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魔女に呪いをかけられた話
4、異世界とか神様とか、非現実的なことが押し寄せてきた
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聞き間違いじゃなければ、ルナさんは今、おじいちゃんを水神だと言った。
『祖父は人間ではなかったのですか?』
「あら? あなた、自分の出自を知らないの?」
僕は頷く。
おじいちゃんは確かに長瀬さんら神職の人たちによって神様のように敬われていたけれど、現人神信仰と言うか、そういう役割の人間だと思っていた。
僕が子供の姿のままなのも、やはり歳を取る様子のないおじいちゃんの遺伝なのだとばかり。
ルナさんが少し呆れた様子で溜息を吐いた。
「あぁ、ごめんなさい。あなたじゃなくて、清瀬に呆れているの。ええと、特に口止めされているわけじゃないから知りたいなら教えるわ」
『知りたいです』
「そうね。清瀬は八百万いる日本の神々の、水神のうちの一柱よ。
元は清瀬川という川だったものが祀られ信仰されるうちに神格化したの。元が清流だからか、潔癖症な所があるわね」
「ぶっ……神様が潔癖症って……」
ルナさんの言葉に楓さんが噴き出す。ツボに入ってしまったようで、笑いをこらえようと震えている。
僕は、これまでのおじいちゃんの態度を思い返し、ルナさんの言葉がストンと腑に入った。
ルナさんは笑いをこらえようと震える楓さんをジロリと睨んで、話を続ける。
「遠い昔、清瀬は一人の女性を愛してその間に子を設けたの。その子は少し寿命が長いだけの普通の人間だった。
長いと言っても、せいぜい500年くらいね。そして、その子があなたの祖父。つまり清瀬は正しくはあなたの曾祖父になるわ」
現実味の無い話なのに、だから僕は出来損ないとおじいちゃんたちから言われていたのかと理解した。
人間の血が混ざっているから。神様じゃないから。
「あなたの祖父は人間として暮らして、家庭を持ったの。生まれた子は本当に普通の人間だったわ。そして、先祖返りのあなたが生まれた。あなたは祖父だった子よりも清瀬に近い存在なの」
悲しいけれど、全部納得してしまった。
両親に捨てられた理由も、おじいちゃんに嫌われている理由も、幼児の姿のまま成長しない理由も。
「何年も赤ん坊のままのあなたを持て余してしまったのね。あなたの両親はあなたを清瀬に預けた。清瀬が子育てなんてできるはずもなく、あなたが乳離れするまで、私が面倒をみたのよ」
「え、何それ! 俺知らないんだけど!」
「楓と出逢う前だったし」
ルナさんは僕の育て親だったらしい。
覚えていないことを凄く申し訳なく感じてしまった。
「ん? ということは、ルナの子供みたいなもの? ってことは、俺にとっても子供だな! やっぱりパパって呼んで良いぞ!」
ぶれない楓さんに、悲しい気持ちも申し訳なさも吹き飛ぶ。
僕が紙に『歳も近そうなのでそれはちょっと』と書くと項垂れてしまった。
そんな様子に思わず笑ってしまう。
けれど、楓さんもルナさんも気を悪くした様子はなく、一緒に笑ってくれた。
「話を戻すけれど。この世界の人間が異世界に攫われることは頻繁に起きているの」
「一昨年高校生が1クラス行方不明になって大騒ぎだったのもそれだ」
二人が急に真面目な顔に戻った。
楓さんの相槌に、僕は当時騒がれていた失踪事件を思い出す。
僕はあまりテレビも新聞も見ないけれど、連日あれだけ噂されていればさすがに耳に入る。
死者も出て、容疑者とされていたのが楓さんだったような。
「あ、俺の容疑は晴れてるからな? んな警戒しなくても平気だって」
思い出すと同時に楓さんを見ると、楓さんが慌てたようにそう言った。
うん、楓さんは悪人じゃないと思う。毒気を抜かれるというか、安心感があるというか。
僕の直感は当たる方なので楓さんを信じて大丈夫だと思う。
頷くと楓さんは満足そうに笑った。
「とにかく、清瀬の言う、樹を取り戻せというのは異世界に渡った人を連れ戻せということで間違いないと思うわ」
『異世界……どうやって連れ戻したら? それに、魔女が怒りはしないでしょうか?』
「まず間違いなく怒るだろうな。ゲームを仕掛けたのに、ゲームそっちのけで別の人間探すんだからな。そうなったらそうなったで、怒って出てきたところを見つけた! って言って捕まえりゃ良いんだよ」
楓さんの言うことは理にかなっている。
時空を操る魔女だとあいつは言っていた。それで、異界に隠れると。
そんな存在を探し出すのは難しい。あてどもなく探すより、おびき出した方が早い。
……あんな力を持つ魔女を相手に捕まえられる算段があればだけど。
『やれるだけ、やってみます』
「お、その意気だ。頑張れよ」
楓さんがまた僕の頭をわしゃわしゃと撫でる。
赤の他人である僕にかけられた呪いのことを真剣に考えてくれる様子に、僕は何でも相談できそうだと感じた。
「異世界に渡る方法だが――」
――チリン。
楓さんが言いかけた時、鳴らないはずの鈴が突然鳴った。
テーブルの上に置いていたその鈴には誰も触れていない。
僕は咄嗟に鈴を握る。
それでも鈴は鳴り止まない。
チリン、チリン、チリン、チリン。
鈴の音はどんどん大きくなる。
チリン、チリン、チリン、チリン。
音に合わせて視界が歪む。
――チリンッ!
一際大きく鈴が鳴った直後。
ルナさんと楓さんの姿はなく、辺りは広い草原に変わっていた。
『祖父は人間ではなかったのですか?』
「あら? あなた、自分の出自を知らないの?」
僕は頷く。
おじいちゃんは確かに長瀬さんら神職の人たちによって神様のように敬われていたけれど、現人神信仰と言うか、そういう役割の人間だと思っていた。
僕が子供の姿のままなのも、やはり歳を取る様子のないおじいちゃんの遺伝なのだとばかり。
ルナさんが少し呆れた様子で溜息を吐いた。
「あぁ、ごめんなさい。あなたじゃなくて、清瀬に呆れているの。ええと、特に口止めされているわけじゃないから知りたいなら教えるわ」
『知りたいです』
「そうね。清瀬は八百万いる日本の神々の、水神のうちの一柱よ。
元は清瀬川という川だったものが祀られ信仰されるうちに神格化したの。元が清流だからか、潔癖症な所があるわね」
「ぶっ……神様が潔癖症って……」
ルナさんの言葉に楓さんが噴き出す。ツボに入ってしまったようで、笑いをこらえようと震えている。
僕は、これまでのおじいちゃんの態度を思い返し、ルナさんの言葉がストンと腑に入った。
ルナさんは笑いをこらえようと震える楓さんをジロリと睨んで、話を続ける。
「遠い昔、清瀬は一人の女性を愛してその間に子を設けたの。その子は少し寿命が長いだけの普通の人間だった。
長いと言っても、せいぜい500年くらいね。そして、その子があなたの祖父。つまり清瀬は正しくはあなたの曾祖父になるわ」
現実味の無い話なのに、だから僕は出来損ないとおじいちゃんたちから言われていたのかと理解した。
人間の血が混ざっているから。神様じゃないから。
「あなたの祖父は人間として暮らして、家庭を持ったの。生まれた子は本当に普通の人間だったわ。そして、先祖返りのあなたが生まれた。あなたは祖父だった子よりも清瀬に近い存在なの」
悲しいけれど、全部納得してしまった。
両親に捨てられた理由も、おじいちゃんに嫌われている理由も、幼児の姿のまま成長しない理由も。
「何年も赤ん坊のままのあなたを持て余してしまったのね。あなたの両親はあなたを清瀬に預けた。清瀬が子育てなんてできるはずもなく、あなたが乳離れするまで、私が面倒をみたのよ」
「え、何それ! 俺知らないんだけど!」
「楓と出逢う前だったし」
ルナさんは僕の育て親だったらしい。
覚えていないことを凄く申し訳なく感じてしまった。
「ん? ということは、ルナの子供みたいなもの? ってことは、俺にとっても子供だな! やっぱりパパって呼んで良いぞ!」
ぶれない楓さんに、悲しい気持ちも申し訳なさも吹き飛ぶ。
僕が紙に『歳も近そうなのでそれはちょっと』と書くと項垂れてしまった。
そんな様子に思わず笑ってしまう。
けれど、楓さんもルナさんも気を悪くした様子はなく、一緒に笑ってくれた。
「話を戻すけれど。この世界の人間が異世界に攫われることは頻繁に起きているの」
「一昨年高校生が1クラス行方不明になって大騒ぎだったのもそれだ」
二人が急に真面目な顔に戻った。
楓さんの相槌に、僕は当時騒がれていた失踪事件を思い出す。
僕はあまりテレビも新聞も見ないけれど、連日あれだけ噂されていればさすがに耳に入る。
死者も出て、容疑者とされていたのが楓さんだったような。
「あ、俺の容疑は晴れてるからな? んな警戒しなくても平気だって」
思い出すと同時に楓さんを見ると、楓さんが慌てたようにそう言った。
うん、楓さんは悪人じゃないと思う。毒気を抜かれるというか、安心感があるというか。
僕の直感は当たる方なので楓さんを信じて大丈夫だと思う。
頷くと楓さんは満足そうに笑った。
「とにかく、清瀬の言う、樹を取り戻せというのは異世界に渡った人を連れ戻せということで間違いないと思うわ」
『異世界……どうやって連れ戻したら? それに、魔女が怒りはしないでしょうか?』
「まず間違いなく怒るだろうな。ゲームを仕掛けたのに、ゲームそっちのけで別の人間探すんだからな。そうなったらそうなったで、怒って出てきたところを見つけた! って言って捕まえりゃ良いんだよ」
楓さんの言うことは理にかなっている。
時空を操る魔女だとあいつは言っていた。それで、異界に隠れると。
そんな存在を探し出すのは難しい。あてどもなく探すより、おびき出した方が早い。
……あんな力を持つ魔女を相手に捕まえられる算段があればだけど。
『やれるだけ、やってみます』
「お、その意気だ。頑張れよ」
楓さんがまた僕の頭をわしゃわしゃと撫でる。
赤の他人である僕にかけられた呪いのことを真剣に考えてくれる様子に、僕は何でも相談できそうだと感じた。
「異世界に渡る方法だが――」
――チリン。
楓さんが言いかけた時、鳴らないはずの鈴が突然鳴った。
テーブルの上に置いていたその鈴には誰も触れていない。
僕は咄嗟に鈴を握る。
それでも鈴は鳴り止まない。
チリン、チリン、チリン、チリン。
鈴の音はどんどん大きくなる。
チリン、チリン、チリン、チリン。
音に合わせて視界が歪む。
――チリンッ!
一際大きく鈴が鳴った直後。
ルナさんと楓さんの姿はなく、辺りは広い草原に変わっていた。
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