか焦る気持ちで思わず口を開いていた。
「き、北の神殿に行きなさい」
その声が聞こえたのだろう。
少年が振り向くと、これでもかと目が見開いていた。
そして、慌てたように塔に駆け寄ると、顔を赤くして叫ぶ。
「か、必ず北の神殿に行き、そして竜を討伐してきます! 必ず、必ずです!」
その必死な形相になぜだか恥ずかしくなり、ステファニーは窓の中に顔を引っ込めた。
さすがに隠れれば声をかけてこないのだろう。
しばらくしてそっと外を覗き込むと、少年はすでに歩き始めていた。
どこかほっとしたのもつかの間、突然振り返った少年は信じられないことを口にした。
「強欲の魔女だなんて、そんな呼び名はあなたには似合わない。美しい声と、見目麗しい顔、そして、清らかなその心には」
誰のことを言っているんだろう、と思いながら、当然自分に向けて言われたことはわかっている。
再び顔を隠したステファニーの心臓は早鐘のようにうち、顔は赤い。
なぜ自分がこんな状況になっているのかわからないまま、彼女はぎゅっと自分を抱きしめた。
◆
その後も、一年後、また一年後と少年は現れた。
その都度、困難に打ち勝ち、また困難に挑もうとする少年にステファニーは心惹かれていた。
だが、自分は幽閉されているだけの人間だ。
できることは、こうして彼に知識を預けるだけ。
そう思いながら、彼女は自分の持つ知識を彼に授けていく。
そして、彼が最初にやってきてから六年目。すでに少年というには大人びた彼が叫ぶ。
「強欲の魔女様……おそらく、私がここを訪れるのは今日が最後になるでしょう」
突然の告白、ステファニーは容易に狼狽えた。
彼女の心には、すでに彼が住んでいたのだから。
一年に一度だけ会える彼を生きる糧にしていたのに。
「ど、どうして!?」
慌てたように前のめりになるステファニーをみて、少年は優しく微笑んだ。
「今度の旅からはおそらく帰れません」
「どういうこと……?」
怪訝な視線を向けるステファニーに、人懐こい笑みを深めた少年だが、その笑みはどこか物悲し気だ。
「詳しいことは言えません。ですが、およそ人では勝つことのできない存在に挑まなければなりません。ですから、もう来れないと思うのです」
その言葉に、ステファニーはすぐに思い至る。
いわゆるラスボスというやつだ。
ゲームでいうと、今自分が生きているのは二作目にあたるストーリだろう。
もしゲームと同様だとしたら、邪神に囚われた聖教国と言われる宗教国家の枢機卿が最後の敵だった。
その敵の恐ろしさを思い出し、彼女は咄嗟に叫んでいた。
「あ、あいつに挑んではダメ! だって、あなたじゃ勝てない――」
少年に対する否定。
その言葉を吐き出した直後にステファニーはすぐに口を塞いだ。
だが、少年は彼女の失礼な物言いにも笑みを絶やさず、ゆっくりと言葉を返す。
「やはり知っていたのですね……」
その視線の先には、ステファニーしか映っていない。
「私は挑まなければならない。あなたがくれた数多くの知識……そのおかげで私は困難に打ち勝てた。あなたがいたから生きてこれた。心から……感謝しかない」
ステファニーが見下ろす先には、たくましくなった少年が立っている。しかし、今日ばかりはその体躯がとても小さく見えたのだ。
「強欲の魔女の言うことを鵜呑みにするな!!」
突然叫んだ少年の声に、ステファンーはびくりと肩を震わせた。
「幾度となくそう言われてきましたが、私はどうしてもあなたが悪い人だとは思えなかった。あなたを信じたおかげで、私は救われた! あなたは強欲の魔女なんかじゃない! 私を勇者にしてくれた女神だ!」
「……勇者?」
ステファニーは聞きなれない言葉に胸がざわりとした。
あのゲームに勇者なんて存在しない。
いるのは、主人公と攻略対象者だけだ。彼らが協力して邪神に打ち勝つのに。なのに、なぜ勇者なんて存在が。
そんな疑問を持っていると、彼は一本の剣を取り出した。
それは、最初に視線だけで伝えたアドバイスで手に入れた剣。その剣を、少年はおもむろに地面に置く。
「私は、あなたがくれる知識だけを求めてここに来たのではありません。たった一人、すべてを背負わされた私には味方などいませんでした。そんな中、あなただけは助けてくれた。それがとても嬉しかったんです。ですから、もし私に剣をささげる相手がいるとしたら……それはあなたしかいない」
「まって……どういう」
「できることなら、もっと早く生まれ、出会い、あなたをお守りしたかった」
そういうと、少年は踵を返し歩いていく。
ステファニーは、その彼に声をかけることしかできない。
「まって! お願いだから――」
かつての彼女なら。
きっとこの時、自分の身の可愛さに、助けてくれと言っただろう。
だが、自然と漏れた言葉は違っていた。
「――生きて帰ってきて!」
その言葉を聞いた少年は立ち止まる。
そして、ぽつりと言葉を落とした。
「私は……私の名は、アルフレッド。あなたをいつか迎えに来るものの名です」
そういって彼は去っていった。
ステファニーは、忘れないように、刻むように、慈しむように、なんども彼の名前を呟いていた。
◆
その数か月後。
世界は沸いた。
忍び寄っていた危機を、勇者が打ち破ったというのだ。
いつもは不機嫌な家政婦でさえ、ステファニーに嬉しそうにその話題を話していく。
――あぁ、アルフレッドは打ち勝ったのね。
そう心の中でつぶやくと、その心は温かく火がともったようだった。
今までに感じたことのない充足感が彼女の中を埋め尽くす。
だが、きっと彼は来ない。
そんな確信が彼女の中にはあった。
第六感と言えばそうだし、家政婦が言っていた話には、勇者がどこかの姫君と婚約したという話も聞いたからだ。
聞くところによると、彼はまだ二十にもなっていないという。
今年ですでに三十歳を迎えるステファニーでは、つり合いなんてとれやしない。
そんなことはわかっているのだ。
だから、悲しくもなんともない。
思えば、レティーの屋敷を奪おうとしたのも、自分の強欲さから生まれたものだ。
別に、数遠くの愛を得ることが幸せではなかったのに。
そんなことに今更気づくなんて遅すぎるけれど。
そして、憎しみと嫉妬を募らせた私は、ここにきて十二年間何もやってこなかった。
強欲と嫉妬と怠惰。
その三つに支配された自分の人生は、きっとこのまま終わるのだと悟ったのだ。
だが、それでいい。
それでいいのだ。
自分のしてきた罪にはとうの昔に気付いていた。その罪に気づいていながらも醜く生きながらえてきたのだ。
そのおかげでアルフレッドのためになれたとしたら。
それは、とても幸せなことなのだから。
「それじゃ、今日もここまでです。ではまた明日」
「えぇ、今日もありがとう」
家政婦との短いやり取り。
思えば、十二年もの間、彼女にはたくさん助けられた。
さんざん恨み節やら嫌味を言われてきたけれど、母親くらいの年齢の彼女がいなかったら、孤独に殺されていただろう。
そう思って彼女のたくましい背中を見ていると――。
「ステファニー様。最近、表情が柔らかくなりまたね」
「え?」
思いがけず、彼女から言葉がかけられた。
「最近のあなたといるのは苦痛じゃありませんよ。すこし、遅い気もしますけれど」
「な、なによ……」
「ふふ、では今度こそ、失礼します」
そういって、彼女は帰っていった。
ステファニーは、どこか気恥ずかしさもあったのか、そのままぼんやりと窓の近くに座った。
すべてを失った。
そうして初めて大事なことに気付けるなんて。なんとも皮肉なものだと自嘲しながら、沈みゆく太陽を眺める。
もう暗くなる。
油など満足にないここでは、暗くなれば寝るしかない。
太陽が沈みきるまえに、寝自宅を整えなくては。
そう思って立ち上がろうとしたその時、ふと急に視界が暗くなる。
――雲かな?
そう思って見上げた先には、太陽を背負った人影がいた。
逆光になって顔など見えない。けれど、そのシルエットには見覚えがあった。
「なんで……」
その呟きは、嗚咽にまぎれて消えていく。そして、彼女はそのまま影に包まれた。
◆
アルフレッド。
聖教国から選ばれた勇者。
平民から成りあがった彼は、たった一人で困難に打ち勝ち、そして邪神の化身を滅ぼしたとされている。その戦いは苛烈を極めたが、彼はその右腕を引き換えに世界を救ったのだ。
だが、突如として消息を絶ち、以後は表舞台には表れない。
こんな逸話がある。
勇者が世界を救えたのは、実は魔のものと取引をしていたおかげだと。世界に失望した彼は再び世界を混沌に陥れようとその魔のものと暗躍したのだとか。はたまた彼には旅の間支え続けてくれた想い人がいて姫君の婚約を蹴りその想い人と生涯を過ごしたとか。中には、彼の力を脅威に思った貴族たちが、彼を罪人として塔に捕らえただとか。
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そこは、辺境に建てられたの塔。
その塔は朽ち果てているが、そこの壁に彼と数人の名前が彫られて墓標になっていた。
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