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第一章 死神と呼ばれた男
少年の始まりの物語⑦
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胸を貫かれたルクスは、時間が止まったような感覚におちいっていた。
世界は白く染まり、その中で自分が浮かんでいる。
そんな現実感のない世界に、ルクスはいた。それが死後の世界だと、そう思うのも無理はなかった。
浮かびながら、ルクスはふと右側に視線を向ける。そこには、幼いルクスが木の棒を持って振り回している姿があった。
『ぼくは、ぼうけんしゃになる! わるいやつをやっつけるんだ!』
無邪気に笑う幼いルクスは現実を知らない。自分に才能がないことなど微塵も考えていなかった。
――こんな夢、持ってたんだな。すっかり忘れてたよ。
ルクスがほほ笑むと、幼いころの自分は薄れて消えていた。
次に左側を見る。そこには、学校の制服を着た自分の姿があった。一人で、木の下にうずくまっているところだ。
『どうして僕はこんななんだ……みんなが僕をいらないって言う。ただ僕は――誰かから必要とされたいだけなのに』
そういって涙を流す学生時代の自分も、すぐに白くぼやけて消えていった。
――お前を必要としてくれる人は現れるよ。だから、泣くな。
こうして思い返してみると、ルクスが願ったことは、今どちらもが叶っていた。
冒険者という夢をかなえ、誰かに必要とされながら戦う。
今はまさに、かつての自分が願った自分自身だった。魔法適性とか、真理の実とか。多くの因果に巻き込まれた末の結果だが、満たされていたのだ。
それに気づいたルクスの目からは涙が溢れだす。
落ちる先のない涙は、きらきらと輝きながら白い世界に舞っていく。
――じゃあ、これでよかったのか。もういいんだ……。
満たされた自分が、これから先求めるものなど何もない。だから、ここで力尽きても悔いはない。
あれだけ痛めつけた悪魔なら、手負いの勇者達やマルクス、サジャやフェリカが力を合わせれば勝てるだろう。自分の役目は終えたのだ。十分だ。
そう思って目をつぶる。
さよならと告げる。
そして、自分を必要としてくれた少女にありがとうと呟く。
だが…………。
ルクスの手は天に向かって伸びていた。
なにかをつかもうと必死になってもがいていた。本当に満たされているのなら、そんなことはしない。
ではなせ。なぜ、ルクスは何かを追い求めなければならないのか。
そんなこと、決まっていた。悩む必要などなかった。
ルクスは天に伸ばした手を握りしめ、閉じていた目を見開く。
「私がいるよ」
――刹那。
目の前に世界が開けた。
振り向くと、カレラが両手を広げてほほ笑んでいた。
その姿は後光がさしたように光り輝いており、その光はルクスへと降り注いでいた。
胸元を見ると、傷口が塞がっており、痛みもない。
カレラの命と自分の命がつながっている感覚。マンティコアと戦った時に感じたものと同じこの感覚。今、確かに二人の命はつながっており、カレラの生命力がルクスへと流れ込んでいるのがわかった。
一瞬で傷を治す魔法。
それは、カレラの命とつながっていたから。カレラの命を分け与えられていたから。
だから、ルクスは何度でも立ち上がれた。何度でも立ち向かえた。何度でも刃を振り下ろした。
一人じゃなかったから。
二人だから。
二人で。
「「勝とう」」
止まったはずの時間は動き出す。
ルクスは、先ほどの傷がなかったかのように、王水の刃を切り返し、横なぎにした。
悪魔は、今度こそ小さく切り刻まれ、地面へと落ちる。
そして、黒い霧となり消え去った。
ルクスは勝ったのだ。
一人ではなく二人で。
皆の力で。
世界は白く染まり、その中で自分が浮かんでいる。
そんな現実感のない世界に、ルクスはいた。それが死後の世界だと、そう思うのも無理はなかった。
浮かびながら、ルクスはふと右側に視線を向ける。そこには、幼いルクスが木の棒を持って振り回している姿があった。
『ぼくは、ぼうけんしゃになる! わるいやつをやっつけるんだ!』
無邪気に笑う幼いルクスは現実を知らない。自分に才能がないことなど微塵も考えていなかった。
――こんな夢、持ってたんだな。すっかり忘れてたよ。
ルクスがほほ笑むと、幼いころの自分は薄れて消えていた。
次に左側を見る。そこには、学校の制服を着た自分の姿があった。一人で、木の下にうずくまっているところだ。
『どうして僕はこんななんだ……みんなが僕をいらないって言う。ただ僕は――誰かから必要とされたいだけなのに』
そういって涙を流す学生時代の自分も、すぐに白くぼやけて消えていった。
――お前を必要としてくれる人は現れるよ。だから、泣くな。
こうして思い返してみると、ルクスが願ったことは、今どちらもが叶っていた。
冒険者という夢をかなえ、誰かに必要とされながら戦う。
今はまさに、かつての自分が願った自分自身だった。魔法適性とか、真理の実とか。多くの因果に巻き込まれた末の結果だが、満たされていたのだ。
それに気づいたルクスの目からは涙が溢れだす。
落ちる先のない涙は、きらきらと輝きながら白い世界に舞っていく。
――じゃあ、これでよかったのか。もういいんだ……。
満たされた自分が、これから先求めるものなど何もない。だから、ここで力尽きても悔いはない。
あれだけ痛めつけた悪魔なら、手負いの勇者達やマルクス、サジャやフェリカが力を合わせれば勝てるだろう。自分の役目は終えたのだ。十分だ。
そう思って目をつぶる。
さよならと告げる。
そして、自分を必要としてくれた少女にありがとうと呟く。
だが…………。
ルクスの手は天に向かって伸びていた。
なにかをつかもうと必死になってもがいていた。本当に満たされているのなら、そんなことはしない。
ではなせ。なぜ、ルクスは何かを追い求めなければならないのか。
そんなこと、決まっていた。悩む必要などなかった。
ルクスは天に伸ばした手を握りしめ、閉じていた目を見開く。
「私がいるよ」
――刹那。
目の前に世界が開けた。
振り向くと、カレラが両手を広げてほほ笑んでいた。
その姿は後光がさしたように光り輝いており、その光はルクスへと降り注いでいた。
胸元を見ると、傷口が塞がっており、痛みもない。
カレラの命と自分の命がつながっている感覚。マンティコアと戦った時に感じたものと同じこの感覚。今、確かに二人の命はつながっており、カレラの生命力がルクスへと流れ込んでいるのがわかった。
一瞬で傷を治す魔法。
それは、カレラの命とつながっていたから。カレラの命を分け与えられていたから。
だから、ルクスは何度でも立ち上がれた。何度でも立ち向かえた。何度でも刃を振り下ろした。
一人じゃなかったから。
二人だから。
二人で。
「「勝とう」」
止まったはずの時間は動き出す。
ルクスは、先ほどの傷がなかったかのように、王水の刃を切り返し、横なぎにした。
悪魔は、今度こそ小さく切り刻まれ、地面へと落ちる。
そして、黒い霧となり消え去った。
ルクスは勝ったのだ。
一人ではなく二人で。
皆の力で。
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