9 / 23
エルフの国と拒絶②
しおりを挟む「丸見えだ。まだ甘い」
そういって矢を打ち出した。
って、三本!?
私は目の錯覚かと思い矢が飛んで行った方向を見ると、やはり三か所で茂みを貫いた音が聞こえた。
その神業に目を瞬かせつつ、エヴァン様の動きを注視した。
エヴァン様は、素早く矢を構えると、二度、三度と矢を番う。
なんどか矢が飛んできたが、それもエヴァン様が同じように矢で弾いていた。とんでもない出来事に、私は開いた口が塞がらない。
「もう大丈夫だ」
私の頭をそっと撫でると、エヴァン様は優しく微笑んだ。
その仕草と表情に、私の胸が高鳴る。
こんな非常時だけど、改めてみると本当にエヴァン様は美しい。神話に出てくる神様のようだ。
透き通るような銀髪に、切れながらの目。
どこか冷たさを感じる顔立ちながら、優しく微笑むそのギャップ。
もういつ見ても、心が休まらない。
私は大きく深呼吸をして落ち着くと、体を起こす。
「あの……一体何が」
「すまない。いつものことなんだ――」
エヴァン様はそういうと、馬車の外にでて大声をあげた。
「客人がいる! いい加減、遊びはおしまいだ!」
その叫び応じたのか、茂みから数人の男が出てきた。
全員エルフのようだ。
その表情はなぜだかひきつっており苦笑いをうかべている。
その中の一人。
少しだけ装飾品を多くつけているエルフが腰から下げた大きいネックレスのようなものをじゃらじゃら言わせながら近づいてきた。
「それは反則でしょ、エヴァン。あんなの無理無理! いつもと違っていきなり本気だすとかずるいって! いつもみたいに、小手調べからってのが常道だろって……人間か?」
軽い雰囲気で近づいてきた男が、私の顔を見るなり眉をひそめた。
それはそうだ。
エルフは人間との交流を絶っているんだから。
でも、私はエヴァン様と一緒に来たんだからせっかくなら仲良くしたい。
慌てて馬車から降りると、できるだけ優雅にスカートをつまむ。
「初めまして。アンフェリカと申します」
「あ、あぁ。俺は、リク。狩人だ。――って、自己紹介してんじゃねぇよ! どういうつもりだよ、エヴァン。人間なんて連れてきて」
最初とはうって変わって剣呑な雰囲気のリクさんは、エヴァン様をじろりと睨む。
「私は彼女と結婚する」
「はぁ!?」
エヴァン様の言葉に、今度はリクさんだけじゃなく、後ろにいる二人のエルフの雰囲気もぴりりと鋭くなる。
「お前な……今がどんな状況かわかって言ってんのか?」
「当然だ。だが、私は私の意志を曲げるつもりはない。アンフェリカとともに生きること。それはもう決めたことだ」
「てめぇ!!」
エヴァン様の言葉に、リクさんは怒声をあげながら詰め寄った。
そして、胸倉をつかむと、殺さんばかりに視線を飛ばす。
「今……俺たちエルフがどんな状況が本当にわかってんのかよ! このままじゃ滅びるんだぞ!? お前、それでもこの国を背負ってたつ王族かよ!!」
ほ、滅びる?
まさかの言葉に私は血の気が引いていく。
確かに、村の存続の危機と言っていたけど、まさかエルフ族の滅亡がかかっていたなんて。
そんな大ごとだとは知らずに話を聞いてしまっていた。
言葉の重みと雰囲気の重み。
どちらの重みもすさまじく、私は今にも膝が折れそうだった。
しかし、エヴァン様はそんな私の心境を察したのか、そっと腰に手を添えてくれる。
「いいから結界を解くんだ。彼女はきっと私達の希望となる」
え?
希望?
隣で微笑むエヴァン様の言葉の意味が分からず、私は首をかしげることしかできなかった。
0
お気に入りに追加
171
あなたにおすすめの小説
国外追放を受けた聖女ですが、戻ってくるよう懇願されるけどイケメンの国王陛下に愛されてるので拒否します!!
真時ぴえこ
恋愛
「ルーミア、そなたとの婚約は破棄する!出ていけっ今すぐにだ!」
皇太子アレン殿下はそうおっしゃられました。
ならよいでしょう、聖女を捨てるというなら「どうなっても」知りませんからね??
国外追放を受けた聖女の私、ルーミアはイケメンでちょっとツンデレな国王陛下に愛されちゃう・・・♡
魔力ゼロと判明した途端、婚約破棄されて両親から勘当を言い渡されました。でも実は世界最高レベルの魔力総量だったみたいです
ひじり
恋愛
生まれつき、ノアは魔力がゼロだった。
侯爵位を授かるアルゴール家の長女として厳しく育てられてきた。
アルゴールの血筋の者は、誰もが高い魔力量を持っていたが、何故かノアだけは歳を重ねても魔力量がゼロから増えることは無く、故にノアの両親はそれをひた隠しにしてきた。
同じく侯爵位のホルストン家の嫡男モルドアとの婚約が決まるが、両親から魔力ゼロのことは絶対に伏せておくように命じられた。
しかし婚約相手に嘘を吐くことが出来なかったノアは、自分の魔力量がゼロであることをモルドアに打ち明け、受け入れてもらおうと考えた。
だが、秘密を打ち明けた途端、モルドアは冷酷に言い捨てる。
「悪いけど、きみとの婚約は破棄させてもらう」
元々、これは政略的な婚約であった。
アルゴール家は、王家との繋がりを持つホルストン家との関係を強固とする為に。
逆にホルストン家は、高い魔力を持つアルゴール家の血を欲し、地位を盤石のものとする為に。
だからこれは当然の結果だ。魔力がゼロのノアには、何の価値もない。
婚約を破棄されたことを両親に伝えると、モルドアの時と同じように冷たい視線をぶつけられ、一言。
「失せろ、この出来損ないが」
両親から勘当を言い渡されたノアだが、己の境遇に悲観はしなかった。
魔力ゼロのノアが両親にも秘密にしていた将来の夢、それは賢者になることだった。
政略結婚の呪縛から解き放たれたことに感謝し、ノアは単身、王都へと乗り込むことに。
だが、冒険者になってからも差別が続く。
魔力ゼロと知れると、誰もパーティーに入れてはくれない。ようやく入れてもらえたパーティーでは、荷物持ちとしてこき使われる始末だ。
そして冒険者になってから僅か半年、ノアはクビを宣告される。
心を折られて涙を流すノアのもとに、冒険者登録を終えたばかりのロイルが手を差し伸べ、仲間になってほしいと告げられる。
ロイルの話によると、ノアは魔力がゼロなのではなく、眠っているだけらしい。
魔力に触れることが出来るロイルの力で、ノアは自分の体の奥底に眠っていた魔力を呼び覚ます。
その日、ノアは初めて魔法を使うことが出来た。しかもその威力は通常の比ではない。
何故ならば、ノアの体に眠っている魔力の総量は、世界最高レベルのものだったから。
これは、魔力ゼロの出来損ないと呼ばれた女賢者ノアと、元王族の魔眼使いロイルが紡ぐ、少し過激な恋物語である。
もう一度婚約したいのですか?……分かりました、ただし条件があります
香木あかり
恋愛
「なあララ、君こそが僕の理想だったんだ。僕とやり直そう」
「お断りします」
「君と僕こそ運命の糸で結ばれているんだ!だから……」
「それは気のせいです」
「僕と結婚すれば、君は何でも手に入るんだぞ!」
「結構でございます」
公爵令嬢のララは、他に好きな人が出来たからという理由で第二王子レナードに婚約破棄される。もともと嫌々婚約していたララは、喜んで受け入れた。
しかし一ヶ月もしないうちに、再び婚約を迫られることになる。
「僕が悪かった。もう他の女を理想だなんて言わない。だから、もう一度婚約してくれないか?愛しているんだ、ララ」
「もう一度婚約したいのですか?……分かりました、ただし条件があります」
アホな申し出に呆れるララだったが、あまりにもしつこいので、ある条件付きで受け入れることにした。
※複数サイトで掲載中です
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
「地味でブサイクな女は嫌いだ」と婚約破棄されたので、地味になるためのメイクを取りたいと思います。
水垣するめ
恋愛
ナタリー・フェネルは伯爵家のノーラン・パーカーと婚約していた。
ナタリーは十歳のある頃、ノーランから「男の僕より目立つな」と地味メイクを強制される。
それからナタリーはずっと地味に生きてきた。
全てはノーランの為だった。
しかし、ある日それは突然裏切られた。
ノーランが急に子爵家のサンドラ・ワトソンと婚約すると言い始めた。
理由は、「君のような地味で無口な面白味のない女性は僕に相応しくない」からだ。
ノーランはナタリーのことを馬鹿にし、ナタリーはそれを黙って聞いている。
しかし、ナタリーは心の中では違うことを考えていた。
(婚約破棄ってことは、もう地味メイクはしなくていいってこと!?)
そして本来のポテンシャルが発揮できるようになったナタリーは、学園の人気者になっていく……。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?
和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」
腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。
マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。
婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる