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26 神の祝福
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「御子様にお願いしたいことは2つございます。まずは、ここで祈りを捧げていただきたいのです」
カシさんの要求は、意図はわからないけれど確かに僕たちでもできることだった。
カークさんは、特別なことなどできないぞ、ともう一度念を押して、女神像の前に跪く。
胸の前で指を組み、頭を垂れるカークさんに倣う。
祈り、って、何を祈ればいいのかな?
取り敢えず、カークさんがこの旅路で酷い目に遭いませんように。カークさんが無事に家に帰れますように。それから、カークさんたち亜人の差別がなくなりますように。
なんて、ちょっと欲張りかな?
――ふふ、良い子だね。気に入ったから、僕の力を少し分けてあげる――
「えっ?」
「サクヤ? どうしたんだ?」
誰かに頭を撫でられたような気がした。
それに、声も。
女神様、というよりは、小さな男の子のような声。
でも、その声は僕にしか聞こえなかったみたいだ。
「ええっ?! カーク、その髪……!」
「これは、驚きましたな。これなら、誰でも御子様が銀猫族だとわかるでしょう」
焦げ茶だった髪の毛は、キラキラ輝く銀色になっていた。
瞳や耳は焦げ茶のままだけれど、片耳に入っていたメッシュのような銀色は幅が広くなっている。
――忘れてた。これを持って行って。君たちの旅路に幸あれ――
もう一度さっきの声。
と同時に、コト、と小さな音がした。
音がした方を見ると、ケットシー像の足元に、猫目石が落ちていた。
すっぽりと手の中に納まるそれは、綺麗なウォーターブルーに、白い線。
「綺麗……」
「やはり、貴方が我々の待ち望んでいた御子様で間違いないようですな」
さっきの声は、ケットシー様のものだったのだろうか。
1人納得顔のカシさんは、突然現れた石をカークさんに持っていくよう言う。
僕も、何となくその方が良いと思ってカークさんに渡した。
すると、不思議なことに、カークさんの胸元にブラックホールみたいな穴が現れ、石はその中に消えてしまった。
「今のは……空間スキル? 俺が、使ったのか……?」
カークさん驚いた表情で、手を握って開く。
すると、その手の上にまた穴が現れ、石がぽとりと出てきた。
石をしまっては出し、出してはしまってを繰り返すカークさん。
なんだか、嬉しそう。
「集落の中で、俺だけ空間スキルが使えなくて。だけど、これで、俺も銀猫族の一員だと胸を張って言える」
「使えなくても、僕はカークを頼りにしてたよ」
「……ありがとう、サクヤ。本当に、お前と出逢えて良かった」
状況から判断して、ケットシー様がカークさんに力をくださったのだろう。
僕はもう一度、今度はケットシー様の像に向かって感謝の祈りを捧げた。
声が聞こえることはもうなかった。
けれど、この世界では神様が実在していて、祈りに応えてくれることもある存在だとわかった出来事だった。
「さて、願いはもう1つだったな。それも俺達に叶えられることか?」
「ええ。そこの、花人の蜜を我らに少し譲ってもらいたい」
「それって……」
「サクヤを渡せということか!?」
切り出したのはカークさんだけど、カシさんの願いに、僕は固まってしまう。
この世界に来てから三日。毎日カークさんに抱かれているからか、えっちなことを想像してしまったのだ。
そして、同じ想像をしたのか、カークさんが激昂する。
「いえいえ、御子様のものを奪うような真似をしては、神は我々を赦しはしないでしょう。そうではなく……ええ、これも実際に見ていただいた方が早いかもしれません」
カシさんに案内され、また移動する。
神殿の前に集まっていた人たちが慌てて道を開け、カークさんに祈るような姿勢を取る。
ここでは、カークさん自身も信仰対象なのかもしれない。
「これは……」
「ここは、祖霊ウンディーネ様を祀る神殿でございます。そして、我ら魚人族が自決する場でもあります」
案内された部屋は、入口から奥まで中央が通路になっている。その両側には床がなく、海につながっているようだ。
水面には、人二人分くらいの間隔を開けて、くるぶしぐらいの高さに板が張られている。
そして、その板の上で腕を組み、祈りを捧げている人々。
部屋の奥には、下半身が魚で水甕を持った女性の像。
水甕から流れた水が、そのまま部屋両側の海面へと流れていく。
「ここで祈っている者たちは、御覧のとおり使徒化寸前です。瘴気は陸上だけでなく、我らが棲む海中にまで漂うようになりました。仲間を襲う魔物となり果てる前に、ここで最期の祈りを捧げて自ら命を絶つのです」
「そんな……」
魚人族は自決により数を一気に減らし、今は20名もいないのだそうだ。
楽園と呼ぶにはあまりにも、血生臭い悲劇。
他者を襲わないようになのか、武骨な鎖で片腕を繋がれた状態で祈る人々は、いずれも髪の毛やヒレ、尾が黒くなっている。
斑に混ざる淡い水色が、きっと本来の色なのだろう。
今ここで祈る人たちは10名ほど。
と、いうことは、先ほど神殿前に集まっていた人たちで魚人族は恐らく全員。
あまりにも、少ない。
「ウンディーネ様の曽孫に当たる方に、預言の能力を持った方がおりました。一族が黒に吞まれるとき、銀猫の御子が花人の蜜を聖なる水に注ぎ一族を救い給う、と。そして、今まさに一族が滅びようとしているところに御子様が花人を連れて現れたのです」
「事情は分かったが……」
蜜って、アレだよね?
思いのほか重かった事情に、協力してあげたいとは思う。けど。
アレを出すために、もしかして皆さんが祈っているこの場で自慰をしなければならないのかと思うと恥ずかしすぎる。
それに、そんなことをした後でやっぱり間違ってました、なんてなったら居たたまれない。
カシさんの要求は、意図はわからないけれど確かに僕たちでもできることだった。
カークさんは、特別なことなどできないぞ、ともう一度念を押して、女神像の前に跪く。
胸の前で指を組み、頭を垂れるカークさんに倣う。
祈り、って、何を祈ればいいのかな?
取り敢えず、カークさんがこの旅路で酷い目に遭いませんように。カークさんが無事に家に帰れますように。それから、カークさんたち亜人の差別がなくなりますように。
なんて、ちょっと欲張りかな?
――ふふ、良い子だね。気に入ったから、僕の力を少し分けてあげる――
「えっ?」
「サクヤ? どうしたんだ?」
誰かに頭を撫でられたような気がした。
それに、声も。
女神様、というよりは、小さな男の子のような声。
でも、その声は僕にしか聞こえなかったみたいだ。
「ええっ?! カーク、その髪……!」
「これは、驚きましたな。これなら、誰でも御子様が銀猫族だとわかるでしょう」
焦げ茶だった髪の毛は、キラキラ輝く銀色になっていた。
瞳や耳は焦げ茶のままだけれど、片耳に入っていたメッシュのような銀色は幅が広くなっている。
――忘れてた。これを持って行って。君たちの旅路に幸あれ――
もう一度さっきの声。
と同時に、コト、と小さな音がした。
音がした方を見ると、ケットシー像の足元に、猫目石が落ちていた。
すっぽりと手の中に納まるそれは、綺麗なウォーターブルーに、白い線。
「綺麗……」
「やはり、貴方が我々の待ち望んでいた御子様で間違いないようですな」
さっきの声は、ケットシー様のものだったのだろうか。
1人納得顔のカシさんは、突然現れた石をカークさんに持っていくよう言う。
僕も、何となくその方が良いと思ってカークさんに渡した。
すると、不思議なことに、カークさんの胸元にブラックホールみたいな穴が現れ、石はその中に消えてしまった。
「今のは……空間スキル? 俺が、使ったのか……?」
カークさん驚いた表情で、手を握って開く。
すると、その手の上にまた穴が現れ、石がぽとりと出てきた。
石をしまっては出し、出してはしまってを繰り返すカークさん。
なんだか、嬉しそう。
「集落の中で、俺だけ空間スキルが使えなくて。だけど、これで、俺も銀猫族の一員だと胸を張って言える」
「使えなくても、僕はカークを頼りにしてたよ」
「……ありがとう、サクヤ。本当に、お前と出逢えて良かった」
状況から判断して、ケットシー様がカークさんに力をくださったのだろう。
僕はもう一度、今度はケットシー様の像に向かって感謝の祈りを捧げた。
声が聞こえることはもうなかった。
けれど、この世界では神様が実在していて、祈りに応えてくれることもある存在だとわかった出来事だった。
「さて、願いはもう1つだったな。それも俺達に叶えられることか?」
「ええ。そこの、花人の蜜を我らに少し譲ってもらいたい」
「それって……」
「サクヤを渡せということか!?」
切り出したのはカークさんだけど、カシさんの願いに、僕は固まってしまう。
この世界に来てから三日。毎日カークさんに抱かれているからか、えっちなことを想像してしまったのだ。
そして、同じ想像をしたのか、カークさんが激昂する。
「いえいえ、御子様のものを奪うような真似をしては、神は我々を赦しはしないでしょう。そうではなく……ええ、これも実際に見ていただいた方が早いかもしれません」
カシさんに案内され、また移動する。
神殿の前に集まっていた人たちが慌てて道を開け、カークさんに祈るような姿勢を取る。
ここでは、カークさん自身も信仰対象なのかもしれない。
「これは……」
「ここは、祖霊ウンディーネ様を祀る神殿でございます。そして、我ら魚人族が自決する場でもあります」
案内された部屋は、入口から奥まで中央が通路になっている。その両側には床がなく、海につながっているようだ。
水面には、人二人分くらいの間隔を開けて、くるぶしぐらいの高さに板が張られている。
そして、その板の上で腕を組み、祈りを捧げている人々。
部屋の奥には、下半身が魚で水甕を持った女性の像。
水甕から流れた水が、そのまま部屋両側の海面へと流れていく。
「ここで祈っている者たちは、御覧のとおり使徒化寸前です。瘴気は陸上だけでなく、我らが棲む海中にまで漂うようになりました。仲間を襲う魔物となり果てる前に、ここで最期の祈りを捧げて自ら命を絶つのです」
「そんな……」
魚人族は自決により数を一気に減らし、今は20名もいないのだそうだ。
楽園と呼ぶにはあまりにも、血生臭い悲劇。
他者を襲わないようになのか、武骨な鎖で片腕を繋がれた状態で祈る人々は、いずれも髪の毛やヒレ、尾が黒くなっている。
斑に混ざる淡い水色が、きっと本来の色なのだろう。
今ここで祈る人たちは10名ほど。
と、いうことは、先ほど神殿前に集まっていた人たちで魚人族は恐らく全員。
あまりにも、少ない。
「ウンディーネ様の曽孫に当たる方に、預言の能力を持った方がおりました。一族が黒に吞まれるとき、銀猫の御子が花人の蜜を聖なる水に注ぎ一族を救い給う、と。そして、今まさに一族が滅びようとしているところに御子様が花人を連れて現れたのです」
「事情は分かったが……」
蜜って、アレだよね?
思いのほか重かった事情に、協力してあげたいとは思う。けど。
アレを出すために、もしかして皆さんが祈っているこの場で自慰をしなければならないのかと思うと恥ずかしすぎる。
それに、そんなことをした後でやっぱり間違ってました、なんてなったら居たたまれない。
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