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第一章 死神と呼ばれた男
返り咲く、冒険者へと③
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そんな和気藹々とした食事の時間はあっという間に過ぎてしまう。二人のお腹も膨れ、頼んだ料理も食べつくした。満たされた状態のルクスだったが、どうしてもカレラに聞きたいことがあったのだ。このままお開きにはできないとばかりに、身を乗り出して口火を切る。
「そういえばさ、カレラ。ちょっと聞いてもいい?」
「ん」
「昨日、男達と確かに戦った。そして倒すこともできた。だけどさ、一つ疑問に思ったんだ。俺の足の傷、なんで治ってるか知ってるか?」
その言葉にカレラは眉をぴくりとひそめた。と、同時にルクスはカレラがこの事に触れてほしくないのだろうとも思っていた。
それはなぜか。
ルクスはカレラを神聖皇国の神官だと思ったからだ。
ルクスがカレラを神聖皇国の神官だと疑ったのはわけがある。
それは、ルクスの傷が一晩たっただけで、消え失せていたからだ。痛みもなく、まるで昨日の出来事が夢だったかと思うほどに。深々と刺さったあの傷は、もちろん一晩で治るわけでもないし、体への影響も多分にある。
それを、なかったことにする答えは一つしかなった。
治癒魔法だ。
治癒魔法。それは神聖皇国の神官にしか使えないとされる神から授けられし魔法。それが使えるということは、神官である証でもあった。
奇跡のようなその所業。ルクスは見たことすらないが、その辺で売っている魔法薬ではこうはいかない。
治癒魔法が使える神官という存在は希少であり、よっぽどのことがない限り国から出ていくことはない。だからこそ、ルクスはこの話題に突っ込んでいった。もっと彼女のことを知りたかったからだ。
その問いかけに、再びカレラの口は閉ざされる。彼女の様子を探るように見つめるルクスだったが、元々腹芸にたけている人間じゃない。カレラが何を考えているのかはさっぱりだった。
だから、ルクスは先に自分の目的を告げることにした。偽りなき本音を、そのままに。
「まあ、秘密があるのは当然だ。俺だって、話せないことの一つや二つはある。問い詰めたかったわけじゃない。ただ……」
そこで一度言葉を区切ると、ルクスは気まずそうに髪の毛をいじった。
「何か力になれないかなって思ってさ」
少しだけ俯いたまま告げるも、反応は返ってこない。ルクスが恐る恐る顔を上げると、そこには今まで見たこともないくらい目を見開いたカレラがいた。
「か、カレラ?」
「……して」
「ん?」
「どうして? どうして、そんなこと言ってくれるの?」
今度はルクスが首を傾げる番だった。
確かに理由などない。
偶然出会っただけの存在であり、成り行きで一緒にいるが、たしかになぜ助けたいと思ったのか。その確かな理由はルクスにはなかった。
けれど、自分を庇って立っていた後ろ姿。その凛々しさに心が惹かれたと同時に、震える彼女を助けたいとも思ったのだ。
強く儚い立ち姿を見て、何かしたいとただそう思った。
「なんで、だろうな。確かに俺達は赤の他人だし、関係もなにもない。けど、黒づくめ達と戦って勝って……カレラがありがとうっていってくれて嬉しかったんだよな。俺さ、親にも兄弟にも見下されてたからさ。こんな俺でも誰かの役に立てるかって思ったら嬉しかったんだよ。家族を見返したいって思ってずっとやってきたけど、誰かの――いや、カレラの役に立てたらって思ったんだよ。カレラを助けたい、力になりたい。それが理由じゃだめかな? もちろん、出会ったばかりで信用できないのはわかる。けど……カレラと一緒にいたいと思ったんだよ」
勢いで言い切ったルクスだったが、その内容がさも愛の告白のようで恥ずかしくなってしまった。顔が熱くなり、おそらく赤くなっていることはルクス自身にもわかっていた。
気まずさから視線をそらしていたルクス。先ほどまでのように、何の反応もないと思っていると、何やら目の前から嗚咽のようなものが聞こえてきた。
驚いて顔を上げると、そこには泣きじゃくるカレラの姿がった。
「――カレラ!?」
「んっ、ふぐ、えぐっ、ひくっ」
「いきなりどうしたんだよ、一体」
困惑するルクスだったが、今まで見たこともないカレラの姿に、そっと身を乗り出し頭をなでる。しばらく撫でていると、少しずつ泣き声も収まり落ち着いてきた。その様子は見るからに幼いのだが、敢えてそれを口にすることはしない。
「……大丈夫か?」
「うん」
「何か、嫌なこと言ったか?」
「違う。そうじゃない」
未だ、真っ赤になっている目をルクスに向けると、カレラは潤んだ瞳のまま言葉を紡ぐ。
「そんなこと言ってくれる人、いなかった」
ルクスを守った時のような凛々しさはなく、ルクスの目の前には、ただただ小さな少女が座っている。
「そうか。なら俺が一番最初だな」
「危険な目に合わせると思う」
「もう十分あってるから。だから気にするな」
「一緒に……いてくれるの?」
「ああ」
「……嬉しい」
俯いてしまったため表情はわからない。けれど、耳まで真っ赤になっており、その様子をみてルクスは、嬉しいという感情があふれていた。
自分でも誰かの役に立てる。そんな些細なことが、とても嬉しかったのだ。
互いに顔を赤らめながら見つめあう。
気まずさを誤魔化すように苦笑いを浮かべる二人だったが、その二人を包む空気はとても穏やかだった。
「そういえばさ、カレラ。ちょっと聞いてもいい?」
「ん」
「昨日、男達と確かに戦った。そして倒すこともできた。だけどさ、一つ疑問に思ったんだ。俺の足の傷、なんで治ってるか知ってるか?」
その言葉にカレラは眉をぴくりとひそめた。と、同時にルクスはカレラがこの事に触れてほしくないのだろうとも思っていた。
それはなぜか。
ルクスはカレラを神聖皇国の神官だと思ったからだ。
ルクスがカレラを神聖皇国の神官だと疑ったのはわけがある。
それは、ルクスの傷が一晩たっただけで、消え失せていたからだ。痛みもなく、まるで昨日の出来事が夢だったかと思うほどに。深々と刺さったあの傷は、もちろん一晩で治るわけでもないし、体への影響も多分にある。
それを、なかったことにする答えは一つしかなった。
治癒魔法だ。
治癒魔法。それは神聖皇国の神官にしか使えないとされる神から授けられし魔法。それが使えるということは、神官である証でもあった。
奇跡のようなその所業。ルクスは見たことすらないが、その辺で売っている魔法薬ではこうはいかない。
治癒魔法が使える神官という存在は希少であり、よっぽどのことがない限り国から出ていくことはない。だからこそ、ルクスはこの話題に突っ込んでいった。もっと彼女のことを知りたかったからだ。
その問いかけに、再びカレラの口は閉ざされる。彼女の様子を探るように見つめるルクスだったが、元々腹芸にたけている人間じゃない。カレラが何を考えているのかはさっぱりだった。
だから、ルクスは先に自分の目的を告げることにした。偽りなき本音を、そのままに。
「まあ、秘密があるのは当然だ。俺だって、話せないことの一つや二つはある。問い詰めたかったわけじゃない。ただ……」
そこで一度言葉を区切ると、ルクスは気まずそうに髪の毛をいじった。
「何か力になれないかなって思ってさ」
少しだけ俯いたまま告げるも、反応は返ってこない。ルクスが恐る恐る顔を上げると、そこには今まで見たこともないくらい目を見開いたカレラがいた。
「か、カレラ?」
「……して」
「ん?」
「どうして? どうして、そんなこと言ってくれるの?」
今度はルクスが首を傾げる番だった。
確かに理由などない。
偶然出会っただけの存在であり、成り行きで一緒にいるが、たしかになぜ助けたいと思ったのか。その確かな理由はルクスにはなかった。
けれど、自分を庇って立っていた後ろ姿。その凛々しさに心が惹かれたと同時に、震える彼女を助けたいとも思ったのだ。
強く儚い立ち姿を見て、何かしたいとただそう思った。
「なんで、だろうな。確かに俺達は赤の他人だし、関係もなにもない。けど、黒づくめ達と戦って勝って……カレラがありがとうっていってくれて嬉しかったんだよな。俺さ、親にも兄弟にも見下されてたからさ。こんな俺でも誰かの役に立てるかって思ったら嬉しかったんだよ。家族を見返したいって思ってずっとやってきたけど、誰かの――いや、カレラの役に立てたらって思ったんだよ。カレラを助けたい、力になりたい。それが理由じゃだめかな? もちろん、出会ったばかりで信用できないのはわかる。けど……カレラと一緒にいたいと思ったんだよ」
勢いで言い切ったルクスだったが、その内容がさも愛の告白のようで恥ずかしくなってしまった。顔が熱くなり、おそらく赤くなっていることはルクス自身にもわかっていた。
気まずさから視線をそらしていたルクス。先ほどまでのように、何の反応もないと思っていると、何やら目の前から嗚咽のようなものが聞こえてきた。
驚いて顔を上げると、そこには泣きじゃくるカレラの姿がった。
「――カレラ!?」
「んっ、ふぐ、えぐっ、ひくっ」
「いきなりどうしたんだよ、一体」
困惑するルクスだったが、今まで見たこともないカレラの姿に、そっと身を乗り出し頭をなでる。しばらく撫でていると、少しずつ泣き声も収まり落ち着いてきた。その様子は見るからに幼いのだが、敢えてそれを口にすることはしない。
「……大丈夫か?」
「うん」
「何か、嫌なこと言ったか?」
「違う。そうじゃない」
未だ、真っ赤になっている目をルクスに向けると、カレラは潤んだ瞳のまま言葉を紡ぐ。
「そんなこと言ってくれる人、いなかった」
ルクスを守った時のような凛々しさはなく、ルクスの目の前には、ただただ小さな少女が座っている。
「そうか。なら俺が一番最初だな」
「危険な目に合わせると思う」
「もう十分あってるから。だから気にするな」
「一緒に……いてくれるの?」
「ああ」
「……嬉しい」
俯いてしまったため表情はわからない。けれど、耳まで真っ赤になっており、その様子をみてルクスは、嬉しいという感情があふれていた。
自分でも誰かの役に立てる。そんな些細なことが、とても嬉しかったのだ。
互いに顔を赤らめながら見つめあう。
気まずさを誤魔化すように苦笑いを浮かべる二人だったが、その二人を包む空気はとても穏やかだった。
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