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求婚と旅立ち①
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私に求婚してきた男性は、長い銀色の髪を煌めかせながら私の目の前で跪いていた。もしかしたら、女性よりも綺麗な顔をしている男性は、その瞳を潤ませ熱っぽい視線を向けている。
だ、だれ!?
っていうか、どうしてこんな美形が私に求婚!?
事態が飲み込めず、おもわず使用人に目を向けた。
「えっと、どういう――」
「わかりません。突然訪ねてこられて、お嬢様も知らない方なのですか!?」
「はい、この方とは初対面です」
私も使用人も二人して頭の中は疑問符だらけだ。
困惑している私達を後目に、男性は小さく微笑みゆっくり立ち上がった。
そして大きく礼をすると、悪戯めいた表情を浮かべる。
「私を忘れておいでですかな? 昨日はあのような素晴らしい種をいただいたのに」
その落ち着いた口調と種というワードに、私は驚くことしかできない。
「え!? その話し方!? っていうか種って! 嘘!? そんなことって!!」
「お嬢様、やはりお知り合いですか?」
私は、使用人と男性を交互に見ながら思考を整理していく。
種をあげたのって昨日のお爺さんだけだし、でも今目の前にいるのはとんでもなく美形な男性で、その人がお礼を言っていて、昨日私が話したのはお爺さんで……。
もしかして……。
「昨日のお爺さん?」
「はい。でもこちらが本当の姿です。昨日は魔法で姿を変えていたのですよ。とても楽しい時間でしたね」
「っ――!!??」
やっぱり!
どうして昨日のお爺さんが、今はこんな姿になっているのか訳が分からないし、さらには求婚してきたということも意味がわからない。
文字通り昨日会ったばかりなのだから。
「でも、どうして私と、その……結婚を?」
「ダメでしょうか? 出会って間もない見ず知らずの汚い老人に向ける優しい眼差し。その心からあふれる真心に心打たれたのです。そして、そんな相手にあのような貴重な種を渡してくれる慈悲深さ。そして、なにより私が気に入ってしまったのです。あなたの――」
「私の……?」
何がよかったのだろうか。
外見も性格も中身も秀でているわけではない。スキルも使えない。
そんな私に何の価値があるというのか。
「えぇ……。あなたのその笑顔に。私の心は奪われてしまった」
その刹那。私の顔が熱をもつ。
見なくてもわかる。
これでもかと赤面しているのを隠したくて、慌てて顔を手で覆った。
「いきなり何を――」
「話を聞いてあなたが傷心なのも知っている。そんなあなたにつけ込む形になるのは不本意だが、私はあなたと共にありたいと願ってしまった。私は自分の気持ちに蓋をする気も嘘をつく気もない」
男性は、そっと私の手を取った。
そして目をつぶり、額にあてがう。
「昨日、あなたが眠ってしまった後、私は宿に戻った。でも、目をつむっても眠れない。あなたの笑顔が浮かんできたからだ。あなたのその笑顔も、色素の薄い茶色い髪も、翡翠色の瞳も、ころころと変化するあなたの表情も……すべてが、浮かんできて消えない。朝起きた時には心に決めたんだ……あなたと一緒に村に帰りたい。おかしいかもしれないが……あなたを好きになってしまったんだ」
彼の視線が私をまっすぐ貫いた。
その瞳の透明さに、彼から感じる真摯さに。
私の心は締め付けられながらも強く鼓動を打っていた。
頭じゃ、こんなこと受け入れられないってわかってる。けど、私の心はとても正直だ。
あんな風に自分の話を聞いてくれた人が私を好きだと言ってくれる。
あんな風に微笑んでくれた人が、私と一緒にいたいと言ってくれている。
もしいつも昨日みたいに自然な自分でいられたら?
そんな甘美な誘惑に抗えるほど、今の私をつなぎとめて置けるほどの楔は、この場所にはなかった。
だからこそ自然に口からこぼれたのだろう。
本心が。
私の、素直な気持ちが。
「は……はぃ。こちらこそ、よろしくお願いします」
勢いで返事をしてしまった私に、使用人達は目が飛び出るほど驚いていた。
だ、だれ!?
っていうか、どうしてこんな美形が私に求婚!?
事態が飲み込めず、おもわず使用人に目を向けた。
「えっと、どういう――」
「わかりません。突然訪ねてこられて、お嬢様も知らない方なのですか!?」
「はい、この方とは初対面です」
私も使用人も二人して頭の中は疑問符だらけだ。
困惑している私達を後目に、男性は小さく微笑みゆっくり立ち上がった。
そして大きく礼をすると、悪戯めいた表情を浮かべる。
「私を忘れておいでですかな? 昨日はあのような素晴らしい種をいただいたのに」
その落ち着いた口調と種というワードに、私は驚くことしかできない。
「え!? その話し方!? っていうか種って! 嘘!? そんなことって!!」
「お嬢様、やはりお知り合いですか?」
私は、使用人と男性を交互に見ながら思考を整理していく。
種をあげたのって昨日のお爺さんだけだし、でも今目の前にいるのはとんでもなく美形な男性で、その人がお礼を言っていて、昨日私が話したのはお爺さんで……。
もしかして……。
「昨日のお爺さん?」
「はい。でもこちらが本当の姿です。昨日は魔法で姿を変えていたのですよ。とても楽しい時間でしたね」
「っ――!!??」
やっぱり!
どうして昨日のお爺さんが、今はこんな姿になっているのか訳が分からないし、さらには求婚してきたということも意味がわからない。
文字通り昨日会ったばかりなのだから。
「でも、どうして私と、その……結婚を?」
「ダメでしょうか? 出会って間もない見ず知らずの汚い老人に向ける優しい眼差し。その心からあふれる真心に心打たれたのです。そして、そんな相手にあのような貴重な種を渡してくれる慈悲深さ。そして、なにより私が気に入ってしまったのです。あなたの――」
「私の……?」
何がよかったのだろうか。
外見も性格も中身も秀でているわけではない。スキルも使えない。
そんな私に何の価値があるというのか。
「えぇ……。あなたのその笑顔に。私の心は奪われてしまった」
その刹那。私の顔が熱をもつ。
見なくてもわかる。
これでもかと赤面しているのを隠したくて、慌てて顔を手で覆った。
「いきなり何を――」
「話を聞いてあなたが傷心なのも知っている。そんなあなたにつけ込む形になるのは不本意だが、私はあなたと共にありたいと願ってしまった。私は自分の気持ちに蓋をする気も嘘をつく気もない」
男性は、そっと私の手を取った。
そして目をつぶり、額にあてがう。
「昨日、あなたが眠ってしまった後、私は宿に戻った。でも、目をつむっても眠れない。あなたの笑顔が浮かんできたからだ。あなたのその笑顔も、色素の薄い茶色い髪も、翡翠色の瞳も、ころころと変化するあなたの表情も……すべてが、浮かんできて消えない。朝起きた時には心に決めたんだ……あなたと一緒に村に帰りたい。おかしいかもしれないが……あなたを好きになってしまったんだ」
彼の視線が私をまっすぐ貫いた。
その瞳の透明さに、彼から感じる真摯さに。
私の心は締め付けられながらも強く鼓動を打っていた。
頭じゃ、こんなこと受け入れられないってわかってる。けど、私の心はとても正直だ。
あんな風に自分の話を聞いてくれた人が私を好きだと言ってくれる。
あんな風に微笑んでくれた人が、私と一緒にいたいと言ってくれている。
もしいつも昨日みたいに自然な自分でいられたら?
そんな甘美な誘惑に抗えるほど、今の私をつなぎとめて置けるほどの楔は、この場所にはなかった。
だからこそ自然に口からこぼれたのだろう。
本心が。
私の、素直な気持ちが。
「は……はぃ。こちらこそ、よろしくお願いします」
勢いで返事をしてしまった私に、使用人達は目が飛び出るほど驚いていた。
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