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救いと勇気と③
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皆でひとしきり騒いだ後、私達はコスティさんの家を後にした。
私達のただならぬ様子を見ていたせいだろう。あの白い建物に集まっていた人たちが、今度はコスティさんの家の前に集まってた。
ただ、さっきと違うのはその表情だ。
敵意ではなく困惑。
きっと、医師や薬師の方、エヴァン様やお父様の様子をみていて何かを感じ取っているんだろう。
だれもが静かに黙り込み、私達の動向を窺っている。
そんな硬直状態の中、お父様が一歩前に出た。
「エリナの呪いが解けた」
その一言で、集団が一気にざわめいた。
「う、嘘だろ! まさか、そんな!」
「本当なのですか! 陛下、その話は本当なのですか!?」
「なんで急に呪いが解けるんだ! 一体何が――」
皆が一瞬で詰め寄ってきた。
その一人一人に視線を送りながら、お父様は力強く言葉を紡ぐ。
「このものが……そなたたちが敵視していたアンフェリカが救ってくれたのだ」
「え?」
その言葉を聞いて、全員の表情に浮かんでいたのは先ほどよりもさらに深い困惑だ。
なぜ?
どうして?
自分たちを貶めた人間が?
どうやって救った?
あらゆる疑問を含んだ視線を一斉に浴びているとやはり体が震えるけれど、ちゃんと今は自分の足で立っている。
そんな感覚があった。
「アンフェリカは、王国よりトピアスの恵みをもたらした。そして、花だけではない。このように種もたくさんある。これで、きっとわれらは救われる」
そうやってお父様は手のひらに溢れる種を取り出した。
実際にものをみると現実感が増すのだろう。
喜びきれなかった皆の表情が、途端にはじける。
野太い通る声。
うめくような泣き声。
嗚咽。
慟哭。
あらゆる声がその場に響いたが、言葉にならない。
誰しもが語彙を失っていた。それほどまでに、彼らにとっては衝撃的な出来事だったのだ。
その時、私達の背後でがちゃりと扉が開く。
家から出てきたのは、コスティさんだ。誰かを探すようにあたりを見回すと、私と目が合ったとたん走り出す。
そして、目の前で急停止したかと思うと、私の両手を強引に掴んだ。
「待ってくれ! まだ、何も言ってない! 何も伝えてない!」
異様なほど慌てているコンフィさんを落ち着かせるように、私はそっと微笑む。
「大丈夫ですよ? ゆっくりで」
「あ、ありがたい……ふぅ、まだ興奮が収まらないんだ。だけど、これだけは聞かせてくれるか?」
「なにをでしょうか?」
「あなたの名前は……?」
視線を合わせて、名前を聞いてくれる。
その行動がなんと嬉しいことか。
ちゃんと、私自身を見てくれているという充足感が、心に満ちていく。
「アンフェリカです」
「アンフェリカ……そうか。俺の妻を救ったのは人はアンフェリカというのか」
何かを確認するようにじっくり私の全身を見回しながら、またコンフィさんは目を潤ませた。
「ありがとうっ! アンフェリカ。あなたに生涯の幸福が訪れますように」
「こちらこそありがとうございます。奥様、はやく元気になるといいですね!」
「おお!!」
そういって私達は微笑み合った。
なぜだか私の目も潤んでいたのが恥ずかしかったけど、これでいい。これでいいんだ。
私にお礼を言ってようやく落ち着いたのか、コンフィさんが離れていく。
すると、ずっと隣にいてくれたエヴァン様がそっと耳打ちをしてきた。
「ほら。いい機会だ。皆に君のことを伝えてみたらどうだ?」
顔をあげると、そこには私を中心に集まる人垣があった。
エヴァン様がそっと背中を押してくれる。
私は、先ほどコンフィさんの家の中で足を踏み出したときの気持ちを思い出しながら背筋を伸ばした。
私はエミリさんを救えたのだ。
もう何もできなかった昔とは違う。
確かにそう思えている自分がいる。
だからこそ、少しだけ自信をもって言える。
「アンフェリカと言います。エヴァン様と……共に生きるために参りました。以後、お見知りおきを」
そういって頭を下げた。
自分の意志をしっかり伝えられたことに、そんな些細なことに、私は自分を褒めてあげたくなった。
私達のただならぬ様子を見ていたせいだろう。あの白い建物に集まっていた人たちが、今度はコスティさんの家の前に集まってた。
ただ、さっきと違うのはその表情だ。
敵意ではなく困惑。
きっと、医師や薬師の方、エヴァン様やお父様の様子をみていて何かを感じ取っているんだろう。
だれもが静かに黙り込み、私達の動向を窺っている。
そんな硬直状態の中、お父様が一歩前に出た。
「エリナの呪いが解けた」
その一言で、集団が一気にざわめいた。
「う、嘘だろ! まさか、そんな!」
「本当なのですか! 陛下、その話は本当なのですか!?」
「なんで急に呪いが解けるんだ! 一体何が――」
皆が一瞬で詰め寄ってきた。
その一人一人に視線を送りながら、お父様は力強く言葉を紡ぐ。
「このものが……そなたたちが敵視していたアンフェリカが救ってくれたのだ」
「え?」
その言葉を聞いて、全員の表情に浮かんでいたのは先ほどよりもさらに深い困惑だ。
なぜ?
どうして?
自分たちを貶めた人間が?
どうやって救った?
あらゆる疑問を含んだ視線を一斉に浴びているとやはり体が震えるけれど、ちゃんと今は自分の足で立っている。
そんな感覚があった。
「アンフェリカは、王国よりトピアスの恵みをもたらした。そして、花だけではない。このように種もたくさんある。これで、きっとわれらは救われる」
そうやってお父様は手のひらに溢れる種を取り出した。
実際にものをみると現実感が増すのだろう。
喜びきれなかった皆の表情が、途端にはじける。
野太い通る声。
うめくような泣き声。
嗚咽。
慟哭。
あらゆる声がその場に響いたが、言葉にならない。
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その時、私達の背後でがちゃりと扉が開く。
家から出てきたのは、コスティさんだ。誰かを探すようにあたりを見回すと、私と目が合ったとたん走り出す。
そして、目の前で急停止したかと思うと、私の両手を強引に掴んだ。
「待ってくれ! まだ、何も言ってない! 何も伝えてない!」
異様なほど慌てているコンフィさんを落ち着かせるように、私はそっと微笑む。
「大丈夫ですよ? ゆっくりで」
「あ、ありがたい……ふぅ、まだ興奮が収まらないんだ。だけど、これだけは聞かせてくれるか?」
「なにをでしょうか?」
「あなたの名前は……?」
視線を合わせて、名前を聞いてくれる。
その行動がなんと嬉しいことか。
ちゃんと、私自身を見てくれているという充足感が、心に満ちていく。
「アンフェリカです」
「アンフェリカ……そうか。俺の妻を救ったのは人はアンフェリカというのか」
何かを確認するようにじっくり私の全身を見回しながら、またコンフィさんは目を潤ませた。
「ありがとうっ! アンフェリカ。あなたに生涯の幸福が訪れますように」
「こちらこそありがとうございます。奥様、はやく元気になるといいですね!」
「おお!!」
そういって私達は微笑み合った。
なぜだか私の目も潤んでいたのが恥ずかしかったけど、これでいい。これでいいんだ。
私にお礼を言ってようやく落ち着いたのか、コンフィさんが離れていく。
すると、ずっと隣にいてくれたエヴァン様がそっと耳打ちをしてきた。
「ほら。いい機会だ。皆に君のことを伝えてみたらどうだ?」
顔をあげると、そこには私を中心に集まる人垣があった。
エヴァン様がそっと背中を押してくれる。
私は、先ほどコンフィさんの家の中で足を踏み出したときの気持ちを思い出しながら背筋を伸ばした。
私はエミリさんを救えたのだ。
もう何もできなかった昔とは違う。
確かにそう思えている自分がいる。
だからこそ、少しだけ自信をもって言える。
「アンフェリカと言います。エヴァン様と……共に生きるために参りました。以後、お見知りおきを」
そういって頭を下げた。
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