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第一章 死神と呼ばれた男
閑話 死神と呼ばれた男
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突然現れた魔物達。
尋常ではない勢いで迫ってくるそれらに、男は戦慄していた。
「ふざけんじゃねぇよ! こんなん、無理にきまってんだろ!」
そう叫んだのは男だけではない。
非常を知らせる鐘を聞いて駆け付けた冒険者達は、皆口々に言っていた。
だが、それでも逃げるわけにはいかなかった。
ここは、慣れ親しんだドンガの街。自分を支え続けてくれたこの街の人達を見捨てて逃げるなど、男にはできなかった。
そんな決意とともに、格子状になっている門の隙間から男は槍を突いていた。
群がる魔物の頭目掛けてただひたすらに突く。
いい加減、何匹殺したかわからない。けれど、目の間にに群がる魔物の物量は減る様子はない。
「おい! どうなってんだ!? 領主様は騎士団をよこさねぇのか!?」
「知らねぇよ! それよりこの門が破られたら終わりだぞ! よそ見してねぇで殺せ! 殺せぇぇぇ!」
絶叫をあげながら同じ動作を繰り返す。
そんな極限状態だからだろうか。
頭は考えることを放棄してぼーっとしている。
腕は重く、同じ動作しかできない。目の前に迫っている魔物に突き出すだけで限界だった。
疲労からか、目がかすみ、周囲の音も靄がかかったように聞こえずらい。
そんな状態の中、視界に突然飛び込んできたものがあった。
何かが落ちたような鈍い音が地面を通して伝わってくる。男は、目の前の光景をみて唖然とした。
一人の少年が上から降ってきていたのだ。その少年は、色素の濃い髪をたなびかせながら、特別たくましいわけではないその体を魔物の坩堝へと投じていた。
――馬鹿かよ。上から落っこちるなんて運がねぇ。
男は少年の末路を悟るが当然助けようがない。自分よりも若い少年が命を散らすことに顔を歪めるが、自らは必死で門の隙間から槍を突き出していた。だが、その視界にすぐさま信じられない出来事が繰り広げられる。少年の周囲の魔物が一斉に泡を吹いて崩れ落ちたのだ。
「んぁあ!?」
漏れ出た声の間抜けさに自分でもあきれ返る。と同時に、霞んでいた視界がはっきりと浮かび上がるのを感じていた。
少年に近寄る魔物達が、例外なく地面に伏していく。それはまるで、現実味のない光景だった。
少年が降り立ったのは、門よりも離れたところだ。だからこそ、自分達が倒さなければならない魔物達は当然目の前にいるのだが、それを殺しつくしても先ほどのような押し寄せるほどではなくなっていた。正面から迫る魔物達が少年の周囲で命を散らしているからだろう。左右からのみ迫る魔物は先ほどとは違い余裕をもって殲滅ができた。それは、門の隙間から攻撃を繰り返す男達だけではなく、門の上から弓や魔法を放っていた者たちも同様だろう。
突然現れた少年の後ろ姿と倒れる魔物達を見て、冒険者も衛兵達も、その士気が高まるのを感じられずにはいられなかった。
そんな希望の出現に、男は歓喜した。
まだ、神は自分達を見捨てていなかったのだと、教会にすら顔を出さない男だがそう思った。
しかし、そんな希望はすぐさま幻想だったのだと知る。信じられない力を持った少年。それは、恐怖と畏怖の対象でしかなかった。
近づくと倒れる魔物達。
腕を振るうを切り裂かれる魔物達。
何百、何千という魔物を葬っていくその様は、人を超えた何かに見えた。そして、それはマンティコアと相対したその時に確信となる。
――あれは人じゃない。
と。
体がいくら傷つこうとも、腕がもがれかけても、少年は止まらない。ただ、目の前の生き物を殺すために立ち上がる。
普通なら痛みに恐怖し立てないはずなのに。
殺されるかもという不安で心を折られてもいいはずなのに。
逃げてしまってもいいと、甘い囁きを自分に繰り返すはずなのに。
少年は、傷つき、蘇り、倒れ、癒し、そしてマンティコアを追い詰める。
近づくだけで死んでいく魔物。
腕を振るうだけで肉塊となる魔物。
まるで死を恐れないかのような行動。
そしていくら傷ついても死なない身体。
そんなことをできる人間などいやしない。生物の死を司っているかのように、少年は平等に死を与えていった。
そんな後ろ姿をみて男は思う。あれは、そう――。
「死神だ……」
その呟きは、すぐさま冒険者や衛兵達に伝わっていく。
その日から少年は、人ではなくなった。
何人も死へと誘う、死神となった。
尋常ではない勢いで迫ってくるそれらに、男は戦慄していた。
「ふざけんじゃねぇよ! こんなん、無理にきまってんだろ!」
そう叫んだのは男だけではない。
非常を知らせる鐘を聞いて駆け付けた冒険者達は、皆口々に言っていた。
だが、それでも逃げるわけにはいかなかった。
ここは、慣れ親しんだドンガの街。自分を支え続けてくれたこの街の人達を見捨てて逃げるなど、男にはできなかった。
そんな決意とともに、格子状になっている門の隙間から男は槍を突いていた。
群がる魔物の頭目掛けてただひたすらに突く。
いい加減、何匹殺したかわからない。けれど、目の間にに群がる魔物の物量は減る様子はない。
「おい! どうなってんだ!? 領主様は騎士団をよこさねぇのか!?」
「知らねぇよ! それよりこの門が破られたら終わりだぞ! よそ見してねぇで殺せ! 殺せぇぇぇ!」
絶叫をあげながら同じ動作を繰り返す。
そんな極限状態だからだろうか。
頭は考えることを放棄してぼーっとしている。
腕は重く、同じ動作しかできない。目の前に迫っている魔物に突き出すだけで限界だった。
疲労からか、目がかすみ、周囲の音も靄がかかったように聞こえずらい。
そんな状態の中、視界に突然飛び込んできたものがあった。
何かが落ちたような鈍い音が地面を通して伝わってくる。男は、目の前の光景をみて唖然とした。
一人の少年が上から降ってきていたのだ。その少年は、色素の濃い髪をたなびかせながら、特別たくましいわけではないその体を魔物の坩堝へと投じていた。
――馬鹿かよ。上から落っこちるなんて運がねぇ。
男は少年の末路を悟るが当然助けようがない。自分よりも若い少年が命を散らすことに顔を歪めるが、自らは必死で門の隙間から槍を突き出していた。だが、その視界にすぐさま信じられない出来事が繰り広げられる。少年の周囲の魔物が一斉に泡を吹いて崩れ落ちたのだ。
「んぁあ!?」
漏れ出た声の間抜けさに自分でもあきれ返る。と同時に、霞んでいた視界がはっきりと浮かび上がるのを感じていた。
少年に近寄る魔物達が、例外なく地面に伏していく。それはまるで、現実味のない光景だった。
少年が降り立ったのは、門よりも離れたところだ。だからこそ、自分達が倒さなければならない魔物達は当然目の前にいるのだが、それを殺しつくしても先ほどのような押し寄せるほどではなくなっていた。正面から迫る魔物達が少年の周囲で命を散らしているからだろう。左右からのみ迫る魔物は先ほどとは違い余裕をもって殲滅ができた。それは、門の隙間から攻撃を繰り返す男達だけではなく、門の上から弓や魔法を放っていた者たちも同様だろう。
突然現れた少年の後ろ姿と倒れる魔物達を見て、冒険者も衛兵達も、その士気が高まるのを感じられずにはいられなかった。
そんな希望の出現に、男は歓喜した。
まだ、神は自分達を見捨てていなかったのだと、教会にすら顔を出さない男だがそう思った。
しかし、そんな希望はすぐさま幻想だったのだと知る。信じられない力を持った少年。それは、恐怖と畏怖の対象でしかなかった。
近づくと倒れる魔物達。
腕を振るうを切り裂かれる魔物達。
何百、何千という魔物を葬っていくその様は、人を超えた何かに見えた。そして、それはマンティコアと相対したその時に確信となる。
――あれは人じゃない。
と。
体がいくら傷つこうとも、腕がもがれかけても、少年は止まらない。ただ、目の前の生き物を殺すために立ち上がる。
普通なら痛みに恐怖し立てないはずなのに。
殺されるかもという不安で心を折られてもいいはずなのに。
逃げてしまってもいいと、甘い囁きを自分に繰り返すはずなのに。
少年は、傷つき、蘇り、倒れ、癒し、そしてマンティコアを追い詰める。
近づくだけで死んでいく魔物。
腕を振るうだけで肉塊となる魔物。
まるで死を恐れないかのような行動。
そしていくら傷ついても死なない身体。
そんなことをできる人間などいやしない。生物の死を司っているかのように、少年は平等に死を与えていった。
そんな後ろ姿をみて男は思う。あれは、そう――。
「死神だ……」
その呟きは、すぐさま冒険者や衛兵達に伝わっていく。
その日から少年は、人ではなくなった。
何人も死へと誘う、死神となった。
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