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第二章 冒険者の門出、差別、救済

十一

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 ◆



「村が襲われていた?」



 ルルルの途切れ途切れの言葉を聞く限り、彼女の村はひどいことになっていたらしい。



 僕からモグライラズの花をもらってまっすぐ村に帰った彼女を待っていたのは、ぼろぼろに壊された住居と傷だらけの村人達だったそうだ。

 戦った男達は殺され、女は攫われていったらしい。

 利用価値のない老人と隠していた子供達だけが、村に取り残されていた。



「あいつらだ! あいつらがきっとやったんだ!」

「あいつらって」

「オークだよ! いっつも、ルルルの村にちょっかいだしてきてたんだ! いつもなら大人たちがおっぱらうけど……今は病気が広まってたから」

「弱ってるその隙にってことだね」



 胸糞の悪い思いがした。

 人間からも虐げられ、魔物であるオークからも敵視されている。

 いくら自然界が弱肉強食といえども、その扱いはあまりに悲惨だ。

 冷静になればオーク側の行為も理解はできるのだが、目の前にはルルルがいる。どうしてもそちらよりんいなってしまうのは仕方がないだろう。



「ルルルがもっと早く花、見つけられたら、きっと大人たちの病気も治って、あいつらおっぱらえたのに……うぅ、うえぇぇぇん!!!」



 ルルルは自分を責めながら再度泣き出してしまう。

 僕はもたれかかってくる彼女の頭を撫でながら、レイカに話しかけた。



「オークって頭がいいの?」

「ある程度の社会生活ができるくらいには。ですが、森にすむ村の者たちをいいようにするなど、それほど力のある魔物ではないはずですが」

「ぐすっ、ひくっ――、すごい強いオークがいる」

「すごい強いオーク?」

「すっごい強いやつ。ルルルじゃ敵わない」



 聞く限り、オークの上位種と考えてよさそうだけど。

 レイカを見ると、その表情は引きつっていた。



「もしかして……オークキングですか」

「知ってるの?」

「知識だけですが……。なんでも、オークが進化した姿であり、オークを統率するものと言われています。かつて、オークキングがある国に現れた時は、手ひどい被害がでたとか。たしか……討伐のランクはAです」

「ランクAか……」



 僕が戦ったことのある魔物はCが最高だ。

 苦戦こそしなかったものの、油断していて勝てる相手ではなかった。

 そこから二つもランクが上なのだ。どれほど危険なんだろうか。



「それでね……どうにかしなきゃって思ったけど、どうしようもなくて……気づいたら、エンドの匂い、辿ってた……」

「そうだったんだね」



 僕は、ルルルの言葉を聞きながら考える。



 ランクAの魔物。

 いくらスキルの恩恵を得ている僕だって、そんな魔物に勝てる保証などどこにもない。

 でも。

 彼女はたったひとり、ここまでやってきたのだ。

 世界に虐げられて、見つかれば殺されるかもしれない恐怖の街に。

 たった一人で。



 僕が、スキルのレベルが上がる前にこんなことできただろうか?

 いや、無理だ。

 いじめられていたあの状況に甘んじて、ただ無為に生きることを望んだだろう。

 だからこそ、孤児院が燃えるまで何もできずにいたのだから。



 ルルルを見ると、必死でこらえているけど涙があふれ出てきている。

 悔しいのだろう。

 悲しいのだろう。

 そんな思いを想像すると、胸が張り裂けそうになってしまう。



 だけど、そんなルルルは僕を頼ってきてくれた。

 森の中で出会っただけの僕に。恐怖の対象である人間に。

 絶望の中の救いの手。

 それが、僕にとってはレイカと本の世界だったように、彼女にとっては僕だったのだ。

 そうならば。

 僕ができることは――。



「レイカ」



 僕がレイカに話しかけると、彼女は焦った様子で声を荒らげる。



「い、いけません! ダメですよ、エンド様!」

「僕は、ルルルを助けたい」

「無理です! いくらエンド様が強くなってるっていっても、ランクAの魔物は軍隊を率いて戦うもの。たった一人で挑むなんて、そんな――」



 レイカが言うことは正論だ。

 だが、僕は知っている。頼るすべがないあの心細さを。孤独を。



「なら、ギルドに依頼をするの? 獣人の村を助けてくれって?」

「そ、それは……」

「なら他に方法はないよ、レイカ。わがままだと思うけど、僕は僕と同じような人を見捨ててはいけないんだ。なぜだか、そんな気がするんだよ」

「エンド様……」



 レイカは俯き、しばらくすると顔をあげた。



「なら約束してください。最優先はあなたの命。それだけは守ってください」

「わかってる。うん、ありがとう、レイカ」



 僕とレイカのやりとりを、ぽかんとした顔で見つめているルルル。僕は彼女の頭に手を置いて、できるかぎり優しく語り掛けた。



「僕が行くよ、ルルル。助けられるかわからないけど、助けられるように努力をするよ」

「……いいの?」

「ああ。君も、そう思って僕のところに来てくれたんだろ?」

「……そ、だけど」



 そうと決まったら、そうもたもたしている暇はない。

 疲れも取れていないけれど、すぐに出発をしないとね。



「レイカ、ルルル。今からしっかりと休んで、朝には出発をしよう。それでいいね?」

「……はい」

「うん!!」



 渋々頷くレイカと、無邪気に笑みを浮かべるルルル。

 そんな二人を見ながら明日を思うと、自然と両手に力が入っているのを自覚した。
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