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第五章 俺様、北方へ行く
17、ルシアちゃんマジ天使!
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『そう言えば1号、弟の息子が勇者の一人と言ったな。つまり貴様の甥だろう? 誰だ?』
ベネディジョンへの道中、馬車に揺られながらふとそんなことを聞いてみた。
確か、クラスには木下なんて苗字の奴はいなかった気がしたのだ。
「ああ、お前友達いなかったもんな」
『ぐっ、今はそんなことは関係なかろう! それに俺様は高貴な存在なのだ友人など……』
「はいはい」
ニヤニヤ笑う1号に軽くあしらわれてキーッと奇声を上げる。またからかわれた……!
「本庄だよ。本庄香月」
『ああ……』
名前を言われて思い出すのは、栗毛の髪に気の強そうな釣り眉釣り目の男子生徒。苦手なタイプかと思いきや、割と世話焼きな上に穏やかに話す大人びた奴だった。常に人に囲まれている割に、一歩引いてそれを見守っているような印象で。武谷同様俺にも散々構ってきた奴だ。
『名字が違うのだな』
「ああ、婿養子に入ったからな」
『きのこが?』
「俺じゃねぇよ。弟の方」
良かった、複雑な事情じゃなくて。何も考えずに聞いてしまったが他人の家庭の事情なんて背負いきれない。少なくとも俺の経験値やコミュ力はそこまで高くない。
「その香月様という方も、すぐに見つかると良いですね」
にっこり微笑むルシアちゃんマジ天使!
会えたら良いねー、うんうん、と話題終了。
その後、ルシアちゃんが乗っている方の馬車を引く二頭に、俺が並走するエヴァと後ろの馬車を引く二頭に回復魔法を幾度かかけ、ベネディジョンへ到着した。
急いだ甲斐があってまだ日は高い。エミーリオが馬の世話をしている間に調査をしてしまおうということになった。
馬車から降りて目に入ったのは、濁りまくって底の見えない泉。パトゥリモーニオのものよりは小さいが、それでもノルドの生活を支える基盤となっていた水源だけあってかなり巨大だ。俺の通っていた学校の敷地二つ分はあるんじゃないだろうか?
「まぁ、明らかに割れてんだが、念のためな」
「そうだね。何が潜んでいるかわからないし、慎重に行こう」
目的の黒岩は泉の畔にあり、完全に割れてしまっていた。爆発したかのように欠片が四散している。
辺りはこれまで同様荒地が広がり、泉も土地も元の色がわからないほどどす黒く変色してしまっている。そして、同じように変色し崩れ落ちた建物が1軒。その瓦礫の下から地下室らしい扉が覗いていて、そこを調べようというのだ。
まずは鑑定だな。情報を入手するには一番手っ取り早い。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【ベネディジョン】
ノルドで二番目に大きな泉。及びその周辺地域。その昔聖女が暗黒破壊神を封じた際に、封じるしかなかったことを嘆いて流した涙が泉になったとされる。その泉の周りには常に様々な花が咲き乱れ、木は果実を実らせたという逸話からベネディジョン(恵み)と呼ばれる。土地の管理者は25名だった。
半年前に発生したスタンピードが贄となり暗黒破壊神が復活。その瘴気に毒されてしまって浄化をしなければモンスター以外の生き物は住めないでしょう。どうかお願いします。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
何か頼まれた。この地を浄化しろ? 何で俺が?
と思ったけど、建物に近づいたドナートとチェーザーレが急に咳き込んで倒れた。これはヤバいかもしれない。
『ルシア、結界を張れ! 総員その中に避難するんだ!』
「は、はい!」
ルシアちゃんに馬車の周りに結界を張らせる。ドナートとチェーザーレはアルベルトとバルトヴィーノが布で口を押えながら引っ張ってきた。
「ルシア様、土地の浄化はできる?」
「え、はい。結界の要領で……」
同じく土地を鑑定したベルナルド先生がルシアちゃんに浄化を頼んでいる。
結界の要領ね……。あの黒いのがなくなるようにイメージすれば良いのだろうか? いや、その前に俺結界使えねぇわ。
『ベルナルド先生の鑑定では誰か生存者はいるのか?』
「いいや、ここは死の土地となっているね」
「おいおい、先に言えよ!」
「それならもうここは調べなくて良いんじゃないか?」
生存者はなし、瘴気に冒されモンスター以外生きられない土地になっていると俺と全く同じ鑑定結果をベルナルド先生が口にする。それを聞いてバルトヴィーノが知っていれば不用意にうろつかないのにと怒り、アルベルトが調査をするまでもないから早く脱出しようと提案する。
「で? どうする聖女様?」
「……浄化してから行きます。見たところここに暗黒破壊神はいません」
「いたら俺達の索敵に引っかかってるし、それ以前にとっくに殺されてるな」
アルベルトが決定をルシアちゃんに委ねると、ルシアちゃんは後から来た人がドナート達のように知らずに立ち入って瘴気で死ぬのは防ぎたいと訴えた。
黒岩から脱した暗黒破壊神はバルトヴィーノの言う通り索敵に反応はなく、ここを拠点にはせずにどこかへ行ったようだ。
「女神様、どうかお力をお与えください。この土地の汚れを取り払い、生きとし生けるものに安息の地をお与えください……」
ルシアちゃんが祈りを捧げる横で、俺はドナート達に回復魔法をかける。瘴気の中をうろついていた他のメンバーと馬達にも。
気づけばルシアちゃんを中心に眩い光が辺りを包み、視界が戻ったと思ったら地面や建物、泉に染みついていた黒い物は綺麗さっぱり消え去っていた。
ベネディジョンへの道中、馬車に揺られながらふとそんなことを聞いてみた。
確か、クラスには木下なんて苗字の奴はいなかった気がしたのだ。
「ああ、お前友達いなかったもんな」
『ぐっ、今はそんなことは関係なかろう! それに俺様は高貴な存在なのだ友人など……』
「はいはい」
ニヤニヤ笑う1号に軽くあしらわれてキーッと奇声を上げる。またからかわれた……!
「本庄だよ。本庄香月」
『ああ……』
名前を言われて思い出すのは、栗毛の髪に気の強そうな釣り眉釣り目の男子生徒。苦手なタイプかと思いきや、割と世話焼きな上に穏やかに話す大人びた奴だった。常に人に囲まれている割に、一歩引いてそれを見守っているような印象で。武谷同様俺にも散々構ってきた奴だ。
『名字が違うのだな』
「ああ、婿養子に入ったからな」
『きのこが?』
「俺じゃねぇよ。弟の方」
良かった、複雑な事情じゃなくて。何も考えずに聞いてしまったが他人の家庭の事情なんて背負いきれない。少なくとも俺の経験値やコミュ力はそこまで高くない。
「その香月様という方も、すぐに見つかると良いですね」
にっこり微笑むルシアちゃんマジ天使!
会えたら良いねー、うんうん、と話題終了。
その後、ルシアちゃんが乗っている方の馬車を引く二頭に、俺が並走するエヴァと後ろの馬車を引く二頭に回復魔法を幾度かかけ、ベネディジョンへ到着した。
急いだ甲斐があってまだ日は高い。エミーリオが馬の世話をしている間に調査をしてしまおうということになった。
馬車から降りて目に入ったのは、濁りまくって底の見えない泉。パトゥリモーニオのものよりは小さいが、それでもノルドの生活を支える基盤となっていた水源だけあってかなり巨大だ。俺の通っていた学校の敷地二つ分はあるんじゃないだろうか?
「まぁ、明らかに割れてんだが、念のためな」
「そうだね。何が潜んでいるかわからないし、慎重に行こう」
目的の黒岩は泉の畔にあり、完全に割れてしまっていた。爆発したかのように欠片が四散している。
辺りはこれまで同様荒地が広がり、泉も土地も元の色がわからないほどどす黒く変色してしまっている。そして、同じように変色し崩れ落ちた建物が1軒。その瓦礫の下から地下室らしい扉が覗いていて、そこを調べようというのだ。
まずは鑑定だな。情報を入手するには一番手っ取り早い。
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【ベネディジョン】
ノルドで二番目に大きな泉。及びその周辺地域。その昔聖女が暗黒破壊神を封じた際に、封じるしかなかったことを嘆いて流した涙が泉になったとされる。その泉の周りには常に様々な花が咲き乱れ、木は果実を実らせたという逸話からベネディジョン(恵み)と呼ばれる。土地の管理者は25名だった。
半年前に発生したスタンピードが贄となり暗黒破壊神が復活。その瘴気に毒されてしまって浄化をしなければモンスター以外の生き物は住めないでしょう。どうかお願いします。
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何か頼まれた。この地を浄化しろ? 何で俺が?
と思ったけど、建物に近づいたドナートとチェーザーレが急に咳き込んで倒れた。これはヤバいかもしれない。
『ルシア、結界を張れ! 総員その中に避難するんだ!』
「は、はい!」
ルシアちゃんに馬車の周りに結界を張らせる。ドナートとチェーザーレはアルベルトとバルトヴィーノが布で口を押えながら引っ張ってきた。
「ルシア様、土地の浄化はできる?」
「え、はい。結界の要領で……」
同じく土地を鑑定したベルナルド先生がルシアちゃんに浄化を頼んでいる。
結界の要領ね……。あの黒いのがなくなるようにイメージすれば良いのだろうか? いや、その前に俺結界使えねぇわ。
『ベルナルド先生の鑑定では誰か生存者はいるのか?』
「いいや、ここは死の土地となっているね」
「おいおい、先に言えよ!」
「それならもうここは調べなくて良いんじゃないか?」
生存者はなし、瘴気に冒されモンスター以外生きられない土地になっていると俺と全く同じ鑑定結果をベルナルド先生が口にする。それを聞いてバルトヴィーノが知っていれば不用意にうろつかないのにと怒り、アルベルトが調査をするまでもないから早く脱出しようと提案する。
「で? どうする聖女様?」
「……浄化してから行きます。見たところここに暗黒破壊神はいません」
「いたら俺達の索敵に引っかかってるし、それ以前にとっくに殺されてるな」
アルベルトが決定をルシアちゃんに委ねると、ルシアちゃんは後から来た人がドナート達のように知らずに立ち入って瘴気で死ぬのは防ぎたいと訴えた。
黒岩から脱した暗黒破壊神はバルトヴィーノの言う通り索敵に反応はなく、ここを拠点にはせずにどこかへ行ったようだ。
「女神様、どうかお力をお与えください。この土地の汚れを取り払い、生きとし生けるものに安息の地をお与えください……」
ルシアちゃんが祈りを捧げる横で、俺はドナート達に回復魔法をかける。瘴気の中をうろついていた他のメンバーと馬達にも。
気づけばルシアちゃんを中心に眩い光が辺りを包み、視界が戻ったと思ったら地面や建物、泉に染みついていた黒い物は綺麗さっぱり消え去っていた。
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