Dランク水魔法使いが実家を追い出された後、真理を手に入れて死神と呼ばれる冒険者となる話

卯月 三日

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第一章 死神と呼ばれた男

聖女の願い⑨

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 封印の祠。

 そこは、かつて神であるディアナと魔王が争った場所だと言われている。ルクスとフェリカは当然ここに訪れるのは初めてだったのだが、身体でここが聖域なのだと感じていた。意識しないでも感じるくらい、濃密な魔力を感じたからだ。

 この祠は周囲を砂地が囲んでいる。視界に入るところは何もない荒野といっても過言ではない。そんな場所の真ん中に、ぽつんとたたずむのが封印の祠だ。
 石造りの柱が何本も立っており、その真ん中に祭壇のようなものが置かれている。屋根はあるが壁はなく、柱の間から外は筒抜けだ。それでも、この祠が荒れ果てていないのは、ここが聖域である所以だろうか。
 祠には守護魔法による保護がかけられており、作られた当初からその姿を変えてはいない。魔物などの邪なものは入ることすらできずに、静寂を守っている。
 
 三人は、その祠の手前で馬車を止めた。カレラは、マンティコアから取り出してあった極大魔石を大事そうに抱えながら歩いている。

「っていうか、フェリカも来るのか?」
「何よ。あんなところで一人で待てっていうの? それこそ、たくさんの魔物に襲われても面倒だもの」
「それもそうか。でも、封印の強化をするときにいてもいいもんなのかな? どうなの? カレラ」

 ルクスの言葉を聞いて、カレラは無表情で淡々と返す。

「別にいい」
「ならいいんだけどね」

 カレラのどことなく冷たい態度に肩をすくめつつも、フェリカは二人の後ろについていく。

 ルクスの視線の先には、祠がたたずんでいる。
 どこか無骨で飾り気のないその場所をみながら、封印を強化した後のことを考えていた。

 そもそもルクスが冒険者に復帰しようと思ったのは、カレラを助けたいと思ったからだ。極大魔石を錬成するために冒険者になり、魔物狩りに勤しんだ。その最中に、魔物の襲来があり巻き込まれたのだが、それを打ち破ることもカレラを助けることだった。今こうして、封印の強化もそのためだ。
 封印が強化されれば、カレラは神聖皇国から命を狙われる理由がなくなる。封印の乗せ換えを行わなくても済むからだ。
 だとすれば、カレラは元の生活に戻っていくのだろう。危険のない、聖女としての人生を歩むのだ。

 ――そういえば、カレラって前はどんな生活してたんだろうな。

 そんな疑問を抱いて、ルクスは胸が痛むのを感じていた。
 
 行動を共にしていて、そんなこともしらないのだ。食べることが好きで肉が好きで寝ることも好きで、素とはかけ離れた聖女としての姿を持ちながらも、どこか気の抜けた彼女のことを、ルクスは詳しくは知らない。
 まだ出会って一月も立っていないのだから当然だろう。だが、それを嫌だと思う自分も確かにいたのだ。
 そして、そんな彼女は封印の強化が終われば去ってしまう。

 ルクスは、今歩いている一歩一歩が、別れへと続いているかと思うと、とても寂しく感じたのだ。
 目の前の祠の寂しげな姿が、ますますそれに拍車をかけていく。
 思わず立ち止まって二人の後ろ姿を見つめてしまっていた。そんなルクスに気づき、カレラも同じように立ち止まり振り向いた。

「どうしたの?」

 そこでフェリカもルクスの様子に気づき、腕を組んでむくれた唇を突き出した。

「ほら。すぐなんだから早く行きましょう? 突っ立ってても、何も起きやしないわよ」

 二人の視線に促されるように歩き出すルクス。
 だが、ふと視界の端に違和感を感じて再び立ち止まってしまった。ルクスは、その違和感を感じた場所に視線を向けた。

「なんだ……あれ」
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