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第三章 魔物の巣へ
5、焦り
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ユキが目を覚ますと、空はすっかり明るくなっていた。
また力を使い果たして眠ってしまったようで、腹の虫が栄養を催促して大声を上げている。
その音にアッバスとガレートが笑いをこらえるような顔をした。
「おはようユキちゃん」
「おはよ」
周囲の様子が変わっていることに、身を起こしたユキがようやく気付く。
魔物の気配はなく、鳥が囀っている。
息苦しさのある重々しい空気は、清浄なものになっていた。
「ユキちゃんのおかげで、俺達もすっかり元気だよ」
「周囲を少し見てきたが、魔物はほとんど死んだみたいだ」
ユキにお礼を言いながら、朝食の準備をするアッバス。
普通に調理をするつもりのようで、石を積み上げ簡単な炉を作ってあった。
ガレートは周囲を警戒しつつ、現状をユキに共有した。
魔素を霊素にするユキの力は、空気が清浄になるから便宜上『浄化の力』と呼ぶことにするというガレート。その呼び方を気に入り、ユキもそう呼ぶことにした。
魔素によって魔物へと変化したもののうち、弱いものはユキが浄化した時に死んでしまったようだということ。
それによって生き残ったものもいるだろうが、魔素の多い場所へ移動したのか周辺にはいないこと。
ユキが浄化した範囲はあまり広くないようで、リーベに行くまでにまた魔物の巣窟に入らなければならないこと。
「なら、二人がまた魔素中毒にならないうちに浄化をやるよ」
「戦闘はこれまで通り俺達に任せろ」
「ごめんね、ユキちゃんに大変なことさせちゃって」
少し進む速度は遅くなるだろうが、こまめに浄化しながら進むことをユキは提案する。
スコットを一刻も早く助けたい気持ちはあるが、そのためにスコットが魔素の中で苦しい想いをするのは違うと思ったのだ。
それに、ユキが浄化することで魔物が減るのであれば、結果的に戦闘も少なく進みやすくなるだろう。
出来上がったスープを受け取り、ユキも自分の鞄からパンを取り出す。
「そう言えば、魔物って死ぬと消えるんだな」
「そうなの?」
どこかへ行っていたらしい2号がそんなことを言いながら岩盤に飛び乗ってきた。
一部だけ残っているものもいるが、この岩盤近くには欠片も残っていないらしい。
小人のような2号の足だから、あまり遠くまでは見に行けていないそうだが。
「俺達が魔物を倒した時は全身残っているが」
「死ぬと消えるなんて聞いた事もないぞ」
「それは、ユキが浄化をしたからだよ。魔素に適応し、肉体を魔素で作り替えたものが魔物だから。弱い魔物、つまり魔素の少ない魔物は浄化に耐え切れずに崩壊しちゃうのさ」
霊素が魔素に変えられた物が崩壊するようにね、とスコットが説明する。
魔素に耐え切れないものは崩壊し、耐え切ったものは魔物になるらしい。
ユキがスコットの話を理解しようと意識すると、やはり脳内からそんな知識が出てきた。
「じゃあ、もしかして魔物から元の精霊や動物に戻れる子もいる?」
「どうだろう……? 何しろ、これまで浄化の力を持つ存在がいなかったからね」
試してみる価値はあるけれど、その前に襲われたら怪我じゃ済まないよとスコットは言う。
ユキは深く考えることをやめ、パンにかぶりついた。
魔物を精霊に戻す試みは、スコットがそうなってしまった時にやれば良い。
優先するのはスコットを助けること。そのために、魔素を生み出す装置を壊すこと。
浄化もスコットが魔素のせいで苦しんでいるからやるのだ。
他のことは考える必要も危険を冒して検証する必要もない。
ユキのそんな内心など知る由もなく、ユキの過去を知る2号はユキの発言に内心喜んでいた。
他者に関心を払ったことのないユキが、魔物を元に戻せるか気にするようになったと。
自分の殻に籠り自身を守るだけだったユキが、スコット以外の他者を助けたくなったのではないかと。
感動のあまり涙を流していたのだが、鞄の中に戻っていたためそれに気づく者はそこにはいなかった。
「蟲型に、樹木人に、岩狼……これで目撃情報のあった奴は全部か?」
「獅子型がまだだねぇ」
ユキ達は少し進んでは戦い、進んでは浄化を行っていた。
街道に入ってから三日。宿場町リーベの跡地にはまだ辿り付いてはいない。
遭遇する魔物は少なくなったものの、浄化に耐え抜く個体故に強大なものばかりであった。
「ロットまで、あとどのくらいかかりそう?」
「今のペースだと、リーベまであと1日、ロットへは更に10日くらいだな」
「ユキちゃんが浄化をしてくれないと、俺達が同行できないからこればっかりはね……」
これ以上ペースを上げることはできないとアッバスが申し訳なさそうに言う。
徒歩での行程なのだ。時間がかかるのは仕方ない。
それはわかるのだが、ユキは焦り苛立ち始めていた。
「ユキ、大丈夫だよ。ユキが浄化をした分、少しずつこの辺りも元に戻っているんだから」
ユキの心を感じ取ったのか、スコットが宥めるようにそう言った。
ユキの浄化に耐え切った個体も、アッバスとガレートにより討伐されている。
魔物はいるだけで周囲の魔素を濃くするが、殲滅されたことでユキ達が通った周辺だけは元通りの様相を取り戻しつつあった。
とは言え、ユキ達の目的は一刻も早くロットに行くことであるため生き延びた個体を捜索してまで倒すことはしていない。
「スコットは大丈夫? まだ死んじゃったりしない?」
「うん、魔素が減ったことでだいぶ楽になってきたよ」
「なら、良かったけど……」
スコットはその方が辛くないからと、まだ小さい姿のままユキに抱かれている。
大丈夫と言うスコットに安堵しつつ、ユキは不安を拭い切れないのであった。
また力を使い果たして眠ってしまったようで、腹の虫が栄養を催促して大声を上げている。
その音にアッバスとガレートが笑いをこらえるような顔をした。
「おはようユキちゃん」
「おはよ」
周囲の様子が変わっていることに、身を起こしたユキがようやく気付く。
魔物の気配はなく、鳥が囀っている。
息苦しさのある重々しい空気は、清浄なものになっていた。
「ユキちゃんのおかげで、俺達もすっかり元気だよ」
「周囲を少し見てきたが、魔物はほとんど死んだみたいだ」
ユキにお礼を言いながら、朝食の準備をするアッバス。
普通に調理をするつもりのようで、石を積み上げ簡単な炉を作ってあった。
ガレートは周囲を警戒しつつ、現状をユキに共有した。
魔素を霊素にするユキの力は、空気が清浄になるから便宜上『浄化の力』と呼ぶことにするというガレート。その呼び方を気に入り、ユキもそう呼ぶことにした。
魔素によって魔物へと変化したもののうち、弱いものはユキが浄化した時に死んでしまったようだということ。
それによって生き残ったものもいるだろうが、魔素の多い場所へ移動したのか周辺にはいないこと。
ユキが浄化した範囲はあまり広くないようで、リーベに行くまでにまた魔物の巣窟に入らなければならないこと。
「なら、二人がまた魔素中毒にならないうちに浄化をやるよ」
「戦闘はこれまで通り俺達に任せろ」
「ごめんね、ユキちゃんに大変なことさせちゃって」
少し進む速度は遅くなるだろうが、こまめに浄化しながら進むことをユキは提案する。
スコットを一刻も早く助けたい気持ちはあるが、そのためにスコットが魔素の中で苦しい想いをするのは違うと思ったのだ。
それに、ユキが浄化することで魔物が減るのであれば、結果的に戦闘も少なく進みやすくなるだろう。
出来上がったスープを受け取り、ユキも自分の鞄からパンを取り出す。
「そう言えば、魔物って死ぬと消えるんだな」
「そうなの?」
どこかへ行っていたらしい2号がそんなことを言いながら岩盤に飛び乗ってきた。
一部だけ残っているものもいるが、この岩盤近くには欠片も残っていないらしい。
小人のような2号の足だから、あまり遠くまでは見に行けていないそうだが。
「俺達が魔物を倒した時は全身残っているが」
「死ぬと消えるなんて聞いた事もないぞ」
「それは、ユキが浄化をしたからだよ。魔素に適応し、肉体を魔素で作り替えたものが魔物だから。弱い魔物、つまり魔素の少ない魔物は浄化に耐え切れずに崩壊しちゃうのさ」
霊素が魔素に変えられた物が崩壊するようにね、とスコットが説明する。
魔素に耐え切れないものは崩壊し、耐え切ったものは魔物になるらしい。
ユキがスコットの話を理解しようと意識すると、やはり脳内からそんな知識が出てきた。
「じゃあ、もしかして魔物から元の精霊や動物に戻れる子もいる?」
「どうだろう……? 何しろ、これまで浄化の力を持つ存在がいなかったからね」
試してみる価値はあるけれど、その前に襲われたら怪我じゃ済まないよとスコットは言う。
ユキは深く考えることをやめ、パンにかぶりついた。
魔物を精霊に戻す試みは、スコットがそうなってしまった時にやれば良い。
優先するのはスコットを助けること。そのために、魔素を生み出す装置を壊すこと。
浄化もスコットが魔素のせいで苦しんでいるからやるのだ。
他のことは考える必要も危険を冒して検証する必要もない。
ユキのそんな内心など知る由もなく、ユキの過去を知る2号はユキの発言に内心喜んでいた。
他者に関心を払ったことのないユキが、魔物を元に戻せるか気にするようになったと。
自分の殻に籠り自身を守るだけだったユキが、スコット以外の他者を助けたくなったのではないかと。
感動のあまり涙を流していたのだが、鞄の中に戻っていたためそれに気づく者はそこにはいなかった。
「蟲型に、樹木人に、岩狼……これで目撃情報のあった奴は全部か?」
「獅子型がまだだねぇ」
ユキ達は少し進んでは戦い、進んでは浄化を行っていた。
街道に入ってから三日。宿場町リーベの跡地にはまだ辿り付いてはいない。
遭遇する魔物は少なくなったものの、浄化に耐え抜く個体故に強大なものばかりであった。
「ロットまで、あとどのくらいかかりそう?」
「今のペースだと、リーベまであと1日、ロットへは更に10日くらいだな」
「ユキちゃんが浄化をしてくれないと、俺達が同行できないからこればっかりはね……」
これ以上ペースを上げることはできないとアッバスが申し訳なさそうに言う。
徒歩での行程なのだ。時間がかかるのは仕方ない。
それはわかるのだが、ユキは焦り苛立ち始めていた。
「ユキ、大丈夫だよ。ユキが浄化をした分、少しずつこの辺りも元に戻っているんだから」
ユキの心を感じ取ったのか、スコットが宥めるようにそう言った。
ユキの浄化に耐え切った個体も、アッバスとガレートにより討伐されている。
魔物はいるだけで周囲の魔素を濃くするが、殲滅されたことでユキ達が通った周辺だけは元通りの様相を取り戻しつつあった。
とは言え、ユキ達の目的は一刻も早くロットに行くことであるため生き延びた個体を捜索してまで倒すことはしていない。
「スコットは大丈夫? まだ死んじゃったりしない?」
「うん、魔素が減ったことでだいぶ楽になってきたよ」
「なら、良かったけど……」
スコットはその方が辛くないからと、まだ小さい姿のままユキに抱かれている。
大丈夫と言うスコットに安堵しつつ、ユキは不安を拭い切れないのであった。
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