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閑話 王国
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ここはクーシスト王国の王城だ。
私――アルフレート・クーシスト。この国の王太子だ。
私は先日、婚約者だったアンフェリカとその約束を破棄し、以前から想っていたマリレーヌと一緒になることにした。父や公爵からは散々文句をいられたが、私は私のやりたいようにする。未来の王なのだから、それくらい当然のことだ。
思えばアンフェリカはうざったらしかった。
やれ、作法がとか、貴族としての振る舞いだとか。
そんなもの、王になった時に気を付ければよい。いちいちうるさいので本当に煩わしかった。
しかも、あいつのスキルが本当に役に立たないものだった。
種(たね)の保護、だと?
どこの世界に、種なんぞを保護して喜ぶ輩がいるのだろうか。
昔、アンフェリカが「この花を試しに保護してよろしいですか?」と聞いてきたから、許可してやった。どんなに役に立たない人間だろうと、花を愛でる権利くらいはある。
私にも、その楽しみを謳歌させたいという気持ちはある。なんて寛大だっただろうか。
そういえば、今でも父上は文句を言ってくる。
公爵家とのつながりが希薄になれば、国が割れる可能性があるとかないとか。もちろん、その可能性も私はわかっていた。
だが、アンフェリカの父は、私が幼いころから支持してくれているものだ。信頼は積み上げてきた。それは今更失われるものでもないだろう。しっかりと公爵としての立場を守ってやればそれで十分だ。それくらいわからないのだろうか、父上は。そんな弱気では、この王国を発展させることなどできはしない。
私の代になれば、もっと強気に外交を進めていけばいい。
わが王国の力があれば、きっと発展できるに違いない。
隣で寝ているマリレーヌの頭を撫でながら、私は未来に思いめぐらせていた。そんな時――。
「殿下! 陛下がおよびです! 急いでいらしてください!」
幸せな時間に横やりを入れる伝令に、思わず舌打ちするのを抑えられなかった。
◆
「何か御用でしょうか」
私が謁見の間に行くと、そこには険しい表情を浮かべた父上と公爵がいた。二人はじっと私をにらみつけてくる。
何事かと思ったが、それはすぐに父上から語られることとなった。
「お前はアンフェリカとの婚約を解消したな。その後、どのような事態になったか把握しているか?」
「はい? 公爵の領地に戻ったのでは? それくらいしか知りませんが」
私の言葉に、父上も公爵もため息を吐く。
どういうことだ? 何が起こった?
「何か……あったのですか?」
「あったのだ……まだ確信はもてないが」
「一体――」
「お前のせいで!」
「は?」
聞くと、このようなことらしい。
エルフとわれら人間は、互いに交流を絶っていた。だが、突然向こうから書状が届いたのだという。
その内容は、
「エルフは宝を取り戻した。そして、王国がエルフの宝を奪っていた証拠を見つけた。どのようにして責任をとるのか?」
といった内容だったらしい。
エルフの宝? 証拠?
私には何のことかわからなかった。
「エルフの宝とは……? 一体何のことですか?」
「わからんのか!? ファロムの花のことだ! あの花はエルフの生命線だったのだ! エルフ自身も気づいていない事実に気付いた先代達はその花を奪い、エルフを支配しようとしていた! あと少しで、その野望が叶うはずだったにもかかわらず、お前のせいで! お前のぉ!!」
「なぜ私のせいなのですか!? 言いがかりはよしてください!」
「お前があの女に、ファロムの花を与えたそうだな」
「ぁ……」
思い返されるのは、かつての光景。
哀れだからと与えた情景がまざまざと思い出される。
「あの花は! エルフが生きながらえる希望だったのだ! だからこそ、王城で管理していたのだ! それを、エルフに与えてしまえばどうなるかわかってるのか!」
整理すると、王国はエルフの国の宝を奪い支配しようとしていたと。
だが、あのアンフェリカがなぜだかエルフと繋がり、その花を渡してしまった。エルフは奪われた宝を取り戻したからこちらに強気に出てきたということか。
それのどこに問題があるのだろうか。
私は単純に疑問をぶつける。
「どうしてそのようにエルフを怖がるのですか? 所詮は少数民族でしょう? もしやりあうにしても、こちらにあるのは数の利。簡単に滅ぼせるのでは?」
「お前は知らぬのだ。あの森の民の底力を。だからこそ、敵対せず協力体制を築き支配しようとしていたにもかかわらず! お前があの女をほっぽりだすからだ!」
憤慨している父上の横では、青ざめている公爵がいる。
そうか、睨んでいたのではなく、自分の身が危うくなっていただけか。
それにしても父上のなんと弱気なことか。
そんなことでは、この国は衰退するばかりだ。
「お前もだぞ、公爵! お前たち二人には、この責任は必ずとってもらうからなぁ!!」
そういって父上は出ていってしまう。
その後ろ姿を眺めながら、私は公爵に話しかけた。
「どう思いますか、公爵。たかだか少数民族に恐れている王では国の未来はありません」
「そうはいっても殿下。エルフに対して切り札がなくなったのは間違いないのです。どうするおつもりですか?」
「なに。私とアンフェリカは婚約者だったのだ。それでなくとも、森の民なぞ、簡単にひねりつぶしてやる。公爵。協力してくれるな?」
そう問いかけると、きっと色々と計算しているのだろう。
しばらく悩んだのち、おもむろに頷いた。
「よし。では、早速話し合いといこうか」
そう言って、私は公爵としばらく話し合うことにしたのだった。
私――アルフレート・クーシスト。この国の王太子だ。
私は先日、婚約者だったアンフェリカとその約束を破棄し、以前から想っていたマリレーヌと一緒になることにした。父や公爵からは散々文句をいられたが、私は私のやりたいようにする。未来の王なのだから、それくらい当然のことだ。
思えばアンフェリカはうざったらしかった。
やれ、作法がとか、貴族としての振る舞いだとか。
そんなもの、王になった時に気を付ければよい。いちいちうるさいので本当に煩わしかった。
しかも、あいつのスキルが本当に役に立たないものだった。
種(たね)の保護、だと?
どこの世界に、種なんぞを保護して喜ぶ輩がいるのだろうか。
昔、アンフェリカが「この花を試しに保護してよろしいですか?」と聞いてきたから、許可してやった。どんなに役に立たない人間だろうと、花を愛でる権利くらいはある。
私にも、その楽しみを謳歌させたいという気持ちはある。なんて寛大だっただろうか。
そういえば、今でも父上は文句を言ってくる。
公爵家とのつながりが希薄になれば、国が割れる可能性があるとかないとか。もちろん、その可能性も私はわかっていた。
だが、アンフェリカの父は、私が幼いころから支持してくれているものだ。信頼は積み上げてきた。それは今更失われるものでもないだろう。しっかりと公爵としての立場を守ってやればそれで十分だ。それくらいわからないのだろうか、父上は。そんな弱気では、この王国を発展させることなどできはしない。
私の代になれば、もっと強気に外交を進めていけばいい。
わが王国の力があれば、きっと発展できるに違いない。
隣で寝ているマリレーヌの頭を撫でながら、私は未来に思いめぐらせていた。そんな時――。
「殿下! 陛下がおよびです! 急いでいらしてください!」
幸せな時間に横やりを入れる伝令に、思わず舌打ちするのを抑えられなかった。
◆
「何か御用でしょうか」
私が謁見の間に行くと、そこには険しい表情を浮かべた父上と公爵がいた。二人はじっと私をにらみつけてくる。
何事かと思ったが、それはすぐに父上から語られることとなった。
「お前はアンフェリカとの婚約を解消したな。その後、どのような事態になったか把握しているか?」
「はい? 公爵の領地に戻ったのでは? それくらいしか知りませんが」
私の言葉に、父上も公爵もため息を吐く。
どういうことだ? 何が起こった?
「何か……あったのですか?」
「あったのだ……まだ確信はもてないが」
「一体――」
「お前のせいで!」
「は?」
聞くと、このようなことらしい。
エルフとわれら人間は、互いに交流を絶っていた。だが、突然向こうから書状が届いたのだという。
その内容は、
「エルフは宝を取り戻した。そして、王国がエルフの宝を奪っていた証拠を見つけた。どのようにして責任をとるのか?」
といった内容だったらしい。
エルフの宝? 証拠?
私には何のことかわからなかった。
「エルフの宝とは……? 一体何のことですか?」
「わからんのか!? ファロムの花のことだ! あの花はエルフの生命線だったのだ! エルフ自身も気づいていない事実に気付いた先代達はその花を奪い、エルフを支配しようとしていた! あと少しで、その野望が叶うはずだったにもかかわらず、お前のせいで! お前のぉ!!」
「なぜ私のせいなのですか!? 言いがかりはよしてください!」
「お前があの女に、ファロムの花を与えたそうだな」
「ぁ……」
思い返されるのは、かつての光景。
哀れだからと与えた情景がまざまざと思い出される。
「あの花は! エルフが生きながらえる希望だったのだ! だからこそ、王城で管理していたのだ! それを、エルフに与えてしまえばどうなるかわかってるのか!」
整理すると、王国はエルフの国の宝を奪い支配しようとしていたと。
だが、あのアンフェリカがなぜだかエルフと繋がり、その花を渡してしまった。エルフは奪われた宝を取り戻したからこちらに強気に出てきたということか。
それのどこに問題があるのだろうか。
私は単純に疑問をぶつける。
「どうしてそのようにエルフを怖がるのですか? 所詮は少数民族でしょう? もしやりあうにしても、こちらにあるのは数の利。簡単に滅ぼせるのでは?」
「お前は知らぬのだ。あの森の民の底力を。だからこそ、敵対せず協力体制を築き支配しようとしていたにもかかわらず! お前があの女をほっぽりだすからだ!」
憤慨している父上の横では、青ざめている公爵がいる。
そうか、睨んでいたのではなく、自分の身が危うくなっていただけか。
それにしても父上のなんと弱気なことか。
そんなことでは、この国は衰退するばかりだ。
「お前もだぞ、公爵! お前たち二人には、この責任は必ずとってもらうからなぁ!!」
そういって父上は出ていってしまう。
その後ろ姿を眺めながら、私は公爵に話しかけた。
「どう思いますか、公爵。たかだか少数民族に恐れている王では国の未来はありません」
「そうはいっても殿下。エルフに対して切り札がなくなったのは間違いないのです。どうするおつもりですか?」
「なに。私とアンフェリカは婚約者だったのだ。それでなくとも、森の民なぞ、簡単にひねりつぶしてやる。公爵。協力してくれるな?」
そう問いかけると、きっと色々と計算しているのだろう。
しばらく悩んだのち、おもむろに頷いた。
「よし。では、早速話し合いといこうか」
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