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第六章 俺様、東方に行く
13、ふぅ、スッキリ
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すぐに出立したかったのだが、案の定バルトヴィーノ達は朝まで帰ってこなかった。
昨日ベルナルド先生達はオーリエンの王城がある王都への道を聞いて回って、さらに余りまくっていた肉や魔物の素材を売却、ついでに酒や要さんが調理で使いそうな薬草・香草類を買ってきたらしい。要さんや俺の知る物がこちらでは見た目も名前も違うせいで何を買っていいかわからず鑑定で食べ物関連と出たものを一通り買ってきてくれていた。
で。荷物を馬車に積み込んでいつでも出立できる状態でバルトヴィーノ達の帰りを待ちながら朝食を摂っている。アルベルトとベルナルド先生は荷物番として馬車の方で食べているのだけれど。
食卓を囲む俺とルシアちゃん、エミーリオに瘦せぎすで目つきの悪いおっさんが近寄ってきたのだ。
「迎えの馬車を待たせてあります」
言葉遣いは丁寧だが、値踏みするような目線が気に入らない。ルシアちゃんの胸ばっかりジロジロ見やがって!
テーブルに登ってルシアちゃんの前まで行ってわざとらしく翼を広げると、おっさんは慌てたように目線をずらした。よっしゃ。
「お断りしますわ」
「は? 領主様のご意向に背くと?」
「その領主様がアレイ・タイラーツなる者でしたら尚更お会いしたくありませんわね」
「なっ、この小娘が舐めた口を! ヒッ」
激高したおっさんがルシアちゃんに無理矢理言う事を聞かせようと身を乗り出したとき、エミーリオが剣を抜いた。
「貴様こそ誰に口を利いている」
わぁお! かっこいい! 忘れがちだったけどそういやエミーリオって一応セントゥロの騎士団長だったな。それも王家の人間を護衛する近衛師団の。
「たかが領主の家臣に過ぎない者が触れて良いお方ではない」
「わ、私はタイラーツ領が領主、アレイ様の名代だぞ。その私に剣を向けるとは、アレイ様に剣を向けるも同じ……」
「ほう、ならばたかが一貴族に過ぎない領主が王女殿下に手を上げようとしたということで相違ないな?」
エミーリオの威圧に耐えながら青褪めた顔で虚勢を張るおっさんが領主の名を出す。何か前もあったな、こういう展開。
王女だと?! と口をパクパクさせながらおっさんがルシアちゃんを見るが、当のルシアちゃんはおっさんを見ることもなく黙々と食事を進めている。それはこの場にはそぐわないのだろうが、その落ち着きぶりと気品さがかえってルシアちゃんが王女であることに信憑性を持たせていた。
『そこの下郎、貴様の主に伝えておけ。目上の者を呼びつけるとは礼儀がなっていない、とな。ああ、それからこれも返そう。このような物で俺様を従えられると思ったか』
ルシアちゃんに一応持たせておいた首飾りを投げ返す。用があるならそっちから来いバーカバーカ。
慌てふためいて転がるように逃げ去っていくおっさんの背中にあっかんべーしてやった。ふぅ、スッキリ。
「困ったものですねぇ」
舌を出す俺をたしなめるように抱き寄せ頭を撫でると、ルシアちゃんが溜息を吐いた。
これからもああいう手合いが押し寄せてくるのだろうか? それは疲れるし勘弁願いたい。
『ふむ……姿を隠しておいた方が良いか?』
「ふふ、なら私がずっとこうして抱いていましょうか」
抱っこ……うん、まぁルシアちゃんが可愛いから良いか。
おっさんと入れ替わりに酒臭い三人が寝に帰ってきた。本当ならもう一泊したいところだが、領主に目をつけられてしまったのでは仕方ない。
酒と香水の匂いをプンプンさせながら千鳥足の三人を捕まえて馬車に詰め込むと出発したのだった。
「この道を暫く行くと分かれ道になていて、右に行くとセントゥロ、左に行くと王都に着くそうです」
御者台で手綱を操りながらエミーリオが言う。
バルトヴィーノ達三人は酒臭くて敵わないため荷台の方の馬車に詰め込んであり、その御者をアルベルトがやるため必然的にベルナルド先生も後ろの馬車にいる。俺を抱きしめたままのルシアちゃんは上機嫌だ。
「一日走った辺りに村があって、そこがタイラーツ領最後の村です」
エミーリオの言葉に答えるのは、サラサラロングのストレートヘアを風に靡かせる少々膨らみが残念な美少女。街の門を出るときにひと悶着あって、王都まで同行することになったのだ。
光の加減によっては銀色にも見えるブロンドの髪を手でかき上げる彼女の名はマリア・タイラーツ。門を出る際に揉める要因となったアレイ・タイラーツの長女であり、引き留められあわや流血沙汰になる寸前で割って入ってくれた勇敢な女性だ。歳は数えで17歳だという。うん、やっぱり発育が残念だ……。
タイラーツを名乗った時点で敵認定しかけた俺達に、彼女は深々と頭を下げた。
「父と兄の愚行をお許しください」
呆気に取られていると更に王都へ向かうとは本当かと聞いてきて、首肯すると一緒に連れていってくれと懇願してきたのだ。
理由を聞けば父と兄の不正や蛮行のせいで領内で暴動が起きかねないほど民心が離れてしまっているらしい。国王に直訴して処罰してもらいたいのだと。
「宜しいのですか?そんなことをしては……」
ルシアちゃんが何を心配しているかわからず首を傾げると、そっと教えてくれた。この世界では爵位は当主だけで、領主の子女であろうとマリアは平民なのだそうだ。平民が国王に直訴することは重罪で死罪になるのだと。
「覚悟の上です。証拠となる書類などを持ち出した私はどちらにしろ追われる身です。ご迷惑おかけしますがどうか連れていって欲しいのです!」
追っ手がかかるのはごめんだが、命懸けで家族を諌めようとしている彼女の覚悟にルシアちゃんが感銘を受けたのだ。
証拠の品の中には俺が突き返したはずの首飾りもあった。
「ならば、私の方からリージェ様を不当に奪われそうになったと訴えます。貴女は証人として共に来てください」
こうして新たな火種と共にマリアが仲間に加わったわけだ。はぁ、やれやれ。
昨日ベルナルド先生達はオーリエンの王城がある王都への道を聞いて回って、さらに余りまくっていた肉や魔物の素材を売却、ついでに酒や要さんが調理で使いそうな薬草・香草類を買ってきたらしい。要さんや俺の知る物がこちらでは見た目も名前も違うせいで何を買っていいかわからず鑑定で食べ物関連と出たものを一通り買ってきてくれていた。
で。荷物を馬車に積み込んでいつでも出立できる状態でバルトヴィーノ達の帰りを待ちながら朝食を摂っている。アルベルトとベルナルド先生は荷物番として馬車の方で食べているのだけれど。
食卓を囲む俺とルシアちゃん、エミーリオに瘦せぎすで目つきの悪いおっさんが近寄ってきたのだ。
「迎えの馬車を待たせてあります」
言葉遣いは丁寧だが、値踏みするような目線が気に入らない。ルシアちゃんの胸ばっかりジロジロ見やがって!
テーブルに登ってルシアちゃんの前まで行ってわざとらしく翼を広げると、おっさんは慌てたように目線をずらした。よっしゃ。
「お断りしますわ」
「は? 領主様のご意向に背くと?」
「その領主様がアレイ・タイラーツなる者でしたら尚更お会いしたくありませんわね」
「なっ、この小娘が舐めた口を! ヒッ」
激高したおっさんがルシアちゃんに無理矢理言う事を聞かせようと身を乗り出したとき、エミーリオが剣を抜いた。
「貴様こそ誰に口を利いている」
わぁお! かっこいい! 忘れがちだったけどそういやエミーリオって一応セントゥロの騎士団長だったな。それも王家の人間を護衛する近衛師団の。
「たかが領主の家臣に過ぎない者が触れて良いお方ではない」
「わ、私はタイラーツ領が領主、アレイ様の名代だぞ。その私に剣を向けるとは、アレイ様に剣を向けるも同じ……」
「ほう、ならばたかが一貴族に過ぎない領主が王女殿下に手を上げようとしたということで相違ないな?」
エミーリオの威圧に耐えながら青褪めた顔で虚勢を張るおっさんが領主の名を出す。何か前もあったな、こういう展開。
王女だと?! と口をパクパクさせながらおっさんがルシアちゃんを見るが、当のルシアちゃんはおっさんを見ることもなく黙々と食事を進めている。それはこの場にはそぐわないのだろうが、その落ち着きぶりと気品さがかえってルシアちゃんが王女であることに信憑性を持たせていた。
『そこの下郎、貴様の主に伝えておけ。目上の者を呼びつけるとは礼儀がなっていない、とな。ああ、それからこれも返そう。このような物で俺様を従えられると思ったか』
ルシアちゃんに一応持たせておいた首飾りを投げ返す。用があるならそっちから来いバーカバーカ。
慌てふためいて転がるように逃げ去っていくおっさんの背中にあっかんべーしてやった。ふぅ、スッキリ。
「困ったものですねぇ」
舌を出す俺をたしなめるように抱き寄せ頭を撫でると、ルシアちゃんが溜息を吐いた。
これからもああいう手合いが押し寄せてくるのだろうか? それは疲れるし勘弁願いたい。
『ふむ……姿を隠しておいた方が良いか?』
「ふふ、なら私がずっとこうして抱いていましょうか」
抱っこ……うん、まぁルシアちゃんが可愛いから良いか。
おっさんと入れ替わりに酒臭い三人が寝に帰ってきた。本当ならもう一泊したいところだが、領主に目をつけられてしまったのでは仕方ない。
酒と香水の匂いをプンプンさせながら千鳥足の三人を捕まえて馬車に詰め込むと出発したのだった。
「この道を暫く行くと分かれ道になていて、右に行くとセントゥロ、左に行くと王都に着くそうです」
御者台で手綱を操りながらエミーリオが言う。
バルトヴィーノ達三人は酒臭くて敵わないため荷台の方の馬車に詰め込んであり、その御者をアルベルトがやるため必然的にベルナルド先生も後ろの馬車にいる。俺を抱きしめたままのルシアちゃんは上機嫌だ。
「一日走った辺りに村があって、そこがタイラーツ領最後の村です」
エミーリオの言葉に答えるのは、サラサラロングのストレートヘアを風に靡かせる少々膨らみが残念な美少女。街の門を出るときにひと悶着あって、王都まで同行することになったのだ。
光の加減によっては銀色にも見えるブロンドの髪を手でかき上げる彼女の名はマリア・タイラーツ。門を出る際に揉める要因となったアレイ・タイラーツの長女であり、引き留められあわや流血沙汰になる寸前で割って入ってくれた勇敢な女性だ。歳は数えで17歳だという。うん、やっぱり発育が残念だ……。
タイラーツを名乗った時点で敵認定しかけた俺達に、彼女は深々と頭を下げた。
「父と兄の愚行をお許しください」
呆気に取られていると更に王都へ向かうとは本当かと聞いてきて、首肯すると一緒に連れていってくれと懇願してきたのだ。
理由を聞けば父と兄の不正や蛮行のせいで領内で暴動が起きかねないほど民心が離れてしまっているらしい。国王に直訴して処罰してもらいたいのだと。
「宜しいのですか?そんなことをしては……」
ルシアちゃんが何を心配しているかわからず首を傾げると、そっと教えてくれた。この世界では爵位は当主だけで、領主の子女であろうとマリアは平民なのだそうだ。平民が国王に直訴することは重罪で死罪になるのだと。
「覚悟の上です。証拠となる書類などを持ち出した私はどちらにしろ追われる身です。ご迷惑おかけしますがどうか連れていって欲しいのです!」
追っ手がかかるのはごめんだが、命懸けで家族を諌めようとしている彼女の覚悟にルシアちゃんが感銘を受けたのだ。
証拠の品の中には俺が突き返したはずの首飾りもあった。
「ならば、私の方からリージェ様を不当に奪われそうになったと訴えます。貴女は証人として共に来てください」
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