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(最終回その2)きのこの終わり
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朝、雀の声で目が覚める。
気持ちの良いいつもの朝だ。だが、どうしてだろう。雀の声を怖いと感じるのは。
何だか長い夢を見ていたような気がする。
そう、ここではないどこか別な世界に迷い込んだかのような…。
「やべっ、遅刻!?」
時計を見て慌ててパジャマを脱ぎ散らし、パンをかじりながらシャツを着る。ネクタイを締めて草臥れたジャケットを羽織って。
いつも通りの光景だ。なのに、何でこんなに懐かしいんだろう。やっと帰ってきた、とそんな考えがふっと浮かぶ。
帰ってきた?どこから?
ふと浮かんだ自分の考えに首を傾げていると、チカチカ光る留守電の表示が目に入る。
再生ボタンを押すと無機質な声が部屋に響いた。
『留守番電話のメッセージが百件。最初の新しいメッセージです。「無断欠勤とはいい度胸だな木下君!そんなに出社したくないならもうずっと休みで構わんぞ!お前はクビだ!」十月九日朝九時二四分…』
「げっ!クビ?無断欠勤って?」
録音限度まで入ったメッセージは、延々と部長のだみ声を再生していく。再生される度に変わる日付。
慌てて点けた朝のニュースには四月十日の表示。俺が最後に出社してから実に半年も経っていた。
「嘘…だろ…?」
膝から崩れ落ちる俺。訳が分からなかった。
思い出せ。俺に一体何が起きたのか?
「楓?」
必死に考えている俺に控えめに声がかかる。
「…ルナ?」
!!ああああ!夢じゃなかったぁぁぁあああ!
何で夢で片づけてしまったのか。
俺は、ついさっきまで妙な世界に迷い込んでいた。
「だ、大丈夫。今度は全部覚えてるよ。ルナ。」
何で忘れていたのだろう。
俺は何度も、別の世界に行きたいと願っては上手くいかず元の世界に逃げ戻って。
そしてそれを忘れて別の世界に行きたいと願って。その度に願いを叶えてくれていたのは…彼女だった。
彼女は正真正銘月の女神。俺があの日月を見て綺麗だと褒めた事で俺を見初めたらしい。名前を欲しがったのでルナと名付けた。
あの後。人間の姿を取り戻した俺は彼女に、別の世界に行きたいという願いを取り消したいと頼んだ。我が儘かもしれないけど、油断するときのこに戻る世界は懲り懲りだった。
で、代わりの願いをと言われたので彼女に俺の恋人になってくれと願い、今に至る。
「で、仕事もなくなっちゃったし、群馬に帰ろうと思うんだけど。ついてきてくれる?」
涙もろい俺の女神はその言葉にポロポロと涙を流してコクンと小さく頷いてくれた。
大丈夫。俺と彼女が生きていけるだけのアテはある。
世界は相変わらず俺に厳しいけど、きのこになるよりマシだ。
それに何より、俺には女神がついている。それ以上は望むまい。
俺はまだ知らなかった。増殖したちび俺がくっついてきていてちょっとした騒ぎになる事を。
To continue?→No thank you!
ご愛読ありがとうございました!
気持ちの良いいつもの朝だ。だが、どうしてだろう。雀の声を怖いと感じるのは。
何だか長い夢を見ていたような気がする。
そう、ここではないどこか別な世界に迷い込んだかのような…。
「やべっ、遅刻!?」
時計を見て慌ててパジャマを脱ぎ散らし、パンをかじりながらシャツを着る。ネクタイを締めて草臥れたジャケットを羽織って。
いつも通りの光景だ。なのに、何でこんなに懐かしいんだろう。やっと帰ってきた、とそんな考えがふっと浮かぶ。
帰ってきた?どこから?
ふと浮かんだ自分の考えに首を傾げていると、チカチカ光る留守電の表示が目に入る。
再生ボタンを押すと無機質な声が部屋に響いた。
『留守番電話のメッセージが百件。最初の新しいメッセージです。「無断欠勤とはいい度胸だな木下君!そんなに出社したくないならもうずっと休みで構わんぞ!お前はクビだ!」十月九日朝九時二四分…』
「げっ!クビ?無断欠勤って?」
録音限度まで入ったメッセージは、延々と部長のだみ声を再生していく。再生される度に変わる日付。
慌てて点けた朝のニュースには四月十日の表示。俺が最後に出社してから実に半年も経っていた。
「嘘…だろ…?」
膝から崩れ落ちる俺。訳が分からなかった。
思い出せ。俺に一体何が起きたのか?
「楓?」
必死に考えている俺に控えめに声がかかる。
「…ルナ?」
!!ああああ!夢じゃなかったぁぁぁあああ!
何で夢で片づけてしまったのか。
俺は、ついさっきまで妙な世界に迷い込んでいた。
「だ、大丈夫。今度は全部覚えてるよ。ルナ。」
何で忘れていたのだろう。
俺は何度も、別の世界に行きたいと願っては上手くいかず元の世界に逃げ戻って。
そしてそれを忘れて別の世界に行きたいと願って。その度に願いを叶えてくれていたのは…彼女だった。
彼女は正真正銘月の女神。俺があの日月を見て綺麗だと褒めた事で俺を見初めたらしい。名前を欲しがったのでルナと名付けた。
あの後。人間の姿を取り戻した俺は彼女に、別の世界に行きたいという願いを取り消したいと頼んだ。我が儘かもしれないけど、油断するときのこに戻る世界は懲り懲りだった。
で、代わりの願いをと言われたので彼女に俺の恋人になってくれと願い、今に至る。
「で、仕事もなくなっちゃったし、群馬に帰ろうと思うんだけど。ついてきてくれる?」
涙もろい俺の女神はその言葉にポロポロと涙を流してコクンと小さく頷いてくれた。
大丈夫。俺と彼女が生きていけるだけのアテはある。
世界は相変わらず俺に厳しいけど、きのこになるよりマシだ。
それに何より、俺には女神がついている。それ以上は望むまい。
俺はまだ知らなかった。増殖したちび俺がくっついてきていてちょっとした騒ぎになる事を。
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キノコスキのワシ、この小説を発見して大歓喜!これから、じっくりと楽しみに読みます!!!!!
ありがとうございます(*´ω`*)
お気に召していただけたら幸いです。
完結済みですのでのんびりお楽しみくださいまし(*´ー`)ノ
お疲れ様でしたー!
完結おめでとうございます
きのこに会えないのは寂しいですが、配達人も楽しみに待っていますー
エリンギ、食べても読んでも美味しいヤツですね。
楽しい時間をありがとうございました!
きのこを愛してくださって、ありがとうございます゚+.ヽ(≧▽≦)ノ.+゚
書いている間Twitterできのこをいじってくれるので私も楽しかったです(*`・ω・)ゞ
配達人も頑張ります!
お疲れ様でした~!
毎回楽しみにしていたあまりにですね・・・
スーパーでエリンギ見かける度に、
こいつを思い出す生活になりました。
たぶん、これからもずっと、スーパーに行くたびに、キノコを思い出すんだ・・。
楽しい作品を、有り難うございました~!!
Σ(O_O;)
ダメですよ、鳩子さん!
スーパーでエリンギ見ながらニマニマしたら!危険危険ー(笑)
ペットロスならぬきのこロスが起きるほどきのこを愛してくださって、ありがとうございます!゚+.ヽ(≧▽≦)ノ.+゚
最後まで続けられたのは、感想くれたり宣伝してくれた皆様のおかげです。本当に、ありがとうございました!