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第一章 死神と呼ばれた男

聖女の願い③

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 冒険者の階級は、魔法適正と同じように五段階に分かれている。鉄、銅、銀、金、白金と金属の名称がつけられたその階級は、端的に冒険者の実力を表していた。

 ルクス達の階級は鉄級であり、冒険者を始めたもの全てがこの階級になる。そこから経験を積み、冒険者として生きていけると判断された者たちが銅級となる。この銅級が一人前の証だ。
 そこからさらに研鑽を重ねて、一部の人間だけが銀級となれる。これは、いわゆるベテランと言われる層であり、周囲の冒険者からは一目置かれる存在となるだろう。
 そのさらに上である金級は特別な成果を上げたものだけに与えられる階級だ。ましてや、白金級は、歴史上、数人程度しか認められていない。

 ルクスは、見習いから一気にベテラン冒険者として認められてしまったようなものだ。驚かずにはいられなかった。
 そんなルクスを後目に、テオフェルは淡々と言葉を重ねていく。

「そうか。なら、二人の階級が上がるようにスヴァトブルグに使いを出そう。そして、褒賞金として……金貨五百枚。それで、手を打ってもらえないだろうか?」

 その言葉で、ルクスは再び脳みそを金づちで殴られたような衝撃を受けた。

 この社会での金銭の価値。それを説明するには、まずは硬貨の説明をしなければならない。
 銅貨、銀貨、金貨、白金貨と四種類の硬貨が存在するが、日常では銅貨と銀貨だけで事足りる。銅貨を五十枚もあれば食事は十分にできる(ちなみに銅貨が百枚で銀貨が一枚である)。銀貨が数枚あれば一晩の宿は借りることができ、金貨が一枚あれば、一般的な家庭であれば一月の生活費になる。白金貨は金貨百枚で一枚という換算だ。

 それほどの価値がある金貨が五百枚ともなれば、そのすさまじさに気づくだろう。それこそ、屋敷が立つくらいの大金だ。

 一気に大金と立場を手に入れたルクスは、その展開のすさまじさに二の句が継げない。そんなルクスの様子を面白がるように、テオフェルは笑いを零した。

「なんだい? 固まってしまって。足りないかい?」


 その問いかけに、ルクスは焦ったようにまくしたてる。
「い! いえいえいえいえいえいえっ! 十分です! いっぱいです! これ以上食べられません!」

 意味不明なことを言うルクスを視界にも納めないカレラ。今度はそんな彼女がテオフェルに問いかけた。

「そして……それほどの褒賞をいただいてされたいお願いとは?」

 相変わらずできる系美少女の仮面を崩さないカレラは、先ほどの発言で気になっていたことを告げた。それを聞いたテオフェルは、温和な笑みをゆがめていやらしく笑う。

「ああ、そうだったね。これはこれは、危うく忘れてしまうところだったよ。街の恩人たる二人にこんなことを告げるのはとてもとても心苦しいのだがね。スヴァトブルグから受けた報告を鑑みて決めたことなんだが……これだけは聞いてもらいたいと思っていることがあるんだ」

 無言で次を促すカレラ。それにひるむことなく、テオフェルは淡々と告げていく。

「君達に依頼を出したい。その依頼内容は、『聖女にかけられた封印を強化すること』だ」

 その言葉を聞いて、ルクスは眉を顰め、カレラは驚きに目を見開いた。

「封印を強化するって――」

 思わずカレラに問いかけていたルクスだったが、すぐにその言葉の意味をしる。それはルクスが知らなかったこと。極大魔石の使い道に他ならない。
 カレラは、できるだけ平静を装っているのだろう。だが、まとう空気は緊張感を増し、手に力がはいっているのがはたから見ていてっも明らかだった。そんな彼女を、テオフェルは楽しそうに見つめている。

「今回の戦いで手に入ったんだろう? 私達も、封印が解けず、魔物を呼び寄せないなら君がこの街にいることを咎めずに済むんだよ。恩人である君らに無碍な行為はしたくない。だからこそ、依頼として出し、援助もしよう。それならば、君達も心置きなく封印の強化に行けるんじゃないかな?」
「なぜ、私が封印を強化したいと?」
「そんなの。君の素性と状況を鑑みれば、おのずとわかるものさ」

 やはり、どこかおどけた様子のテオフェルを見て、カレラは静かに俯き息を吐く。そして、ルクスを一瞥するとすぐさま口を開いた。

「わかりました。その依頼、お受けします」
「ありがたい。細かい話は、ギルドに行ってスヴァトブルグから聞くといい。イザベル。依頼を申請を頼んだ。では、また会う時まで」

 テオフェルはそういって部屋から出ていった。 
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