58 / 228
第四章 俺様、西方に行く
9、ふふ~ん、聞いて驚け!
しおりを挟む
「……取り敢えず、失踪したのは35人。あの日欠席していた1人と俺以外が失踪扱いだ。で、唯一戻ってきた俺が犯人扱い」
『そうか……大変だったな』
それはそうだろう。あの場にいて唯一失踪しなかったことになるのだから。
きのこは常に警察の監視上にあるため、土日の昼間だけ来て夜には日本に帰るという生活らしい。
残された生徒の気持ちを考慮して、教師も辞めたそうだ。
「じゃ、次そっちの番な。お前さんと一緒に召喚された他のクラスの連中はどこだ?」
『これから探しに行くところだ』
召喚したクラスメイト達は勇者として4つの国に散っていること、そしてこれから向かうオチデンとノルドでは公式には死んだことになっていることを説明した。
「そっか。じゃあ、その遺体を何とか盗み出してくれないか」
『何だと?』
「俺の目的は消息不明の生徒達を日本に連れ戻すことだ。死んでるなら、遺体だけでも親元に帰してやりたい」
落書きみたいな顔でわかりにくいが、きのこは真剣だった。
一度に連れて帰れるのは一人だけ。それは死体も含めてらしい。約束はできないが、と言うとできる範囲で良いと了承してくれた。
「本当は、お前さんも連れて帰ってやりたいんだがね……」
既に転生してしまっている俺は無理に連れて行っても自我のない蜥蜴になってしまう可能性が高いそうだ。それならこっちで生き抜く方が良いに決まってる。
『俺様には暗黒破壊神を倒すという使命があるからな』
きのこの言葉に俺が帰ると勘違いした涙目のエミーリオが、俺の言葉に満面の笑みを浮かべてあからさまにホッとしている。泣いたり笑ったり、忙しい奴だ。
話し込んでいる間に良い匂いが立ち込めてきて、俺の腹が鳴った。
エミーリオがクスクス笑いながら器に完成した料理を盛ってくれる。
今日の料理はエリンギと松茸の吸い物と、きのこたっぷりの炒め物。そして、固めに焼かれたバゲットだ。さっそく仕入れた醤油を使ってくれたようだ。流石にバターは無いから普通の油だったけど、野営だし贅沢は言えない。
「うぅ~ん、良い香りだ。香しい松茸の風味をより一層高める醤油の香ばしい匂い。出汁は……ほう、干し肉を入れているのか。炒め物も、アヒージョみたいで美味いな」
『貴様が食うのかよ!』
エミーリオの分が無くなるだろうが!
自分の身体から生えたものをモリモリと貪るきのこから器を取り戻し、「また作ればよいのですから」と遠慮するエミーリオに渡す。
アルベルト達とはまた別の騒がしさに包まれながら食事を終えると、きのこと情報交換を再開する。
「……少なくともあと一人死んでるって話だよな? あと一人は誰だ?」
『知らぬ。それを確かめに今向かっているのだ』
「オチデンの勇者が黒髪だったという情報くらいしか得られておりませんね」
「使えねぇなあ。半年もいたのに何やってんだよ」
きのこの言葉にカチンとする俺とエミーリオ。だが、抑えろ、俺。
きのこは、あちらの世界で俺達が失踪扱いになっているという情報をもたらしてくれた。さらに、その捜索が打ち切られ、保護者達が必死の署名活動や捜索活動をしているらしいことも。
『で? 俺様達を使えないという貴様はこの半年何をしていたのだ?』
「ふふ~ん、聞いて驚け! 村を作っていた!」
『は?』
「村、ですか?」
きのこの話だと、最初の1カ月はどこかの村に入ったり誰かに協力を仰ごうとしたが、こちらの世界の人間には逃げられたり追われたりしていたらしい。
で、森の中をさまよっていたら黒髪の男が行き倒れているのを助けたのだと。
「それで知ったのが、黒髪を忌避する習慣。うちの生徒は半数以上黒髪だろ? で、俺が連れ帰れるのは一度に一人だけ。なら、どこか匿う場所が必要だってね」
水源を確保し、井戸を掘ったり。土地を開墾して畑を作ったり。動物やモンスターに侵入されないよう防壁や堀を作ったり。最低限生活ができるだけの環境を整えていたらしい。
更には日本から保存食やペットボトルなど防災アイテムも持ち込んでいてかなり快適らしい。何それずるい。
「あ、そうだ。協力のお礼ってことでこれを渡しておく」
きのこが差し出したのは地図。それも、かなり詳しい。
A4サイズの紙に、国境や河川の位置、神殿や城などの大きな建物が細かく書き込まれている。だが、驚くべきはそこではなく。
「これはまさか、外界の地図?!」
そう、人跡未踏の暗黒破壊神の支配地。過去何度も調査団を派遣し誰一人帰ってこなかったという範囲にまで製図がされていたのだ。
今いる場所が起点になっているようで、地図の右半分の下がセントゥロ、右半分の上はオチデンの関所。左半分は森で河川の位置や遺跡、集落跡地が書き込まれていた。
「まだ奥地までは行けてないけどな」
『どうやって調べたのだ?』
「そりゃお前、見ていたろ? 俺が増殖するの」
つまり、胞子を飛ばして生み出した分身体をあちこちに派遣していたと。で、小っちゃいきこのが食われたり食われたり食われたりしながら少しずつ書き込んでいったのだと。って、食われすぎだろ。
『そうか……大変だったな』
それはそうだろう。あの場にいて唯一失踪しなかったことになるのだから。
きのこは常に警察の監視上にあるため、土日の昼間だけ来て夜には日本に帰るという生活らしい。
残された生徒の気持ちを考慮して、教師も辞めたそうだ。
「じゃ、次そっちの番な。お前さんと一緒に召喚された他のクラスの連中はどこだ?」
『これから探しに行くところだ』
召喚したクラスメイト達は勇者として4つの国に散っていること、そしてこれから向かうオチデンとノルドでは公式には死んだことになっていることを説明した。
「そっか。じゃあ、その遺体を何とか盗み出してくれないか」
『何だと?』
「俺の目的は消息不明の生徒達を日本に連れ戻すことだ。死んでるなら、遺体だけでも親元に帰してやりたい」
落書きみたいな顔でわかりにくいが、きのこは真剣だった。
一度に連れて帰れるのは一人だけ。それは死体も含めてらしい。約束はできないが、と言うとできる範囲で良いと了承してくれた。
「本当は、お前さんも連れて帰ってやりたいんだがね……」
既に転生してしまっている俺は無理に連れて行っても自我のない蜥蜴になってしまう可能性が高いそうだ。それならこっちで生き抜く方が良いに決まってる。
『俺様には暗黒破壊神を倒すという使命があるからな』
きのこの言葉に俺が帰ると勘違いした涙目のエミーリオが、俺の言葉に満面の笑みを浮かべてあからさまにホッとしている。泣いたり笑ったり、忙しい奴だ。
話し込んでいる間に良い匂いが立ち込めてきて、俺の腹が鳴った。
エミーリオがクスクス笑いながら器に完成した料理を盛ってくれる。
今日の料理はエリンギと松茸の吸い物と、きのこたっぷりの炒め物。そして、固めに焼かれたバゲットだ。さっそく仕入れた醤油を使ってくれたようだ。流石にバターは無いから普通の油だったけど、野営だし贅沢は言えない。
「うぅ~ん、良い香りだ。香しい松茸の風味をより一層高める醤油の香ばしい匂い。出汁は……ほう、干し肉を入れているのか。炒め物も、アヒージョみたいで美味いな」
『貴様が食うのかよ!』
エミーリオの分が無くなるだろうが!
自分の身体から生えたものをモリモリと貪るきのこから器を取り戻し、「また作ればよいのですから」と遠慮するエミーリオに渡す。
アルベルト達とはまた別の騒がしさに包まれながら食事を終えると、きのこと情報交換を再開する。
「……少なくともあと一人死んでるって話だよな? あと一人は誰だ?」
『知らぬ。それを確かめに今向かっているのだ』
「オチデンの勇者が黒髪だったという情報くらいしか得られておりませんね」
「使えねぇなあ。半年もいたのに何やってんだよ」
きのこの言葉にカチンとする俺とエミーリオ。だが、抑えろ、俺。
きのこは、あちらの世界で俺達が失踪扱いになっているという情報をもたらしてくれた。さらに、その捜索が打ち切られ、保護者達が必死の署名活動や捜索活動をしているらしいことも。
『で? 俺様達を使えないという貴様はこの半年何をしていたのだ?』
「ふふ~ん、聞いて驚け! 村を作っていた!」
『は?』
「村、ですか?」
きのこの話だと、最初の1カ月はどこかの村に入ったり誰かに協力を仰ごうとしたが、こちらの世界の人間には逃げられたり追われたりしていたらしい。
で、森の中をさまよっていたら黒髪の男が行き倒れているのを助けたのだと。
「それで知ったのが、黒髪を忌避する習慣。うちの生徒は半数以上黒髪だろ? で、俺が連れ帰れるのは一度に一人だけ。なら、どこか匿う場所が必要だってね」
水源を確保し、井戸を掘ったり。土地を開墾して畑を作ったり。動物やモンスターに侵入されないよう防壁や堀を作ったり。最低限生活ができるだけの環境を整えていたらしい。
更には日本から保存食やペットボトルなど防災アイテムも持ち込んでいてかなり快適らしい。何それずるい。
「あ、そうだ。協力のお礼ってことでこれを渡しておく」
きのこが差し出したのは地図。それも、かなり詳しい。
A4サイズの紙に、国境や河川の位置、神殿や城などの大きな建物が細かく書き込まれている。だが、驚くべきはそこではなく。
「これはまさか、外界の地図?!」
そう、人跡未踏の暗黒破壊神の支配地。過去何度も調査団を派遣し誰一人帰ってこなかったという範囲にまで製図がされていたのだ。
今いる場所が起点になっているようで、地図の右半分の下がセントゥロ、右半分の上はオチデンの関所。左半分は森で河川の位置や遺跡、集落跡地が書き込まれていた。
「まだ奥地までは行けてないけどな」
『どうやって調べたのだ?』
「そりゃお前、見ていたろ? 俺が増殖するの」
つまり、胞子を飛ばして生み出した分身体をあちこちに派遣していたと。で、小っちゃいきこのが食われたり食われたり食われたりしながら少しずつ書き込んでいったのだと。って、食われすぎだろ。
0
お気に入りに追加
128
あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。


【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる