64 / 102
第三章 王都攻防編
新しいものたちに囲まれて⑨
しおりを挟む
その日の夜。
リリとララは、あてがわれた自室で話していた。
日中はカトリーナに付きっ切りでいるため、夜は休めるようにとダシャがカトリーナについている。
二人は寝間着に着替え既にベッドに入っていた。
「ねぇ、ララ。奥様のことなんだけど……」
「うん?」
「なんかね。ちょっとイメージと違ったのよ。だって、ご主人様と奥様ったら、二人で庭いじりして笑ってるのよ!? そんなの、黒獅子様の財産目当てで嫁入りした守銭奴令嬢には似合わないわ」
「ちょっと! そんな呼び方!」
「いいじゃない。みんな、そう呼んでるんだから」
そう。
ララが今言った守銭奴令嬢とはカトリーナのことである。
巷で噂になっているその呼び名は、一定の知名度を誇っており、王都ではほとんどの人が守銭奴イコールカトリーナを思い浮かべるまでになっていた。
それくらい子爵令嬢が公爵家に嫁入りするのは異例のことだったのだ。
人々はシンデレラストーリーに憧れるわけではなく、純粋に嫉妬していたのだ。だからこそ、このような悪口が横行している。
「でも、だからって……」
「それよりね。どう思う? お金目当てで来たのに、全然暮らしは豪華じゃないし、むしろ自分で着替えや掃除をしたり……なんか違うなって。そういうの、ララはなかった?」
「私? うーんと、私はね……」
天井を見上げながら、ララはぼんやりと考えた。
そこにうつったのはどの光景だろうか。
少しだけ目を潤ませて顔を赤らめたララは、両頬を両手で包み込んで恥ずかしそうに眼をつぶった。
「私……奥様のこと素敵だなぁって思うよ」
「えぇ!?」
布団から飛び起きたリリは、驚きで目を見開いた。
「だってね……。私でもしたことないこといっぱい知ってたんだよ? 商店街の皆とも仲良かったし……。街の人は噂を知ってたみたいだけど、気さくに奥様とおしゃべりして。かっこよかったんだぁ」
「何いってんのよ。お金目当ての守銭奴よ?」
「でも、なら屋台の串焼き食べて嬉しそうにするかなぁ?」
「それは……その」
言葉に詰まるリリをぼんやりと見つめながら、ララはにっこりと笑みを浮かべた。
「私は、今の奥様にしっかり仕えようと思ってるよ。リリも、そう思えるといいね」
「どうしてよ! 私は、お金目当てで結婚するような人を信頼なんかできない!」
「私もそうだけど……奥様は違うよ?」
ララはそういって布団をかぶると、小さな声で「お休み」といってそれきり話をしなかった。
リリは、ララの言葉を聞きながらしばらく考え込んでいたが、仕事の疲れがあったのかすぐに眠りにつく。
二人とは対称的に、ほとんどカトリーナと関わったことのないセヴェリーノ。彼は、この屋敷のなかではひどく影が薄かった。
基本的には、プリ―ニオの補助。
金銭管理や執務補助を学びながら、メイド達やほかの使用人の管理まで、さまざまなことを考えながら仕事をこなしていく。
見習いの彼では、日々の仕事だけで精一杯だったのかもしれない。
そんな彼だが、仕事を終えて自室に戻ると必ずやることがあった。
いつも通り紙とインクを取り出すと、そこに何事かをつらつらと書き記す。ある程度書き終えると、セヴェリーノはそれを封筒に入れて封蝋をした。
「やはり、奥様は普通ではなさそうだ……。あの噂は本当なのかもしれない」
そんな呟きとともに、彼は首にさげていたペンダントを手に取った。
「必ずあのお方の役に立つんだ。恩を返さなければ」
誰にも聞こえないその声は、彼が吹き消した灯りとともに消えさった。
余韻さえも残さずに、今日も夜は訪れる。
明日に向けて、皆がそれぞれの夜を過ごしていた。
リリとララは、あてがわれた自室で話していた。
日中はカトリーナに付きっ切りでいるため、夜は休めるようにとダシャがカトリーナについている。
二人は寝間着に着替え既にベッドに入っていた。
「ねぇ、ララ。奥様のことなんだけど……」
「うん?」
「なんかね。ちょっとイメージと違ったのよ。だって、ご主人様と奥様ったら、二人で庭いじりして笑ってるのよ!? そんなの、黒獅子様の財産目当てで嫁入りした守銭奴令嬢には似合わないわ」
「ちょっと! そんな呼び方!」
「いいじゃない。みんな、そう呼んでるんだから」
そう。
ララが今言った守銭奴令嬢とはカトリーナのことである。
巷で噂になっているその呼び名は、一定の知名度を誇っており、王都ではほとんどの人が守銭奴イコールカトリーナを思い浮かべるまでになっていた。
それくらい子爵令嬢が公爵家に嫁入りするのは異例のことだったのだ。
人々はシンデレラストーリーに憧れるわけではなく、純粋に嫉妬していたのだ。だからこそ、このような悪口が横行している。
「でも、だからって……」
「それよりね。どう思う? お金目当てで来たのに、全然暮らしは豪華じゃないし、むしろ自分で着替えや掃除をしたり……なんか違うなって。そういうの、ララはなかった?」
「私? うーんと、私はね……」
天井を見上げながら、ララはぼんやりと考えた。
そこにうつったのはどの光景だろうか。
少しだけ目を潤ませて顔を赤らめたララは、両頬を両手で包み込んで恥ずかしそうに眼をつぶった。
「私……奥様のこと素敵だなぁって思うよ」
「えぇ!?」
布団から飛び起きたリリは、驚きで目を見開いた。
「だってね……。私でもしたことないこといっぱい知ってたんだよ? 商店街の皆とも仲良かったし……。街の人は噂を知ってたみたいだけど、気さくに奥様とおしゃべりして。かっこよかったんだぁ」
「何いってんのよ。お金目当ての守銭奴よ?」
「でも、なら屋台の串焼き食べて嬉しそうにするかなぁ?」
「それは……その」
言葉に詰まるリリをぼんやりと見つめながら、ララはにっこりと笑みを浮かべた。
「私は、今の奥様にしっかり仕えようと思ってるよ。リリも、そう思えるといいね」
「どうしてよ! 私は、お金目当てで結婚するような人を信頼なんかできない!」
「私もそうだけど……奥様は違うよ?」
ララはそういって布団をかぶると、小さな声で「お休み」といってそれきり話をしなかった。
リリは、ララの言葉を聞きながらしばらく考え込んでいたが、仕事の疲れがあったのかすぐに眠りにつく。
二人とは対称的に、ほとんどカトリーナと関わったことのないセヴェリーノ。彼は、この屋敷のなかではひどく影が薄かった。
基本的には、プリ―ニオの補助。
金銭管理や執務補助を学びながら、メイド達やほかの使用人の管理まで、さまざまなことを考えながら仕事をこなしていく。
見習いの彼では、日々の仕事だけで精一杯だったのかもしれない。
そんな彼だが、仕事を終えて自室に戻ると必ずやることがあった。
いつも通り紙とインクを取り出すと、そこに何事かをつらつらと書き記す。ある程度書き終えると、セヴェリーノはそれを封筒に入れて封蝋をした。
「やはり、奥様は普通ではなさそうだ……。あの噂は本当なのかもしれない」
そんな呟きとともに、彼は首にさげていたペンダントを手に取った。
「必ずあのお方の役に立つんだ。恩を返さなければ」
誰にも聞こえないその声は、彼が吹き消した灯りとともに消えさった。
余韻さえも残さずに、今日も夜は訪れる。
明日に向けて、皆がそれぞれの夜を過ごしていた。
10
こちらもぜひお願いします!!私の小説が、素敵な絵で動き出すそうです!https://www.alphapolis.co.jp/manga/official/302000223 とある理由から、王子との婚約解消を目指していた公爵令嬢レティシア。努力が実を結び、王子から見事(?)婚約破棄を言い渡され、一件落着……と思いきや、その直後、彼女に看護師として働いていた前世の記憶が蘇った! 忙しく働いていた前世の分も、今世では大好きなお酒を飲みながらのんびり過ごしたい。そんな思いから田舎暮らしを始めようとしたレティシアだけど、なぜか次から次へと事件に巻き込まれてしまい――!? ものぐさ令嬢がぐ~たら生活を求めて奔走する異色の転生ファンタジー、待望のコミカライズ!
お気に入りに追加
4,129
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつもりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。
亜綺羅もも
ファンタジー
旧題:「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。今更戻って来いと言われても旦那が許してくれません!
いきなり異世界に召喚された江藤里奈(18)。
突然のことに戸惑っていたが、彼女と一緒に召喚された結城姫奈の顔を見て愕然とする。
里奈は姫奈にイジメられて引きこもりをしていたのだ。
そんな二人と同じく召喚された下柳勝也。
三人はメロディア国王から魔族王を倒してほしいと相談される。
だがその話し合いの最中、里奈のことをとことんまでバカにする姫奈。
とうとう周囲の人間も里奈のことをバカにし始め、極めつけには彼女のスキルが【マイホーム】という名前だったことで完全に見下されるのであった。
いたたまれなくなった里奈はその場を飛び出し、目的もなく町の外を歩く。
町の住人が近寄ってはいけないという崖があり、里奈はそこに行きついた時、不意に落下してしまう。
落下した先には邪龍ヴォイドドラゴンがおり、彼は里奈のことを助けてくれる。
そこからどうするか迷っていた里奈は、スキルである【マイホーム】を使用してみることにした。
すると【マイホーム】にはとんでもない能力が秘められていることが判明し、彼女の人生が大きく変化していくのであった。
ヴォイドドラゴンは里奈からイドというあだ名をつけられ彼女と一緒に生活をし、そして里奈の旦那となる。
姫奈は冒険に出るも、自身の力を過信しすぎて大ピンチに陥っていた。
そんなある日、現在の里奈の話を聞いた姫奈は、彼女のもとに押しかけるのであった……
これは里奈がイドとのんびり幸せに暮らしていく、そんな物語。
※ざまぁまで時間かかります。
ファンタジー部門ランキング一位
HOTランキング 一位
総合ランキング一位
ありがとうございます!
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。