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第二章 波乱の七日間
三日前④
しおりを挟む指輪。
それは、この世界でも結婚の誓いとして使われているものだった。
すでに、バルトが二つの指輪を用意していたのだが、ダシャ曰くそれがなくなったとのことだった。
数日前。
服飾品店から納品されたそれは、屋敷の鍵がしまる地下に置かれていた。そして、メイドが作り上げた装飾された綺麗な台座、当日のために作られたその上に指輪を準備しておこうと、今日の昼間、地下室に入ったときにそれは発覚したのだ。
当然、そのメイドは盗んではいない。なぜなら、その地下室に入るときには一人では入れない決まりになっているからだ。二つのカギを使って二人で入る。それが、皆を守るために決められた決まりだったからだ。
二人が入ったその時、指輪が入れられているはずの箱には何も残っていなかった。
がらんどうになった箱の中を見たメイドは、屋敷に響き渡る悲鳴を上げていた。
その事実が発覚したのが、バルト達が戻る数刻前。
使用人総出で探していたのだが、まったく見つからない。
そうこうしている間に、バルトとカトリーナが逃避行から戻った、というわけだ。
その報告を執務室で受けていたバルトは、小さく唸る。
プリ―ニオとダシャは目の前で頭を下げ続けたままだ。
「この失態は執事長である私のせいかと」
「いえ! カトリーナ様付きの私にも、責任はあると思います」
たしかに、使用人達を束ねるプリ―ニオには責任があるかもしれない。
しかし、大勢の使用人達を束ね、間近に迫る結婚式の準備を大急ぎでしながら屋敷の維持、エリアナや来訪者への対応、たまっている執務などをこなすプリ―ニオにすべてを任せるのは客観的にいって無理があった。
ダシャも、カトリーナ付きのメイドであるのだから、結婚式後に身に着ける宝飾品の管理責任がある、と言われれば否とは言えない。しかし、こじつけにも近いその理論をたてに彼女を責めるのも納得がいかない。
そんな二人に頭を下げられて怒るわけにもいかず、バルトは困った視線をカトリーナに向けるのだった。
「どうしたものか」
「んー、どうするって処分をってこと?」
「そうだな」
「私は、それよりも指輪を探すほうが優先だと思うけど……。見つかれば、処分も何もないんでしょ?」
横に控えていたカトリーナも、困り顔でそう答える。
彼女も、ダシャやプリ―ニオにやめてほしくはないのだ。
「ねぇ、ダシャ。プリ―ニオ。私達も協力するわ。だから、もう一度一緒に探さない? 私、二人にいなくなられたら困るもの」
カトリーナはそういって、二人にほほ笑みかけたのだった。
そう言うと、カトリーナ達はもう一度しらみつぶしに指輪を探した。
それこそ、手があいている使用人達全員で家じゅうひっくり返して、である。
だが見つからない。
もしこの家に指輪があるのなら、見つかるはずなのに。
(この家の中にはもうないのかも……)
そんなことを考えていた矢先、ふと探していない場所が思い当たる。
「あ……」
「どうしましたかな? カトリーナ様」
「そういえば、私とバルト様の部屋、探してないよね?」
その言葉にすかさずダシャが答えた。
「探す必要などございません。元々あれはご主人様とカトリーナ様のものになるのです。その方々が持っていくなど到底思えませんから」
「でも、何かに紛れ込んでいたっていう可能性はあるでしょ? ほら、物は試しっていうから。探してみましょう?」
カトリーナは笑顔でそういうと、ぐったりした身体に鞭を打ち立ち上がる。
それにならって、ほかの面々もこれが最後だとばかりに体を起こしたのだった。
そして向かうのはバルトの部屋。
当然ここもすべてがひっくり返され探される。
が、見つからない。
ないといわれた場所になかった。まあ、当然のことであるが皆にやや徒労感に襲われる。
しかし、指輪が見つからない以上それはしょうがないことだった。
一行はそのままカトリーナの部屋に行く。
ここでも同じように探されるが、カトリーナは自分の私物の中身を見ているときになにやら見覚えのない封筒のようなものを見つけた。
(なんだろ、これ)
それを取り出すと、なにやら硬いものが中に入っているのがわかった。
胸にざわりとした嫌な感覚を味わいながら、カトリーナはその封筒を覗き込む。すると中に入っていたのは、やはり見覚えのない指輪が二つ、入っていた。
「これ……」
そういってバルトを見る。
彼はまさか、という表情でそれを受け取ったが中身を見て顔を強張らせた。
「俺が頼んだ指輪だ」
「どうして、ここに……」
二人のやり取りは自然と周囲にも伝わっていく。
皆が手を止め、二人に視線を向けていた。その視線には驚きに加え、一抹の疑いを秘めている。
カトリーナ自身もそれに気づいたのだろう。
ごくりと唾を飲み込みどうしたものかと茫然としていると、使用人達の中から一人のメイドが声をあげた。
「わ、私、見たんです!」
そのメイドは声を張り上げながらも、涙目で足が震えている。
バルトやカトリーナがいる中発言するなど、普段はないことだから緊張しているのだろう。
何を言うのだろうと、周囲の面々は固唾をのんで見守った。
「先日の夜中、カトリーナ様がその指輪を地下室から持っていくのを!」
その言葉を聞いて、カトリーナの部屋にいる全員が彼女に視線を向ける。
「へ?」
カトリーナは、その内容の一端も理解できずに、混乱していたのか顔を引きつらせて愛想笑いを浮かべることしかできなかった。
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