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三通目 親子の情
#15
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「なっちゃえば良いじゃない」
夕方、お父さんが寝た後にやってきた夏樹に、今までの事を打ち明けてみた。
僕がお父さんの本当の子供じゃないこと。まだ、長嶋香月だってこと。本庄香月になりたいってこと。
そうしたら、簡単な事のように夏樹はそう言った。
「そんな簡単なことじゃないよ」
「そう? だって、もう香月君は要さんをお父さんだって思ってるんでしょ?」
血の繋がりよりも、心が大事なんだって夏樹は言う。
血が繋がってたって、本気で殺したいと思うくらい憎んでいる家族もいるものって。ちょっと前の事を思い出したのか夏樹は悲しそうな表情をした。
「夏樹はもう大丈夫だよ。だって、もうちゃんと笑えてるじゃない」
夏樹はだいぶ明るくなった。友人もできたようだ。
まだ無理して笑っているような所はあるけれど。少なくとも、僕の前ではもう心から笑えているようだった。
「うん……ありがとう」
配達人に関してはまだ夏樹には教えていない。
心が読めるとか、幽霊を見せられるとかは、極力隠したほうが良いと今までの経験で嫌というほどわかっているから。
それでも、夏樹は自分が変わるきっかけを僕が与えたと思ってくれているようで、改めてお礼を言われた。
「でもさ、本当の親子になるって、どうやるのかな?」
「何か手続きがいるんだっけ?」
夏樹と二人でう~ん……と首を傾げて考えてみるけれど、答えは出ない。
「ま、要さんが香月君と同じ気持ちなら、きっともう動いてくれているよ!」
大丈夫! と言う夏樹の力強い言葉に元気づけられる。
そして、事実、その日はすぐにやってきた。
それは、その週の日曜日の事。
僕はお父さんに連れられて、長嶋の家にやってきていた。
「香月、今まですまなかった」
「私たちが悪かったわ。……それでね、香月。もう一度、やり直したいの。一緒に暮らしましょう?」
客間に通されてすぐ、パパとママが頭を下げてくる。
今までのことを謝り、慶太君を見つけたことのお礼を言われた。
それで、もう一度家族になろうって。
その言葉を、どれほど待ち望んだだろう。
この日を、どれだけ夢見ただろう。
……でも、もう遅いんだ。
「パパ、ママ。ありがとう」
その言葉に、パパとママがホッとしたのがわかる。
今までのことが全て赦されたと。今度こそ本当の家族になれると。
「……ありがとう、僕を生んでくれて」
僕を化け物扱いしてくれて。
僕を置いて行ってくれて。
おかげで、お父さんに逢えた。
ありのままの僕を受け入れ、愛してくれる人に。
「もう一度一緒に暮らそうって言ってくれて嬉しい。けど、僕はお父さんと一緒にいたい」
「何でだ? 本当の家族と一緒のほうが幸せに決まっている。それに、そちらの本庄さんには奥さんだっていないじゃないか。片親で子育てなんて無理に決まってる」
パパが声を少し荒げる。お父さんをバカにするような言葉にイラっとするけど、争いに来たわけじゃないってことを思い出す。
お父さんが傷ついていないかそっと横目で見ると、目が合った。僕のやりたいようにやって良いと言ってくれている気がした。
「パパ」
僕はそっとパパの腕に手を伸ばす。
パパは、小さくヒッと声を出すと僕の手から勢いよく逃れた。
そのままママに伸ばすけれど、ママはもっと顕著に怯えた。
「これが、答えだよ。本当の親子だって、幸せになれるとは限らない」
僕はそっと伸ばした手を戻す。
実の子供を殺そうとするほど憎んでいる親子にも会った。
血が繋がらなくたって、支え合って生きている親子にも会った。
「なら僕は、僕を怖がる人よりも、ありのままの僕を受け入れて愛してくれる人と家族になりたい」
僕がどうしたいのかハッキリと伝えるまで黙って見守ってくれていたお父さんが、やっと口を開く。
「香月もこう言ってますし、この子はうちで引き取ります」
「あ、あんたが香月にそう言わせてるんじゃないのか?!」
僕の選択に納得が行かないのか、パパがお父さんに声を荒げて言う。
「そんな事はしていません。それに貴方は今、香月に触れられるのを嫌がったでしょう? そんな状況ではやり直すことなど無理だ、とこの子も感じたのでしょう。私は、この子の意思を尊重します」
おいで、と言ってくれたのが嬉しくて僕はお父さんに抱きつく。お父さんは、ぎゅっと抱き返してくれた。
自分で思っていたよりもずっと、さっき手を避けられたのが傷ついていたようで涙が出てくる。泣いてしまったのがちょっと恥ずかしくて、顔をお父さんの服に押し付けるようにしがみ付く。
お父さんはその状態のままごそごそと鞄から書類の束を取り出す。
「長嶋さん達が今香月を受け入れようと努力しているのは認めます。けれど、あなた達ではまた元通りになる。断言しても良い。だから、この子の親権を破棄してください」
お父さんはこの日のために、僕を保護した日からずっと裁判所や警察署、児童相談所などにずっと掛け合ってくれていたらしい。
本来なら保護施設に入るはずだった僕がお父さんと暮らせていたのもそのお陰で。
本当なら司法の下強制的に引き取ることもできるけれど、全員納得した上で正式に僕と親子になるために今日の話し合いを設けたそうだ。
そして、何も言えなくなったパパとママは、お父さんが用意した書類にサインをした。
次の日、一緒にその書類を役所に提出して戸籍を書き換えて。僕は正式に「本庄香月」になった。
夕方、お父さんが寝た後にやってきた夏樹に、今までの事を打ち明けてみた。
僕がお父さんの本当の子供じゃないこと。まだ、長嶋香月だってこと。本庄香月になりたいってこと。
そうしたら、簡単な事のように夏樹はそう言った。
「そんな簡単なことじゃないよ」
「そう? だって、もう香月君は要さんをお父さんだって思ってるんでしょ?」
血の繋がりよりも、心が大事なんだって夏樹は言う。
血が繋がってたって、本気で殺したいと思うくらい憎んでいる家族もいるものって。ちょっと前の事を思い出したのか夏樹は悲しそうな表情をした。
「夏樹はもう大丈夫だよ。だって、もうちゃんと笑えてるじゃない」
夏樹はだいぶ明るくなった。友人もできたようだ。
まだ無理して笑っているような所はあるけれど。少なくとも、僕の前ではもう心から笑えているようだった。
「うん……ありがとう」
配達人に関してはまだ夏樹には教えていない。
心が読めるとか、幽霊を見せられるとかは、極力隠したほうが良いと今までの経験で嫌というほどわかっているから。
それでも、夏樹は自分が変わるきっかけを僕が与えたと思ってくれているようで、改めてお礼を言われた。
「でもさ、本当の親子になるって、どうやるのかな?」
「何か手続きがいるんだっけ?」
夏樹と二人でう~ん……と首を傾げて考えてみるけれど、答えは出ない。
「ま、要さんが香月君と同じ気持ちなら、きっともう動いてくれているよ!」
大丈夫! と言う夏樹の力強い言葉に元気づけられる。
そして、事実、その日はすぐにやってきた。
それは、その週の日曜日の事。
僕はお父さんに連れられて、長嶋の家にやってきていた。
「香月、今まですまなかった」
「私たちが悪かったわ。……それでね、香月。もう一度、やり直したいの。一緒に暮らしましょう?」
客間に通されてすぐ、パパとママが頭を下げてくる。
今までのことを謝り、慶太君を見つけたことのお礼を言われた。
それで、もう一度家族になろうって。
その言葉を、どれほど待ち望んだだろう。
この日を、どれだけ夢見ただろう。
……でも、もう遅いんだ。
「パパ、ママ。ありがとう」
その言葉に、パパとママがホッとしたのがわかる。
今までのことが全て赦されたと。今度こそ本当の家族になれると。
「……ありがとう、僕を生んでくれて」
僕を化け物扱いしてくれて。
僕を置いて行ってくれて。
おかげで、お父さんに逢えた。
ありのままの僕を受け入れ、愛してくれる人に。
「もう一度一緒に暮らそうって言ってくれて嬉しい。けど、僕はお父さんと一緒にいたい」
「何でだ? 本当の家族と一緒のほうが幸せに決まっている。それに、そちらの本庄さんには奥さんだっていないじゃないか。片親で子育てなんて無理に決まってる」
パパが声を少し荒げる。お父さんをバカにするような言葉にイラっとするけど、争いに来たわけじゃないってことを思い出す。
お父さんが傷ついていないかそっと横目で見ると、目が合った。僕のやりたいようにやって良いと言ってくれている気がした。
「パパ」
僕はそっとパパの腕に手を伸ばす。
パパは、小さくヒッと声を出すと僕の手から勢いよく逃れた。
そのままママに伸ばすけれど、ママはもっと顕著に怯えた。
「これが、答えだよ。本当の親子だって、幸せになれるとは限らない」
僕はそっと伸ばした手を戻す。
実の子供を殺そうとするほど憎んでいる親子にも会った。
血が繋がらなくたって、支え合って生きている親子にも会った。
「なら僕は、僕を怖がる人よりも、ありのままの僕を受け入れて愛してくれる人と家族になりたい」
僕がどうしたいのかハッキリと伝えるまで黙って見守ってくれていたお父さんが、やっと口を開く。
「香月もこう言ってますし、この子はうちで引き取ります」
「あ、あんたが香月にそう言わせてるんじゃないのか?!」
僕の選択に納得が行かないのか、パパがお父さんに声を荒げて言う。
「そんな事はしていません。それに貴方は今、香月に触れられるのを嫌がったでしょう? そんな状況ではやり直すことなど無理だ、とこの子も感じたのでしょう。私は、この子の意思を尊重します」
おいで、と言ってくれたのが嬉しくて僕はお父さんに抱きつく。お父さんは、ぎゅっと抱き返してくれた。
自分で思っていたよりもずっと、さっき手を避けられたのが傷ついていたようで涙が出てくる。泣いてしまったのがちょっと恥ずかしくて、顔をお父さんの服に押し付けるようにしがみ付く。
お父さんはその状態のままごそごそと鞄から書類の束を取り出す。
「長嶋さん達が今香月を受け入れようと努力しているのは認めます。けれど、あなた達ではまた元通りになる。断言しても良い。だから、この子の親権を破棄してください」
お父さんはこの日のために、僕を保護した日からずっと裁判所や警察署、児童相談所などにずっと掛け合ってくれていたらしい。
本来なら保護施設に入るはずだった僕がお父さんと暮らせていたのもそのお陰で。
本当なら司法の下強制的に引き取ることもできるけれど、全員納得した上で正式に僕と親子になるために今日の話し合いを設けたそうだ。
そして、何も言えなくなったパパとママは、お父さんが用意した書類にサインをした。
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