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第三章 スキルの力と金策と裏切り
二十六
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「な、な、なーーーーーーーっ!!!!!!」
大声をあげているのはオリアーナだ。
僕はあのすぐあと、レイカが捕まえておいてくれたドメーノから彼女の弟の居場所を聞き出した。
素直にしゃべってくれたから、大いに助かった。
彼女の弟は確かに病気だったけど、ちゃんとした治療を受ければ治ることがすぐにわかった。
そのあたりは、レイカが手配してくれてすぐに終わった。
そうなると、オリアーナも僕をだます必要はなく、すぐに謝罪をしてくれたのだ。
「本当にごめんなさい! お父さんとお母さんが残した借金があって、それで――」
「うん、いいよ」
「許されないのはわかってる! エンドを刺そうとしたことだって許されないってわかってるから――え?」
「だから、もう気にしてないからいいんだ。オリアーナも大変だったね」
「えっと、あの、私、結構なことやっちゃったと思うんだけど……」
僕が許すと、彼女は驚きからか放心してしまった。
「今僕はお金を返してもらったし、こうして生きてる。なら大丈夫だとおもうけど」
「ゆ、許してくれ、るの?」
「許すも何も……僕はこれから君に、仕事を任せたいと思ってるんだ。だから、いいんだよ」
「私に……仕事を?」
僕がそう伝えると、彼女の頬に一筋の涙が流れる。
「だって私……最低で……弟も助けてもらって……でもこれからどうしようって思ったときに仕事までくれるって言って……なんていいっていいのか……」
淡々と泣き続ける彼女に僕はあることを告げる。
やっぱり、約束事はきめなきゃならない。
「でも、仕事をお願いするのに、色々と守ってほしいことがあるんだ」
そう切り出すと、彼女はすぐに涙をぬぐいそして真剣な表情で僕をみる。
「そ、そうよね。当り前よ。契約を結ぶには大事なことよね。大丈夫。どんな条件だって受け入れるから。た、例えば? 私を捧げろて言われてもそれはやぶさかでもないっていうか――」
「一つ。これから連れていく場所のことを口外しないこと。二つ。僕の仲間達を蔑んだり侮辱しないこと。三つ。もう二度と、僕を裏切らないこと。この三つを守ってくれるなら、僕は君と仕事をしたいと思ってる。どうかな?」
オリアーナが何やらぶつぶつと言っていたが、それよりも今は仕事の話だ。
なにやら顔を真っ赤にして怒っているオリアーナだったが、すぐに仕事モードに切り替えてくれた。
「それなら当然守るわよ。むしろ、それだけでいいのかってかんじ。儲けの割合はどうする? 前と一緒でいい?」
「そうだね。もしオリアーナがそれでいいのなら」
「そう……なら」
オリアーナはそういうと、右手を差し出してきた。
にこりと微笑む彼女と目を合わせ、僕も同じように手を差し出した。そして、互いに握り合う。
「これからよろしくね! エンド!」
「うん。僕の世界の……いや、世界っていうと違うのかな。僕の国っていうほうがしっくりくるけど、そこの商売関係はすべて、オリアーナに任せるよ」
「え? 世界? 国? 一体、何を言って――」
「言葉で説明するより、連れて行ったほうが早いかな? あ、心配しなくて大丈夫だから。ちゃんと戻ってこれるよ」
「いや、違くて! なにを? 全然わけがわからないんだけど――」
そうして、僕の本の世界に連れて行ってからの大声だった。
その声で今も耳がキンキンだ。
「何よ、ここは! あ! あっちにパイナップルがあるし! あっちにはマンゴーが!!」
「だからさっきも言ったけど、ここは僕のスキルで生み出した世界だって――」
「そんなの知ってるわよ! っていうか、果物だけじゃない! 見たことがない植物だってたくさんあるじゃない! ここの果物や植物を私に扱わせてくれるってこと!?」
「うん、そのつもりだよ。それだけじゃなくてね――」
「夢みたい! これならサンタモスカ一の商人になることだってきっとできるわ! すごい、すごい!!」
はしゃいでいるのか、くるくるまわりながら 森を走り回るオリアーナ。
彼女の様子をみて、レイカも笑顔で頷いている。
「ようやく彼女もエンド様の偉大さがわかったと思うと感慨深いですね」
「ちょっと違う気もするけど……あとは、オリアーナが獣人の人たちとうまくやってくれればいいんだけどな」
「それは大丈夫では? きっと、鼠人族の布などには興味津々だと思いますよ。ここには、外にはないものがたくさんありますからね」
「なら余計にここを守る必要があるんだよね」
「ようやく自覚が芽生えましたか?」
「レイカの想像する王とはちょっと違うと思うけど」
僕とレイカはそういって笑いあった。
やることは山積みだ。
◆
その頃。
サンタモスカの街のスラムでは、一人の男が噂話に耳を傾けていた。
「本当なんだぜ! あいつは本当に昔っから役立たずでよ! いっつも下向いて歩いていたよな! なぁ、エッカルト!」
「うん! 持ってるスキルも変なスキルだったし。本当の役立たずってのはあいつのことだよ! ね、テオドル!」
二人の少年は、そういって笑いあう。
そして、どこか媚びるような視線を向けると、話を聞いてきた男を見上げる。
「それで……そのスキルの名前を憶えているか?」
「うん! エンドも持っていたスキルはブックメイカーとかいう本を出すスキルだ!」
「その本も何も書いてないんだけどな、はは!」
噂を聞いていた男は、二人の少年にわずかばかりの銅貨を投げ与える。すると、少年達は地面に飛び込むようにしてその銅貨を手に入れていた。
そんな少年たちに蔑むような視線を向けた男は、何を言わずにその場を去っていく。
「メイカーがこんなところにいるとはね。さてさて。どんな奴が飛び出すかな」
そんなことをつぶやきながら、男は人込みに消えていった。
大声をあげているのはオリアーナだ。
僕はあのすぐあと、レイカが捕まえておいてくれたドメーノから彼女の弟の居場所を聞き出した。
素直にしゃべってくれたから、大いに助かった。
彼女の弟は確かに病気だったけど、ちゃんとした治療を受ければ治ることがすぐにわかった。
そのあたりは、レイカが手配してくれてすぐに終わった。
そうなると、オリアーナも僕をだます必要はなく、すぐに謝罪をしてくれたのだ。
「本当にごめんなさい! お父さんとお母さんが残した借金があって、それで――」
「うん、いいよ」
「許されないのはわかってる! エンドを刺そうとしたことだって許されないってわかってるから――え?」
「だから、もう気にしてないからいいんだ。オリアーナも大変だったね」
「えっと、あの、私、結構なことやっちゃったと思うんだけど……」
僕が許すと、彼女は驚きからか放心してしまった。
「今僕はお金を返してもらったし、こうして生きてる。なら大丈夫だとおもうけど」
「ゆ、許してくれ、るの?」
「許すも何も……僕はこれから君に、仕事を任せたいと思ってるんだ。だから、いいんだよ」
「私に……仕事を?」
僕がそう伝えると、彼女の頬に一筋の涙が流れる。
「だって私……最低で……弟も助けてもらって……でもこれからどうしようって思ったときに仕事までくれるって言って……なんていいっていいのか……」
淡々と泣き続ける彼女に僕はあることを告げる。
やっぱり、約束事はきめなきゃならない。
「でも、仕事をお願いするのに、色々と守ってほしいことがあるんだ」
そう切り出すと、彼女はすぐに涙をぬぐいそして真剣な表情で僕をみる。
「そ、そうよね。当り前よ。契約を結ぶには大事なことよね。大丈夫。どんな条件だって受け入れるから。た、例えば? 私を捧げろて言われてもそれはやぶさかでもないっていうか――」
「一つ。これから連れていく場所のことを口外しないこと。二つ。僕の仲間達を蔑んだり侮辱しないこと。三つ。もう二度と、僕を裏切らないこと。この三つを守ってくれるなら、僕は君と仕事をしたいと思ってる。どうかな?」
オリアーナが何やらぶつぶつと言っていたが、それよりも今は仕事の話だ。
なにやら顔を真っ赤にして怒っているオリアーナだったが、すぐに仕事モードに切り替えてくれた。
「それなら当然守るわよ。むしろ、それだけでいいのかってかんじ。儲けの割合はどうする? 前と一緒でいい?」
「そうだね。もしオリアーナがそれでいいのなら」
「そう……なら」
オリアーナはそういうと、右手を差し出してきた。
にこりと微笑む彼女と目を合わせ、僕も同じように手を差し出した。そして、互いに握り合う。
「これからよろしくね! エンド!」
「うん。僕の世界の……いや、世界っていうと違うのかな。僕の国っていうほうがしっくりくるけど、そこの商売関係はすべて、オリアーナに任せるよ」
「え? 世界? 国? 一体、何を言って――」
「言葉で説明するより、連れて行ったほうが早いかな? あ、心配しなくて大丈夫だから。ちゃんと戻ってこれるよ」
「いや、違くて! なにを? 全然わけがわからないんだけど――」
そうして、僕の本の世界に連れて行ってからの大声だった。
その声で今も耳がキンキンだ。
「何よ、ここは! あ! あっちにパイナップルがあるし! あっちにはマンゴーが!!」
「だからさっきも言ったけど、ここは僕のスキルで生み出した世界だって――」
「そんなの知ってるわよ! っていうか、果物だけじゃない! 見たことがない植物だってたくさんあるじゃない! ここの果物や植物を私に扱わせてくれるってこと!?」
「うん、そのつもりだよ。それだけじゃなくてね――」
「夢みたい! これならサンタモスカ一の商人になることだってきっとできるわ! すごい、すごい!!」
はしゃいでいるのか、くるくるまわりながら 森を走り回るオリアーナ。
彼女の様子をみて、レイカも笑顔で頷いている。
「ようやく彼女もエンド様の偉大さがわかったと思うと感慨深いですね」
「ちょっと違う気もするけど……あとは、オリアーナが獣人の人たちとうまくやってくれればいいんだけどな」
「それは大丈夫では? きっと、鼠人族の布などには興味津々だと思いますよ。ここには、外にはないものがたくさんありますからね」
「なら余計にここを守る必要があるんだよね」
「ようやく自覚が芽生えましたか?」
「レイカの想像する王とはちょっと違うと思うけど」
僕とレイカはそういって笑いあった。
やることは山積みだ。
◆
その頃。
サンタモスカの街のスラムでは、一人の男が噂話に耳を傾けていた。
「本当なんだぜ! あいつは本当に昔っから役立たずでよ! いっつも下向いて歩いていたよな! なぁ、エッカルト!」
「うん! 持ってるスキルも変なスキルだったし。本当の役立たずってのはあいつのことだよ! ね、テオドル!」
二人の少年は、そういって笑いあう。
そして、どこか媚びるような視線を向けると、話を聞いてきた男を見上げる。
「それで……そのスキルの名前を憶えているか?」
「うん! エンドも持っていたスキルはブックメイカーとかいう本を出すスキルだ!」
「その本も何も書いてないんだけどな、はは!」
噂を聞いていた男は、二人の少年にわずかばかりの銅貨を投げ与える。すると、少年達は地面に飛び込むようにしてその銅貨を手に入れていた。
そんな少年たちに蔑むような視線を向けた男は、何を言わずにその場を去っていく。
「メイカーがこんなところにいるとはね。さてさて。どんな奴が飛び出すかな」
そんなことをつぶやきながら、男は人込みに消えていった。
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