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8、呼び出し (side 真)
しおりを挟む生姜焼きを作っておいた日。
その日もリオはいつもの通りフラフラと布団へ吸い込まれるように寝てしまった。
気づいてもらえなかったのは寂しいけれど、いつもの通りの行動だから予想はしていた。
「まぁ、そんなところも可愛いんだけど」
自分の行動が異常だとは自覚している。
これまでずっと女性が好きだったわけだし、一時の気の迷いだと考えたこともある。
自分と同じモノがついているのを見れば、気持ちも醒めるのではと思い脱衣所にもカメラをしかけた。
結果、俺はリオの裸でも勃った。
それで、この感情は恋愛感情だと確信した。
今では俺の画像ファイルは、録画から切り抜いたリオの写真でいっぱいだった。
寝顔や、驚いた顔、怯える顔、小さいお尻や細い腰、裸体などなど。スマホにも保存していつでも見られるようにしてある。
「あ、笑った」
レアな表情いただきました。保存保存。
それは、起きてきたリオが俺の作った生姜焼きに気付いて、口に入れた時の表情。
俺の料理美味しいって言ってくれた。
俺の愛情たっぷり入った料理を。つまりは俺の愛を。
「それって、俺を受け入れてくれたってことだよね?」
顔がにやけるのを止められない。
だって、やっと俺の愛を受け入れてくれたんだもの。
今すぐ行って抱きしめたい。
――ピリリ♪ ピリリ♪
リオに会いに行くべくいそいそとコートに袖を通そうとしていたら、携帯が鳴った。
楽しみに水を差され、思わず舌打ちする。
だが、画面に表示された名前を見て、無視するわけにはいかず電話に出た。
「もしもし。何?」
『何だ、ずいぶん不機嫌だな』
「用がないなら切るけど」
『待て待て。実は、お前に嫌がらせをされたと直訴してきた女子社員がいると報告を受けてな。詳細を聞きたい。休みの所悪いが私の家に来られるか?』
あのアマ――。
俺は思い切り舌打ちしていた。
電話の主は、俺の従兄にして俺の勤める会社の社長、神戸守だった。
逆らうわけにはいかず、俺は守の家に向かった。
「やあ、真くんじゃないか! 久しぶりだね」
「ご無沙汰しております、会長」
「嫌だなあ、そんな他人行儀。昔みたいに伯父さんって呼んでくれよ」
「いえ、そういう訳には。それより、守さんに呼ばれて来たのですが」
出迎えてくれたのは、先代社長であり、現在は会長職についている伯父。
俺が入社するのと入れ替えで守に職位を譲って今は家でゆっくりしているらしい。
俺を自分の息子同様に可愛がってくれている。
「来たか、真。わざわざすまないな」
「いえ」
玄関先で昔話に花を咲かせようとする伯父に割り込み、守が俺を呼びに来た。
伯父に断りを入れて守の部屋へと上がる。
俺の部屋も広い部類だが、この部屋ほどじゃない。
40畳ほどのフローリングの部屋に、シンプルで洗練された高級家具。
大きなソファに座る守は、まるで雑誌から切り抜いてきたモデルのようだ。
対面に座ると、お茶を持ってきた家政婦を下がらせた。
時間が惜しいとばかりに本題に入る。
「人事部の女性が、突然退職を願い出てきたため理由を問うたところ、お前に胸を触られ、それを言いふらすなと脅されたと泣きながら訴えてきたそうだ。このままだと、お前を解雇せざるを得なくなる。何か言い分は?」
「脅したのは本当だ」
「ほう?」
「ただ、それはあの女がしつこく迫ってきて迷惑だったからだ。業務外で二度と話しかけるなと言っただけだ」
胸を触ったのではなく、触らせられたんだし、被害者はこっちだ。
忌々しいと思う顔を隠しもせずに言い捨てた俺を、守は興味深そうに見た。
「あんなに魅力的な女性が気色悪いとは」
「冗談はやめてくれ。俺の好みは、大人しくて俺に依存してくれるような子で、あの女のような男を手玉に取る女じゃない」
「なるほど?」
守は確かにそんな感じだったなと頷いてくれる。
実際、あの女がこの手口で男性社員を解雇に追い込むのは三度目だ。
しかし、今度の今度は本気で辞めたいと泣きつかれたため守も面談を行ったという。
「辞めたいって言うなら辞めさせればいい。仕事中に言い寄ってくるような女、本当に仕事していたのか疑いたくなる」
「まぁ、お前がそう言うなら。お前は前科もないしな」
今後同じようなことがあれば庇えないから注意しろ、と釘を刺された。
その言葉にギクッとしてしまう。
だって、今まさにリオをストーキング中だから。
そんな俺の一瞬の怯みを、守は見逃さない。
「お前、まさか……」
ここは素直に打ち明けて、守を味方にしてしまった方が良いか。
リオをいびるあのクズ課長を排除できるかもだしな。
「実は……俺、今開発部に好きな子がいるんだ」
俺はスマホ画面をリオの写真にすると、守に見せる。
スマホを受け取った守は、画面を見て唖然としていた。
そうだよな。従弟がいきなりゲイになっていたら、驚くよな。
「お前、これ、どうみても隠し撮り……いや、その前に男?」
守が返してきたスマホを受け取って硬直した。
渡す時にどこか指が触れたのか、よりにもよって裸体のリオを見せてしまった。
「お前、リオの裸を見たな! 忘れろ!」
「いや、見せたのはお前だろ! そもそもお前、この前まで女の子と付き合っていただろうが! 何でいきなりそんな冴えない男に」
「どこが冴えないだって?!」
「冴えないだろうが! 眠そうな顔しやがって! どこが良いって言うんだ!」
「どこがだと?! 困り顔が可愛い! ふにゃっと笑った顔が可愛い! 仕事中の真剣な顔も良い! 儚げな雰囲気で抱きしめてやりたくなるし、白い肌も、長いまつ毛もセクシーだ! あの細い腰見てるとムラムラして、小さい尻が壊れるまでガンガンに攻め立ててやりたくなるね!」
「……すまん、もう良い。やめてくれ」
どこが良いのかと聞いたのは守のくせに、片手で口元を押さえながらスラスラと並べ立てる俺にストップをかける。
いかにも気持ち悪いとでも言いそうなその動作に、少しだけ腹が立つ。
気を取り直したらしい守が、改めてどういう関係か聞いてきた。
「俺が一方的に好意を寄せていただけだったんだけど……あぁ、そうそう、今朝やっとリオが俺の愛を受け入れてくれたんだ」
「そ、そうか。それは良かったな」
「あぁ。それでさ、開発部に、リオをいびるクズがいるんだ」
「その、彼がそう言ってきたのか?」
「いや? リオは仕事の愚痴とか一切言わない。だが、少し様子を見ていれば、開発部の課長がわざと間違った指示をしたり、締め切りに余裕があるプロジェクトを退勤間際に今日中にやれとか指示したりしてるってわかるはずだ」
「そうか。少し、様子を見ておくよ」
クズ課長の話をし始めたら、守は急に真面目な顔になった。
ごく一部のことしか伝えてないのだが、問題があることは十分わかってくれたようだ。
さすが、会社のトップに立つだけのことはある。
「それで、リオの話なんだけど。リストラ候補なんだって?」
「そうなのか? まあ、真の話が本当なら評価自体見直す必要があるが……」
「うん、だけど、良いよ。リストラされたら、俺がリオを養う」
むしろ、部屋に閉じ込めて、どこにも出したくはない。
ベッドに繋いで、逃げられないようにしたい。
そんな本音をぽろっと言ったら、守が飲みかけたお茶を噴き出した。
「おま、ゲホッ……はぁ、従弟がこんな性癖を持っていたなんて知りたくなかった」
何故か頭を抱える守。
俺が昔守に甘えていた頃のように、「応援してね、お兄様?」と言ったらため息を吐かれた。
俺がそこまでリオに惚れ込んでいるのが本気で理解できないといった様子だ。
まぁ、リオの可愛さは俺だけがわかっていれば良いさ。
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