Dランク水魔法使いが実家を追い出された後、真理を手に入れて死神と呼ばれる冒険者となる話

卯月 三日

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第一章 死神と呼ばれた男

返り咲く、冒険者へと⑦

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「では、はい。討伐依頼の報酬と、角の買い取り金です。確認してください」

 冒険者ギルドの受付嬢であるルシアナは、黒いボブカットの髪の毛を耳にかけながら告げた。銅貨と銀貨を積み上げながらほほ笑むその様子はまさにギルドの顔とも言える。ルシアナは、ギルドの制服を着ているのだが、類まれなるその胸元は自己主張をこれでもかとし続けていた。カウンターには、その双丘が、どっしりと乗っかっている。

「う、うはっ……」
「メロンだ」

 そんな二人の反応に、少しだけ顔を赤らめて胸元を隠すルシアナ。むっとした表情で唇を突き出すと、くるりと後ろを向いた。

「そんなに見られたら恥ずかしいじゃないですか! ほら、報酬を受け取ったなら早く行ってください!」

 ルクスは必死に欲望に抗いながら、銅貨と銀貨を袋に入れていく。そんな様子を横目で見ていたルシアナは、ふと思いついたかのように呟いた。

「そういえば、お二人は鉄級の冒険者ですよね。よくこんなにたくさん角ウサギを狩れましたね」

 未だ背中を向けているルシアナに、ルクスはぎこちなく答えた。

「なんだかむしろ寄ってくるんだよな。わけがわらないけどさ」
「寄ってくる?」
「ああ。最近は特に激しくてさ。まあ。そのおかげでこんなたくさん稼げるんだ。ありがたいよ」

 ほほ笑むルクスとは対照的に、ルシアナはいつのまにか体を二人にむけ考えんでいた。

「じゃあ、これで。また来るからよろしくね」
「さよなら」

 ルクスとカレラは用が済んだとばかりに立ち去ろうとしたが、ルシアナはそんな二人を慌てて呼び止めた。

「ちょっと――」

 きょとんとした表情で振り向く二人に、ルシアナは何か言おうとしながらも、言葉に詰まった。

「あの……えと」
「どうしたんだ? もう行こうかと思ってるんだけど?」

 ルクスのその言葉に、ルシアナはすぐさま言葉を続ける。

「すいません。なんだか最近、魔物の数が増えているみたいなんですよ。繁殖期でもないし、周辺の街や村でも何かあったという報告はないんですが、気を付けてくださいね」
「そうなんだ。わかった、たすかったよ。ありがとう」

 そういって手を振りながら去っていくルクスとカレラ。二人を見ながら、ルシアナはしばらく顎に手を当てて思案する。

 その脳裏に浮かぶのは、最近の冒険者達の顔。
 獲物が豊作だと喜ぶものや、予想以上の魔物の攻撃を受けて満身創痍のもの。どちらも、魔物が増えているということに起因した結果だ。
 ルシアナはこれが何を指し示すのかわからない。けれど、脅威となる情報をすぐさままとめて、上司に報告をしたのだ。


 その中には、西の草原で目撃された凶悪な赤い魔物の噂もあった。

「全部、杞憂ならいいんだけどね」

 思わず、素の口調で話していたルシアナは、ため息を吐きながらカウンターの奥へと入っていった。
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