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26、熱に浮かされて *
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「38.5℃……家に帰ってきて気が緩んだのね」
体温計を振りながら母さんが言う。
水銀の体温計じゃないんだから、振ったところで表示が下がるわけではないのに。
そんな母さんの動作に、懐かしさを感じる。
「母さん昼からパートに出ちゃうけど、一人で大丈夫?」
「ん……寝てるから、平気」
熱を出したせいか、やたらと頭がぼんやりする。
眠気に任せ半分以上目を閉じたまま、心配いらないと母に返事をする。
お粥を作っておくから食べるのよ、と言われた気がするけれど、夢だったのか現実だったのかわからない。
「ん……?」
どれだけの時間が経ったのか、或いは経っていないのかわかならない。
ふと、額に誰かが触れた気がした。
母が様子を見に来たのか、と重い瞼を開けると心配そうに覗き込むシンと目があった。
「シ、ン……?」
「大丈夫、リオ?」
あぁ、これは夢か。
シンが家にいるわけがないもの。
自慰だけじゃ飽き足らず夢に登場させてしまうくらい、シンが恋しいのか。
「夢……なら、良いよね?」
額に触れていたシンの手をそっと握る。
少しだけゴツゴツした、大きな手。
俺の好きな、俺を愛してくれる手。
その手を口元に引き寄せる。
「シン、逃げてごめんね。でも俺、シンの傍にただいるだけなんて嫌なんだ」
「リオ?」
ちゅ、とシンの掌に口付ける。
驚いたような声を出すシンが可愛いくて、もっと見たいと思う。
夢の中ならこんなに素直に言えるのに。
現実のシンのような強引さがないことをどこかもどかしく感じている自分もいる。
「シンと対等が良いんだ。俺も、シンのために何かしたい。シンの横に立って、シンと釣り合うようになりたい。シンが俺を愛してくれるように、俺もシンを愛したい」
「リオ……」
現実のシンなら、こんな風に会話なんてほとんどせずに二人きりになった途端身体を重ねてきたのに。
夢だからか、俺の話をちゃんと聞いてくれる。
俺の言葉に、戸惑いつつも嬉しそうに笑ってくれている。
けど、いつものようには触ってくれない。
こんなに体が熱いのに、シンが触れてくれないのがもどかしい。
熱のせいなのか、昨夜の情欲の名残なのかわからない。
ぼんやりとした頭で、それでもシンが欲しいと思う。
「ね、触って、シン……」
「ッ……だめだ、リオ。熱が……」
握ったシンの手を胸まで運び、ねだる。
けれど、シンは触るどころか、寝てないとだめだなんて言って身を引き俺から離れようとする。
俺は何だか無性に悲しくなってしまい、涙が滲んできた。
「やっぱり、もう、俺のこと嫌いになった?」
こらえきれずに涙がこぼれる。
シンはそんな俺を見て固まってしまった。
違うとも、そうだとも言ってくれない。
やっぱりもうダメなんだ。
もうシンの気持は俺から離れてしまったんだ。
俺が逃げたせいなのに、もう二度と元の関係に戻ることができないと悟るとこんなに胸が苦しい。
とめどなく落ちる涙を拭うこともせず、俺は身を起こす。
熱のせいか少しふらつく。
とっさに支えようとしてくれたのか、傍に来たシンの腰に抱きついた。
そのまま、シンのズボンのジッパーに手をかける。
「ちょっ、リオ! ダメだって」
「これで最後にするから。夢の中でくらい、俺の好きにさせて……」
制止しようとシンが俺の両手を掴むから、俺は口でシンのジッパーを下ろす。
シンのものをズボンから出そうと、布越しに食む。
すぐに大きくなったことにホッとし、そのまま口でシンの屹立をズボンの中から解放する。
「リオ、やめっ」
「やら」
男の性器なんて咥えたことも舐めたこともない。
けれど、シンを気持ちよくさせたい。
シンが慌てて俺を引きはがそうとするから、俺も意地になってシンのものをしゃぶる。
裏筋やカリ首の隙間、先端の窪みなどを舌先でちろちろ舐める。
だんだん太く硬くなってくると、歯を立てないよう口いっぱいに含む。
口の中に広がる少しにがくてしょっぱい、不思議な味。
少し苦しいけれど、シンの乱れた呼吸や口の中で熱く脈打つペニスに、シンも感じてくれているとわかり嬉しくなる。
「ん……あふっ、ンッ」
「リオッ、も、放せっ」
「やぁっ」
頬の内側や口腔を刺激されているうちに、だんだん俺の中心も切なくなってくる。
腰が自然と揺れてしまう。
早く、これを奥に欲しい。
必死に舐めていると、口の中のシンが一際大きく脈打った。
シンが無理に引き抜こうとし、熱い液体が顔いっぱいにかかった。
「わぁっ、リオ、ごめん!」
慌てて拭こうとするシンを押し留め、俺は口の中にわずかに残ったシンのザーメンを手に出す。
それを、期待にひくつく後ろの穴へと塗り込んだ。
くちゅくちゅと卑猥な音を立てながら、入口を広げるように指を動かす。
「ね、シン。これ、ちょうだい」
もう指じゃ足りない。
これで奥をかき混ぜられたらどれだけ気持ち良いかを知ってしまったから。
シンを迎え入れやすいよう、お尻を突き出し広げてみせる。
こんなふうに積極的に求められるのも、夢だからだろうな。
「リオ……!」
ゴクリ、と唾を飲み込むような音が聞こえたと思った瞬間。
待ちわびていた衝撃が脳天まで突き抜けた。
「ぁあっ! ハッ……シ、ン……シンッ!」
「リオ、ごめんっ! ごめんな!」
俺はシンの名を何度も呼びながら。
シンは何故か謝りながら。
ただ獣のようにバツバツと肌を打ち付け合う。
これが最後になるということもわからなくなるほど、俺の思考は快感に呑まれていく。
ただ、今は。この夢の中でだけは。
何もかも忘れて素直にシンに抱かれていたい。
「シン、好き……好きだよ、シン」
これまで一度も言えなかった言葉を、うわごとのように何度も繰り返す。
これで最後だなんて嫌だ、と泣く俺の涙をシンが舐め取り、何度も何度もキスをする。
これまでで一番気持ち良くて、幸せで、でも悲しい夢だった。
体温計を振りながら母さんが言う。
水銀の体温計じゃないんだから、振ったところで表示が下がるわけではないのに。
そんな母さんの動作に、懐かしさを感じる。
「母さん昼からパートに出ちゃうけど、一人で大丈夫?」
「ん……寝てるから、平気」
熱を出したせいか、やたらと頭がぼんやりする。
眠気に任せ半分以上目を閉じたまま、心配いらないと母に返事をする。
お粥を作っておくから食べるのよ、と言われた気がするけれど、夢だったのか現実だったのかわからない。
「ん……?」
どれだけの時間が経ったのか、或いは経っていないのかわかならない。
ふと、額に誰かが触れた気がした。
母が様子を見に来たのか、と重い瞼を開けると心配そうに覗き込むシンと目があった。
「シ、ン……?」
「大丈夫、リオ?」
あぁ、これは夢か。
シンが家にいるわけがないもの。
自慰だけじゃ飽き足らず夢に登場させてしまうくらい、シンが恋しいのか。
「夢……なら、良いよね?」
額に触れていたシンの手をそっと握る。
少しだけゴツゴツした、大きな手。
俺の好きな、俺を愛してくれる手。
その手を口元に引き寄せる。
「シン、逃げてごめんね。でも俺、シンの傍にただいるだけなんて嫌なんだ」
「リオ?」
ちゅ、とシンの掌に口付ける。
驚いたような声を出すシンが可愛いくて、もっと見たいと思う。
夢の中ならこんなに素直に言えるのに。
現実のシンのような強引さがないことをどこかもどかしく感じている自分もいる。
「シンと対等が良いんだ。俺も、シンのために何かしたい。シンの横に立って、シンと釣り合うようになりたい。シンが俺を愛してくれるように、俺もシンを愛したい」
「リオ……」
現実のシンなら、こんな風に会話なんてほとんどせずに二人きりになった途端身体を重ねてきたのに。
夢だからか、俺の話をちゃんと聞いてくれる。
俺の言葉に、戸惑いつつも嬉しそうに笑ってくれている。
けど、いつものようには触ってくれない。
こんなに体が熱いのに、シンが触れてくれないのがもどかしい。
熱のせいなのか、昨夜の情欲の名残なのかわからない。
ぼんやりとした頭で、それでもシンが欲しいと思う。
「ね、触って、シン……」
「ッ……だめだ、リオ。熱が……」
握ったシンの手を胸まで運び、ねだる。
けれど、シンは触るどころか、寝てないとだめだなんて言って身を引き俺から離れようとする。
俺は何だか無性に悲しくなってしまい、涙が滲んできた。
「やっぱり、もう、俺のこと嫌いになった?」
こらえきれずに涙がこぼれる。
シンはそんな俺を見て固まってしまった。
違うとも、そうだとも言ってくれない。
やっぱりもうダメなんだ。
もうシンの気持は俺から離れてしまったんだ。
俺が逃げたせいなのに、もう二度と元の関係に戻ることができないと悟るとこんなに胸が苦しい。
とめどなく落ちる涙を拭うこともせず、俺は身を起こす。
熱のせいか少しふらつく。
とっさに支えようとしてくれたのか、傍に来たシンの腰に抱きついた。
そのまま、シンのズボンのジッパーに手をかける。
「ちょっ、リオ! ダメだって」
「これで最後にするから。夢の中でくらい、俺の好きにさせて……」
制止しようとシンが俺の両手を掴むから、俺は口でシンのジッパーを下ろす。
シンのものをズボンから出そうと、布越しに食む。
すぐに大きくなったことにホッとし、そのまま口でシンの屹立をズボンの中から解放する。
「リオ、やめっ」
「やら」
男の性器なんて咥えたことも舐めたこともない。
けれど、シンを気持ちよくさせたい。
シンが慌てて俺を引きはがそうとするから、俺も意地になってシンのものをしゃぶる。
裏筋やカリ首の隙間、先端の窪みなどを舌先でちろちろ舐める。
だんだん太く硬くなってくると、歯を立てないよう口いっぱいに含む。
口の中に広がる少しにがくてしょっぱい、不思議な味。
少し苦しいけれど、シンの乱れた呼吸や口の中で熱く脈打つペニスに、シンも感じてくれているとわかり嬉しくなる。
「ん……あふっ、ンッ」
「リオッ、も、放せっ」
「やぁっ」
頬の内側や口腔を刺激されているうちに、だんだん俺の中心も切なくなってくる。
腰が自然と揺れてしまう。
早く、これを奥に欲しい。
必死に舐めていると、口の中のシンが一際大きく脈打った。
シンが無理に引き抜こうとし、熱い液体が顔いっぱいにかかった。
「わぁっ、リオ、ごめん!」
慌てて拭こうとするシンを押し留め、俺は口の中にわずかに残ったシンのザーメンを手に出す。
それを、期待にひくつく後ろの穴へと塗り込んだ。
くちゅくちゅと卑猥な音を立てながら、入口を広げるように指を動かす。
「ね、シン。これ、ちょうだい」
もう指じゃ足りない。
これで奥をかき混ぜられたらどれだけ気持ち良いかを知ってしまったから。
シンを迎え入れやすいよう、お尻を突き出し広げてみせる。
こんなふうに積極的に求められるのも、夢だからだろうな。
「リオ……!」
ゴクリ、と唾を飲み込むような音が聞こえたと思った瞬間。
待ちわびていた衝撃が脳天まで突き抜けた。
「ぁあっ! ハッ……シ、ン……シンッ!」
「リオ、ごめんっ! ごめんな!」
俺はシンの名を何度も呼びながら。
シンは何故か謝りながら。
ただ獣のようにバツバツと肌を打ち付け合う。
これが最後になるということもわからなくなるほど、俺の思考は快感に呑まれていく。
ただ、今は。この夢の中でだけは。
何もかも忘れて素直にシンに抱かれていたい。
「シン、好き……好きだよ、シン」
これまで一度も言えなかった言葉を、うわごとのように何度も繰り返す。
これで最後だなんて嫌だ、と泣く俺の涙をシンが舐め取り、何度も何度もキスをする。
これまでで一番気持ち良くて、幸せで、でも悲しい夢だった。
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