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第十章 俺様、暗黒破壊神と対峙する
4、暗黒破壊神
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「嬉しいよ、来てくれたんだね。……さあ、共に女神を倒そうじゃないか」
『……貴様、今、何をした……』
嬉しそうに微笑むアミールに、怒りが抑えられない。
敵意を一切見せないその顔面に天罰のビームを浴びせてやりたい。
「うん? 何のことかな?」
『とぼけるな……っ!』
アミールが現れた瞬間、鍾乳洞に残っていた清浄な空気が霧散した。
まるで、香水の瓶を叩き割ったみたいに。
レガメメンバーが隙だらけに見えるアミールに襲い掛かる。
しかし、先ほどと同じようにドナートの矢は闇に呑まれ、アルベルト、バルトヴィーノの剣、そしてチェーザーレの盾突進は闇に弾かれた。
「まったく……人が話している時に襲い掛かるなんて、野蛮にもほどがあるよ?」
「く、無傷かよ……」
体勢を崩されたアルベルトが呻く。
アミールは少し不愉快そうに顔をしかめると、パチン、と指を鳴らす。
途端にレガメメンバーを閉じ込めるように闇が檻の形を成した。
『貴様……! 天罰!』
もう我慢ならん。
余裕ぶった顔に向けてビームを放つ。
しかし、これも事もなげにじわりと湧いた闇に呑まれてしまった。
「もう、さっきから何を怒っているのさ?」
『貴様、ここがどういう場所かわかっていてわざとやっているな?』
もはや、清浄な空気など欠片もない。
重苦しい闇が澱みとなり、今にもモンスターが生み出されそうだ。
「あぁ、忌々しい聖域が作られていたね……。力を使うのに邪魔だったから壊させてもらったけど」
『貴様!!!』
それがどうしたの、と言わんばかりのアミール。
ここは、先代聖竜が……俺の母親が自分の体を核に結界を張った場所だ。
命と引き換えにして、俺やルシアちゃんを守るために作った聖域だ。
俺とルシアちゃんが、どんな想いで先代を葬送ったと……!
それを、よりにもよって「邪魔」だと!?
『貴様だけは、絶対に許さん!!』
「……やれやれ……どうやら、共闘するのは無理みたいだね」
かつてないほどの怒りに、全身が熱くなる。
両翼の翼脈すべての先に熱が集まると、幾筋もの光が一斉にアミールへと向かう。
アミールがドロドロとした闇を自分の前面に集め盾を作るが、構わずに放つ。
『天罰!!!』
怒りに任せ放った光線は、方々から曲線を描きアミールに襲い掛かった。
ジュッ、と蒸発する時のような音が響く。
アミールを守っていた闇が薄い靄になり霧散していく。
「その程度の怒りで私を屠れるとでも? 甘く見られたものだね」
『何?!』
確かな手応えを感じた。
しかし、息をつく間もなく真後ろから倒したはずのアミールの声が届く。
ぞくり。
「もっと……もっとだ。憎め。怒れ。心を黒く染めろ」
『き、貴様……! 放せ……!』
「リージェ様!」
背筋が粟立つ。巨大な闇色の手が俺の頭を掴む。
掴む力は緩まないまま、滲み出した闇がベールのように伸びてくる。
ルシアちゃんの叫び声。あぁ、早くこいつを何とかしないと。
「まだ足りないか。ならば、お前が大切にしているあの娘を壊して見せようか」
『な、や、やめろ……!』
俺の体を覆い視界を奪った闇がアミールの声を増幅して囁く。
怒れ。憎め。犯せ。壊せ。
闇を引き剥がそうとしていた手足も闇に呑まれ、虚空をもがく。
「リー、ジェ、さ……」
ふいに視界の一部から闇が離れる。
俺に向かって手を伸ばすルシアちゃんから、一瞬にして無数の棘が生えた。
俺を呼ぶ小さな唇から溢れる赤い液体。
それは見る見るうちにルシアちゃんの服を染め上げ、地面へ滴り落ちる。
『ルシ、ア……?』
力なく棘に吊るされる姿はまるで磔刑のようで。
呼びかけても反応はなく。
先ほどまでその肉体を覆っていた清らかな空気までもが闇に汚されていく。
だというのに、俺はルシアちゃんに駆け寄ることもできない。
『そんな……嘘だ。反転せよ! 反転せよ! ルシア! 目を覚ませ!!』
必死で回復魔法をルシアちゃんに向けて放つ。
闇はそれを妨害する素振りも見せず、確かにルシアちゃんの体に俺の力は届く。
けれど、何も起こらない。ルシアちゃんは棘に貫かれたままピクリともしない。
それが示すことは……。
『そんな……何故だ……ルシア、ルシア!』
「ふふ、どうだい、何もできず大切なものを目の前で壊される気分は」
『貴様ぁあああ!! 許さん! 殺す! 貴様だけは……!』
悲しいなんて言葉では全然足りない。身を引き裂かれたように心が痛い。
目の前で涼やかに笑う男が憎くて仕方ない。
怒りで、悲しみで、憎しみで、悔しさで、心と体がバラバラになりそうだ。
『――条件を満たしました。称号《黒の使徒(仮)》が《黒の使徒》になりました――』
「いいぞ。もっとだ。憎しみを燃やしてすべてを破壊する力にしろ」
『黙れ!』
アミールが何か言っている。
それが何か認識できないほど、頭の中でドロドロとした感情が幾重にも囁く。
殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。
『死ね――――!!』
身体の中の激情をすべて、目の前の男に叩きつけるべく開放する。
翼の爪の先端から出てきたのは、威力MAXの天罰の数倍に膨れ上がった黒いビーム。
すべてを出し切ったからか、怒りや破壊衝動は快感に塗り替えられていく。
『――ふ、ふふ、ふはははははっ!!』
あれ? 俺、何でこんなに怒ってたんだっけ?
気付けば俺の体は水面に墨を落としたようなマーブル模様になっていた。
けど、そんなことはもうどうでもいい。
今はただ、力を揮うのが楽しい。
目の前の物が跡形もなく消え去るのが気持ちいい。
もっと、もっと壊したい――。
『……貴様、今、何をした……』
嬉しそうに微笑むアミールに、怒りが抑えられない。
敵意を一切見せないその顔面に天罰のビームを浴びせてやりたい。
「うん? 何のことかな?」
『とぼけるな……っ!』
アミールが現れた瞬間、鍾乳洞に残っていた清浄な空気が霧散した。
まるで、香水の瓶を叩き割ったみたいに。
レガメメンバーが隙だらけに見えるアミールに襲い掛かる。
しかし、先ほどと同じようにドナートの矢は闇に呑まれ、アルベルト、バルトヴィーノの剣、そしてチェーザーレの盾突進は闇に弾かれた。
「まったく……人が話している時に襲い掛かるなんて、野蛮にもほどがあるよ?」
「く、無傷かよ……」
体勢を崩されたアルベルトが呻く。
アミールは少し不愉快そうに顔をしかめると、パチン、と指を鳴らす。
途端にレガメメンバーを閉じ込めるように闇が檻の形を成した。
『貴様……! 天罰!』
もう我慢ならん。
余裕ぶった顔に向けてビームを放つ。
しかし、これも事もなげにじわりと湧いた闇に呑まれてしまった。
「もう、さっきから何を怒っているのさ?」
『貴様、ここがどういう場所かわかっていてわざとやっているな?』
もはや、清浄な空気など欠片もない。
重苦しい闇が澱みとなり、今にもモンスターが生み出されそうだ。
「あぁ、忌々しい聖域が作られていたね……。力を使うのに邪魔だったから壊させてもらったけど」
『貴様!!!』
それがどうしたの、と言わんばかりのアミール。
ここは、先代聖竜が……俺の母親が自分の体を核に結界を張った場所だ。
命と引き換えにして、俺やルシアちゃんを守るために作った聖域だ。
俺とルシアちゃんが、どんな想いで先代を葬送ったと……!
それを、よりにもよって「邪魔」だと!?
『貴様だけは、絶対に許さん!!』
「……やれやれ……どうやら、共闘するのは無理みたいだね」
かつてないほどの怒りに、全身が熱くなる。
両翼の翼脈すべての先に熱が集まると、幾筋もの光が一斉にアミールへと向かう。
アミールがドロドロとした闇を自分の前面に集め盾を作るが、構わずに放つ。
『天罰!!!』
怒りに任せ放った光線は、方々から曲線を描きアミールに襲い掛かった。
ジュッ、と蒸発する時のような音が響く。
アミールを守っていた闇が薄い靄になり霧散していく。
「その程度の怒りで私を屠れるとでも? 甘く見られたものだね」
『何?!』
確かな手応えを感じた。
しかし、息をつく間もなく真後ろから倒したはずのアミールの声が届く。
ぞくり。
「もっと……もっとだ。憎め。怒れ。心を黒く染めろ」
『き、貴様……! 放せ……!』
「リージェ様!」
背筋が粟立つ。巨大な闇色の手が俺の頭を掴む。
掴む力は緩まないまま、滲み出した闇がベールのように伸びてくる。
ルシアちゃんの叫び声。あぁ、早くこいつを何とかしないと。
「まだ足りないか。ならば、お前が大切にしているあの娘を壊して見せようか」
『な、や、やめろ……!』
俺の体を覆い視界を奪った闇がアミールの声を増幅して囁く。
怒れ。憎め。犯せ。壊せ。
闇を引き剥がそうとしていた手足も闇に呑まれ、虚空をもがく。
「リー、ジェ、さ……」
ふいに視界の一部から闇が離れる。
俺に向かって手を伸ばすルシアちゃんから、一瞬にして無数の棘が生えた。
俺を呼ぶ小さな唇から溢れる赤い液体。
それは見る見るうちにルシアちゃんの服を染め上げ、地面へ滴り落ちる。
『ルシ、ア……?』
力なく棘に吊るされる姿はまるで磔刑のようで。
呼びかけても反応はなく。
先ほどまでその肉体を覆っていた清らかな空気までもが闇に汚されていく。
だというのに、俺はルシアちゃんに駆け寄ることもできない。
『そんな……嘘だ。反転せよ! 反転せよ! ルシア! 目を覚ませ!!』
必死で回復魔法をルシアちゃんに向けて放つ。
闇はそれを妨害する素振りも見せず、確かにルシアちゃんの体に俺の力は届く。
けれど、何も起こらない。ルシアちゃんは棘に貫かれたままピクリともしない。
それが示すことは……。
『そんな……何故だ……ルシア、ルシア!』
「ふふ、どうだい、何もできず大切なものを目の前で壊される気分は」
『貴様ぁあああ!! 許さん! 殺す! 貴様だけは……!』
悲しいなんて言葉では全然足りない。身を引き裂かれたように心が痛い。
目の前で涼やかに笑う男が憎くて仕方ない。
怒りで、悲しみで、憎しみで、悔しさで、心と体がバラバラになりそうだ。
『――条件を満たしました。称号《黒の使徒(仮)》が《黒の使徒》になりました――』
「いいぞ。もっとだ。憎しみを燃やしてすべてを破壊する力にしろ」
『黙れ!』
アミールが何か言っている。
それが何か認識できないほど、頭の中でドロドロとした感情が幾重にも囁く。
殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。
『死ね――――!!』
身体の中の激情をすべて、目の前の男に叩きつけるべく開放する。
翼の爪の先端から出てきたのは、威力MAXの天罰の数倍に膨れ上がった黒いビーム。
すべてを出し切ったからか、怒りや破壊衝動は快感に塗り替えられていく。
『――ふ、ふふ、ふはははははっ!!』
あれ? 俺、何でこんなに怒ってたんだっけ?
気付けば俺の体は水面に墨を落としたようなマーブル模様になっていた。
けど、そんなことはもうどうでもいい。
今はただ、力を揮うのが楽しい。
目の前の物が跡形もなく消え去るのが気持ちいい。
もっと、もっと壊したい――。
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