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24、リオの気持ち(side 真)
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会社でリオに会えなかったけど、家には帰っているだろうと思ったのに。
定時で上がり食材を買ってからリオの部屋に行くと無人のままだった。
「……やっぱり、避けられているんだろうか」
どこにいるのかとメッセージを送ってみても、未だ既読はつかない。
電話をかけると留守電の音声が流れる。
着信拒否になっていないことにホッとしつつ、それがかえってリオの身に何か起きたのではないかと不安にさせる。
文京の連絡先がわからないものか、リオの部屋を漁る。
けれど、名刺入れやパソコンなどには仕事関係者の連絡先ばかりで、手掛かりは何一つ得られなかった。
仕方なく、夕食を作り冷蔵庫へ入れ帰ろうとした時だった。
ガチャ、と玄関の扉が開く音がした。
「リオ!?」
帰ってきてくれた!
そう思って部屋から飛び出すと、驚いた顔の文京がいた。
「神戸さん、だっけ? 何でいるの?」
「それはこちらの台詞だ。リオは? お前の所にいるんだろ? 会わせてくれないか?」
きっとリオは文京の家に泊っていて、文京に着替えを取りに来させたのだろう。
やはり避けられている。そう感じて胸が苦しくなる。
半ば懇願するように言った俺に、文京は「それはできない」と冷たく言い放った。
「俺は、里桜を泣かせたら許さないと言ったはずだ。里桜が会いたがっていないのに、会わせるわけがないだろう」
「それでも。傷つけてしまったこと、会って謝りたいんだ。もう一度、やり直したい」
頼む、と下げた頭に、文京の呆れたようなため息が降ってきた。
やっぱり駄目なのか。
頭を下げたままの俺に、文京は言う。
「あんた、何で里桜が泣いてたのか本当にわかってるのか?」
「え?」
思わず顔を上げると、文京と目が合った。
呆れているような顔だが、責められている気がするのは負い目があるからか。
「わかってないなら、やっぱり会わせられない。それじゃ、何度謝ったところであんたは同じことを繰り返すからな」
ぐうの音も出ない。
リオを傷つけた自覚はあるけれど、何でリオが泣いていたのかはわからない。
悔しいけれど、文京の言う通りこれではまた怒らせてしまうだけだろう。
「……なら、俺はどうすれば良い? 文京は、何か聞いているのか?」
「いいや。里桜からは何も。ただ、泣き腫らした顔でもうあんたに会いたくないなんて来られたら、あんたに何かされたって丸わかりだろ?」
やはり、リオは文京の所にいるのか。
文京の口ぶりからそう確信して胸が痛んだ。
リオが頼るのは俺であって欲しいのに、俺ではなく他の男を頼っている。
そうさせたのは俺で。大切にしたいのに、リオが俺の言動の何に傷ついているのかもわからない。
「なぁ、あんた里桜に何したんだ?」
「……わからない」
俺がよほど悲壮な顔をしていたのか、文京が問い詰めてきた。
俺はリオと最後に交わした会話を、なるべく忠実に文京に伝える。
文京に相談するのは癪ではあったが、どうしてもリオに会いたかった。
「指輪を返されそうになったから、改めてプロポーズしたんだ。俺のこと好きにならなくても良いから、傍にいて欲しいって」
リオが傷ついたとしたら、この言葉のどこかだろう。
職場に居辛いって言うから、働かなくて良いって言った。
俺の家で、俺の帰りを待っていて欲しいと。
俺が買った服を着て、俺の作った料理を食べて欲しい。
そうすれば、俺以外の誰かに笑いかけることも、俺以外の奴が作った物を食べることもない。
「……里桜はペットか何かか?」
「そんな風に思ったことはない」
はぁ、と文京がまた呆れたようなため息を吐いた。
だけど、リオが何に傷ついたかは悟ったようだった。
「あんたが里桜に押し付けた理想の里桜像に、里桜が納得しなかったから逃げたんだろ」
「押し付け……? 俺は、ただリオが」
「それを里桜が望んだか? 里桜の理想の恋人像がどんなものかあんたは知っているのか?」
文京の言葉に、頭をガツンと殴られた気がした。
リオを甘やかして、何不自由なく暮らせるようにしてあげたいと思った。
でも、それは優しさではなくただの俺のエゴだと文京は言う。
「……ちょっと待て。それじゃまるで……」
文京の言葉を頭の中で整理して、ふと、俺は気付いてしまった。
俺の理想とリオの理想が違うのが嫌で泣いたって。
それじゃ、まるでリオが俺のこと好き、みたいじゃないか……?
「文京、頼む! リオに会わせてくれ! 今度こそ、リオを……リオの気持ちをちゃんと大事にする! リオがどうしたいのか、俺とどうなりたいのかちゃんと話し合いたいんだ!」
自惚れだって良い。リオは俺を好きになってくれている。
俺を恋愛対象として見ていないなら、あんな傷ついた顔はしないはずだ。
俺を心底嫌いだって言うなら、着信拒否にするはずだ。
真摯に頭を下げたことが伝わったのか、文京は渋々リオの居場所を教えてくれた。
今度こそ、俺はリオを手に入れる。
その身体と心に俺の愛をたっぷり注いでやろう。
もう二度と俺から逃げようだなんてリオが思わないように。
定時で上がり食材を買ってからリオの部屋に行くと無人のままだった。
「……やっぱり、避けられているんだろうか」
どこにいるのかとメッセージを送ってみても、未だ既読はつかない。
電話をかけると留守電の音声が流れる。
着信拒否になっていないことにホッとしつつ、それがかえってリオの身に何か起きたのではないかと不安にさせる。
文京の連絡先がわからないものか、リオの部屋を漁る。
けれど、名刺入れやパソコンなどには仕事関係者の連絡先ばかりで、手掛かりは何一つ得られなかった。
仕方なく、夕食を作り冷蔵庫へ入れ帰ろうとした時だった。
ガチャ、と玄関の扉が開く音がした。
「リオ!?」
帰ってきてくれた!
そう思って部屋から飛び出すと、驚いた顔の文京がいた。
「神戸さん、だっけ? 何でいるの?」
「それはこちらの台詞だ。リオは? お前の所にいるんだろ? 会わせてくれないか?」
きっとリオは文京の家に泊っていて、文京に着替えを取りに来させたのだろう。
やはり避けられている。そう感じて胸が苦しくなる。
半ば懇願するように言った俺に、文京は「それはできない」と冷たく言い放った。
「俺は、里桜を泣かせたら許さないと言ったはずだ。里桜が会いたがっていないのに、会わせるわけがないだろう」
「それでも。傷つけてしまったこと、会って謝りたいんだ。もう一度、やり直したい」
頼む、と下げた頭に、文京の呆れたようなため息が降ってきた。
やっぱり駄目なのか。
頭を下げたままの俺に、文京は言う。
「あんた、何で里桜が泣いてたのか本当にわかってるのか?」
「え?」
思わず顔を上げると、文京と目が合った。
呆れているような顔だが、責められている気がするのは負い目があるからか。
「わかってないなら、やっぱり会わせられない。それじゃ、何度謝ったところであんたは同じことを繰り返すからな」
ぐうの音も出ない。
リオを傷つけた自覚はあるけれど、何でリオが泣いていたのかはわからない。
悔しいけれど、文京の言う通りこれではまた怒らせてしまうだけだろう。
「……なら、俺はどうすれば良い? 文京は、何か聞いているのか?」
「いいや。里桜からは何も。ただ、泣き腫らした顔でもうあんたに会いたくないなんて来られたら、あんたに何かされたって丸わかりだろ?」
やはり、リオは文京の所にいるのか。
文京の口ぶりからそう確信して胸が痛んだ。
リオが頼るのは俺であって欲しいのに、俺ではなく他の男を頼っている。
そうさせたのは俺で。大切にしたいのに、リオが俺の言動の何に傷ついているのかもわからない。
「なぁ、あんた里桜に何したんだ?」
「……わからない」
俺がよほど悲壮な顔をしていたのか、文京が問い詰めてきた。
俺はリオと最後に交わした会話を、なるべく忠実に文京に伝える。
文京に相談するのは癪ではあったが、どうしてもリオに会いたかった。
「指輪を返されそうになったから、改めてプロポーズしたんだ。俺のこと好きにならなくても良いから、傍にいて欲しいって」
リオが傷ついたとしたら、この言葉のどこかだろう。
職場に居辛いって言うから、働かなくて良いって言った。
俺の家で、俺の帰りを待っていて欲しいと。
俺が買った服を着て、俺の作った料理を食べて欲しい。
そうすれば、俺以外の誰かに笑いかけることも、俺以外の奴が作った物を食べることもない。
「……里桜はペットか何かか?」
「そんな風に思ったことはない」
はぁ、と文京がまた呆れたようなため息を吐いた。
だけど、リオが何に傷ついたかは悟ったようだった。
「あんたが里桜に押し付けた理想の里桜像に、里桜が納得しなかったから逃げたんだろ」
「押し付け……? 俺は、ただリオが」
「それを里桜が望んだか? 里桜の理想の恋人像がどんなものかあんたは知っているのか?」
文京の言葉に、頭をガツンと殴られた気がした。
リオを甘やかして、何不自由なく暮らせるようにしてあげたいと思った。
でも、それは優しさではなくただの俺のエゴだと文京は言う。
「……ちょっと待て。それじゃまるで……」
文京の言葉を頭の中で整理して、ふと、俺は気付いてしまった。
俺の理想とリオの理想が違うのが嫌で泣いたって。
それじゃ、まるでリオが俺のこと好き、みたいじゃないか……?
「文京、頼む! リオに会わせてくれ! 今度こそ、リオを……リオの気持ちをちゃんと大事にする! リオがどうしたいのか、俺とどうなりたいのかちゃんと話し合いたいんだ!」
自惚れだって良い。リオは俺を好きになってくれている。
俺を恋愛対象として見ていないなら、あんな傷ついた顔はしないはずだ。
俺を心底嫌いだって言うなら、着信拒否にするはずだ。
真摯に頭を下げたことが伝わったのか、文京は渋々リオの居場所を教えてくれた。
今度こそ、俺はリオを手に入れる。
その身体と心に俺の愛をたっぷり注いでやろう。
もう二度と俺から逃げようだなんてリオが思わないように。
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