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第六章 俺様、東方に行く
22、うまーー!!
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休暇1日目。
オットリーノ国王の護衛として何度かここに来たことがあるというエミーリオの案内で散策して回る。
建物は道中で見てきたタイラーツ領と違い、セントゥロに近い洋風の景観だ。違うのは、王城を中心に円形に貴族の居住区、一般市民の居住区、スラムで構成されている。モンスター避けの分厚く高い塀のすぐ近くがスラム街だ。
「絶対にスラム街には入らないでくださいね」
何度もエミーリオに念を押された。もっとも、スラム街には店らしい店などないというから行きたいとも思わないが。
俺達のためにオーリエンの国王が用意した宿は貴族街にあった。レンガ造りの洋館が立ち並ぶ中、他と一線を画すほどの豪奢な洋館だ。
巨大な門を抜けると白亜の美麗な石像が立ち並ぶ道を進み、噴水を回った先で同じく白亜の建物の前に馬車を乗りつけられるようになっていた。
他国の貴族や王族などが逗留するために作られた療養宿とのことで、広大な土地に温泉や劇場、遊技場、商店などまであり、視察など他に目的もなければここから出ていかずとも十分楽しめるだけの設備が整っていた。
宿の主人が言うには、フロントに申し付ければ宿の施設にない店の者を呼び出せるらしい。とにかく逗留する貴人が何一つ不自由ないように、を体現した施設だった。
『まるで檻のようだな』
宿の施設だけでも間に合うとはいえ、そこはさすが貴族向け。高級そうな贅を尽くしただけの味も良くわからないような、良く言えばフォトジェニックな料理屋だの。汚すのが怖くて袖を通せないような服屋だのでは俺は楽しめない。
他国の王都へ来る機会などなかなかないから様子を見たいというルシアちゃんも連れて俺達は一般居住区へと繰り出した。
貴族街の店は宿の設備と似たり寄ったりで、それなら宿で十分だという結論になったのだ。
各区画は柵で分けられていて、内側の人間が外側は行くのは自由だが外側の人間が内側に行くには厳重な身分証確認と地区長の許可証が必要だという。
聳え立つ金属の柵が他の地区の人間を締め出すための何かに見えて。お前はここから先へは行けないのだと言われているようで。
実際にそんなことを言われたことなんてないのに、それは前世で周囲に馴染めなかった時のあの感覚が蘇ってくるようで嫌な感じだった。
「タイラーツ領でも感じたでしょうが、ここでも身分を重要視する者が多くいます。さすがに王の御許でルシア様やリージェ様をどうこうすることはないでしょうが、不快に感じることがあっても手を出さないよう気を付けてくださいね」
「わかりましたわ」
『ああ。トラブルはもう懲り懲りだしな』
つまり、ここでも差別的、いや身分を嵩にえばり散らしている奴がいるってことか。
うんざりしている俺の横でエミーリオが、一般居住区も貴族の居住区に近いほど土地や税が高く、自然に富裕層が中心に住むようになっていると街を指し説明してくれている。
スラムに近い方ほど貧しいというのを修繕もされない家々が証明していた。
「あの、スラムには店がないというお話でしたけど、それならスラムの方々はどうやって生活をされているのでしょう?」
「厳密にいえば、スラムに住むのはハレタ市民ではありません。税を納められず、市民権を捨てた人たちなのです」
つまり、何の保護保証も受けられないということを前提としてエミーリオが説明する。
オーリエンの国王はスラム地区をないものとして扱っているそうだ。市民権を捨てているから、スラムの人間が一般居住区で仕事を得る事はできない。そもそも一般居住区に入れないしね。その代わりとして納税の義務もない。
じゃあどうやって生活をしているのかというルシアちゃんの質問の答えは、自給自足だ。と言っても農耕ではない。土地は市民権を得ないともらえないし、土地を開拓するだけの体力もない。罠による狩りや採取などをしてとにかく必死に食べる物を得ているらしい。
柵の隙間から手を伸ばして何かを恵んでもらおうと呼びかけてくるスラムの人間もいるし、稀に柵を乗り越えて盗みを働く者もいるらしい。不法侵入と盗みは捕まり次第即奴隷落ちらしいが。
食べ物に困り自ら奴隷になる人間もいるのだと。とにかくスラムはそういう場所だった。
『それよりルシア、あれは何だ?』
「何でしょう? とても良い匂いがしますね」
「買ってきます!」
スラムの人に心を痛めている様子のルシアちゃん。現状救う手立てもないし、他国のことに口を出すべきでもない。それならば、とルシアちゃんの気を逸らすため近くの屋台を示した。
俺の意図に気付いたのかエミーリオがすかさず三人分買ってきた。暴力的なまでの匂いに思わず腹の虫が騒ぎ口から汁が溢れてくる。俺のそんな様子にルシアちゃんが笑ってくれた。
「ん、美味しい。腸詰めが入っていますね」
「このかかっているソースも、スパイスが効いていて……さすが王都です」
一口食べて、「うまーー!!」と感動の叫びが出た。
コショウが効いたピリ辛のソースたっぷりの、ソーセージと野菜をナンのような薄焼きのパンで巻いた食べ物。ルシアちゃんとエミーリオが口々に味を分析している横で俺は無心にかぶりつく。
コショウが平民向けの屋台で使われるくらい、ここでは流通しているのだろう。ひき肉も日本のようなスライサーなんてないから、手作業で細かく切り刻んだものだ。歯ごたえのあるソーセージがプリプリと肉のうまみをしっかり伝えてくれる。
屋台でこれだ。他の店には何が並んでいるか、期待が高まるな。
オットリーノ国王の護衛として何度かここに来たことがあるというエミーリオの案内で散策して回る。
建物は道中で見てきたタイラーツ領と違い、セントゥロに近い洋風の景観だ。違うのは、王城を中心に円形に貴族の居住区、一般市民の居住区、スラムで構成されている。モンスター避けの分厚く高い塀のすぐ近くがスラム街だ。
「絶対にスラム街には入らないでくださいね」
何度もエミーリオに念を押された。もっとも、スラム街には店らしい店などないというから行きたいとも思わないが。
俺達のためにオーリエンの国王が用意した宿は貴族街にあった。レンガ造りの洋館が立ち並ぶ中、他と一線を画すほどの豪奢な洋館だ。
巨大な門を抜けると白亜の美麗な石像が立ち並ぶ道を進み、噴水を回った先で同じく白亜の建物の前に馬車を乗りつけられるようになっていた。
他国の貴族や王族などが逗留するために作られた療養宿とのことで、広大な土地に温泉や劇場、遊技場、商店などまであり、視察など他に目的もなければここから出ていかずとも十分楽しめるだけの設備が整っていた。
宿の主人が言うには、フロントに申し付ければ宿の施設にない店の者を呼び出せるらしい。とにかく逗留する貴人が何一つ不自由ないように、を体現した施設だった。
『まるで檻のようだな』
宿の施設だけでも間に合うとはいえ、そこはさすが貴族向け。高級そうな贅を尽くしただけの味も良くわからないような、良く言えばフォトジェニックな料理屋だの。汚すのが怖くて袖を通せないような服屋だのでは俺は楽しめない。
他国の王都へ来る機会などなかなかないから様子を見たいというルシアちゃんも連れて俺達は一般居住区へと繰り出した。
貴族街の店は宿の設備と似たり寄ったりで、それなら宿で十分だという結論になったのだ。
各区画は柵で分けられていて、内側の人間が外側は行くのは自由だが外側の人間が内側に行くには厳重な身分証確認と地区長の許可証が必要だという。
聳え立つ金属の柵が他の地区の人間を締め出すための何かに見えて。お前はここから先へは行けないのだと言われているようで。
実際にそんなことを言われたことなんてないのに、それは前世で周囲に馴染めなかった時のあの感覚が蘇ってくるようで嫌な感じだった。
「タイラーツ領でも感じたでしょうが、ここでも身分を重要視する者が多くいます。さすがに王の御許でルシア様やリージェ様をどうこうすることはないでしょうが、不快に感じることがあっても手を出さないよう気を付けてくださいね」
「わかりましたわ」
『ああ。トラブルはもう懲り懲りだしな』
つまり、ここでも差別的、いや身分を嵩にえばり散らしている奴がいるってことか。
うんざりしている俺の横でエミーリオが、一般居住区も貴族の居住区に近いほど土地や税が高く、自然に富裕層が中心に住むようになっていると街を指し説明してくれている。
スラムに近い方ほど貧しいというのを修繕もされない家々が証明していた。
「あの、スラムには店がないというお話でしたけど、それならスラムの方々はどうやって生活をされているのでしょう?」
「厳密にいえば、スラムに住むのはハレタ市民ではありません。税を納められず、市民権を捨てた人たちなのです」
つまり、何の保護保証も受けられないということを前提としてエミーリオが説明する。
オーリエンの国王はスラム地区をないものとして扱っているそうだ。市民権を捨てているから、スラムの人間が一般居住区で仕事を得る事はできない。そもそも一般居住区に入れないしね。その代わりとして納税の義務もない。
じゃあどうやって生活をしているのかというルシアちゃんの質問の答えは、自給自足だ。と言っても農耕ではない。土地は市民権を得ないともらえないし、土地を開拓するだけの体力もない。罠による狩りや採取などをしてとにかく必死に食べる物を得ているらしい。
柵の隙間から手を伸ばして何かを恵んでもらおうと呼びかけてくるスラムの人間もいるし、稀に柵を乗り越えて盗みを働く者もいるらしい。不法侵入と盗みは捕まり次第即奴隷落ちらしいが。
食べ物に困り自ら奴隷になる人間もいるのだと。とにかくスラムはそういう場所だった。
『それよりルシア、あれは何だ?』
「何でしょう? とても良い匂いがしますね」
「買ってきます!」
スラムの人に心を痛めている様子のルシアちゃん。現状救う手立てもないし、他国のことに口を出すべきでもない。それならば、とルシアちゃんの気を逸らすため近くの屋台を示した。
俺の意図に気付いたのかエミーリオがすかさず三人分買ってきた。暴力的なまでの匂いに思わず腹の虫が騒ぎ口から汁が溢れてくる。俺のそんな様子にルシアちゃんが笑ってくれた。
「ん、美味しい。腸詰めが入っていますね」
「このかかっているソースも、スパイスが効いていて……さすが王都です」
一口食べて、「うまーー!!」と感動の叫びが出た。
コショウが効いたピリ辛のソースたっぷりの、ソーセージと野菜をナンのような薄焼きのパンで巻いた食べ物。ルシアちゃんとエミーリオが口々に味を分析している横で俺は無心にかぶりつく。
コショウが平民向けの屋台で使われるくらい、ここでは流通しているのだろう。ひき肉も日本のようなスライサーなんてないから、手作業で細かく切り刻んだものだ。歯ごたえのあるソーセージがプリプリと肉のうまみをしっかり伝えてくれる。
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