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第一章 死神と呼ばれた男
聖女の願い⑰
しおりを挟むそうこうしている間に、神聖騎士団達は攻撃の準備を終えたようだ。
皆が魔力を集中させ空を見上げている。
サジャは、自らも詠唱を終えると、空中に巨大な氷の杭を作り出した。そして、それを悪魔にむかって放ちながら、大声で叫ぶ。
「私の後に続け! 一斉に放て」
サジャの氷の杭に引き続き、燃え盛る炎や雷、岩の塊や巻き起こる風が一斉に悪魔に向かって突き進む。それらがもつ魔力の暴流は周囲の空気を吸い込み、祠一帯を嵐のようにかき乱した。
それほどまでの強大な力。
それが一度に降り注げば悪魔にとって致命的になるはずだ。
サジャはその考えを信じて疑わなかった。
だが、現実は無情だ。
残酷な結末は容赦なく襲い来る。今の神聖騎士団が誇る最強の攻撃を与えたその場所には、この関の災悪が姿を変えずに浮かんでいたのだ。
「ば、馬鹿な……」
ここにきて初めて狼狽えた様子のサジャは、わなわなと手を震わせた。
本来ならばここでさらに指示を出すのがサジャの役割である。勝機が薄くとも、それでも勝つことをあきらめず突き進む。そんな役割の自分だが、サジャは理解してしまった。目の前の化け物が、自分たちとは次元の違う生き物だということに。
勝つ道が見つからない。
ゆえに、サジャは固まってしまった。そんな指揮官の姿をみた騎士団の面々も、同じように茫然とする。
動けない人間達。
そんな矮小な存在を見下ろしていた悪魔が、ゆっくりと地上に降りてきた。そして、不敵な笑みを浮かべながらにやりと口角を歪めた。
「死にたいようだ。望みを叶えてやろう」
そういって、真っ黒な腕を空に伸ばした。
悪魔はその手に魔力を集め、黒い球体を作り出した。それが持つ禍々しい力はみるものを震わせ、抵抗する気力をも奪っていく。
「復活した我に初めて殺される名誉をやろう」
そう宣告し、いざ手が、腕が振り下ろさせるその時。
――ぼとり。
魔力は雲散し、地面に悪魔の腕が落ちる。何者かに切り落とされたそれは、黒い染みとなって地面へと吸い込まれていった。
「何が――」
振り返る悪魔に迫っていたのはルクスだ。
ルクスは先ほどまで両手に控えていた水球の圧力をすべて解放すると、十字を描きながら悪魔へと放っていたのだ。
二つの刃が重なる交点。
単純に、倍の圧力が加わったそこは、あり得ないほどの切断力を秘めていたのだ。
ルクスは、一瞬で使い切ってしまった両手の水球の変わりに、すぐさまもう一度、水の刃を作り出した。たった一つのそれは、威力よりも、作り上げる速度を優先させた。
「死ね」
ルクスは短くそう告げると、水の刃を何度も悪魔へと叩きつける。
首を袈裟切り。
胴を横なぎに。
四肢を付け根、肩、胸。
悪魔の体全体を、これでもかと切り付けた。
切る。切る。切る。切る。切る切る切る切る切る切る。
息をつく間もないくらい、激しく切りつけていたルクスはすかさず悪魔との距離を開け、とめていた呼吸をまた始める。
「はっ、はっ、はぁっ、はっ――」
八つ裂きになっていればいい。そんな淡い期待はすぐさま裏切られることになった。
片腕となった悪魔は、全身に青い線を作り上げていた。ルクスに切られたそこは確かに傷となっていたが、表面のみ。そこには青い血が滲んでいるだけで、致命傷には至っていない。
悪魔を見ると、その表情は冷たい氷のように冷え切っていた。ルクスだけを見つめるその瞳は、紫に輝いている。
「お前。何者だ?」
静かに問いかかける悪魔。ルクスは、その問いに答えることができない。なぜなら、目の前の悪魔の奥底から、信じられないほどの魔力が湧き出ていたからだ。
「答える気はないのか?」
先ほどのサジャと同じように、ルクスは立ち尽くしてしまっていた。自分ができる最大をやった。それでも、悪魔を殺すには至らず、余力を残している。どうやって倒せばいいか、想像ができなかった。
「力の差を理解し、恐怖に負けたか。まあ、それもいい。どうせすぐに死ぬことになるのだ。潔く、散れ」
悪魔はそのまま翼を広げ空に浮かび上がると、残された腕を空に掲げ、再び黒い球体を作り上げた。それは、先ほどよりも大きく、身体が震えるほどの振動を放ち、ばちばちと雷を宿している。
「そこのお前。我に傷を与えたことを誇るがいい。そして、あの世で悔いろ」
悪魔は今度こそ、腕を振り下ろすと、その球体は地上へと落ちる。
小さな球体は、地面に当たった瞬間に激しく爆発し、周囲のすべてを飲み込んでいった。
黒い球体が持つ魔力。それが爆発した余波だけで、すべてが吹き飛んでいく。
悪魔が振り下ろした鉄槌は、容易に人の心を抉り取った。
そして、その爆発はいつしか止んだ。
爆発の中心地の地面は、大きなクレーターになっており先ほどまで悠然とそびえたっていた封印の祠は跡形もない。
文字通り、ただの荒野となった地上をみて、悪魔は不敵にほほ笑んだ。
そして、空高く飛び上がると、どこかを目指して去っていく。
そこに残されたものは何もない。
すべてが吹き飛んでしまっていた。
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