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第六章 俺様、東方に行く
(閑話)聖女と花嫁衣装
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タイラーツ領では色々ありましたが、無事にオーリエンの王都であるハレタに着きましたの。
先を急ぐ旅行きであるにも関わらず拐われた私を助けるためにリージェ様が来てくださったことを思い返す度に、私の胸はとても熱くなるのです。
『気に病むことはない。ルシアは操られていただけなのだから』
リージェ様を攻撃してしまい、会わせる顔がないと馬車に籠る私にリージェ様はそう声をかけてくださいました。
操られていたとはいえ、あの時は本気でリージェ様が憎いと、ご主人様の仇を討つのだという気持ちになっておりましたのに。
全てを許すと仰ってくださったのです。 未熟な私はリージェ様の足を引っ張ってばかり……。このご恩に報いなければ。
「お待たせしてしまった申し訳ございませんが謁見までこちらでお過ごしくださいませ」
案内していただいたのは、オーリエンの陛下が用意してくださったというとても大きな施設でした。他国からの賓客をもてなすための迎賓館ですが、普段は保養施設として貴族の方に解放されているとのことで、とても様々なお店が一体化しているというとても珍しい施設でした。
「キュゥゥゥ……」
そこで供された食事は、6年以上も前にお城で食べていたような、見た目の美しさを重視したコース料理で。スープや前菜に始まり、サラダ、お肉と順々に提供されます。
コショウや砂糖といった、運搬にとてもコストがかかるため高級品とされる調味料がふんだんに入っているのは、オーリエンの経済力を誇示するためでもあるのでしょう。貴族の食事とはだいたいどこもこのような感じで。昔はこれを美味しいと思っていたのですが、修道院の素材そのままの料理やカナメ様の作る食事を食べてしまった後ではとても食べられたものではありません。量が少ないのが唯一の救いでしょうか。
初めは興味津々に目を輝かせていたリージェ様も、今はとても悲しそうな眼をされて、尻尾まで力無く垂れております。
念話で不満を伝えるようなことはされませんが、食事で満足されていないのは誰の目にも明らかでした。
「ここに来るまでに見かけましたが、一般市民の居住区では市が立っていたようですよ。食べ物の屋台もありましたし、気晴らしに行ってみませんか?」
「そうですね。それが良いですわ」
『行く!』
エミーリオ様の提案はとても素晴らしい物でした。
貴族居住区を抜けてその市を目指すと、とてもたくさんの人がいて。あちこちから喧騒が聞こえてきます。
リージェ様は鼻をひくつかせて尻尾を揺らしておりました。屋台で買った食べ物も、ちょうど良い味つけでとても美味しかったです。食事の後でしたから食べきれない分をリージェ様に差し上げたらとても喜んでくださいましたわ。
そんな楽しいひと時も過ぎるのはあっという間で。
私たちはオーリエンの国王であるドゥラーマ・ドラゴーネ・オーリエン陛下との謁見の時を迎え、途中デシデーリオ伯爵様に心無い言葉を投げかけられる場面もありましたが無事に勇者様達と出立する式典の打ち合わせをすることができました。
……できた、のですが……あの、私は今、何故陛下に手を握られ甲にキスをされているのでしょうか……?
「天使よ」
潤んだような瞳でじっと見つめられ、背筋に怖気が走るのを感じました。
これまで私に触れてくる殿方は今行動を共にしているアルベルト様達くらいしたが、こんなふうに鳥肌が立つようなことはありませんでしたわ。
怖い、と思いつつ相手は他国の王。握られたその手を振り払うことは許されません。
正妃に、というお言葉までいただきましたがとてもではないですが嫌です。
『俺様の聖女だ』
はっきりお断りしましたのに諦めてくれない陛下にほとほと困っていると、リージェ様が私の手から陛下を引きはがしてくださいました。
何やら二人で話されていたようですが良く聞こえず、「俺様の聖女だ」という部分だけ聞こえ顔が熱くなりました。
ああ、リージェ様。貴方にそれほど大切に思っていただけて、光栄ですわ。私もリージェ様が大切です。私の聖竜様。
退室の際に「帰ったら結婚式を」なんて不穏な言葉が聞こえてしまいました。婚約を結んだわけではありませんのに、あの陛下なら本当に戻り次第式の準備が整ってそうで恐ろしいですわ。
『大丈夫だ、ルシア。この国に来なければ良いだけの事。仮にそなたの父が丸め込まれていようと、俺様がルシアを抱えて逃げよう』
私の不安を見抜いたかのように、リージェ様がそう仰っいました。
まぁ、なんてことでしょう。私が好かない殿方の手に落ちそうになったら、リージェ様が私を攫っていってくださるのですね。二人の愛の逃避行……なんて素敵な響きなのでしょう。
そのためにもまずは暗黒破壊神を倒して、二人で生き延びねばなりませんね。
ふわふわとした心持のまま迎えた祝典の儀。私に用意されたのは、まるで王族の結婚式で着るような純白のドレスで。教会の修道服風にアレンジされていましたが、どこからどう見ても花嫁衣装にしか見えませんわ。
『よく似合っているぞ』
褒めてくれるリージェ様の言葉に、再び頬が熱くなります。
昨日の「俺様の聖女」というリージェ様の言葉が頭の中で何度も思い返されて顔がにやけてしまいそうですわ。
昔話の中のお話ですので真実は定かではありませんが、歴代聖女の中には聖竜と結ばれた乙女もいるのです。二人の真実の愛が奇跡を起こし、子を成したとまでありますわ。
いずれ誰かと結ばれなければいけないのであれば、私はリージェ様が……。
いつかくる日を想いながら改めてドレスを見ると、この衣装も悪くないと思えるのです。
ええ、早くこんなお役目を終えて、リージェ様のためだけにドレスを着る日を迎えたいですわ。
先を急ぐ旅行きであるにも関わらず拐われた私を助けるためにリージェ様が来てくださったことを思い返す度に、私の胸はとても熱くなるのです。
『気に病むことはない。ルシアは操られていただけなのだから』
リージェ様を攻撃してしまい、会わせる顔がないと馬車に籠る私にリージェ様はそう声をかけてくださいました。
操られていたとはいえ、あの時は本気でリージェ様が憎いと、ご主人様の仇を討つのだという気持ちになっておりましたのに。
全てを許すと仰ってくださったのです。 未熟な私はリージェ様の足を引っ張ってばかり……。このご恩に報いなければ。
「お待たせしてしまった申し訳ございませんが謁見までこちらでお過ごしくださいませ」
案内していただいたのは、オーリエンの陛下が用意してくださったというとても大きな施設でした。他国からの賓客をもてなすための迎賓館ですが、普段は保養施設として貴族の方に解放されているとのことで、とても様々なお店が一体化しているというとても珍しい施設でした。
「キュゥゥゥ……」
そこで供された食事は、6年以上も前にお城で食べていたような、見た目の美しさを重視したコース料理で。スープや前菜に始まり、サラダ、お肉と順々に提供されます。
コショウや砂糖といった、運搬にとてもコストがかかるため高級品とされる調味料がふんだんに入っているのは、オーリエンの経済力を誇示するためでもあるのでしょう。貴族の食事とはだいたいどこもこのような感じで。昔はこれを美味しいと思っていたのですが、修道院の素材そのままの料理やカナメ様の作る食事を食べてしまった後ではとても食べられたものではありません。量が少ないのが唯一の救いでしょうか。
初めは興味津々に目を輝かせていたリージェ様も、今はとても悲しそうな眼をされて、尻尾まで力無く垂れております。
念話で不満を伝えるようなことはされませんが、食事で満足されていないのは誰の目にも明らかでした。
「ここに来るまでに見かけましたが、一般市民の居住区では市が立っていたようですよ。食べ物の屋台もありましたし、気晴らしに行ってみませんか?」
「そうですね。それが良いですわ」
『行く!』
エミーリオ様の提案はとても素晴らしい物でした。
貴族居住区を抜けてその市を目指すと、とてもたくさんの人がいて。あちこちから喧騒が聞こえてきます。
リージェ様は鼻をひくつかせて尻尾を揺らしておりました。屋台で買った食べ物も、ちょうど良い味つけでとても美味しかったです。食事の後でしたから食べきれない分をリージェ様に差し上げたらとても喜んでくださいましたわ。
そんな楽しいひと時も過ぎるのはあっという間で。
私たちはオーリエンの国王であるドゥラーマ・ドラゴーネ・オーリエン陛下との謁見の時を迎え、途中デシデーリオ伯爵様に心無い言葉を投げかけられる場面もありましたが無事に勇者様達と出立する式典の打ち合わせをすることができました。
……できた、のですが……あの、私は今、何故陛下に手を握られ甲にキスをされているのでしょうか……?
「天使よ」
潤んだような瞳でじっと見つめられ、背筋に怖気が走るのを感じました。
これまで私に触れてくる殿方は今行動を共にしているアルベルト様達くらいしたが、こんなふうに鳥肌が立つようなことはありませんでしたわ。
怖い、と思いつつ相手は他国の王。握られたその手を振り払うことは許されません。
正妃に、というお言葉までいただきましたがとてもではないですが嫌です。
『俺様の聖女だ』
はっきりお断りしましたのに諦めてくれない陛下にほとほと困っていると、リージェ様が私の手から陛下を引きはがしてくださいました。
何やら二人で話されていたようですが良く聞こえず、「俺様の聖女だ」という部分だけ聞こえ顔が熱くなりました。
ああ、リージェ様。貴方にそれほど大切に思っていただけて、光栄ですわ。私もリージェ様が大切です。私の聖竜様。
退室の際に「帰ったら結婚式を」なんて不穏な言葉が聞こえてしまいました。婚約を結んだわけではありませんのに、あの陛下なら本当に戻り次第式の準備が整ってそうで恐ろしいですわ。
『大丈夫だ、ルシア。この国に来なければ良いだけの事。仮にそなたの父が丸め込まれていようと、俺様がルシアを抱えて逃げよう』
私の不安を見抜いたかのように、リージェ様がそう仰っいました。
まぁ、なんてことでしょう。私が好かない殿方の手に落ちそうになったら、リージェ様が私を攫っていってくださるのですね。二人の愛の逃避行……なんて素敵な響きなのでしょう。
そのためにもまずは暗黒破壊神を倒して、二人で生き延びねばなりませんね。
ふわふわとした心持のまま迎えた祝典の儀。私に用意されたのは、まるで王族の結婚式で着るような純白のドレスで。教会の修道服風にアレンジされていましたが、どこからどう見ても花嫁衣装にしか見えませんわ。
『よく似合っているぞ』
褒めてくれるリージェ様の言葉に、再び頬が熱くなります。
昨日の「俺様の聖女」というリージェ様の言葉が頭の中で何度も思い返されて顔がにやけてしまいそうですわ。
昔話の中のお話ですので真実は定かではありませんが、歴代聖女の中には聖竜と結ばれた乙女もいるのです。二人の真実の愛が奇跡を起こし、子を成したとまでありますわ。
いずれ誰かと結ばれなければいけないのであれば、私はリージェ様が……。
いつかくる日を想いながら改めてドレスを見ると、この衣装も悪くないと思えるのです。
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