月下美人は甘露に濡れる

禎祥

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17 異変 *

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「そんなわけで、夜は外に出たら危ないってことさ」
「建物の中には入ってこないのか?」
「大きな音を立てたりして獲物がいるって気付かれない限りは大丈夫だよ。私たちはもう何か月もこうして生き延びてる。だから、酒を飲んで暴れるなんて馬鹿な真似はしないようにしておくれ」

 泥酔客が騒いで襲われた宿があるらしい。
 念のため夜間は扉を閂で施錠し、2階に続く階段は家具で封鎖するんだって。
 だからラーナも2階の部屋に連れていくよう指示されたのか。

「さ、嫌な話はこれでおしまい。あ、そうそう。あんたたち、銀猫族の集落から来たんだろ? ヒャッカって子の様子を教えてくれれば、宿代少し安くするけどどうだい?」
「族長の?」
「おや、あの子、族長になったのかぃ。凄いねぇ。頑張ったんだねぇ……」

 カークさんは、突然の話に警戒したのか耳がピンと立つ。
 一方でクロエさんは、族長になったと聞いて嬉しそうに涙ぐんでいた。
 僕は当然集落の様子なんて知らないから、話せることがない。

「あの子はね、先祖返りなんだよ。私の祖先に銀猫族がいたみたいでね。私も主人も亜人じゃないのに、生まれてきたあの子はどう見ても銀猫族だった。隠しようがないその特徴に、すぐあの島に連れていかれちまってね」

 ズズ、と鼻を啜りながら語るクロエさん。
 僕にはそういうことがあるんだ、くらいにしか思えないけれど、カークさんはびっくりしたみたいだ。
 一瞬だけ尻尾がボワってなって、すぐに戻った。

「銀猫族は成長が早いだろう? あの子がまだ10歳の時、すっかり立派な青年の姿で冒険者登録をして帰ってきてくれてね。けれど、どこに行っても亜人にとっては生きづらい。あの子は優しいから、外の世界の怖さを教えるんだって、15歳で集落に戻っちまった」

 この宿は、クロエさんの子供――ヒャッカさんのために作ったんだって。
 集落に戻ったヒャッカさんの子供や、集落の子供たちの第二の家にって。
 旦那さんは、少しでもヒャッカさんの助けになろうと、亜人地区に隣接する町の門衛になったそうだ。
 週に3回帰ってきては、町にきた銀猫族の子たちの話をするんだって。
 もしかして、僕たちに話しかけてきたあの人かな?

「ね、カーク。夕食後に少し話をしてあげて?」
「だが……」
「だって、こんなにヒャッカさんのこと心配しているんだもの。たくさん話して、安心させてあげてよ。ね?」
「……サクヤが、そう言うなら」
「本当かい? あぁ、ありがとう!」
「僕はちょっと疲れちゃったみたいだから、部屋で休んでるよ」

 さっき外を覗いたときに瘴気を吸ってしまったのか、咽喉が痛い。
 それに、何だか頭がくらくらする。
 まるで風邪の初期症状みたいだ。
 ヒャッカさんの話はカークじゃないとできないし、僕は先に寝かせてもらうことにした。

 夕食は魚介類がふんだんに使われたパエリアに似た炒め物と、貝のスープ。
 美味しかったけれど、疲れのせいかあまり食べられなくて。
 凄く心配するカークさんを、寝ていれば治るよとクロエさんの待つ部屋に送り出す。
 クロエさんが用意してくれた藁編みのシートの上で寝るラーナを撫でて、僕も横になった。

「……はぁっ……はぁっ……」

 何だろう。苦しさがどんどん酷くなる。
 それに、一呼吸ごとに、体から何かが抜けていくような気が。
 クロエさんが夕食と一緒に持ってきてくれた聖水を飲もうと、水差しに手を伸ばしたけれど、力が入らなくて持ち上げられない。
 カークさんには大丈夫って言ったけど、これは、ちょっとまずいかも……。

「……ヤ、……サクヤ!」
「カー、ク……?」

 頭がくらくらして、意識が飛びかけていたら体を揺すられた。
 頑張って目を開けると、カークさんの姿が。
 何かを話しかけられているんだけど、何を言っているのか全然頭に入ってこない。

「……ん、……っふ、んぅ……」

 ぼんやりしていたら、キスをされた。
 違う、何かを、飲まされた……?
 嚥下したら、また一口。
 けれど、今度はカークさんの舌も入ってくる。

「サクヤ、すまない……」
「んっ……ぁ……?」

 あれ? 何で、僕、服を脱がされているんだろう。
 カークさんがまた何か言っている。
 けど、ごめん、カークさん。
 今は、意識が飛びそうで、何を言っているかわからないんだ。
 起きたら、ちゃんと話を聞くから……。

「あっ?! や、なん、で……」
「挿入れるぞ、息を吐いて」
「ああっ! や、ああっ、んぅっ」
「シッ、静かに……」

 お尻に何かが入ってきて、中をかき回される感覚。
 けれど、すぐに抜けて今度は熱を帯びた質量がお腹を内側から圧迫する。
 悲鳴を上げそうになる僕の口を、カークさんの口が塞いだ。

「んんっ……ぅっ……ん……」

 お腹が苦しい。
 なのに、中をこすられ、奥を突かれる感覚に腰が揺れてしまう。
 僕とカークさんのお腹に挟まれたちんちんに、熱が上がってくる。

 気持ちいい。
 ふわふわした思考はすぐに快楽に呑まれていく。
 僕の中でカークさんの熱が脈打ち、精を放つ。
 途端に、風のような何かが僕の全身を駆け巡ったような感覚が。

「……んっ……」
「……はぁっ……サクヤ、大丈夫か?」

 あれだけ苦しかったのが、すっかり治まっている。
 抜けていた力も戻ってきたようだ。
 けれど、また息を吐くように体から何かが抜けていく。
 まるで穴の開いた風船のように。

「……足りない……もっと……」
「サクヤ?」

 体を離そうとしていたカークの腰を両足で抱くようにして引き寄せたのは、ほとんど無意識だった。
 ぐぐ、と僕の中でカークさんがまた大きくなる。
 そのまま夜が明けるまで、僕たちは体を重ねた。

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