婚約破棄されたと思ったら次の結婚相手が王国一恐ろしい男だった件

卯月 三日

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第三章 王都攻防編

新しいものたちに囲まれて⑨

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 その日の夜。
 
 リリとララは、あてがわれた自室で話していた。
 日中はカトリーナに付きっ切りでいるため、夜は休めるようにとダシャがカトリーナについている。
 二人は寝間着に着替え既にベッドに入っていた。

「ねぇ、ララ。奥様のことなんだけど……」
「うん?」
「なんかね。ちょっとイメージと違ったのよ。だって、ご主人様と奥様ったら、二人で庭いじりして笑ってるのよ!? そんなの、黒獅子様の財産目当てで嫁入りした守銭奴令嬢には似合わないわ」
「ちょっと! そんな呼び方!」
「いいじゃない。みんな、そう呼んでるんだから」

 そう。
 ララが今言った守銭奴令嬢とはカトリーナのことである。
 巷で噂になっているその呼び名は、一定の知名度を誇っており、王都ではほとんどの人が守銭奴イコールカトリーナを思い浮かべるまでになっていた。
 それくらい子爵令嬢が公爵家に嫁入りするのは異例のことだったのだ。
 人々はシンデレラストーリーに憧れるわけではなく、純粋に嫉妬していたのだ。だからこそ、このような悪口が横行している。
 
「でも、だからって……」
「それよりね。どう思う? お金目当てで来たのに、全然暮らしは豪華じゃないし、むしろ自分で着替えや掃除をしたり……なんか違うなって。そういうの、ララはなかった?」
「私? うーんと、私はね……」
 
 天井を見上げながら、ララはぼんやりと考えた。
 そこにうつったのはどの光景だろうか。
 少しだけ目を潤ませて顔を赤らめたララは、両頬を両手で包み込んで恥ずかしそうに眼をつぶった。

「私……奥様のこと素敵だなぁって思うよ」
「えぇ!?」

 布団から飛び起きたリリは、驚きで目を見開いた。

「だってね……。私でもしたことないこといっぱい知ってたんだよ? 商店街の皆とも仲良かったし……。街の人は噂を知ってたみたいだけど、気さくに奥様とおしゃべりして。かっこよかったんだぁ」
「何いってんのよ。お金目当ての守銭奴よ?」
「でも、なら屋台の串焼き食べて嬉しそうにするかなぁ?」
「それは……その」

 言葉に詰まるリリをぼんやりと見つめながら、ララはにっこりと笑みを浮かべた。

「私は、今の奥様にしっかり仕えようと思ってるよ。リリも、そう思えるといいね」
「どうしてよ! 私は、お金目当てで結婚するような人を信頼なんかできない!」
「私もそうだけど……奥様は違うよ?」

 ララはそういって布団をかぶると、小さな声で「お休み」といってそれきり話をしなかった。
 リリは、ララの言葉を聞きながらしばらく考え込んでいたが、仕事の疲れがあったのかすぐに眠りにつく。



 二人とは対称的に、ほとんどカトリーナと関わったことのないセヴェリーノ。彼は、この屋敷のなかではひどく影が薄かった。
 基本的には、プリ―ニオの補助。
 金銭管理や執務補助を学びながら、メイド達やほかの使用人の管理まで、さまざまなことを考えながら仕事をこなしていく。
 見習いの彼では、日々の仕事だけで精一杯だったのかもしれない。
 
 そんな彼だが、仕事を終えて自室に戻ると必ずやることがあった。
 いつも通り紙とインクを取り出すと、そこに何事かをつらつらと書き記す。ある程度書き終えると、セヴェリーノはそれを封筒に入れて封蝋をした。
 
「やはり、奥様は普通ではなさそうだ……。あの噂は本当なのかもしれない」

 そんな呟きとともに、彼は首にさげていたペンダントを手に取った。

「必ずあのお方の役に立つんだ。恩を返さなければ」

 誰にも聞こえないその声は、彼が吹き消した灯りとともに消えさった。
 余韻さえも残さずに、今日も夜は訪れる。

 明日に向けて、皆がそれぞれの夜を過ごしていた。
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