その腕に囚われて

禎祥

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5、約束 *

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 肌と肌が打ち合う音と、グチュグチュと粘液がかき回される音が響く。
 最初は気を失いそうになるほど痛かったのに、今の俺の体は快楽ばかりを拾う。
 淫らな音と、乱れた呼吸。吐息と共に自分の口からこぼれる嬌声。恥ずかしいと思うのに、止められない。
 男としての矜持などもうとっくに潰された。男の欲望に貫かれ、抵抗もできないまま女のように鳴かされている。

「ひあぁっ! あんっ、あっ、あぁああっ……!」

 もう何度目になるかわからないほど射精させられて、呼吸を整える暇もないほどすぐにまた高められて。
 こんなのは嫌なのに、奥を突かれる度に中が収縮して強請るように男の陰茎に自ら吸い付いてしまう。
 正常位で足を高く持ち上げられているせいで、嫌でも結合部を見せつけられる。

 男も何度も達していて、俺の腹はぽっこりと膨らんでいた。
 それを見下ろした男が再び中で大きくなる。
 かき回される度に溢れた男の精液が俺の背中の方へツツ、と垂れてくるその感触にまでゾクゾクと感じてしまう。

「はっ、リオ、妊婦さんみたい。わかる? ここに俺の子種たっぷり入っているの。リオが女の子だったら、孕んでいたかもね」
「あっ、やめっ……」

 男が俺の膨らんだ下腹部を撫で回しながら、腰を動かす。
 中出しした精液を奥に奥にと送り込もうとするかのように。
 先ほどまでと違うゆっくりとしたその動きを、もどかしく思ってしまう。

「ひっ……も、無理ぃ……やめっ……ああっ、んっ」
「リオ、すごい……ハッ……また、搾り取られそう」

 イってすぐの敏感な所を何度も擦られ、ビクビクと体が痙攣する。
 そんな俺の反応を楽しむかのように低い声で笑うと、男がまたストロークを始める。
 こんな気持ちいいの、知らない。自分でやるとのは全く違う、容赦のない快楽の奔流。
 溺れてしまいそうで、気が狂ってしまいそうで。

「もう、やぁっ……こわ、いっ」
「可愛い、リオ。大丈夫、大丈夫だよ」

 縛られたままの両手を、男に縋るように伸ばす。
 男は宥めるようにその手を取ると、優しく口付ける。
 けれど、決して腰の動きは止めてくれない。
 啄むような口付けは、腕から肩、鎖骨と辿るように移動していき、胸の突起までいくとそれに吸い付く。

「やっ……あ、あぁっ、ああんっ……もう、やめて、くだっ、んあっ」
「リオは本当、男を煽るのが上手いね。どこで覚えたんだか」
「ち、ちがっ。やめっ! あぁっ!」

 舌先で俺の乳首を転がし潰すように弄びながら、男が笑う。
 煽るだなんて、そんなことしてない。
 やめてくれと懇願しているのに、暴れて抵抗しているのに、何で興奮しているんだ。
 俺をこんな風にした誰かがいると思ったのか、いきなり乳首を思い切り齧られ引っ張られる。

「痛っ!」

 男が口を離す。
 ジンジンと痛む乳首は、ぷっくりと腫れて存在を主張するかのように尖っていた。男の唾液で濡れてテラテラと光を反射している光景に、羞恥心がかき立てられる。
 不機嫌そうな顔のまま、もう片方の乳首を思い切り抓り上げられる。

「嫌だって言っている割には、どこもかしこも気持ちよさそうだよ?」
「ちが、違うっ。知らなっ、こんな、こと、んっ、誰とも……」

 自慢じゃないが女性とだって縁がなかったくらいだ。
 痛みから逃れたくて体を捩りながら必死で否定する。
 剣呑だった男の表情が和らいだ。

「誰とも? 本当に? 俺が初めて? 嬉しい、リオ」
「あっ! んんっ……あっ、あぁ、ん」

 男は再び突起に吸い付くと、ちゅくちゅくと音を立てて舌で転がす。
 吸い付かれ、舌先でつつくように押され、だんだんと快感ばかりを拾う性感帯と化していく。
 胸でこんなに感じてしまうなんて、知りたくなかった。

「も、やらぁ……アッ、あぁっ……ん、はぁ……あっ」

 男に指摘された通り、俺の体ははしたなく乱れまくっている。
 奥を突かれる度に、胸を刺激される度に、男性器を触られていないのに先走りがトロトロと溢れてきている。
 既に何度もイかされてしまっているのに、終わらない快楽にまたすぐに高まって。
 腰が動いてしまうのは、快楽から逃れるためなのかイきたいからなのか、もう自分でもわからない。

「あっ……もっ、ゆるしてぇ」
「だめ」

 クスクスと笑いながら、俺の根元を握る。
 直接的な刺激は今の俺には強すぎて。

「んああっ!」
「リオが悪いんだよ? 俺の用意した食事をちゃんと食べないから」

 毎日献立考えるの大変なんだからね、と男が拗ねたような口調で言う。
 その間も胸を弄る手と奥を突く腰は止まってくれず。
 堰き止められた欲望が出口を求めて暴れまわり、俺の理性を削っていく。

「おねがっ、もっ」
「イきたい?」

 男が俺の耳を舐りながら囁く。
 どうして欲しいのかなど自分でもわからない。うわごとのように口から懇願の言葉が出ていた。
 とにかくこの責め苦のような快楽から解放されたかった。
 俺は男の胸に顔をすり寄せ、何度も頷いた。

「そうだね、3つ、約束してくれるならイかせてあげるよ」
「あっ、んんっ」
「1つ、二人きりの時は真って呼んで。2つ、俺の用意した食事をちゃんと食べて。3つ、俺以外の男にリオの可愛いとこ見せないで」

 男の出してきた条件の意味がわからない。
 思考の回らない頭で何を求められているのか考えてしまう。
 男は俺が即答しなかったのが気にくわなかったようで、ギリ、と俺の陰茎を握る手に力を籠めた。

「んあぁああっ!」
「返事は? 約束、してくれるよね?」
「んっ、するっ! する、からっ……あっ、はな、し、てぇっ」
「なら、俺の名前を呼んで、リオ」

 何で、そんなに俺が名前を呼ぶことにこだわるのかわからない。
 でも、俺はもうこの行為を終わりにして欲しくて。

「あっ、し、シン、シンッ」
「良い子だ、リオ」
「シン、あっ、あああああっ!」

 俺は必死に男の名を呼ぶ。
 真は満足気に俺の額に啄むようなキスをすると、俺を堰き止めていた手を離した。
 ようやく解放された欲望は弾けるように飛び、俺と真の腹を汚す。
 ほぼ同時に、真もまた俺の中に欲望を吐き出したのを感じたところで、俺は意識を手放した。
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