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28、顔から火が出そう
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目が覚めると、妙に体が怠かった。
熱のせいだろう。
それにしても、夢の中とはいえ、とんでもないことをしでかしてしまった。
「夢は自分の願望だっていうけど……」
本当は、シンにめちゃくちゃに抱いて欲しいってことだろうか。
身体目当てなんじゃないかって疑って、人形みたいに扱われたくないって逃げ出したくせに。
自分にこんな情欲があるとか、知りたくなかった。
溜息を吐きながら、水分補給をしに階下に降りていくと、母さんの楽しそうな声が聞こえてきた。
父さんと話が弾んでいるのだろうか?
昔は喧嘩ばかりだったのに、珍しい。
「! え、シン……?」
「あ、起きた? ゴメン、無理をさせすぎた……」
扉を開けると、視界に飛び込んだのは母さんと談笑するシンの姿。
シンは俺に気付くと、少し気まずそうな顔をした。
あれ、もしかして、夢じゃ、なかった……?
途端に顔が熱くなる。今すぐ逃げ出したい。
けれど、それは叶わなかった。
「ゴホン」
わざとらしい咳払いをした父さんに、座るよう促される。
隣にはシン。目の前にはニコニコと嬉しそうに笑う母さんと、むっつりと黙ったままの父さん。
き、気まずい……。
「まさか、里桜にこんな素敵な恋人がいるとは思わなかったわ~」
「!」
「しかも里桜の方からあんな情熱的に……神戸さん愛されてるわねぇ」
「ちょ、ちょっと母さん!?」
気まずい空気もなんのその。
母さんがのほほんと言い放つ。
何で、母さんがシンとのことを知ってるのとか、恋人が男ってことはスルーで良いのかとか、言いたいことはいっぱいあるけど言葉が出てこない。
母さんの言葉にシンは嬉しそうにしているし、父さんは相変わらず何考えているのかわからない。
けど、本当、拷問みたいだからやめて欲しい。
「それで、里桜は神戸くんと一緒に戻るのか?」
「許していただけるのなら、連れて帰りたいと思います」
「え、ちょっと、シン?」
父さんの発言に、シンが真顔で頭を下げる。
まるで「お宅のお嬢さんを自分にください」と結婚の許しを得ようとするドラマの1シーンのようだ。
父さんは「ふむ」と頷いているし、母さんは「あらあら、まぁまぁ」と嬉しそうだし。
何でこの状況を普通に受け入れてるの?
おかしいのは俺だけ?
「リオ、順番がおかしくなったけれど。今度こそ、これを受け取ってくれ」
シンが取り出したのは、突き返したはずの指輪。
それを見て母さんが顔を輝かせている。
「一生をかけて、大事にする。だから、俺と一緒になって欲しい」
「う……で、でも」
「あら、何が嫌なの? 里桜も神戸さんが好きなんでしょう?」
ためらう俺に、母さんが無邪気に口を挟んでくる。
父さんも反対していないし、ここには俺の味方はいないのか?
逃げ道を全部塞がれた気分だ。
「リオ、以前の俺の言い方が悪かったようだから、もう一度言うけど」
そっと、俺の手を握りシンが言う。
「俺は、別にリオを人形のように扱いたいわけじゃない。リオがやりたいこと、行きたいとこ、自由にして良いんだ。ただ、リオが思い出を刻むとき、俺が一緒だったら嬉しい」
「シン……」
真剣な眼差しに、顔がさらに熱くなる。
母さんの満面の笑みが視界の端にちらつく。
シンはまだ言葉を紡ぐ。それは俺の不安を取り除こうとしているのだと伝わるのには十分で。
「俺は、どんな時でもリオの傍にいて支えたい。それじゃダメかな? 俺は、他の誰でもない、リオが欲しい。リオだけを愛している。リオ以上に魅力的な存在を知らない」
「神戸くん、君のその感情が一過性のものではないとどうして言える?」
「父さん?」
突然、黙ったままだった父さんが口を挟んできた。
シンは俺の手を握ったまま、父さんの方に顔を向ける。
「普通の男女でさえ、ちょっとしたすれ違いでダメになる。ましてや、君たちは男同士だ。世間の目、収入の違い。亀裂が入る要因などいくらでも挙げられる。数年後、数十年後には若さもなくなり、外見だって変わるだろう。それでも、里桜を悲しませないと誓えるかね?」
「もちろんです。たとえしわくちゃのおじいさんになっても、最期の時まで一緒にいたい」
「そうか……」
父さんはシンの答えに満足したのか、頷いた。
そして、俺の答えを促すかのようにじっと見てくる。
「里桜は、どうなんだ?」
「えっ?」
「世間がどう言おうと、お前に添い遂げる覚悟があるのなら反対はしない。大事なのは里桜の気持ちだからな」
父さんがこんなこと言うなんて。
すっかり丸くなったというレベルじゃない変化だ。
俺の、気持ち……。
俺は、どうしたいんだろう?
「あら、里桜の気持ちならもう決まっているじゃない? 神戸さんにあんなに甘えて……」
「うわぁ!?」
母さんの言葉に思わず大声が出てしまった。
本当に、どんな痴態をも目撃したんだ?
シンまでやたらニコニコと嬉しそうだし。
「ねぇ、リオ? リオの口から、もう一度『愛してる』って聞きたい。ダメ?」
シンが俺の手を掴み、甲にキスを落とす。
悔しいけれど、本当にかっこいい。
「う……えっと、本当に、人形扱いしない?」
「リオを大事にしたいのであって、束縛や監禁したいわけじゃないよ。リオの気持ちを尊重するって約束する」
「ちょっと前まで、女の人と付き合ってたでしょ? やっぱり女の人が良いってならない?」
「ならない。自分から欲しいと思ったのはリオが初めてだ」
迷いもなくまっすぐに答えるシン。
もう、何の言い訳も思い浮かばない。
シンの気持ちを、シンを拒絶する方法が見つからない。
「良いの? 俺、自分のこと、何もできないよ……?」
「知ってる。むしろ、そこが良いんだ。俺なしじゃ生きていけない存在になってくれ」
その方が愛されてるって思えるって、シンが屈託もなく笑う。
あぁ、もう、本当に逃げられないや。
俺は、最初にシンに抱かれたあの日から、ずっとシンに囚われていたんだ。
「……シンが、好き」
「リオ!」
恥ずかしさに負けそうになりながら、なんとかそれだけ言うとシンが抱きついてきた。
そのまま深く口付けされる。
そして、理解がありすぎる両親に見送られて、シンと一緒に帰った。
俺の左手の薬指には、銀色に輝く指輪。
これからはずっと二人で暮らすのだ。
「幸せにしてね、シン」
「もちろんだよ、リオ」
初めて入るシンの家の前。
夫婦のような会話をすると、二人揃って頬が緩んだ。
熱のせいだろう。
それにしても、夢の中とはいえ、とんでもないことをしでかしてしまった。
「夢は自分の願望だっていうけど……」
本当は、シンにめちゃくちゃに抱いて欲しいってことだろうか。
身体目当てなんじゃないかって疑って、人形みたいに扱われたくないって逃げ出したくせに。
自分にこんな情欲があるとか、知りたくなかった。
溜息を吐きながら、水分補給をしに階下に降りていくと、母さんの楽しそうな声が聞こえてきた。
父さんと話が弾んでいるのだろうか?
昔は喧嘩ばかりだったのに、珍しい。
「! え、シン……?」
「あ、起きた? ゴメン、無理をさせすぎた……」
扉を開けると、視界に飛び込んだのは母さんと談笑するシンの姿。
シンは俺に気付くと、少し気まずそうな顔をした。
あれ、もしかして、夢じゃ、なかった……?
途端に顔が熱くなる。今すぐ逃げ出したい。
けれど、それは叶わなかった。
「ゴホン」
わざとらしい咳払いをした父さんに、座るよう促される。
隣にはシン。目の前にはニコニコと嬉しそうに笑う母さんと、むっつりと黙ったままの父さん。
き、気まずい……。
「まさか、里桜にこんな素敵な恋人がいるとは思わなかったわ~」
「!」
「しかも里桜の方からあんな情熱的に……神戸さん愛されてるわねぇ」
「ちょ、ちょっと母さん!?」
気まずい空気もなんのその。
母さんがのほほんと言い放つ。
何で、母さんがシンとのことを知ってるのとか、恋人が男ってことはスルーで良いのかとか、言いたいことはいっぱいあるけど言葉が出てこない。
母さんの言葉にシンは嬉しそうにしているし、父さんは相変わらず何考えているのかわからない。
けど、本当、拷問みたいだからやめて欲しい。
「それで、里桜は神戸くんと一緒に戻るのか?」
「許していただけるのなら、連れて帰りたいと思います」
「え、ちょっと、シン?」
父さんの発言に、シンが真顔で頭を下げる。
まるで「お宅のお嬢さんを自分にください」と結婚の許しを得ようとするドラマの1シーンのようだ。
父さんは「ふむ」と頷いているし、母さんは「あらあら、まぁまぁ」と嬉しそうだし。
何でこの状況を普通に受け入れてるの?
おかしいのは俺だけ?
「リオ、順番がおかしくなったけれど。今度こそ、これを受け取ってくれ」
シンが取り出したのは、突き返したはずの指輪。
それを見て母さんが顔を輝かせている。
「一生をかけて、大事にする。だから、俺と一緒になって欲しい」
「う……で、でも」
「あら、何が嫌なの? 里桜も神戸さんが好きなんでしょう?」
ためらう俺に、母さんが無邪気に口を挟んでくる。
父さんも反対していないし、ここには俺の味方はいないのか?
逃げ道を全部塞がれた気分だ。
「リオ、以前の俺の言い方が悪かったようだから、もう一度言うけど」
そっと、俺の手を握りシンが言う。
「俺は、別にリオを人形のように扱いたいわけじゃない。リオがやりたいこと、行きたいとこ、自由にして良いんだ。ただ、リオが思い出を刻むとき、俺が一緒だったら嬉しい」
「シン……」
真剣な眼差しに、顔がさらに熱くなる。
母さんの満面の笑みが視界の端にちらつく。
シンはまだ言葉を紡ぐ。それは俺の不安を取り除こうとしているのだと伝わるのには十分で。
「俺は、どんな時でもリオの傍にいて支えたい。それじゃダメかな? 俺は、他の誰でもない、リオが欲しい。リオだけを愛している。リオ以上に魅力的な存在を知らない」
「神戸くん、君のその感情が一過性のものではないとどうして言える?」
「父さん?」
突然、黙ったままだった父さんが口を挟んできた。
シンは俺の手を握ったまま、父さんの方に顔を向ける。
「普通の男女でさえ、ちょっとしたすれ違いでダメになる。ましてや、君たちは男同士だ。世間の目、収入の違い。亀裂が入る要因などいくらでも挙げられる。数年後、数十年後には若さもなくなり、外見だって変わるだろう。それでも、里桜を悲しませないと誓えるかね?」
「もちろんです。たとえしわくちゃのおじいさんになっても、最期の時まで一緒にいたい」
「そうか……」
父さんはシンの答えに満足したのか、頷いた。
そして、俺の答えを促すかのようにじっと見てくる。
「里桜は、どうなんだ?」
「えっ?」
「世間がどう言おうと、お前に添い遂げる覚悟があるのなら反対はしない。大事なのは里桜の気持ちだからな」
父さんがこんなこと言うなんて。
すっかり丸くなったというレベルじゃない変化だ。
俺の、気持ち……。
俺は、どうしたいんだろう?
「あら、里桜の気持ちならもう決まっているじゃない? 神戸さんにあんなに甘えて……」
「うわぁ!?」
母さんの言葉に思わず大声が出てしまった。
本当に、どんな痴態をも目撃したんだ?
シンまでやたらニコニコと嬉しそうだし。
「ねぇ、リオ? リオの口から、もう一度『愛してる』って聞きたい。ダメ?」
シンが俺の手を掴み、甲にキスを落とす。
悔しいけれど、本当にかっこいい。
「う……えっと、本当に、人形扱いしない?」
「リオを大事にしたいのであって、束縛や監禁したいわけじゃないよ。リオの気持ちを尊重するって約束する」
「ちょっと前まで、女の人と付き合ってたでしょ? やっぱり女の人が良いってならない?」
「ならない。自分から欲しいと思ったのはリオが初めてだ」
迷いもなくまっすぐに答えるシン。
もう、何の言い訳も思い浮かばない。
シンの気持ちを、シンを拒絶する方法が見つからない。
「良いの? 俺、自分のこと、何もできないよ……?」
「知ってる。むしろ、そこが良いんだ。俺なしじゃ生きていけない存在になってくれ」
その方が愛されてるって思えるって、シンが屈託もなく笑う。
あぁ、もう、本当に逃げられないや。
俺は、最初にシンに抱かれたあの日から、ずっとシンに囚われていたんだ。
「……シンが、好き」
「リオ!」
恥ずかしさに負けそうになりながら、なんとかそれだけ言うとシンが抱きついてきた。
そのまま深く口付けされる。
そして、理解がありすぎる両親に見送られて、シンと一緒に帰った。
俺の左手の薬指には、銀色に輝く指輪。
これからはずっと二人で暮らすのだ。
「幸せにしてね、シン」
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