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12 冒険者登録 ②
しおりを挟む恥ずかしくて、顔が上げられない。
僕はフードを目深に引き寄せ、そっと様子を窺った。
あれ? 結構人がいる。
亜人が外で生きていくための手段っていうから、冒険者は亜人ばかりかと思ったのに。
むしろ、人間しかいない。それとも、カークさんみたいな外見的特徴がないだけ?
「いらっしゃいませ。今日はどのような御用件でしょうか」
「登録をしたい。それから、本土へ渡る船のチケットを二人とプーラ1頭分」
カウンターにいた女性に、カークさんが声をかけた。
僕を抱えたままのカークさんに、女性は椅子を勧めた。
椅子は2脚あったけれど、カークさんはやっぱり僕を抱えたまま座る。
「代筆は必要ですか?」
「要らん」
呆れたような声音になった女性が紙を2枚、カークさんの前に置く。
文字は、何故か問題なく読めた。
「登録申請書」と書かれた紙が2枚並んでいる。ということは、一枚は僕のだろう。
カークさんの服を引くと、自分で書ける、と言いたいことに気付いてくれて紙とガラスペンのような筆記具を寄越してくれる。
抱えられたままだから凄く書きにくかったけど、何とか必要事項を書いて女性に渡した。
「おいおい、さっきから見せつけてくれてんなぁ! ここは獣が交尾する場所じゃねぇんだよ!」
「そうだそうだ! 獣臭いんだよ! とっとと森に帰れ!」
「いっそのこと、魔物と間違えたってことにして狩っちまうか?!」
背後から、そんな声がかけられる。
状況からして、僕たちに言っているのだろうか。
だけど、カークさんは一切無視して、書き上げた申請書を女性に渡す。
「おら、何とか言ったらどうなんだ?」
「そっちの奴、怯えてんのか? ちょっと顔を見せてみろよ」
カークさんが無視していることが気に入らないのか、最初の声の主が椅子を蹴ってきた。
もう一人が突然僕のフードに手を伸ばす。
カークさんは、その腕を掴むと捻り上げた。
「ギャァアアア!」
「煩い。俺の番に触れるな。俺達を狩る? なら、今ここでお前たちを喰い殺したところで正当防衛だよな?」
「ひっ」
見上げたカークさんの瞳はいつになく鋭く。視線だけで人を殺せそうな凄みがあった。
思わずビクリとしてしまった僕の頭をカークさんは胸に抱き、開いた方の手で剣を抜く。
「やめてください! ギルド内での争いはタグ剥奪ですよ!」
本当に殺し合いが始まりそうな雰囲気を止めたのは、先ほど用紙を受け取った女性の金切り声。
絡んできた人たちは、その言葉に「興覚めだ」とか「命拾いしたな」とか呟いて去っていく。
「はい、では、こちらがカーク様、サクヤ様の冒険者タグになります。先ほどは未遂でしたが、冒険者同士の争いは」
「わかっている。だが、先に手を出したのは向こうだ」
女性が差し出したのは、ドッグタグのような小さな茶色いプレートと、同じ色の腕輪だった。どちらも新しい10円硬貨のようにピカピカしている。
カークさんは女性の言葉を遮り、プレートと腕輪を掴んだ。
「では、これも承知しておいてください。あなた達亜人は、人間よりも弱い立場にあります。先ほどのような場合でも、手を出せば人間より亜人であるあなた達の方が罪が重くなります」
「そんな、不公平じゃないですか」
「状況によっては、亜人だからって理由で処刑されることもあるって族長が言っていたな……。気を付ける。それでいいか」
「はい」
僕は納得できないんだけど。
カークさんの返事に満足したのか、お姉さんがにこりと笑う。
それから、冒険者ギルドの仕組みの話になった。
「登録された冒険者は、依頼の達成数に応じてランクが上がっていきます」
初めは銅、青銅、真鍮、銀、金と上がっていくらしい。
金の上はオリハルコンというランクがあるけれど、そこまで上り詰める人はほぼおらず、歴史上数えても7名しかいないそうだ。
オリハルコン……馴染み深いファンタジー鉱物の名前にちょっとときめく。
タグはそのランクの鉱物で作られていて、一目でランクがわかるようになっている。
「タグには受注している依頼の内容や依頼の成功率、賞罰情報など、こちらの装置を使わないと読むことのできない情報も登録されております。タグの偽造はタグ剥奪の他、罰金や懲役刑……亜人の場合は処刑もありますので、絶対にしないでくださいね」
「ああ」
やっぱり、亜人だけ罪に対する罰が重い。
亜人が差別されているって、こういうことなんだ。
聞いていて、凄く気分が重くなってくる。
「依頼を受けるときは、1つ上のランクまで受けることができますが、失敗の場合賠償が発生することもありますのでご注意ください。また、依頼を3回失敗するとランクが下がります。銅ランクで3回失敗するとタグ剥奪です。また、銅ランクは1年で1度も依頼を受注しないと、やはりタグ剥奪となります」
どこのギルドもこの仕組みは変わらないそうだ。
また、依頼を受けたギルド以外で達成報告をしても構わないらしい。
これは、時間制限のある依頼や、鮮度が重要視される常在依頼からの配慮なんだとか。
また、ギルドを通じて手紙や荷物も送れるらしい。
「それと、依頼中にもし冒険者の遺体を見つけたら、腕輪はそのままに、タグをお持ち帰りいただければ情報料をお支払いします」
よく見ると、腕輪にも名前と年齢が刻印されている。
何かあった際に、腕輪だけでも身元を確認できるようになっているそうだ。
依頼途中で命を落とす可能性がある職業だから、失踪した冒険者の情報には報酬が出るのだという。
ちなみに、タグ、または腕輪を紛失した場合は2000ロピーかかるらしい。
それがどのくらい高いのかとかわからないや。あとでカークさんに教わらないと。
「さっそく何か仕事を受けていかれますか?」
「いや、今日中に本土へ渡りたいんだ。一番早い船のチケットを頼む」
「わかりました。亜人2名と騎獣1頭で5500ロピー、登録料が一人1000ロピーで、合計7500ロピーです」
カークさんが腰のポーチから金貨を1枚お姉さんに渡すと、お釣りで銀貨が25枚返ってきた。
ということは、銀貨1枚が100ロピーで、金貨1枚が1万ロピーか。
購入したチケットの船はすぐに出発するというので、僕たちは慌てて乗り場へと向かった。
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