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第三章 俺様、王都へ行く
4、……おうふ。
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いつの間にか称号に「聖竜(仮)」がついていた。崇め奉れとは言ったけど、コレジャナイ。
この称号は育ててはいけない気がする。
でもまだまだルシアちゃん大変そうだしなぁ。仕方ない……か。
まだ岩が届いたという報せはないし、今日もルシアちゃんにくっついて救護院に行こうとした時、事件は起きた。
「ルシア様、聖竜様。陛下がお呼びです。至急王城へお越しください」
宿で朝食を食べ、さぁ行こう、って時にやたら顔の整った青年が迎えに来たのだ。
近衛兵ってやつだろうか? 騎士や冒険者と違って鎧の類はつけておらず、白い軍服を着ている。肩と胸元には紫のリボンの紀章をつけている。
そんな青年が、それが確かに国王からの召喚であると示すために封蝋で閉じられた巻物を寄越してくる。
「これは……確かに召喚状ですね」
書状を硬い表情で確認するルシアちゃん。字の読めない俺は覗き込むだけ。
は? 王様が俺らに何の用? こっちの都合も聞かずに呼び出すとか、勝手すぎねぇ?
と思ったけど表立って歯向かえない小市民な俺。
教師ですら苦手だった俺が貴族様通り越して国王に謁見とか……。よし、対応は全部ルシアちゃんに任せよう。
俺は竜。ただの竜。念話なんて使えませんよー。
宿の前に停まっていた、小さいがやたら豪奢な馬車に乗せられた。
石畳の上を走っているせいもあるけれど、先日の馬車よりも揺れが少ない。
残念なのは、窓が小さすぎるってことだろう。せっかく貴族街を走っているのに、外の景色がほとんど見えない。
窓に文字通り張り付いて外を見ていたら、ルシアちゃんにクスクスと笑われてしまった。うん、可愛いから許す。
時告げの実なんて持ってなどいないからどれだけ経ったかわからない。体感にして1時間ほどってところだろうか。
ついに、王城まで来てしまった。緊張しすぎて鼻から心臓飛び出しそうだ。
応接室みたいな部屋に通されてから長いこと待たされているから、緊張はもうMAXである。
調度品も豪華すぎてうっかり壊してしまうのが怖いから、自分からルシアちゃんの腕の中に収まっている。
そう、俺は今ぬいぐるみ。ただのラブリーなぬいぐるみなのだ!
カチャ、と音が聞こえた瞬間鼻から勢いよく水が飛び出した。
「やあ、待たせてしまったね」
「陛下! ご健勝で何よりでございます」
入って来たのは、穏やかな印象のおっさん。良かった、優しそうな人で。
俺を抱きかかえたまま勢いよく立ち上がり挨拶をするルシアちゃんを手で制し、座るように促す。その物腰は柔らかく、とても一国を支配する者とは思えない。うちの親父でももっと厳ついぞ。
「堅苦しい挨拶はよしなさい。人払いしたよ。今は、国王としてではなく父親として接しておくれ」
「はい、お父様」
俺の頭の上でとんでもない会話が繰り広げられている。お、お父様、だと……?!
つまりは、ルシアちゃんは王女様ってこと?
あ、おかえり、とか言ってるし本当の親子っぽい。
「戻ってきたのに、こちらに寄らないとは。父は悲しいぞ」
ヨヨヨ、とわざとらしく涙を拭う仕草をする国王。何というか、緊張して損した感じ?
そんな国王にルシアちゃんも苦笑している。
「救護院では、お父様が怪我をしたなどとは聞きませんでしたので。それに、今の私は聖女です。人々を救うのが最優先です。それで、結界の核となる岩はどうなっているのですか?」
「チッ」
え、今舌打ちした? 国王が舌打ちしたよ?
「せっかくの親子の時間なのにもう仕事の話とか。父は拗ねるぞ。ふーんだ」
ちょ、膝抱えてそっぽ向いちゃったよこの人! 俺より子供っぽい! てか、チラチラこっち見てくるのうぜえぇぇぇぇ!!
「お 父 様?」
ルシアちゃんの背後にブリザードが視える。笑顔なのに怖いルシアちゃんを見て、国王が顔を青褪めさせた。
「ルシアちゃんはアウローラにそっくりだよ。離れて暮らしていたのに、不思議なくらいだ」
「お母様に、ですか……」
わかりやすい会話ありがとうございます!
つまりアウローラって人がルシアちゃんのお母様ってことね! んでもって、国王様は王妃様の尻に敷かれていると見た。
「さて、あまりふざけていると本当にルシアちゃんに嫌われそうだし。結界に使う岩の事なら、暗黒破壊神が去った時点で手配してある」
国王がルシアちゃんから俺を取り上げて抱く。やめろ、おっさんに抱かれても嬉しくも何とも……あっ、その撫で方は……おうふ。尻尾が揺れてしまう……おうふ。
俺が国王のナデナデに目を細めている間に、話はどんどん進んでいるようだ。
掻い摘むと、石切り場からの切り出しは完了したが、運ぶ手段が原始的であること。更に道中モンスターの襲撃を受けるため予定よりだいぶ遅れていること。護衛としてアルベルト達が向かったこと。
これらの連絡係兼、現場の人間の激励鼓舞のため王妃様が自ら現地へ行っているそうだ。
「そうですか……お母様が……」
まだ岩が届く気配はないし、これからどうするのだろうか?
この称号は育ててはいけない気がする。
でもまだまだルシアちゃん大変そうだしなぁ。仕方ない……か。
まだ岩が届いたという報せはないし、今日もルシアちゃんにくっついて救護院に行こうとした時、事件は起きた。
「ルシア様、聖竜様。陛下がお呼びです。至急王城へお越しください」
宿で朝食を食べ、さぁ行こう、って時にやたら顔の整った青年が迎えに来たのだ。
近衛兵ってやつだろうか? 騎士や冒険者と違って鎧の類はつけておらず、白い軍服を着ている。肩と胸元には紫のリボンの紀章をつけている。
そんな青年が、それが確かに国王からの召喚であると示すために封蝋で閉じられた巻物を寄越してくる。
「これは……確かに召喚状ですね」
書状を硬い表情で確認するルシアちゃん。字の読めない俺は覗き込むだけ。
は? 王様が俺らに何の用? こっちの都合も聞かずに呼び出すとか、勝手すぎねぇ?
と思ったけど表立って歯向かえない小市民な俺。
教師ですら苦手だった俺が貴族様通り越して国王に謁見とか……。よし、対応は全部ルシアちゃんに任せよう。
俺は竜。ただの竜。念話なんて使えませんよー。
宿の前に停まっていた、小さいがやたら豪奢な馬車に乗せられた。
石畳の上を走っているせいもあるけれど、先日の馬車よりも揺れが少ない。
残念なのは、窓が小さすぎるってことだろう。せっかく貴族街を走っているのに、外の景色がほとんど見えない。
窓に文字通り張り付いて外を見ていたら、ルシアちゃんにクスクスと笑われてしまった。うん、可愛いから許す。
時告げの実なんて持ってなどいないからどれだけ経ったかわからない。体感にして1時間ほどってところだろうか。
ついに、王城まで来てしまった。緊張しすぎて鼻から心臓飛び出しそうだ。
応接室みたいな部屋に通されてから長いこと待たされているから、緊張はもうMAXである。
調度品も豪華すぎてうっかり壊してしまうのが怖いから、自分からルシアちゃんの腕の中に収まっている。
そう、俺は今ぬいぐるみ。ただのラブリーなぬいぐるみなのだ!
カチャ、と音が聞こえた瞬間鼻から勢いよく水が飛び出した。
「やあ、待たせてしまったね」
「陛下! ご健勝で何よりでございます」
入って来たのは、穏やかな印象のおっさん。良かった、優しそうな人で。
俺を抱きかかえたまま勢いよく立ち上がり挨拶をするルシアちゃんを手で制し、座るように促す。その物腰は柔らかく、とても一国を支配する者とは思えない。うちの親父でももっと厳ついぞ。
「堅苦しい挨拶はよしなさい。人払いしたよ。今は、国王としてではなく父親として接しておくれ」
「はい、お父様」
俺の頭の上でとんでもない会話が繰り広げられている。お、お父様、だと……?!
つまりは、ルシアちゃんは王女様ってこと?
あ、おかえり、とか言ってるし本当の親子っぽい。
「戻ってきたのに、こちらに寄らないとは。父は悲しいぞ」
ヨヨヨ、とわざとらしく涙を拭う仕草をする国王。何というか、緊張して損した感じ?
そんな国王にルシアちゃんも苦笑している。
「救護院では、お父様が怪我をしたなどとは聞きませんでしたので。それに、今の私は聖女です。人々を救うのが最優先です。それで、結界の核となる岩はどうなっているのですか?」
「チッ」
え、今舌打ちした? 国王が舌打ちしたよ?
「せっかくの親子の時間なのにもう仕事の話とか。父は拗ねるぞ。ふーんだ」
ちょ、膝抱えてそっぽ向いちゃったよこの人! 俺より子供っぽい! てか、チラチラこっち見てくるのうぜえぇぇぇぇ!!
「お 父 様?」
ルシアちゃんの背後にブリザードが視える。笑顔なのに怖いルシアちゃんを見て、国王が顔を青褪めさせた。
「ルシアちゃんはアウローラにそっくりだよ。離れて暮らしていたのに、不思議なくらいだ」
「お母様に、ですか……」
わかりやすい会話ありがとうございます!
つまりアウローラって人がルシアちゃんのお母様ってことね! んでもって、国王様は王妃様の尻に敷かれていると見た。
「さて、あまりふざけていると本当にルシアちゃんに嫌われそうだし。結界に使う岩の事なら、暗黒破壊神が去った時点で手配してある」
国王がルシアちゃんから俺を取り上げて抱く。やめろ、おっさんに抱かれても嬉しくも何とも……あっ、その撫で方は……おうふ。尻尾が揺れてしまう……おうふ。
俺が国王のナデナデに目を細めている間に、話はどんどん進んでいるようだ。
掻い摘むと、石切り場からの切り出しは完了したが、運ぶ手段が原始的であること。更に道中モンスターの襲撃を受けるため予定よりだいぶ遅れていること。護衛としてアルベルト達が向かったこと。
これらの連絡係兼、現場の人間の激励鼓舞のため王妃様が自ら現地へ行っているそうだ。
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