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第四章 俺様、西方に行く
1、はぁぁぁぁぁあああああ?!
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「さて、どうしたもんかね」
考えなしに王都を飛び出してきてしまったわけだが。
方角的には北に来てしまった。足元には平原が広がっている。そこを、幅の広い街道が正面と左右に伸びている。
当初の計画では東のオーリエンに行って勇者と合流し、そこから南のアスーで勇者と合流するってなっていた。きっとルシアちゃんはそのルートを辿るのだろう。
先行してオーリエンの勇者に合流するか、ルシアちゃんがオーリエンの勇者と合流することを想定して先にアスーの勇者に合流するか。
「ふむ……」
「聖竜様―」
いやいや、思い出せ俺。俺は暗黒破壊神だ。孤高の存在なのだ。ならば、俺がとるべき行動は勇者と合流することでもルシアちゃんを待つことでもない!
ひたすらに黒モンスターを狩ってレベルアップ&偽物の弱体化! これだな!
「聖竜様~」
いやいやいや。聞こえない。何も見てないよ。
何かキラキラした目で手を振りながら追いかけてくる騎士団長なんて幻覚に決まってる。
「聖竜様、待ってくださ~い」
チッ。
このまま振り切っても良かったのだけど、エミーリオの乗る馬がもう息も絶え絶えって感じで。
馬が潰れればいかに騎士団長といえどもモンスターにやられてしまうかもしれないし。
……仕方ない。
『何故、ついてくるのだ?』
「一緒に連れて行ってください!」
おい、お前騎士団長だよな?! そんなポンポン出奔していいわけあるか! 国が潰れるわ!
『貴様は騎士団長だろう? 勤めはどうした?』
「辞めてきました!!」
はぁぁぁぁぁあああああ?!
ちょ、何言ってくれてんのこの人?!
『辞めてきたって……国は? 聖女の守りはどうするのだ?』
「大陸最強のアルベルト殿がります。それに、自分はまだまだ力不足で修行が足りぬと此度のことで痛感致しまして」
それでついてきちゃったの?
あぁぁ、もうっ!
『勝手にするが良い』
「はいっ!」
ほんとこの人何でこんなにキラキラしてるの?
俺は取り敢えずエミーリオに馬を休ませてやるように言った。
鞍を外し魔法で水を出すと、飲ませている間自分も兜を脱いでいた。
俺はこれまで深く関わることがないだろうと思っていた騎士団長の顔を初めてちゃんと見た。
エミーリオは背の高いキラキラしたイケメンだ。ウェーブのかかった金髪をリボンで一括りにしている。スッキリまとめているからか野暮ったくなく、スカイブルーの瞳と相まってとても爽やかな好青年といった感じだ。
ここまで来るのにかなり汗をかいているのだが、男臭さを全く感じさせない。
『怪我はどうした?』
「ええ、ほらもうすっかりこの通り」
エミーリオは腕甲を外し手をヒラヒラと両面見せる。
骨の見えていた指は肉が盛り上がり、火傷の痕のようにそこだけ皮膚が薄いがちゃんと指が生えていた。
「まだ皮が薄いので、ふとした拍子に大流血ですが普通に動きますよ」
エミーリオは怪我をさせたのも俺だというのに、礼を言ってくる。
そのキラキラ笑顔が眩しすぎる。
「自分は、ずっと勇者になりたかったのです」
突然何か語り出しちゃった。
何でも、聖女と勇者が暗黒破壊神を倒す物語を幼い頃に読み聞かされ、ずっと憧れていたのだと。で、騎士の家系であったため勇者になりたいと言ったら色々稽古をつけてもらえたのだが、気付いたら騎士になっていたと。乗せられたんだな。
勇者になるため、と言えば率先して稽古に打ち込むのだから、これ以上育てやすい子はいなかっただろう。
そして、暗黒破壊神の復活(偽物だがな!)。世の中にはベルナルド先生やアルベルトなど自分より強い人間が大勢いて、自分はと言えば大した活躍もできず復興作業ばかり。
戦争が無い時代には騎士などは訓練もまともにしない奴らばかりだったそうで。
つまるところ色々不満が溜まっていたんだな。
「ですが、自分は勇者に選ばれませんでした。ならば、せめて共に戦いたいのです! どうか、連れて行ってください!」
改めて頭を下げるエミーリオ。
こんな暑苦しいキャラだったのね……。
ダメって言ったところでもう仕事を辞めて飛び出してきちゃってるし。今更帰れないだろう。
『勝手にしろと言った。手助けはせぬぞ。死にたくなくばせいぜい精進することだ』
「はいっ! ありがとうございます!」
超絶キラキラした笑顔のエミーリオ。
はぁ。せっかく気楽な一人旅だと思ったのに。
「それで、これからどちらに向かいます?」
『西だ』
「オチデン連合国、ですか?」
エミーリオの顔つきが変わる。
冒険者でも知っていたことだ。騎士団長たるエミーリオも知っていて当然だったな。
『ああ。勇者召喚から間もなく暗黒破壊神に襲われたと聞く。まだモンスターの侵攻に合っているかもしれぬ』
「王都のような状況が考えられるわけですね」
こくり、とエミーリオに頷いて見せる。
復興の陣頭指揮を執っていたエミーリオならあらゆる場面で活躍できるだろう、と言ったらやる気を見せていた。
俺の本音としては、黒モンスター或いはその中の暗黒破壊神の欠片が回収できねぇかなってとこなんだけど。
流石は聖竜様、なんてキラキラした目で見つめてくるエミーリオが道連れになったので、街道を西へのんびり進む。
はぁ、どうせなら女の子に尊敬されたかったな……。
考えなしに王都を飛び出してきてしまったわけだが。
方角的には北に来てしまった。足元には平原が広がっている。そこを、幅の広い街道が正面と左右に伸びている。
当初の計画では東のオーリエンに行って勇者と合流し、そこから南のアスーで勇者と合流するってなっていた。きっとルシアちゃんはそのルートを辿るのだろう。
先行してオーリエンの勇者に合流するか、ルシアちゃんがオーリエンの勇者と合流することを想定して先にアスーの勇者に合流するか。
「ふむ……」
「聖竜様―」
いやいや、思い出せ俺。俺は暗黒破壊神だ。孤高の存在なのだ。ならば、俺がとるべき行動は勇者と合流することでもルシアちゃんを待つことでもない!
ひたすらに黒モンスターを狩ってレベルアップ&偽物の弱体化! これだな!
「聖竜様~」
いやいやいや。聞こえない。何も見てないよ。
何かキラキラした目で手を振りながら追いかけてくる騎士団長なんて幻覚に決まってる。
「聖竜様、待ってくださ~い」
チッ。
このまま振り切っても良かったのだけど、エミーリオの乗る馬がもう息も絶え絶えって感じで。
馬が潰れればいかに騎士団長といえどもモンスターにやられてしまうかもしれないし。
……仕方ない。
『何故、ついてくるのだ?』
「一緒に連れて行ってください!」
おい、お前騎士団長だよな?! そんなポンポン出奔していいわけあるか! 国が潰れるわ!
『貴様は騎士団長だろう? 勤めはどうした?』
「辞めてきました!!」
はぁぁぁぁぁあああああ?!
ちょ、何言ってくれてんのこの人?!
『辞めてきたって……国は? 聖女の守りはどうするのだ?』
「大陸最強のアルベルト殿がります。それに、自分はまだまだ力不足で修行が足りぬと此度のことで痛感致しまして」
それでついてきちゃったの?
あぁぁ、もうっ!
『勝手にするが良い』
「はいっ!」
ほんとこの人何でこんなにキラキラしてるの?
俺は取り敢えずエミーリオに馬を休ませてやるように言った。
鞍を外し魔法で水を出すと、飲ませている間自分も兜を脱いでいた。
俺はこれまで深く関わることがないだろうと思っていた騎士団長の顔を初めてちゃんと見た。
エミーリオは背の高いキラキラしたイケメンだ。ウェーブのかかった金髪をリボンで一括りにしている。スッキリまとめているからか野暮ったくなく、スカイブルーの瞳と相まってとても爽やかな好青年といった感じだ。
ここまで来るのにかなり汗をかいているのだが、男臭さを全く感じさせない。
『怪我はどうした?』
「ええ、ほらもうすっかりこの通り」
エミーリオは腕甲を外し手をヒラヒラと両面見せる。
骨の見えていた指は肉が盛り上がり、火傷の痕のようにそこだけ皮膚が薄いがちゃんと指が生えていた。
「まだ皮が薄いので、ふとした拍子に大流血ですが普通に動きますよ」
エミーリオは怪我をさせたのも俺だというのに、礼を言ってくる。
そのキラキラ笑顔が眩しすぎる。
「自分は、ずっと勇者になりたかったのです」
突然何か語り出しちゃった。
何でも、聖女と勇者が暗黒破壊神を倒す物語を幼い頃に読み聞かされ、ずっと憧れていたのだと。で、騎士の家系であったため勇者になりたいと言ったら色々稽古をつけてもらえたのだが、気付いたら騎士になっていたと。乗せられたんだな。
勇者になるため、と言えば率先して稽古に打ち込むのだから、これ以上育てやすい子はいなかっただろう。
そして、暗黒破壊神の復活(偽物だがな!)。世の中にはベルナルド先生やアルベルトなど自分より強い人間が大勢いて、自分はと言えば大した活躍もできず復興作業ばかり。
戦争が無い時代には騎士などは訓練もまともにしない奴らばかりだったそうで。
つまるところ色々不満が溜まっていたんだな。
「ですが、自分は勇者に選ばれませんでした。ならば、せめて共に戦いたいのです! どうか、連れて行ってください!」
改めて頭を下げるエミーリオ。
こんな暑苦しいキャラだったのね……。
ダメって言ったところでもう仕事を辞めて飛び出してきちゃってるし。今更帰れないだろう。
『勝手にしろと言った。手助けはせぬぞ。死にたくなくばせいぜい精進することだ』
「はいっ! ありがとうございます!」
超絶キラキラした笑顔のエミーリオ。
はぁ。せっかく気楽な一人旅だと思ったのに。
「それで、これからどちらに向かいます?」
『西だ』
「オチデン連合国、ですか?」
エミーリオの顔つきが変わる。
冒険者でも知っていたことだ。騎士団長たるエミーリオも知っていて当然だったな。
『ああ。勇者召喚から間もなく暗黒破壊神に襲われたと聞く。まだモンスターの侵攻に合っているかもしれぬ』
「王都のような状況が考えられるわけですね」
こくり、とエミーリオに頷いて見せる。
復興の陣頭指揮を執っていたエミーリオならあらゆる場面で活躍できるだろう、と言ったらやる気を見せていた。
俺の本音としては、黒モンスター或いはその中の暗黒破壊神の欠片が回収できねぇかなってとこなんだけど。
流石は聖竜様、なんてキラキラした目で見つめてくるエミーリオが道連れになったので、街道を西へのんびり進む。
はぁ、どうせなら女の子に尊敬されたかったな……。
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