146 / 228
第七章 俺様、南方へ行く
17、これが本当の飯テロだな
しおりを挟む
翌日、再度ユーザに巨熊は毒素が強すぎるから決して食べないようにと念を押して町を出た。何故町長ではなくユーザかって? あんなプルプルしたボ……げふん、残念な頭脳の町長に言ったところで数秒後には忘れそうだからさ。それでも若干心配だったから門衛にも言っておいた。あとはもう知らない。
「それにしても、本当に驚きました。まさかカナメ様がいらっしゃっているばかりか、冒険者ギルドにご登録までされているんですもの」
「全くだ。こちらに来ていたなら合流してくれれば良かったのに」
今朝宿でカナメさんが皆に声をかけた時、ルシアちゃんを始めアルベルト達は皆一様に驚き、チェーザーレの喜び様が凄まじかった。そんなにカナメさんの手料理が食いたかったのか。片時も離れようとせず、御者もドナートに代われと言い張る始末。キャラ崩壊してるおっさんを勇者達があんぐりと口を開けて見ていた。
中にはカナメさんを知っている奴もいて、何でいるんだと不思議がっていたが、そこは自分たちを日本に帰せる能力の者の仕業だと説明してやった。帰れると改めて実感して泣き出す女子もいてちょっとした騒ぎだったな。
そんなこんなで賑やかな出発になったのだった。
カナメさんは困ったように眉根を寄せて苦笑いで、合流できる状況ではなかったと1号から聞いていたと答えた。
「それに、ルシアさんの父君……オットリーノ陛下に呼ばれたんだ。身分証を作っていただいたのも陛下のご厚意で」
カナメさんが週末にしかこちらにいられないことを7号から聞いたおっとり国王が招集し、身分証を作りたまたま道中一緒になったということにすれば合流もしやすいだろうと手配してくれたそうだ。やるじゃねぇか、あのおっさん。
日本での様子や、カナメさんがこちらに来ていた際にどこで何をしていたのかなど取り留めもなく話をすること1オーラ。
陽は中天に高く、俺の腹の虫がギュココココと肉を要求した。
「そろそろ昼食にしようか。チェーザーレさん、適当なところで……っと!」
昼食、と聞いた途端チェーザーレが馬車を急停止させた。馬が甲高く短い嘶きと共に棹立ちになり、馬車が大きくガタンと跳ね上がる。
後続の馬車でも急停止させることになり、短い悲鳴が聞こえた。
「どうしたチェーザーレ!? モンスターか?!」
『大丈夫だ。食い意地張ったおっさんが昼食休憩と聞いて慌てただけだ』
状況を問うアルベルトの怒声に問題ないことを思念で答える。
その後、路肩に馬車を寄せ全員が降りてくると、いつものようにエミーリオとベルナルド先生が炉を組み食事の準備を始め、その横でチェーザーレがアルベルトに殴られていた。
それを苦笑いで、でも止めずに見ているカナメさんと、何事もなかったことにホッと胸を撫で下ろす勇者達。
興奮気味になってしまった馬を世話するドナートが大変そうにバルトヴィーノに助けを求めていた。
『こ、これは……!』
「ん? あっ、手抜きってバレちゃった?」
渡された器に盛られたのは、どう見ても懐かしのもつ鍋。野菜たっぷり、栄養満点。ニンニクの香りが食欲をそそる。
日本で俺の母親が作ったのは味噌味だったが、この白いスープは塩ベースのようだ。
驚く俺にカナメさんがテヘペロする。おっさんのあざと可愛さなんて誰得……って、チェーザーレがいたな。
『こらそこの二人、落ち着け』
「そうそう。食卓でお行儀よくできない子は食事抜きですよ」
何故か大興奮して鼻息の荒いチェーザーレと、それを見てとても残念な様子になっているルシアちゃんの頭をペシペシ。でも俺よりもカナメさんの食事抜きという言葉の方が効いたみたいだ。二人ともシュンとした様子で大人しくなる。
その様子を見て周りがクスクス笑っていた。うん、やっぱ笑っているのが良いよな。
勇者たちの笑顔なんて初めて見たかも、なんて思いながら俺は催促する腹の虫に餌を与えるのだった。
「ところで、これは何の肉だ? クニクニと初めての食感だがとても美味いな」
「ちょっと癖がありますけど美味しいですね」
「野菜もこうするとたくさん食べれて良いな。味が染みてて美味い」
アルベルトとエミーリオがモツを絶賛し、普段は肉ばかりで野菜をほとんど食べないバルトヴィーノがお替りを要求する。
材料と調理法を聞くエミーリオに、カナメさんが言いにくそうに答える。
「あの、野菜、馬車にあったもので傷み始めていたものを全部使ってしまったんだけど」
「傷む前なら良いのでは?」
「うん、でもかなりの量だからこれからしばらく野菜を本気で消費しないと」
暫くは野菜中心に、とカナメさんは言うがこれだけ美味いなら文句はないだろ。作るのはエミーリオだけど。カナメさん帰っちゃうしね。
「肉は俺の晩酌用のつまみに、と日本から持ち込んだんだ」
「で、何の肉だ?」
「モツって呼ばれてる、豚の内臓」
「「「内臓?!」」」
日本出身の俺達には馴染み深いが、こっちの人達はホルモンは食べないらしく、すごく驚いて何度もカナメさんと手の中の椀を交互に見ていた。
あの気持ち悪い臓器がまさか食べれるとは、とか、あれって毒なんじゃ、とヒソヒソと話し合っているが聞こえているぞ。
「普通はそうだね。鮮度の良い物をよく洗浄して加熱しないと危険だから迂闊に手を出さないほうが良いと思う。これも一晩もたせるのに燻製にして持ってきてたんだ」
ああ、だから仄かにスモークチーズのような香りがしたのか。
しかし、そうか。こっちだとモツ食えないのか。残念。これが本当の飯テロだな。
こっちで調達できないものを持ってくるなと言ってあっただろと1号に怒られているカナメさんは、もう食べれないものと知って肩を落とす俺達にまた持ってくることを約束してくれた。
さぁ、腹も膨れたし気を取り直して進もう。
「それにしても、本当に驚きました。まさかカナメ様がいらっしゃっているばかりか、冒険者ギルドにご登録までされているんですもの」
「全くだ。こちらに来ていたなら合流してくれれば良かったのに」
今朝宿でカナメさんが皆に声をかけた時、ルシアちゃんを始めアルベルト達は皆一様に驚き、チェーザーレの喜び様が凄まじかった。そんなにカナメさんの手料理が食いたかったのか。片時も離れようとせず、御者もドナートに代われと言い張る始末。キャラ崩壊してるおっさんを勇者達があんぐりと口を開けて見ていた。
中にはカナメさんを知っている奴もいて、何でいるんだと不思議がっていたが、そこは自分たちを日本に帰せる能力の者の仕業だと説明してやった。帰れると改めて実感して泣き出す女子もいてちょっとした騒ぎだったな。
そんなこんなで賑やかな出発になったのだった。
カナメさんは困ったように眉根を寄せて苦笑いで、合流できる状況ではなかったと1号から聞いていたと答えた。
「それに、ルシアさんの父君……オットリーノ陛下に呼ばれたんだ。身分証を作っていただいたのも陛下のご厚意で」
カナメさんが週末にしかこちらにいられないことを7号から聞いたおっとり国王が招集し、身分証を作りたまたま道中一緒になったということにすれば合流もしやすいだろうと手配してくれたそうだ。やるじゃねぇか、あのおっさん。
日本での様子や、カナメさんがこちらに来ていた際にどこで何をしていたのかなど取り留めもなく話をすること1オーラ。
陽は中天に高く、俺の腹の虫がギュココココと肉を要求した。
「そろそろ昼食にしようか。チェーザーレさん、適当なところで……っと!」
昼食、と聞いた途端チェーザーレが馬車を急停止させた。馬が甲高く短い嘶きと共に棹立ちになり、馬車が大きくガタンと跳ね上がる。
後続の馬車でも急停止させることになり、短い悲鳴が聞こえた。
「どうしたチェーザーレ!? モンスターか?!」
『大丈夫だ。食い意地張ったおっさんが昼食休憩と聞いて慌てただけだ』
状況を問うアルベルトの怒声に問題ないことを思念で答える。
その後、路肩に馬車を寄せ全員が降りてくると、いつものようにエミーリオとベルナルド先生が炉を組み食事の準備を始め、その横でチェーザーレがアルベルトに殴られていた。
それを苦笑いで、でも止めずに見ているカナメさんと、何事もなかったことにホッと胸を撫で下ろす勇者達。
興奮気味になってしまった馬を世話するドナートが大変そうにバルトヴィーノに助けを求めていた。
『こ、これは……!』
「ん? あっ、手抜きってバレちゃった?」
渡された器に盛られたのは、どう見ても懐かしのもつ鍋。野菜たっぷり、栄養満点。ニンニクの香りが食欲をそそる。
日本で俺の母親が作ったのは味噌味だったが、この白いスープは塩ベースのようだ。
驚く俺にカナメさんがテヘペロする。おっさんのあざと可愛さなんて誰得……って、チェーザーレがいたな。
『こらそこの二人、落ち着け』
「そうそう。食卓でお行儀よくできない子は食事抜きですよ」
何故か大興奮して鼻息の荒いチェーザーレと、それを見てとても残念な様子になっているルシアちゃんの頭をペシペシ。でも俺よりもカナメさんの食事抜きという言葉の方が効いたみたいだ。二人ともシュンとした様子で大人しくなる。
その様子を見て周りがクスクス笑っていた。うん、やっぱ笑っているのが良いよな。
勇者たちの笑顔なんて初めて見たかも、なんて思いながら俺は催促する腹の虫に餌を与えるのだった。
「ところで、これは何の肉だ? クニクニと初めての食感だがとても美味いな」
「ちょっと癖がありますけど美味しいですね」
「野菜もこうするとたくさん食べれて良いな。味が染みてて美味い」
アルベルトとエミーリオがモツを絶賛し、普段は肉ばかりで野菜をほとんど食べないバルトヴィーノがお替りを要求する。
材料と調理法を聞くエミーリオに、カナメさんが言いにくそうに答える。
「あの、野菜、馬車にあったもので傷み始めていたものを全部使ってしまったんだけど」
「傷む前なら良いのでは?」
「うん、でもかなりの量だからこれからしばらく野菜を本気で消費しないと」
暫くは野菜中心に、とカナメさんは言うがこれだけ美味いなら文句はないだろ。作るのはエミーリオだけど。カナメさん帰っちゃうしね。
「肉は俺の晩酌用のつまみに、と日本から持ち込んだんだ」
「で、何の肉だ?」
「モツって呼ばれてる、豚の内臓」
「「「内臓?!」」」
日本出身の俺達には馴染み深いが、こっちの人達はホルモンは食べないらしく、すごく驚いて何度もカナメさんと手の中の椀を交互に見ていた。
あの気持ち悪い臓器がまさか食べれるとは、とか、あれって毒なんじゃ、とヒソヒソと話し合っているが聞こえているぞ。
「普通はそうだね。鮮度の良い物をよく洗浄して加熱しないと危険だから迂闊に手を出さないほうが良いと思う。これも一晩もたせるのに燻製にして持ってきてたんだ」
ああ、だから仄かにスモークチーズのような香りがしたのか。
しかし、そうか。こっちだとモツ食えないのか。残念。これが本当の飯テロだな。
こっちで調達できないものを持ってくるなと言ってあっただろと1号に怒られているカナメさんは、もう食べれないものと知って肩を落とす俺達にまた持ってくることを約束してくれた。
さぁ、腹も膨れたし気を取り直して進もう。
0
お気に入りに追加
128
あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。


【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる