中二病ドラゴンさんは暗黒破壊神になりたい

禎祥

文字の大きさ
上 下
130 / 228
第七章 俺様、南方へ行く

4、ちょっと! 嘘でしょ?!

しおりを挟む
 出発が遅くなってしまい、少し早めに馬を走らせながら進む。
 因みに現在は、最後列の荷馬車3台を後ろからチェーザーレとベルナルド先生とアルベルト、勇者の乗る馬車2台をバルトヴィーノとエミーリオ、俺とルシアちゃんの乗る馬車をドナートが御している。
 式典の時に彼らが跨っていた馬4頭はチェーザーレとアルベルトとバルトヴィーノとエミーリオがそれぞれ一頭ずつ装具を外した裸馬の状態で御者をこなしつつ紐で連れている。

 負担を減らすことで馬車を引く馬と交代させられるから置いて行かないって言って、こういう隊列になった。
 馬車の車輪に馬を巻き込まないよう並走させるには技術がいるのだそうだ。紐が短すぎれば車輪に巻き込まれるし、紐が長すぎたりして馬が好き勝手走れば馬車の制御が利かなくなるんだと。
 今更だけど、騎乗戦闘訓練も受けているだろう騎士のエミーリオならともかく、パーティー全員が御者の技術がある冒険者って珍しいんじゃないだろうか?

「まぁ、一応これでも一流って言われてるし。相応の技術や知識は持っているつもりだよ?」

 俺の疑問に答えるのは、俺達の馬車を担当するドナート。
 ルシアちゃんの護衛であるエミーリオではなく彼が先頭馬車の御者を務めているのは、索敵能力が全員の中で抜きんでているからだ。
 それだけでなく、地形や気候などの変化にも敏感だからだろう。動物の足跡で数キロ追いかけられるとか言っていたほどの実力者だ。影薄いのに。

「影が薄いは余計だ」

 あら、聞こえてた。っていうか念話切るの忘れてた? 心の声丸聞こえかよ。やだー、恥ずかしい―。
 冗談は置いといて。遠方に出るような依頼では、馬車をレンタルして夜通しで行動する必要にかられることもあるとかで、負担が一人に集中しないよう全員練習したんだと。
 今更だけど、このパーティーって高レベルの割に驕っていないし努力家だよね。向上心っていうの? かっこいいわー、マジで。


「勇者の子達も、意外とすんなりこの状況を受け入れてくれて良かったね」
『こればかりは1号に感謝だな』
「今も……えっと、カウンセリング? だっけ? 話を聞いてやっているんだろ? 先生って呼ばれてたし、彼は医者なの?」
『いや、教師だ。この世界にあるかわからないが、学校といって子供を集めて教育する機関があってな。奴は国語……文章の読解力をつけるための学問を教えていた。俺の国では誰でも文字の読み書きや計算ができるのが普通だからな』
「へぇ、凄いな。こっちじゃ読み書きは貴族を除けば一部の人間だけだ」

 チェーザーレとバルトヴィーノは文字の読み書きが未だにできないんだと。簡単な計算だけはドナートが教えたが、読み書きは覚える気がハナからないらしい。

「覚えれば依頼書だって技術書だって読めるし、商店で掲示されている値段もわかるからぼったくりに遭うこともなくなるんだけどねぇ」
『苦労してそうだな』
「いや、あまり気にしてないみたいだよ? 契約関係は俺やアルベルトが代筆したりしてるし」
『いや、貴様がだよ』
「へ? 俺? うーん、確かに、だから覚えろって言ってるじゃないかって思うこともあるけど……」

 なんだかんだで頼られるのが嬉しいのだと。後ろ姿しか見えないからどんな顔で言っているかはわからないが、きっと笑顔だろう。
 良い関係だな、と言ったら礼を言われた。


「もうすぐ夕方だな。リージェ、アルベルトにそろそろ野営場所を探しながら進むけど良いかって聞いてきてくれるか?」
『了解した』

 オーリエンを出てからここまで、ずっと一本道だった。分かれ道がないってことは、近くに村や町が無いってことだ。野宿を覚悟する必要が出てくる。
 幸い、オーリエンのロリコン王が野営に必要な食糧や道具類を全て詰め込んでくれてある。野草を摘んだり肉となるモンスターを狩れば連日野宿でも行けるくらいだ。
 馬車を飛び出しついでに少し上空へ飛び上がって見たが、集落のありそうな場所はなかった。

 アルベルトからも反対意見はなく、適度に拓けた場所を野営地にしようということをドナートにも伝えた。
 適度に、というのは万が一にも前後から馬車が来た場合通行の邪魔となってしまうため、馬車を停められるほど拓けた場所だったな。
 夜が更けた頃にモンスターの行動範囲にもなっているこんな国境付近の道を通りがかる馬車があるとも思えないのだが。旅する者のマナーってやつだ。

「……まずいな。停められそうな場所がない……」
『? このくらい道の脇が開けていれば馬車を停められそうだが? 岩がゴロゴロしている風でもなさそうだし、適しているようにも見えるが』

 空は陽がだいぶ傾き、紫に染まりつつある。星の瞬きまで見え始めた。いよいよ夜になるのだ。
 いつもならとっくに野営の準備に入っている頃なのに、馬車を停める気配のないドナート。何やら焦っているようだ。
 どうした、何か問題があるのか? と声をかけると、問題大ありだ、と返ってきた。問題あるって、ちょっと! 嘘でしょ?!
しおりを挟む
感想 289

あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

処理中です...