中二病ドラゴンさんは暗黒破壊神になりたい

禎祥

文字の大きさ
上 下
96 / 228
第六章 俺様、東方に行く

(閑話)聖女の旅 5

しおりを挟む
 召喚された勇者様を探す私達の旅に、新たなメンバーが加わりました。
 カナメ・ホンジョウ様。召喚された勇者様のお父様なのだそうです。大切な方と突然会えなくなるのはこちらの世界では日常で、私も両親と離れて久しいですが、さすがに異世界へ行ってしまうという事例はありません。
 子供を追って異世界へ渡るというのはどれほどの覚悟なのか、私には想像もできませんわ。

「どうかしましたか? ルシア様」
「いいえ、何でもありませんわ……」

 カナメ様は実年齢よりもかなりお若く見えます。子供のような細長い体躯に優し気なお顔。日々モンスターと戦うこの世界では荒々しい殿方ばかりなので、その優雅で穏やかな雰囲気はまるで絵本の中の王子様、いえ、お姫様のようです。
 無意識にじっと見つめてしまっていたようで、カナメ様が屈んで私の顔を覗くようにして尋ねられました。不意を突かれて頬が熱くなるのを感じます。

「それよりも、その様というのはやめていただけませんか? その敬語も」
「おや。ルシア様こそ、俺を要様と呼ぶじゃないですか」
「子供が年長者を敬うのは当然のことですわ」
「それを言うなら、平民が身分ある方を敬うのも当然ですね」

 もうっ! ああ言えばこう言う!

「私はこれが普段からの口調ですの。ですから、どうぞカナメ様も普段カエデ様にするように接していただけると嬉しいですわ」

 よそよそしいのは嫌ですもの、と伝えたらわかったよ、と笑ってくださいました。
 これでようやく私達、本当の仲間になれますわね。
 と言っても、他の皆さんがいる場所ではまた敬語になってしまうのですが。


 たくさんの食材を持ってきてくださったカナメ様。異世界へ渡った際に女神様から授かったスキルは世界地図というとても珍しいものでした。
 どうやらそれはカナメ様にしか見えないのですが、見た物触れた物出会った者ならば世界中どこにあっても探知できるという非常に優れたもので。冒険者ならば誰もが夢見た能力なのではないでしょうか?

 ですが戦闘に向いたスキルではないこと、カナメ様のいらっしゃった日本という国ではモンスターはおらず喧嘩もしたことがないということでカナメ様は自ら炊事など私達の世話を申し出てくださいました。

「家庭料理しかできないけどね」

 そう言ってカナメ様が作る料理の数々は、最近リージェ様が見つけたショーユなる調味料を使ったものばかりで。
 チポッラと1号さんをポーロの卵でとじたとろみのあるスープも、柔らかな燻製肉もとても美味しかったです。
 特にあのギョーザとかいう食べ物! あのように手間をかけた食べ方を私はこれまで知りません。

「キュッキュ~!!」

 リージェ様の尻尾が揺れています。久々の故郷の味に歓喜しているのがわかります。
 私も洞窟にいた頃にはお食事をご用意しておりましたが、こんなに喜んでもらったことはありません。何でしょう、とても美味しいのに、胸にズシリと重くのしかかるようなこの気持ちは。

「カナメ、嫁に来てくれ!」

 チェーザーレ様の言葉にハッとなりました。いけない、ぼーっとしてましたわ。
 それより、今何て仰いました? 嫁? チェーザーレ様がカナメ様を? あらあらまぁまぁ。

「私、応援致しますわ!」

 昔院長の書斎で読んだご本に、男性同士の純愛の物語がたくさんありましたの。それは誰からも認められない物だからこそ真剣で、懸命で。親の決めた婚約者と結婚することが主流の現実の男女の結婚よりよほどお互いを大事にしているところがとても素晴らしくて。
 ああ、院長。私達の憧れる真実の愛がここにありましてよ!




「キュッキュキュキュィッ」
「ええ、できますよ。明日の朝には食べられるよう今から仕込んでおきましょう」
「キュッキュ~」

 食後、リージェ様が私と一緒に摘んだハジミをカナメ様に渡して何か頼んでおります。
 ジャコが無いからベーコンを使ってみようか、というカナメ様の言葉に、リージェ様が食事を終えた後だというのに涎を垂らしておいでです。
 正直あの痺れ実はどう料理しても美味しくなるとは思えないのですけれど。リージェ様も調味料と仰っていたこのハジカミを、あのようにリージェ様が涎を垂らしてしまわれるほどの料理に出来るのでしょうか?

 最近はリージェ様はエミーリオ様やカナメ様のことばかりであまり私に構ってくださらない感じがします。やはり美味しい食事を作れる人の方が良いのでしょうか?
 私は長く修道院におりました。そこはダンジョンの最下層ということもあり、ザンナ・メロンくらいしか食べる物がありませんでした。
 だから、私にはリージェ様が喜ぶような料理を何一つ作って差し上げることができません。解体すらできないのですから。私、役立たずですわ……。

「あの、カナメ様。私に、リージェ様の故郷の味を教えていただけませんか? カナメ様がいない間も美味しいお食事を作って差し上げたいのです」
「ええ、構いませんよ」

 小声で故郷? と呟く声が聞こえてしまいました。もしかしたら、リージェ様がカツキ様の同窓生だとご存知ないのでしょうか?
 リージェ様が伝えていないことを、私が言う訳にはいきませんわね。


「それにしても、カナメ様? カツキ様のいらっしゃるアスー皇国へはまだまだかかりますのよ。こちらの状況がわかるのであれば、頻繁にいらっしゃらなくても良いのでは?」
「うん、でも、じっとしていられなくてね。少しでもあの子の側に、あの子と同じ空の下にいたいんだ。こんな俺でも何かできることがあるかもしれないしね」

 カナメ様に教わりながらベーコンという燻製肉にナイフを入れます。こちらの干し肉のようなものかと思ったら、まるで焼き立てのように柔らかくスッと歯が入ることに驚きました。
 自分から料理を教えてくれと言いましたのに、追い返すような言い方をしてしまったかと不安だったのですがカナメ様は気にされていないようです。


「ならば、二手に分かれるとか……」
「「「「何だと……?!」」」」

 会話を後ろで聞いていた皆様が「カナメと一緒に行くのは俺だ!」と言い争いを始めてしまいました。リージェ様まで!

「カナメ様、申し訳ありませんがやはり私達の道行きに同行していただけますか?」
「……はい」

 言い争う人達に苦笑いして、カナメ様は二手に分かれるという提案を聞かなかったことにして下さいました。
 カナメ様は内面も素敵な大人なのですわ。私も淑女として見習わないといけませんわね。
しおりを挟む
感想 289

あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

処理中です...