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23、もどかしい(side 真)
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リオが姿を消した。
そのことに気付いたのは、情けないことにリオがいなくなって1日以上経ってからだった。
「俺は人形じゃない」
リオの言葉が今でも胸に突き刺さっている。
それは、毎回恋人だった女性から突き付けられた別れの言葉。
指輪を返そうとしてくるリオを引き留めたくて、傍にいてくれと頼む俺への返答がそれだった。
(またか……)
リオなら、俺の愛を受け止めてくれるんじゃないかって思ってた。
大切にしたくて、独り占めしたくて。そんな俺を受け入れてくれるって。
でも違った。結局これまでの女性達と何ら変わりなかった。
……いや、違う。
(何で、そんな顔をするんだ?)
これまでその言葉を告げてきた女性達は、俺を嫌悪するような顔だった。
或いは、これで俺と縁が切れると晴れ晴れした顔だった。
けれど、同じ言葉なのに、リオは深く傷ついたような、悲しげな顔だった。
何でリオがそんな顔をするのかわからないけれど、原因は間違いなく俺だろう。
とにかく謝らなければ、と思ったのに何故か怒らせてしまった。
その怒った顔もやっぱりどこか悲しげで。
「泣かないで、リオ」
追い返されて、仕方なく家に戻って隠しカメラのモニターをつけた。
すると、玄関のドアの前で蹲って泣いているリオが映っていた。
ベッドでの泣き顔は可愛いけど、今のリオの姿は胸が苦しくなる。
何で泣いているのかがわからない。
今すぐ傍にいって抱きしめてやりたいけど、チェーンまでかけられたのは初めてで。
リオが本気で俺のことを拒絶したのはこの半年で初めてだったから。
謝ることも、触れることもできない現状がもどかしかった。
「どうしたら、傍にいられる?」
モニターに映るリオに話しかけても、当然答えなんて返ってこない。
それでも、これで終わりだなんて嫌だった。
今までなら別れの言葉を言われて終わりだったけれど。
諦めたくない。まだ一緒にいたい。それは、きっとこれが本気の恋だからだ。
「リオ、出かけるのか? 一体どこへ……」
リオが立ち上がり外へ出るのが見えた。
この時間に出かけるのは初めてのことだ。
違和感を覚え、リオの家に向かったけれど既に姿は見えなかった。
同じマンション内に空きがなくて部屋を押さえられなかったことをこの日ほど悔やんだことはない。
「文京の連絡先を聞いておくんだったな」
リオの交友関係は驚くほど少ない。
俺がリオを観察していたこの半年間で連絡を取り合っていたのは文京くらいだ。
だから、今回もきっと文京の家に行ったのだろう。
俺のことを相談していたみたいだし、間違いないと思う。
文京の家を知っていれば、迎えに行けたのに。
改めて、俺はリオの表面しか知らないことに気づかされる。
もやもやとした気持ちのまま夜を過ごした。
「え? 来ていない?」
「えぇ。今日は有給ですって」
翌日。
結局家に戻ってこなかったリオを会社で探したけれど、出社していないと言われた。
教えてくれたのは、リオと同じ開発課の女性。
休むなら事前に言っておいて欲しいなんてブツブツと文句を言っている。
「あることないこと噂されて居づらくなったんじゃないんですか?」
「なっ! そ、そもそも神戸さんが富永さんに指輪を渡したりしてるからでしょ!? 噂じゃなくて事実じゃない!」
敬語も使えないくせに文句だけは立派な女性の態度にイラっとしてしまい、思わず口から出てしまった言葉に女性が過剰に反応する。
しまった、と思った時にはマシンガンのように俺を責める言葉が飛び出してきた。
思い返せば、少しでもリオへの偏見が減ればと思って俺がリオをレイプしたなんて話を食堂でしたのも良くなかったようだ。
リオは被害者だとアピールするつもりが完全に裏目に出てしまった。
リオが休みたくなっても仕方ないと思う。
「それで、リオはいつまで休むって?」
「知らないわよ。神戸さんの方が詳しいんじゃない? 富永さんから直接聞いたら良いでしょ」
話題を戻そうとするが結局欲しい情報は得られなかった。
リオにメッセージを送っても返信どころか既読すらつかない状況に、胸騒ぎがする。
休憩時間に人事課でも聞いてみたが、そこでも個人情報だからと教えてもらえなかった。
「あぁ、もうっ」
「何だ、また荒れてるな。愛しのリオちゃんには逢えなかったのか?」
イライラしながらデスクに戻ると、生島さんが茶化すように声をかけてきた。
思わず睨むと、おお恐いなんて心にもないことをおどけながら言って身を引く。
「今日は有給だそうです」
「うん? 何だ、休むって連絡なかったから拗ねてんのか」
「……昨日の夜出かけたまま帰ってこなかったので。連絡もつかないんですよね。……あと、リオちゃんって呼ぶのやめてください。リオは俺のです」
「うわぁ、フラれたくせに凄い独占欲。つか、帰ってこなかったって何? 一緒に暮らしてるの? それともまさか、家を見張ってたとか?」
素で愚痴ってしまったら、怖すぎる、とドン引きされた。
フラれたくせに、という言葉にガツンと殴られたような気分になる。
昨日のやり取りをあの場にいなかった生島さんが知っているという事実から、噂の広がる早さがわかる。
「昨日、謝りに行ったんですよ。けど留守で」
「一晩中待ってたと。お前、世間ではそういうのストーカーって言うんだぞ」
色々相談してた生島さん相手でもさすがに盗撮のことまでは明かせないからそれっぽく言い繕ったけれど、結局ストーカー認定されてしまった。
まぁ、事実だから良いけど。
「はぁ、リオに会いたい。1日1回は話さないと俺、リオ欠乏症になっちゃいます」
「フラれたんだろ? 早く諦めろよ?」
「嫌です。諦めません」
今日帰ったらリオのご飯何を作ろうかな。
ご飯食べさせて、もう一回謝って、昨日何で泣いてたのか聞いて慰めて……。
リオと過ごす甘い夜を夢想しながら仕事を終わらせた。
しかし、結局その日リオは帰ってこなかった。
そのことに気付いたのは、情けないことにリオがいなくなって1日以上経ってからだった。
「俺は人形じゃない」
リオの言葉が今でも胸に突き刺さっている。
それは、毎回恋人だった女性から突き付けられた別れの言葉。
指輪を返そうとしてくるリオを引き留めたくて、傍にいてくれと頼む俺への返答がそれだった。
(またか……)
リオなら、俺の愛を受け止めてくれるんじゃないかって思ってた。
大切にしたくて、独り占めしたくて。そんな俺を受け入れてくれるって。
でも違った。結局これまでの女性達と何ら変わりなかった。
……いや、違う。
(何で、そんな顔をするんだ?)
これまでその言葉を告げてきた女性達は、俺を嫌悪するような顔だった。
或いは、これで俺と縁が切れると晴れ晴れした顔だった。
けれど、同じ言葉なのに、リオは深く傷ついたような、悲しげな顔だった。
何でリオがそんな顔をするのかわからないけれど、原因は間違いなく俺だろう。
とにかく謝らなければ、と思ったのに何故か怒らせてしまった。
その怒った顔もやっぱりどこか悲しげで。
「泣かないで、リオ」
追い返されて、仕方なく家に戻って隠しカメラのモニターをつけた。
すると、玄関のドアの前で蹲って泣いているリオが映っていた。
ベッドでの泣き顔は可愛いけど、今のリオの姿は胸が苦しくなる。
何で泣いているのかがわからない。
今すぐ傍にいって抱きしめてやりたいけど、チェーンまでかけられたのは初めてで。
リオが本気で俺のことを拒絶したのはこの半年で初めてだったから。
謝ることも、触れることもできない現状がもどかしかった。
「どうしたら、傍にいられる?」
モニターに映るリオに話しかけても、当然答えなんて返ってこない。
それでも、これで終わりだなんて嫌だった。
今までなら別れの言葉を言われて終わりだったけれど。
諦めたくない。まだ一緒にいたい。それは、きっとこれが本気の恋だからだ。
「リオ、出かけるのか? 一体どこへ……」
リオが立ち上がり外へ出るのが見えた。
この時間に出かけるのは初めてのことだ。
違和感を覚え、リオの家に向かったけれど既に姿は見えなかった。
同じマンション内に空きがなくて部屋を押さえられなかったことをこの日ほど悔やんだことはない。
「文京の連絡先を聞いておくんだったな」
リオの交友関係は驚くほど少ない。
俺がリオを観察していたこの半年間で連絡を取り合っていたのは文京くらいだ。
だから、今回もきっと文京の家に行ったのだろう。
俺のことを相談していたみたいだし、間違いないと思う。
文京の家を知っていれば、迎えに行けたのに。
改めて、俺はリオの表面しか知らないことに気づかされる。
もやもやとした気持ちのまま夜を過ごした。
「え? 来ていない?」
「えぇ。今日は有給ですって」
翌日。
結局家に戻ってこなかったリオを会社で探したけれど、出社していないと言われた。
教えてくれたのは、リオと同じ開発課の女性。
休むなら事前に言っておいて欲しいなんてブツブツと文句を言っている。
「あることないこと噂されて居づらくなったんじゃないんですか?」
「なっ! そ、そもそも神戸さんが富永さんに指輪を渡したりしてるからでしょ!? 噂じゃなくて事実じゃない!」
敬語も使えないくせに文句だけは立派な女性の態度にイラっとしてしまい、思わず口から出てしまった言葉に女性が過剰に反応する。
しまった、と思った時にはマシンガンのように俺を責める言葉が飛び出してきた。
思い返せば、少しでもリオへの偏見が減ればと思って俺がリオをレイプしたなんて話を食堂でしたのも良くなかったようだ。
リオは被害者だとアピールするつもりが完全に裏目に出てしまった。
リオが休みたくなっても仕方ないと思う。
「それで、リオはいつまで休むって?」
「知らないわよ。神戸さんの方が詳しいんじゃない? 富永さんから直接聞いたら良いでしょ」
話題を戻そうとするが結局欲しい情報は得られなかった。
リオにメッセージを送っても返信どころか既読すらつかない状況に、胸騒ぎがする。
休憩時間に人事課でも聞いてみたが、そこでも個人情報だからと教えてもらえなかった。
「あぁ、もうっ」
「何だ、また荒れてるな。愛しのリオちゃんには逢えなかったのか?」
イライラしながらデスクに戻ると、生島さんが茶化すように声をかけてきた。
思わず睨むと、おお恐いなんて心にもないことをおどけながら言って身を引く。
「今日は有給だそうです」
「うん? 何だ、休むって連絡なかったから拗ねてんのか」
「……昨日の夜出かけたまま帰ってこなかったので。連絡もつかないんですよね。……あと、リオちゃんって呼ぶのやめてください。リオは俺のです」
「うわぁ、フラれたくせに凄い独占欲。つか、帰ってこなかったって何? 一緒に暮らしてるの? それともまさか、家を見張ってたとか?」
素で愚痴ってしまったら、怖すぎる、とドン引きされた。
フラれたくせに、という言葉にガツンと殴られたような気分になる。
昨日のやり取りをあの場にいなかった生島さんが知っているという事実から、噂の広がる早さがわかる。
「昨日、謝りに行ったんですよ。けど留守で」
「一晩中待ってたと。お前、世間ではそういうのストーカーって言うんだぞ」
色々相談してた生島さん相手でもさすがに盗撮のことまでは明かせないからそれっぽく言い繕ったけれど、結局ストーカー認定されてしまった。
まぁ、事実だから良いけど。
「はぁ、リオに会いたい。1日1回は話さないと俺、リオ欠乏症になっちゃいます」
「フラれたんだろ? 早く諦めろよ?」
「嫌です。諦めません」
今日帰ったらリオのご飯何を作ろうかな。
ご飯食べさせて、もう一回謝って、昨日何で泣いてたのか聞いて慰めて……。
リオと過ごす甘い夜を夢想しながら仕事を終わらせた。
しかし、結局その日リオは帰ってこなかった。
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