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第五章 俺様、北方へ行く
15、……何とも、やり切れない話だ
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1号が持ち帰った日誌によると、半年前ノルドでクーデターが起きた。その時王族は全て処刑。動機は清貧な移動暮らしに嫌気がさし、もっと生活を向上させ国を発展させたいというものだったそうだ。
時を同じくして暗黒破壊神の復活とスタンピード、つまりモンスターの大量発生の一報。
クーデターによって支配者となったばかりの若者たちは王族の務めや秘伝を知らないまま。つまり通信水晶の使い方も勇者召喚の方法も知らなかった。
暗黒破壊神の復活を知らせたマジィアからの通信を受信だけはできたが、ノルドから発信をすることはできなかったそうだ。確認もできないまま一方向的な情報だけで召喚に挑み、失敗。マジィアがその様子を映像で見ていたため、勇者召喚に失敗の報だけはセントゥロにも伝わっていたのだった。
情報を発信することができなければ、隣国へ救助を要請することもできない。ノルドの滅亡はなるべくしてなったのだ。
『……何とも、やり切れない話だ』
「ですね……」
日誌を読んだ俺達から出るのは溜息ばかり。
ここを守ろうと戦った者達は死に絶え、遺体すらイナゴに食われたのだろう。兵どもが夢の跡とは正しくこの事か。
『地下室は無事だったのであろう? そこに誰かいなかったのか?』
モンスターの襲撃にすら耐えた建物の地下室。戦えない者を匿おうとするのが普通だと俺は思い立った。
「いたよ……死んでた」
血の跡が無いから恐らく餓死じゃないかって。普段はおどけてばかりの1号も、こんな時はさすがにふざけられないようだ。
「で? そっちの成果は?」
『ああ、5名だった。丁重に埋葬されていたよ』
馬車から遺体を下ろし、覚悟を決める。半年前、それも召喚に失敗してバラバラになったと聞く。かなりショッキングな状態だろう。
無理に見なくても良いのだといったにも関わらず、それでも後ろを向く奴は誰もいなかった。
「じゃあ、開けるぞ」
普段は影の薄い食いしん坊バルトヴィーノさんだがこんな時には非常に頼もしい。率先して遺体の包みを開けてくれた。
恐る恐る目を開けて確認すると、想像より綺麗な状態でホッとした。マジィアの時と同様、蘇り防止用の術が腐敗を防いでいたようだ。匂いも気にならないほどだった。
胴体は臓物が零れないようになのか布を当てて紐で巻いてあったし、各パーツも布を巻いて繋いであって、できるだけ綺麗に丁寧に埋葬してくれたことが伺える。ただ、バラバラになってしまった部位が誰のものかわからなかったのだろう。明らかに男子の足が女子から生えていたのには何とも言えない感情になり、断面を見ないようそっと適当な男女で入れ替えた。
「で、どうだ? 自分の死体とご対面した感想は?」
『特に何も。やはり、といった感じだな』
「なんだ、つまらん」
つまらんと言われてもな……本当に、マネキンでも見ている気分だもの。
遺体は男子三人、女子二人。その内の一人が俺だったわけで。1号はその身元を確認すると、ぼーっと遺体を見ていた俺に気付いていつもの砕けた態度で聞いてきた。遺体を前にけしからんなんて怒る奴は誰もいないし、ここは1号なりの俺への気遣いと思っておこう。
「これが、リージェ様の……」
「本当に黒髪なんだな……」
『俺の国では黒髪黒目が普通だったからな』
こちらと違い、髪が黒くない者は黒く染めないとひんしゅくを買うような社会だったと言うと皆目を丸くしていた。こちらでは髪を染めるという風習は無いらしい。だから黒髪はそのまま追放になるとも言っていた。
「他の勇者様達が心配ですね。オーリエンには隷属の術のようなものもあると聞いておりますし、酷い扱いを受けていないと良いのですが……」
「さっさとベネディジョンの黒岩を確認して、勇者を迎えに行こう」
あれ? アスーとオーリエン、どっち先に行くんだったっけ?
江間みたく誰か生き延びていることを期待したのだが、あの鑑定の結果だと望み薄だった。残り28人はアスーとオーリエンの二国にいるのだろう。
「焦るのは解るけど、今日はここで一泊だ。もう日が暮れる」
ルシアちゃんの不安げな声に早く先へ進もうと言うドナートと、それに同調して腰を浮かせる面々だったが、アルベルトの声にそうだったと我に返る。
あんな化け物と遭遇したばかりだし、闇夜の中進むのは危険すぎる。
「まぁ、取り敢えず食事にしましょう」
いつの間にか野営の準備をしていたエミーリオ。遺体を元通り布で包み、何事もなかったかのように食事を囲むが、さすがにエミーリオとルシアちゃんはあまり食欲が出ないようだった。
この遺体は、きのこが作った拠点まで連れていくのかと1号に聞くと、ここからベネディジョンに向かってそこから拠点に向かうまでの道中で帰しきるから寄らなくて大丈夫だそうだ。
「あくまでも、あの拠点は連れ帰れないほどの人数がいた時のための物だからな」
こちらの世界で迫害されている者も数名保護しているし、使わなくて済むならそれが一番なのだと。
その夜、1号から報せを受けたルナさんが迎えに来て申し訳なさそうに俺の死体を連れて帰った。別に気を使わなくても大丈夫なのに。ルナさんの方こそ、こっちと日本の行き来ご苦労様です。
時を同じくして暗黒破壊神の復活とスタンピード、つまりモンスターの大量発生の一報。
クーデターによって支配者となったばかりの若者たちは王族の務めや秘伝を知らないまま。つまり通信水晶の使い方も勇者召喚の方法も知らなかった。
暗黒破壊神の復活を知らせたマジィアからの通信を受信だけはできたが、ノルドから発信をすることはできなかったそうだ。確認もできないまま一方向的な情報だけで召喚に挑み、失敗。マジィアがその様子を映像で見ていたため、勇者召喚に失敗の報だけはセントゥロにも伝わっていたのだった。
情報を発信することができなければ、隣国へ救助を要請することもできない。ノルドの滅亡はなるべくしてなったのだ。
『……何とも、やり切れない話だ』
「ですね……」
日誌を読んだ俺達から出るのは溜息ばかり。
ここを守ろうと戦った者達は死に絶え、遺体すらイナゴに食われたのだろう。兵どもが夢の跡とは正しくこの事か。
『地下室は無事だったのであろう? そこに誰かいなかったのか?』
モンスターの襲撃にすら耐えた建物の地下室。戦えない者を匿おうとするのが普通だと俺は思い立った。
「いたよ……死んでた」
血の跡が無いから恐らく餓死じゃないかって。普段はおどけてばかりの1号も、こんな時はさすがにふざけられないようだ。
「で? そっちの成果は?」
『ああ、5名だった。丁重に埋葬されていたよ』
馬車から遺体を下ろし、覚悟を決める。半年前、それも召喚に失敗してバラバラになったと聞く。かなりショッキングな状態だろう。
無理に見なくても良いのだといったにも関わらず、それでも後ろを向く奴は誰もいなかった。
「じゃあ、開けるぞ」
普段は影の薄い食いしん坊バルトヴィーノさんだがこんな時には非常に頼もしい。率先して遺体の包みを開けてくれた。
恐る恐る目を開けて確認すると、想像より綺麗な状態でホッとした。マジィアの時と同様、蘇り防止用の術が腐敗を防いでいたようだ。匂いも気にならないほどだった。
胴体は臓物が零れないようになのか布を当てて紐で巻いてあったし、各パーツも布を巻いて繋いであって、できるだけ綺麗に丁寧に埋葬してくれたことが伺える。ただ、バラバラになってしまった部位が誰のものかわからなかったのだろう。明らかに男子の足が女子から生えていたのには何とも言えない感情になり、断面を見ないようそっと適当な男女で入れ替えた。
「で、どうだ? 自分の死体とご対面した感想は?」
『特に何も。やはり、といった感じだな』
「なんだ、つまらん」
つまらんと言われてもな……本当に、マネキンでも見ている気分だもの。
遺体は男子三人、女子二人。その内の一人が俺だったわけで。1号はその身元を確認すると、ぼーっと遺体を見ていた俺に気付いていつもの砕けた態度で聞いてきた。遺体を前にけしからんなんて怒る奴は誰もいないし、ここは1号なりの俺への気遣いと思っておこう。
「これが、リージェ様の……」
「本当に黒髪なんだな……」
『俺の国では黒髪黒目が普通だったからな』
こちらと違い、髪が黒くない者は黒く染めないとひんしゅくを買うような社会だったと言うと皆目を丸くしていた。こちらでは髪を染めるという風習は無いらしい。だから黒髪はそのまま追放になるとも言っていた。
「他の勇者様達が心配ですね。オーリエンには隷属の術のようなものもあると聞いておりますし、酷い扱いを受けていないと良いのですが……」
「さっさとベネディジョンの黒岩を確認して、勇者を迎えに行こう」
あれ? アスーとオーリエン、どっち先に行くんだったっけ?
江間みたく誰か生き延びていることを期待したのだが、あの鑑定の結果だと望み薄だった。残り28人はアスーとオーリエンの二国にいるのだろう。
「焦るのは解るけど、今日はここで一泊だ。もう日が暮れる」
ルシアちゃんの不安げな声に早く先へ進もうと言うドナートと、それに同調して腰を浮かせる面々だったが、アルベルトの声にそうだったと我に返る。
あんな化け物と遭遇したばかりだし、闇夜の中進むのは危険すぎる。
「まぁ、取り敢えず食事にしましょう」
いつの間にか野営の準備をしていたエミーリオ。遺体を元通り布で包み、何事もなかったかのように食事を囲むが、さすがにエミーリオとルシアちゃんはあまり食欲が出ないようだった。
この遺体は、きのこが作った拠点まで連れていくのかと1号に聞くと、ここからベネディジョンに向かってそこから拠点に向かうまでの道中で帰しきるから寄らなくて大丈夫だそうだ。
「あくまでも、あの拠点は連れ帰れないほどの人数がいた時のための物だからな」
こちらの世界で迫害されている者も数名保護しているし、使わなくて済むならそれが一番なのだと。
その夜、1号から報せを受けたルナさんが迎えに来て申し訳なさそうに俺の死体を連れて帰った。別に気を使わなくても大丈夫なのに。ルナさんの方こそ、こっちと日本の行き来ご苦労様です。
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