中二病ドラゴンさんは暗黒破壊神になりたい

禎祥

文字の大きさ
上 下
146 / 228
第七章 俺様、南方へ行く

17、これが本当の飯テロだな

しおりを挟む
 翌日、再度ユーザに巨熊は毒素が強すぎるから決して食べないようにと念を押して町を出た。何故町長ではなくユーザかって? あんなプルプルしたボ……げふん、残念な頭脳の町長に言ったところで数秒後には忘れそうだからさ。それでも若干心配だったから門衛にも言っておいた。あとはもう知らない。

「それにしても、本当に驚きました。まさかカナメ様がいらっしゃっているばかりか、冒険者ギルドにご登録までされているんですもの」
「全くだ。こちらに来ていたなら合流してくれれば良かったのに」

 今朝宿でカナメさんが皆に声をかけた時、ルシアちゃんを始めアルベルト達は皆一様に驚き、チェーザーレの喜び様が凄まじかった。そんなにカナメさんの手料理が食いたかったのか。片時も離れようとせず、御者もドナートに代われと言い張る始末。キャラ崩壊してるおっさんを勇者達があんぐりと口を開けて見ていた。
 中にはカナメさんを知っている奴もいて、何でいるんだと不思議がっていたが、そこは自分たちを日本に帰せる能力の者の仕業だと説明してやった。帰れると改めて実感して泣き出す女子もいてちょっとした騒ぎだったな。
 そんなこんなで賑やかな出発になったのだった。


 カナメさんは困ったように眉根を寄せて苦笑いで、合流できる状況ではなかったと1号から聞いていたと答えた。

「それに、ルシアさんの父君……オットリーノ陛下に呼ばれたんだ。身分証を作っていただいたのも陛下のご厚意で」

 カナメさんが週末にしかこちらにいられないことを7号から聞いたおっとり国王が招集し、身分証を作りたまたま道中一緒になったということにすれば合流もしやすいだろうと手配してくれたそうだ。やるじゃねぇか、あのおっさん。


 日本での様子や、カナメさんがこちらに来ていた際にどこで何をしていたのかなど取り留めもなく話をすること1オーラ。
 陽は中天に高く、俺の腹の虫がギュココココと肉を要求した。

「そろそろ昼食にしようか。チェーザーレさん、適当なところで……っと!」

 昼食、と聞いた途端チェーザーレが馬車を急停止させた。馬が甲高く短い嘶きと共に棹立ちになり、馬車が大きくガタンと跳ね上がる。
 後続の馬車でも急停止させることになり、短い悲鳴が聞こえた。

「どうしたチェーザーレ!? モンスターか?!」
『大丈夫だ。食い意地張ったおっさんが昼食休憩と聞いて慌てただけだ』

 状況を問うアルベルトの怒声に問題ないことを思念で答える。
 その後、路肩に馬車を寄せ全員が降りてくると、いつものようにエミーリオとベルナルド先生が炉を組み食事の準備を始め、その横でチェーザーレがアルベルトに殴られていた。
 それを苦笑いで、でも止めずに見ているカナメさんと、何事もなかったことにホッと胸を撫で下ろす勇者達。
 興奮気味になってしまった馬を世話するドナートが大変そうにバルトヴィーノに助けを求めていた。


『こ、これは……!』
「ん? あっ、手抜きってバレちゃった?」

 渡された器に盛られたのは、どう見ても懐かしのもつ鍋。野菜たっぷり、栄養満点。ニンニクの香りが食欲をそそる。
 日本で俺の母親が作ったのは味噌味だったが、この白いスープは塩ベースのようだ。
 驚く俺にカナメさんがテヘペロする。おっさんのあざと可愛さなんて誰得……って、チェーザーレがいたな。

『こらそこの二人、落ち着け』
「そうそう。食卓でお行儀よくできない子は食事抜きですよ」

 何故か大興奮して鼻息の荒いチェーザーレと、それを見てとても残念な様子になっているルシアちゃんの頭をペシペシ。でも俺よりもカナメさんの食事抜きという言葉の方が効いたみたいだ。二人ともシュンとした様子で大人しくなる。
 その様子を見て周りがクスクス笑っていた。うん、やっぱ笑っているのが良いよな。
 勇者たちの笑顔なんて初めて見たかも、なんて思いながら俺は催促する腹の虫に餌を与えるのだった。


「ところで、これは何の肉だ? クニクニと初めての食感だがとても美味いな」
「ちょっと癖がありますけど美味しいですね」
「野菜もこうするとたくさん食べれて良いな。味が染みてて美味い」

 アルベルトとエミーリオがモツを絶賛し、普段は肉ばかりで野菜をほとんど食べないバルトヴィーノがお替りを要求する。
 材料と調理法を聞くエミーリオに、カナメさんが言いにくそうに答える。

「あの、野菜、馬車にあったもので傷み始めていたものを全部使ってしまったんだけど」
「傷む前なら良いのでは?」
「うん、でもかなりの量だからこれからしばらく野菜を本気で消費しないと」

 暫くは野菜中心に、とカナメさんは言うがこれだけ美味いなら文句はないだろ。作るのはエミーリオだけど。カナメさん帰っちゃうしね。

「肉は俺の晩酌用のつまみに、と日本から持ち込んだんだ」
「で、何の肉だ?」
「モツって呼ばれてる、豚の内臓」
「「「内臓?!」」」

 日本出身の俺達には馴染み深いが、こっちの人達はホルモンは食べないらしく、すごく驚いて何度もカナメさんと手の中の椀を交互に見ていた。
 あの気持ち悪い臓器がまさか食べれるとは、とか、あれって毒なんじゃ、とヒソヒソと話し合っているが聞こえているぞ。

「普通はそうだね。鮮度の良い物をよく洗浄して加熱しないと危険だから迂闊に手を出さないほうが良いと思う。これも一晩もたせるのに燻製にして持ってきてたんだ」

 ああ、だから仄かにスモークチーズのような香りがしたのか。
 しかし、そうか。こっちだとモツ食えないのか。残念。これが本当の飯テロだな。
 こっちで調達できないものを持ってくるなと言ってあっただろと1号に怒られているカナメさんは、もう食べれないものと知って肩を落とす俺達にまた持ってくることを約束してくれた。
 さぁ、腹も膨れたし気を取り直して進もう。
しおりを挟む
感想 289

あなたにおすすめの小説

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...