9 / 54
第一章 スキルと従者と本の世界
八
しおりを挟む
「そういえば、定期契約の人はどんな人だったの?」
僕とレイカがいるのは今日泊る予定の宿だ。
その宿の食堂で夕食を注文したところである。
最初は、お金を使うことに抵抗があったけど、レイカの説得という名の笑顔で頷かざるを得なかった。一泊で銀貨一枚だなんて思ってもみなかったんだ。しょうがない。
とりあえずお任せメニューを頼んでいるけど何が出てくるんだろう。
料理が出てくる間に、僕は気になったことを聞いてみた。
「あの方は、街の中央で飲食店を開いている人だったみたいです。毎日十個。まずは、現物と引き賭けにお金を払い、しばらくして信用できると思ったら前払いでもいいといってくれましたよ。色々な人に聞いたところ、しっかりとしたお店みたいでしたから。これが契約書です」
「そっか。色々とありがとね。僕じゃ、わからないことも多いから」
「全て一人でやれる必要はありません。エンド様にできないところを手伝うのも、私の役目です」
「これからもよろしくね、レイカ」
「はい、エンド様」
言葉を交わしていると、料理が運ばれてくる。
「し、信じられない」
目の前には、こんもりと盛られた白いパンと焼かれた肉がある。
今までの食事は固いパンとせいぜい薄いスープがついてくればよかったのに。それが、今では夢にすら出てこないくらい豪華な食事が、目の前にある。
「なんだ、この豪華なご飯は!!」
僕の叫びを店員さんが聞いていたのか、笑いながら背中をたたく。
「何言ってんだい! お世辞言ってる暇があったらさっさと食べちまいな! こんなんでよければいつでも用意しておくさ!」
その言葉に驚いた僕だったが、目の前にいるレイカは穏やかに口を開く。
「では食べましょう?」
「い、いいのかな? あとで誰かにつかまったりなんか」
「そんなことありませんよ。エンド様の力で得たお金なんですから。むしろ、私が一緒に食べても大丈夫なのですか?」
「もちろん! レイカのお陰でもらえた力なんだから!」
「……本当に。助けてもらったのはこちらもなんですよ?」
「ん?」
レイカの表情が少しだけ曇りなにやら呟いていたけどよく聞こえない。
とりあえず、目の前にある肉汁滴る塊に視線はくぎ付けだ。
「じゃあ、い、いただきます!! んんぅ! んふぅ!!!」
噛みしめると口の中に旨味があふれ出る。
生まれてこのかた、感じたことのない美味しさに、不思議と涙が流れた。
それを夢中でかみしめると、再び肉へとかぶりつく。
「う、うま! うまい!」
その様子を見ていたレイカだが、心底嬉しそうにほほ笑んでいた。
「本当に……エンド様のおかげですから」
誰に聞かれるでもなく呟いていたレイカは、僕が食べる様子を見ながら自らもそっと食事を始めたのだった。
僕とレイカがいるのは今日泊る予定の宿だ。
その宿の食堂で夕食を注文したところである。
最初は、お金を使うことに抵抗があったけど、レイカの説得という名の笑顔で頷かざるを得なかった。一泊で銀貨一枚だなんて思ってもみなかったんだ。しょうがない。
とりあえずお任せメニューを頼んでいるけど何が出てくるんだろう。
料理が出てくる間に、僕は気になったことを聞いてみた。
「あの方は、街の中央で飲食店を開いている人だったみたいです。毎日十個。まずは、現物と引き賭けにお金を払い、しばらくして信用できると思ったら前払いでもいいといってくれましたよ。色々な人に聞いたところ、しっかりとしたお店みたいでしたから。これが契約書です」
「そっか。色々とありがとね。僕じゃ、わからないことも多いから」
「全て一人でやれる必要はありません。エンド様にできないところを手伝うのも、私の役目です」
「これからもよろしくね、レイカ」
「はい、エンド様」
言葉を交わしていると、料理が運ばれてくる。
「し、信じられない」
目の前には、こんもりと盛られた白いパンと焼かれた肉がある。
今までの食事は固いパンとせいぜい薄いスープがついてくればよかったのに。それが、今では夢にすら出てこないくらい豪華な食事が、目の前にある。
「なんだ、この豪華なご飯は!!」
僕の叫びを店員さんが聞いていたのか、笑いながら背中をたたく。
「何言ってんだい! お世辞言ってる暇があったらさっさと食べちまいな! こんなんでよければいつでも用意しておくさ!」
その言葉に驚いた僕だったが、目の前にいるレイカは穏やかに口を開く。
「では食べましょう?」
「い、いいのかな? あとで誰かにつかまったりなんか」
「そんなことありませんよ。エンド様の力で得たお金なんですから。むしろ、私が一緒に食べても大丈夫なのですか?」
「もちろん! レイカのお陰でもらえた力なんだから!」
「……本当に。助けてもらったのはこちらもなんですよ?」
「ん?」
レイカの表情が少しだけ曇りなにやら呟いていたけどよく聞こえない。
とりあえず、目の前にある肉汁滴る塊に視線はくぎ付けだ。
「じゃあ、い、いただきます!! んんぅ! んふぅ!!!」
噛みしめると口の中に旨味があふれ出る。
生まれてこのかた、感じたことのない美味しさに、不思議と涙が流れた。
それを夢中でかみしめると、再び肉へとかぶりつく。
「う、うま! うまい!」
その様子を見ていたレイカだが、心底嬉しそうにほほ笑んでいた。
「本当に……エンド様のおかげですから」
誰に聞かれるでもなく呟いていたレイカは、僕が食べる様子を見ながら自らもそっと食事を始めたのだった。
0
お気に入りに追加
856
あなたにおすすめの小説
diceをふるのは公爵令嬢でも国王陛下でもなく
了本 羊
ファンタジー
ブリューテ興国の暦にして、613年のその年、ブリューテ興国王太子であった第一王子、レクスィ・リヒト・ブリューテが、国王陛下主催の舞踏会で自身の婚約者であったフェアシュタ・ヴェステン公爵令嬢との婚約を破棄。その妹であるユリア・ヴェステン公爵令嬢との新たなる婚約を発表した。
兄を慕い、婚約者であったはずのフェアシュタ令嬢とともに未来を歩んでくれると信じ、夢見ていた第二王子である弟、ヴォールの目の前で。
後のブリューテの歴史書に、「神王」の異名を授かった一人の偉大な王がいる。
その王の名は、ヴォール・リヒト・ブリューテ。
その「神王」を傍らにて寄り添い、支え続けた賢妃の名はフェアシュタ王妃。
後にブリューテ国に住まう子供達の寝物語に登場する愚の存在、レクスィとユリア。
これはブリューテ国「神王」が誕生した、あまり知られることはない始まりの物語。
「神王」と賢妃の傍らに在り続けた、赫きダイスの伽語り。
※主人公が性格に難ありという簡素な言葉ではすまないと思います。お気を付けください。
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
ざまぁはハッピーエンドのエンディング後に
ララ
恋愛
私は由緒正しい公爵家に生まれたシルビア。
幼い頃に結ばれた婚約により時期王妃になることが確定している。
だからこそ王妃教育も精一杯受け、王妃にふさわしい振る舞いと能力を身につけた。
特に婚約者である王太子は少し?いやかなり頭が足りないのだ。
余計に私が頑張らなければならない。
王妃となり国を支える。
そんな確定した未来であったはずなのにある日突然破られた。
学園にピンク色の髪を持つ少女が現れたからだ。
なんとその子は自身をヒロイン?だとか言って婚約者のいるしかも王族である王太子に馴れ馴れしく接してきた。
何度かそれを諌めるも聞く耳を持たず挙句の果てには私がいじめてくるだなんだ言って王太子に泣きついた。
なんと王太子は彼女の言葉を全て鵜呑みにして私を悪女に仕立て上げ国外追放をいい渡す。
はぁ〜、一体誰の悪知恵なんだか?
まぁいいわ。
国外追放喜んでお受けいたします。
けれどどうかお忘れにならないでくださいな?
全ての責はあなたにあると言うことを。
後悔しても知りませんわよ。
そう言い残して私は毅然とした態度で、内心ルンルンとこの国を去る。
ふふっ、これからが楽しみだわ。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
[連載中]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜
コマメコノカ@異世界恋愛中心
恋愛
王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。
そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる