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18 佳人の能力 (カーク視点) *
しおりを挟むサクヤのことが心配だったが、「少し疲れただけ」だと言われてしまっては休ませてやるより他にない。
サクヤに頼まれたこともあって、俺はクロエと話をすることにした。
族長の母親だという話を信じるわけではないが、俺たちに何かするつもりなら食事になにか盛ってるはずだ。
少なくとも、俺たちに対しての悪意は感じない。
「と、こんな感じで、族長は親を亡くした子たちを育てて知識や技術を授けている」
「ふふ、小さかったあの子が、今じゃみんなの父親ってわけかい」
なら私にとってあんたは孫みたいなもんだね、とクロエが笑う。
人間の祖母か。なんだか変な感じだ。
族長からは、ずっと人間を信用するなと言われてきたから。
けれど、目の前で笑うクロエは、これまで見てきた人間の笑みとは違う。
族長が俺たち子供を見ている時のような、穏やかな笑み。
「……! サクヤ?」
「ん? 何だい? なんだか甘い匂いがするね……」
それは、サクヤの香りだった。
ドアは閉めてあるというのに、部屋の中にまで香ってきている。
それを嗅いだ途端、ドクンと心臓が跳ね、体が熱くなる。
(昼間注いだのに、どうして……)
考えても仕方がない。
ただわかることは、サクヤが命の危機に瀕しているということ。
「女将、すまない。やはりサクヤが心配なので今日は戻らせてもらう」
「あ、ああ。こっちこそ、すまないね。話を聞かせてくれてありがとう」
佳人の香りは男にしか作用しないのか、クロエの様子は普通だった。
俺の呼吸が急に荒くなったことに気付いたのか、少し眉を動かしたが、それだけだ。
特に引き留められることもなく、席を立つことができた。
「サクヤ! サクヤ、しっかり!」
「……ん……はぁっ、はぁ、っカー、ク……?」
サクヤのいる部屋の扉を開けると、むせ返るような花の香りが充満していた。
ベッドに横たわるサクヤの呼吸は浅く、尋常でない汗が肌を濡らしている。
水差しの聖水を飲もうとしたのか、枕元にはコップが落ちていた。
呼びかけても、目の焦点が合っていない。
「んんっ……ぅっ……ふ、んぅ……」
ほとんど意識のないサクヤに、口移しで聖水を飲ませる。
こくり、と咽喉が動き、飲んでくれたことに少し安心する。
寝てたら治る、なんて言葉を信じるんじゃなかった。
近くにいたのに、こんなに苦しませるなんて。
「サクヤ、すまない。すぐに注ぐから……」
「……あっ? や、なん、ぁあっ……」
「しっ、静かに……」
いつもより濃いサクヤの匂いに、理性が焼き切れそうだ。
昼間の名残でまだ柔らかい入口に手早くオイルを塗ると、昂りをそこに突き立てた。
サクヤが悲鳴を上げそうになるのを、慌てて塞ぐ。
愛らしい啼き声を聞きたくはあるが、外のゾンビに気付かれてはマズい。
「んんんっ……」
「フッ……ふぅ……」
サクヤの内部は温かく、突き立てる度にキュウキュウと収縮し精を絞ろうとする。
既に限界まで精が上っていたこともあって、あっけなく達してしまった。
佳人の香りで無理やり発情させられているとはいえ、少々情けない。
これでサクヤの体調も良くなっただろう、と身体を離そうとした瞬間、サクヤの足に腰を捉まれ引き戻される。
「サクヤ?!」
「足りない……もっと……」
「うっ」
サクヤの香が再び強くなる。
サクヤの様子がおかしい。そう思うのだけれど、腕の中で乱れるサクヤに欲望が刺激されて思考が覚束ない。
艶めかしく腰を動かすサクヤの内部に、二度目の精を放つ。
「あっ、ん……かぁく、もっと……」
「これは……サクヤ、まさか……?」
二度目は少し理性が勝り、精を放つ瞬間に俺の魔力がごっそりサクヤに吸われたのがわかった。
サクヤが「足りない」と言っているのは、快楽ではなく魔力だったのだ。
息を整える間もなく、再びサクヤから甘い香りが昇ってくる。
佳人の男を誘う香りが、佳人の死に至る不調が魔力不足のせいなのだとしたら。
いったい、サクヤは何に魔力を使ったというのか。
ふと、外が騒がしいことに気が付く。
「……こっちも倒れてるぞ……!」
「瘴気がない今がチャンスだ」
「おい、戦える奴は全員出てこい!」
「今日こそ街を取り戻すんだ!」
わぁわぁと、怒声を交わす男たちが外にいるようだ。
確か、夜は皆息を潜めて立てこもっているのではなかったのか?
それに、瘴気がないと言ったか?
サクヤを抱え、木窓を開ける。
確かに、黒い靄は消えているようだった。
それに、ゾンビどもの腐臭もしない。
「これは……サクヤが、浄化したのか?」
佳人は瘴気を浄化すると聞いてはいたが。
一体、いつ。どうやって?
「かーく……はやく、ちょうだい……?」
「あ、ああ。すまない」
強まった香りに、再び体が熱くなる。
甘えるように絡みつくサクヤの内部は温かく、気持ちがいい。
俺は再びサクヤをベッドに組み敷いた。
「あっ、ん……はぁっ、ああっ、かーく……かーく」
「サクヤ……出すぞ」
「ああああっ」
本当は、佳人の香りにやられていない時に抱きたい。
二人とも正気の状態で、ドロドロに甘やかして、サクヤの気持ちいいことだけをしてやりたい。
サクヤの、佳人の特性を理由にしてしか抱けない自分が情けない。
けれど、本当にサクヤが嫌がることはしたくはないんだ。
「サクヤ、愛している」
幾度目かの精を注ぎ、サクヤが落ち着いた頃には外が白み始めていた。
外の喧騒は収まるどころか、夜明けで起きだした人も加わりより大きくなっている。
廊下に出ると、クロエがバリケードにしていた家具を戻しているところだった。
「おや、早いね。もう一人の子は?」
「まだ寝ている。それより、これは何の騒ぎだ?」
「なんでも、夜中急に瘴気が晴れて、ゾンビ共がただの死体に戻ったっていうんだ」
街の住人達で死体を集め、再び動き出さないよう葬送の儀式をするらしい。
問題は、瘴気を晴らすことができるのは佳人しかいないということ。
佳人がこの街に来ていると既に噂になっているそうだ。
「あの子が佳人なんだろう? 大丈夫、誰にも言わないから。けど、領主が佳人を連れてこいって言ったなんて話も出ていて、血眼になって探している連中もいるんだ。見つからない内に、この街を出た方がいい」
「ああ。情報感謝する」
話していた時に漂ってきた甘い香りで、サクヤの正体に気付いたらしい。
一刻も早く出発したかったが、保護地区のある島では保存食がほとんど手に入らなかった。
この街を過ぎたら、街道は通らずに山道から北に進路を取る。
足りていない物資はここで手に入れておきたい。
「だが、一度ギルドで素材を売って、物資を補給しないと」
「そうかい……気を付けるんだよ」
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