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第九章 俺様、ダンジョンに潜る
2、え? それだけ?
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「それで、お前何で急にそんな大きくなってんの?」
1号の言葉に、他のメンバーも聞きたかったのか手を止めて俺を凝視してくる。
何で、って聞かれてもなぁ。
『知らん……が、恐らくは力を欲したからだろうな』
ルシアちゃんを守るために、とは恥ずかしいから言わない。
前にも「もっと強くなりたい」と願ったら強力なスキルを使えるようになった、とだけ話す。
「ふぅん、不思議なこともあるもんだなぁ」
え? それだけ? 不思議なことで片付けちゃうの?
アルベルト達までうんうん、と頷いている。え? 皆それで納得しちゃうの?
「いや、だってドラゴンの生態になど詳しくないし」
「私も、リージェ様以外のドラゴンは成体……先代の聖竜様しか存じ上げませんし」
なるほど。まぁ、モンスター扱いしてくる奴もいたくらいだし、そんなものなのかもしれないな。
セントゥロの王城にあった本を斜め読みしてみたけど、ドラゴンを始め、モンスターの生態について書かれた本なんかなかったしな。
「……あの、さ。俺、今夜日本に帰るよ」
俺が急に成長した件についての話がひと段落すると、本田が頬を指で掻きながら切り出した。
どうした本田!? お前そんなキャラじゃないだろ! あんなに帰るの拒否してたのに。マジで何があったの?
「小島と約束したんだ。すぐに帰るって。あいつ今頃心配しているだろうから」
『そうか……ところで昨晩、そちらでは何があった?』
小島が心配しているから帰るだなんて、いつの間にそんな仲になったんだと内心ドギマギしながら、俺が蛇竜と外で戦っている間のことを尋ねた。
最初は嬉々として襲い掛かってきた吉野と深山、それを傍観する南海と仲裁しようとする天笠。襲ってきたのが勇者ということもあり、最初はアルベルト達も防戦一方だったらしい。
小島を日本に送り返すやり取りを見た4人が戦意喪失し、日本に帰れることについて詳しく話をしようと思った途端に声がしたのだと。それで様子が急変し、モンスター化した4人によって圧倒されたのだと。
「自分の腕が千切れる速度で殴ってくるんだ。ダメージを顧みないほどの動きがどれだけの威力になるか、あの夜の俺達の怪我でわかるだろ?」
「声をかけても反応しないし、まるでゾンビ映画だ」
宮本もこれまでの自信を無くしたかのような暗い声で語る。
クラスメイトが目の前で異形となり襲ってくるというのは、モンスターと戦い慣れたはずの彼らに少なからぬショックを与えたようだ。
「お前達も日本に帰れ」
1号がもう何度目かわからないほどのセリフを谷岡達に投げる。
驚いたような、戸惑うような顔で1号を見た二人は、これまでと違い力なく首を横に振った。
「今帰るのは、怖じ気づいて逃げるみたいで嫌だ」
いつもなら食い気味に嫌だというのに、今はかなり気持ちが揺らいでいるようだ。
1号はここが説得時とでも思ったのか畳みかける。
「逃げろって言ってるんじゃない。お前達は強い。友人が襲ってきても、反撃しなかった」
「できなかっただけだ」
「そうかな? 日本に帰れるって知る前のお前達なら、敵対した奴は容赦なく倒してただろ? そうできるだけの実力もあった」
「……そうかもしれないけど」
本庄を殺そうと企んでいた頃の自分達の態度を指摘され、谷岡と宮本が拗ねたような表情をする。
「お前達が逃げるんじゃない。俺がお前達を戦わせることから逃げているんだ。これ以上、生徒が危険な目に遭うのは耐えられない。頼むから、俺を安心させてくれよ。な?」
1号の言葉に、二人はしばらく何か考えた後、帰ることを了承した。
おそらく二人が守っていた幼女の「お兄ちゃん、助けてくれてありがとう」の一言が効いたんだろう。妹を思い出したとか何とか言っていたからな。
とにかく。谷岡が明日、宮本が明後日帰ることで話はまとまった。本庄は明々後日である。
「すぐに暗黒破壊神を追いかけるんだろう? 僕も明々後日までは同行するよ」
『危険だぞ?』
「今更だろ?」
うん、帰れる日が近いからか良い笑顔だ。
と、なると明々後日までに荷物を運搬する術を確保しないとな。
幸い馬はエヴァを筆頭に体格の良いのが4頭生き延びている。他は残念ながら俺と蛇竜の戦いに巻き込まれたのだろう、息絶えていた。もちろん後で美味しくいただくつもりだ。
『問題は、どの方向に進むかだな』
谷岡と宮本は帰るギリギリまでここの復興の手伝いをしたり、狩りを教えたりと幼女達の面倒を見たいらしい。ここに着いたときからここに残ると言っていたしな。粋がった不良の正体がロリコンとシスコンだなんて、知りたくなかったことを思い出しちまったぜ。
モンスター襲撃に備えて地下に避難部屋を作るから、ここの防衛のことは気にしなくていいと1号が言ってくれたのですぐにでも出発できる。
「ん? 暗黒破壊神の行き先ならわかるぞ?」
『「「え?」」』
あっけらかんと放った1号の言葉に一同唖然。
こいつ今なんて言った? 暗黒破壊神の行き先がわかる、だと?
「暗黒破壊神……ってもここに来たのは本体じゃなかったみたいだが、あいつが靄になってすぐ索敵を使った。消えたように見せて地面の中、たぶんモグラか何かかな? とにかく地中をあっちの方角に一直線に進んでいった」
『「「!」」』
そうか、索敵か! すっかり忘れてた!
むしろ何でお前索敵使わなかったの? と1号に言われてしまった。なんとなく腹が立ったのでデコピンしたら、屋外だったからか流れ星のように飛んで行ってしまった。さらば1号。
まぁ、あとでピンピンして戻ってくんだろ。現に地面からひょっこり生えてきたきのこが何しやがる、とキーキー言ってるし。
「あの方角は……」
「嘘だろ……?」
俺ときのこのじゃれ合う横で、ルシアちゃんやアルベルト達が愕然としていた。
1号の言葉に、他のメンバーも聞きたかったのか手を止めて俺を凝視してくる。
何で、って聞かれてもなぁ。
『知らん……が、恐らくは力を欲したからだろうな』
ルシアちゃんを守るために、とは恥ずかしいから言わない。
前にも「もっと強くなりたい」と願ったら強力なスキルを使えるようになった、とだけ話す。
「ふぅん、不思議なこともあるもんだなぁ」
え? それだけ? 不思議なことで片付けちゃうの?
アルベルト達までうんうん、と頷いている。え? 皆それで納得しちゃうの?
「いや、だってドラゴンの生態になど詳しくないし」
「私も、リージェ様以外のドラゴンは成体……先代の聖竜様しか存じ上げませんし」
なるほど。まぁ、モンスター扱いしてくる奴もいたくらいだし、そんなものなのかもしれないな。
セントゥロの王城にあった本を斜め読みしてみたけど、ドラゴンを始め、モンスターの生態について書かれた本なんかなかったしな。
「……あの、さ。俺、今夜日本に帰るよ」
俺が急に成長した件についての話がひと段落すると、本田が頬を指で掻きながら切り出した。
どうした本田!? お前そんなキャラじゃないだろ! あんなに帰るの拒否してたのに。マジで何があったの?
「小島と約束したんだ。すぐに帰るって。あいつ今頃心配しているだろうから」
『そうか……ところで昨晩、そちらでは何があった?』
小島が心配しているから帰るだなんて、いつの間にそんな仲になったんだと内心ドギマギしながら、俺が蛇竜と外で戦っている間のことを尋ねた。
最初は嬉々として襲い掛かってきた吉野と深山、それを傍観する南海と仲裁しようとする天笠。襲ってきたのが勇者ということもあり、最初はアルベルト達も防戦一方だったらしい。
小島を日本に送り返すやり取りを見た4人が戦意喪失し、日本に帰れることについて詳しく話をしようと思った途端に声がしたのだと。それで様子が急変し、モンスター化した4人によって圧倒されたのだと。
「自分の腕が千切れる速度で殴ってくるんだ。ダメージを顧みないほどの動きがどれだけの威力になるか、あの夜の俺達の怪我でわかるだろ?」
「声をかけても反応しないし、まるでゾンビ映画だ」
宮本もこれまでの自信を無くしたかのような暗い声で語る。
クラスメイトが目の前で異形となり襲ってくるというのは、モンスターと戦い慣れたはずの彼らに少なからぬショックを与えたようだ。
「お前達も日本に帰れ」
1号がもう何度目かわからないほどのセリフを谷岡達に投げる。
驚いたような、戸惑うような顔で1号を見た二人は、これまでと違い力なく首を横に振った。
「今帰るのは、怖じ気づいて逃げるみたいで嫌だ」
いつもなら食い気味に嫌だというのに、今はかなり気持ちが揺らいでいるようだ。
1号はここが説得時とでも思ったのか畳みかける。
「逃げろって言ってるんじゃない。お前達は強い。友人が襲ってきても、反撃しなかった」
「できなかっただけだ」
「そうかな? 日本に帰れるって知る前のお前達なら、敵対した奴は容赦なく倒してただろ? そうできるだけの実力もあった」
「……そうかもしれないけど」
本庄を殺そうと企んでいた頃の自分達の態度を指摘され、谷岡と宮本が拗ねたような表情をする。
「お前達が逃げるんじゃない。俺がお前達を戦わせることから逃げているんだ。これ以上、生徒が危険な目に遭うのは耐えられない。頼むから、俺を安心させてくれよ。な?」
1号の言葉に、二人はしばらく何か考えた後、帰ることを了承した。
おそらく二人が守っていた幼女の「お兄ちゃん、助けてくれてありがとう」の一言が効いたんだろう。妹を思い出したとか何とか言っていたからな。
とにかく。谷岡が明日、宮本が明後日帰ることで話はまとまった。本庄は明々後日である。
「すぐに暗黒破壊神を追いかけるんだろう? 僕も明々後日までは同行するよ」
『危険だぞ?』
「今更だろ?」
うん、帰れる日が近いからか良い笑顔だ。
と、なると明々後日までに荷物を運搬する術を確保しないとな。
幸い馬はエヴァを筆頭に体格の良いのが4頭生き延びている。他は残念ながら俺と蛇竜の戦いに巻き込まれたのだろう、息絶えていた。もちろん後で美味しくいただくつもりだ。
『問題は、どの方向に進むかだな』
谷岡と宮本は帰るギリギリまでここの復興の手伝いをしたり、狩りを教えたりと幼女達の面倒を見たいらしい。ここに着いたときからここに残ると言っていたしな。粋がった不良の正体がロリコンとシスコンだなんて、知りたくなかったことを思い出しちまったぜ。
モンスター襲撃に備えて地下に避難部屋を作るから、ここの防衛のことは気にしなくていいと1号が言ってくれたのですぐにでも出発できる。
「ん? 暗黒破壊神の行き先ならわかるぞ?」
『「「え?」」』
あっけらかんと放った1号の言葉に一同唖然。
こいつ今なんて言った? 暗黒破壊神の行き先がわかる、だと?
「暗黒破壊神……ってもここに来たのは本体じゃなかったみたいだが、あいつが靄になってすぐ索敵を使った。消えたように見せて地面の中、たぶんモグラか何かかな? とにかく地中をあっちの方角に一直線に進んでいった」
『「「!」」』
そうか、索敵か! すっかり忘れてた!
むしろ何でお前索敵使わなかったの? と1号に言われてしまった。なんとなく腹が立ったのでデコピンしたら、屋外だったからか流れ星のように飛んで行ってしまった。さらば1号。
まぁ、あとでピンピンして戻ってくんだろ。現に地面からひょっこり生えてきたきのこが何しやがる、とキーキー言ってるし。
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