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第八章 俺様、勇者と対立する
7、交渉成立だ
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せっかく行動不能にした谷岡達を解放しろ、と言う増田。その要望については1号も知らなかったようで慌てたように両手をバタバタと動かしていた。ちょっとキモい動きだ。
『どういうことだ?』
増田の要望に返答する前に問いかける。
外の足跡をこれ以上踏み荒らされないために外で待機しているオーリエンの勇者達ではなく、内側にいたアスーの勇者達の中から選ぶ必要があった。1号が増田を解放してここに連れてきたのは、増田が一番信用できると判断したからだろう。
当の増田はどちらかというとオドオドとした内向的な、前世の俺と同類の匂いがする奴で、目上の奴に意見を言えるようなタイプではない。だというのに、アスーの勇者達を解放しろと言ってきたのだ。その眼には何か強い決意のようなものが込められていた。
「あなたが許可すれば、他の人達は反対しないでしょう? お願いします」
「何でだ? お前、谷岡達とそんな仲良かったか?」
1号も不思議に思ったようで、理由を増田に尋ねたが「理由は言えない」との一点張りだった。
洗脳されている……わけではないか。何か弱みを握られている? それならば向こうが手も足も出ない今の状況の方が増田にとっても都合がいいはず。
「解放するのがダメだというのならば、せめて、先生が彼らを処理する時は私にやらせてください」
「えっ?!」
『処理をやらせろだと?』
何言っているんだこいつ。と増田を見れば、顔半分を隠す長い前髪の隙間から覗く瞳がギラギラと凄みを湛えていた。
怖っ! 怖いよこの子! 今にも噛みつこうとしている野生のライオンと対峙したかのような恐怖を感じる。ルシアちゃんの怒った時が般若だとすれば、こっちは手負いの獣だ。
もしかして、こいつさっきの台詞を物騒なことと勘違いしている? 仲間を助けたいのじゃなく、仕返ししたい的な。
1号も、今ここで増田に事情を説明すると声が反響して奴らに聞こえるからだろう。どうしたら良いかわからないといった様子でオロオロと俺と増田を交互に見ている。
「お願いします! もし聞いていただけないというのであれば、手伝いません」
「ま、待て! わかった。わかったから。良いよな、リージェ?」
クル、と向きを変えて居住区に戻ろうとするする増田を大慌てで1号が引き留める。
うーん、確かに人手は欲しいが……大丈夫か? 谷岡達の暴走もそうだけど、増田の暴走も心配だ。うーん……まぁ、谷岡達は何かしてくるようなら叩きのめすとして、増田は1号に責任持って手綱を握ってもらおう。よし。
『条件がある。1号が良しと言うまで奴らに手出しはしないこと。貴様はあくまでも1号の手足だ。それを守れるか?』
「本庄君を殺そうとした連中の処理を私にやらせてくれると言うのなら」
お? こいつもしかして本庄のこと……。
むふふ、ならばいざとなったら本庄の言うことも聞くか。ならばその条件、呑もうじゃないか!
『良かろう。交渉成立だ』
「ありがとうございます!」
増田とのやり取りが聞こえていたようで、裏切者と叫ぶ声が反響する。しかし、増田はその怨嗟の声すら復讐の内とすら言っているような獰猛な笑みで受け止める。やっぱり怖いこの子。
それからドナートが戻ってくるまでの間、黙々と一人で倉庫の中にあった品々を全て運び出したのだった。
「お疲れー」
「あ、本当に運び出してくれたんですね。えっと?」
「増田和……こちら風に言うならニコ・マスダです。今まで態度が悪くてすみませんでした。これからはたくさんお手伝いしますので、どうぞよろしくお願い致します」
1号と戻ってきたドナートから労いの言葉をかけられ、増田が口の端を持ち上げる。照れ笑いか愛想笑いか、はたまたそれ以外の笑みなのかは長すぎる前髪のせいで表情が隠れていてわからない。
ニコって名前ならもっとニコってしなよ! 怖いよ! さっきから笑みがニヤリって不気味なんだよ!
ドナートが少し表情引きつってる感じがするから、やっぱりドナートも不気味なんだろう。
『それで? 何かわかったか?』
気を取り直して本題に入る。
ドナートも表情を切り替えて、真剣な表情で俺の方に向き直ると頷いて見せた。
「中から外へ向かっている足跡で恐らく一番新しいものは、この方角に向かっている」
『ノルドの方角だな』
ドナートが指し示したのは森の中をノルドまで一直線に結ぶ方角だった。
ドナートの補足説明に合わせて視線を動かすと、確かにその方角へ草が踏み倒されて獣道ができている。
ドナートが更にノルドへ向かったと判断した根拠を続けて述べる。
「他の足跡に潰されていないものが一番新しいと判断する。そうすると、ノルドだけでなくアスーやオーリエンに向かうものもあるにはある。けれど、その中で一番大人数……大きさや歩幅、角度などの歩き方の癖が違う足跡がたくさんあるのはノルドに向かっている」
「大人数で移動する何かがノルドにあるってことか」
『大勢同じ方向に移動したというならば、何か差し迫った状況でここを放棄したわけではなさそうだな』
ならば、増田に運び出させたこれらは敢えて置いて行ったということか。
持ち出す前に鑑定して罠がないか確認したほうが良さそうだ。
『どういうことだ?』
増田の要望に返答する前に問いかける。
外の足跡をこれ以上踏み荒らされないために外で待機しているオーリエンの勇者達ではなく、内側にいたアスーの勇者達の中から選ぶ必要があった。1号が増田を解放してここに連れてきたのは、増田が一番信用できると判断したからだろう。
当の増田はどちらかというとオドオドとした内向的な、前世の俺と同類の匂いがする奴で、目上の奴に意見を言えるようなタイプではない。だというのに、アスーの勇者達を解放しろと言ってきたのだ。その眼には何か強い決意のようなものが込められていた。
「あなたが許可すれば、他の人達は反対しないでしょう? お願いします」
「何でだ? お前、谷岡達とそんな仲良かったか?」
1号も不思議に思ったようで、理由を増田に尋ねたが「理由は言えない」との一点張りだった。
洗脳されている……わけではないか。何か弱みを握られている? それならば向こうが手も足も出ない今の状況の方が増田にとっても都合がいいはず。
「解放するのがダメだというのならば、せめて、先生が彼らを処理する時は私にやらせてください」
「えっ?!」
『処理をやらせろだと?』
何言っているんだこいつ。と増田を見れば、顔半分を隠す長い前髪の隙間から覗く瞳がギラギラと凄みを湛えていた。
怖っ! 怖いよこの子! 今にも噛みつこうとしている野生のライオンと対峙したかのような恐怖を感じる。ルシアちゃんの怒った時が般若だとすれば、こっちは手負いの獣だ。
もしかして、こいつさっきの台詞を物騒なことと勘違いしている? 仲間を助けたいのじゃなく、仕返ししたい的な。
1号も、今ここで増田に事情を説明すると声が反響して奴らに聞こえるからだろう。どうしたら良いかわからないといった様子でオロオロと俺と増田を交互に見ている。
「お願いします! もし聞いていただけないというのであれば、手伝いません」
「ま、待て! わかった。わかったから。良いよな、リージェ?」
クル、と向きを変えて居住区に戻ろうとするする増田を大慌てで1号が引き留める。
うーん、確かに人手は欲しいが……大丈夫か? 谷岡達の暴走もそうだけど、増田の暴走も心配だ。うーん……まぁ、谷岡達は何かしてくるようなら叩きのめすとして、増田は1号に責任持って手綱を握ってもらおう。よし。
『条件がある。1号が良しと言うまで奴らに手出しはしないこと。貴様はあくまでも1号の手足だ。それを守れるか?』
「本庄君を殺そうとした連中の処理を私にやらせてくれると言うのなら」
お? こいつもしかして本庄のこと……。
むふふ、ならばいざとなったら本庄の言うことも聞くか。ならばその条件、呑もうじゃないか!
『良かろう。交渉成立だ』
「ありがとうございます!」
増田とのやり取りが聞こえていたようで、裏切者と叫ぶ声が反響する。しかし、増田はその怨嗟の声すら復讐の内とすら言っているような獰猛な笑みで受け止める。やっぱり怖いこの子。
それからドナートが戻ってくるまでの間、黙々と一人で倉庫の中にあった品々を全て運び出したのだった。
「お疲れー」
「あ、本当に運び出してくれたんですね。えっと?」
「増田和……こちら風に言うならニコ・マスダです。今まで態度が悪くてすみませんでした。これからはたくさんお手伝いしますので、どうぞよろしくお願い致します」
1号と戻ってきたドナートから労いの言葉をかけられ、増田が口の端を持ち上げる。照れ笑いか愛想笑いか、はたまたそれ以外の笑みなのかは長すぎる前髪のせいで表情が隠れていてわからない。
ニコって名前ならもっとニコってしなよ! 怖いよ! さっきから笑みがニヤリって不気味なんだよ!
ドナートが少し表情引きつってる感じがするから、やっぱりドナートも不気味なんだろう。
『それで? 何かわかったか?』
気を取り直して本題に入る。
ドナートも表情を切り替えて、真剣な表情で俺の方に向き直ると頷いて見せた。
「中から外へ向かっている足跡で恐らく一番新しいものは、この方角に向かっている」
『ノルドの方角だな』
ドナートが指し示したのは森の中をノルドまで一直線に結ぶ方角だった。
ドナートの補足説明に合わせて視線を動かすと、確かにその方角へ草が踏み倒されて獣道ができている。
ドナートが更にノルドへ向かったと判断した根拠を続けて述べる。
「他の足跡に潰されていないものが一番新しいと判断する。そうすると、ノルドだけでなくアスーやオーリエンに向かうものもあるにはある。けれど、その中で一番大人数……大きさや歩幅、角度などの歩き方の癖が違う足跡がたくさんあるのはノルドに向かっている」
「大人数で移動する何かがノルドにあるってことか」
『大勢同じ方向に移動したというならば、何か差し迫った状況でここを放棄したわけではなさそうだな』
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