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第二章 プリメア
18、帰還
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パチパチと火の爆ぜる音。ぐつぐつと煮立つ音。鳥の鳴き声や精霊の笑い声。
ユキが目覚めると、寝ている間に移動していたらしく既に神樹が遠くに見えた。
力を使って眠った後だったため例に漏れず異常なほどお腹が空いている。
薪が燃える匂いと共に漂う美味しそうな香りが余計に空腹を刺激する。
「やぁ、そろそろ起こそうかと思っていたところだよ」
「おはよう、ユキちゃん」
「おはよう」
「……おはよう、ございます」
ユキが身を起こしたのに気付いて、次々に声をかけられる。
いつの間に合流したのか、ガレートも一緒だった。
スープ鍋をかき混ぜるアッバスと、串に刺さった魚や肉の位置を調節しているガレート。
人型のスコットはユキの鞄からサンドイッチを取り出していた。
「お腹空いているでしょ? たくさんお食べ」
「うん」
ユキがお腹を空かせて目が覚めるのを知っていたスコットが食事を用意しておいてくれたのだと思った。
差し出された卵とベーコンと野菜たっぷりのサンドイッチを頬張り、貝の旨味が凝縮された塩風味のスープで流し込む。
がっつくユキに、アッバスが一晩眠っていたのだと教えてくれた。
アッバスとガレートにとっても朝食となるようで、出来上がった焼き魚を手に輪になって座り一緒に食べた。
「街に戻ったら、1日だけ休みをもらいたいんだけど、良いかい?」
食べていると、アッバスがそう聞いてきた。
恐らく、祝福の実を奥さんに渡したいのだろう。
保健体育の授業は始まっていたから、実を食べただけで子供ができるわけではないことはユキにも想像できた。
少しだけ顔を赤らめて頷くと、アッバスはホッとしたように顔を崩した。
「じゃあ、街についたら1日休みってことで。その間、ユキは俺と一緒に買い物な」
ガレートがユキの予定まで決めてしまった。
買物って、何を買うつもりなんだろう? と必要な物は全て揃えた気でいるユキは首を傾げる。
街を出た途端襲われそうになったので街中を歩くのは少し不安だが、ガレートと一緒なら大丈夫だろうとユキは思うことにした。
食事が終わると、早速出発する。
足の遅いユキは、再びスコットが大きな猫型になり背に乗せた。
精霊と高ランク冒険者は足場の悪い森の中を風のように駆け抜け、あっという間に森の出口まで来る。
「じゃあ、スコット交代ね。今度はあたしが抱っこしてあげる」
「ふふ、じゃあ甘えちゃおうかな」
スコットは小さくなると、大人しくユキに抱かれた。
整備されていない獣道を少し進むと、行きで襲われた街道へと出る。
既に遺体は片付けられ、地面は炭のような黒色と土が混ざっていた。
「血の臭いで獣や魔物が集まってこないよう、藁を敷いて燃やしてから土を被せたんだ」
ガレートがそう説明してくれた。
だからなのだろう。大勢の人がここで死んだなどとわからないほどで。
あれほど怖い思いをしたユキも、特に恐怖が再燃することもなくこの場所を通れた。
「ユキ! おかえり! 無事で良かった!」
正門前で出入りする人をチェックしていたライーが、ユキの姿を見つけるなり駆け寄ってきた。
怖かっただろう、とユキを抱きしめてくるライーにユキはおずおずと「ただいま」と言う。
こんな風に出迎えてくれる人なんて今までいなかったから、「ただいま」「おかえり」というやり取りがなんだかくすぐったい。
「お前達も、よくユキを守ってくれた! 感謝する」
「大げさだよ、ライーさん」
「そうそう、俺達は当たり前のことをしただけで」
ライーの言葉に、アッバスもガレートもどこかむず痒い顔をしていた。
ガレートはユキを家まで送ると言ってくれたのだが、ユキはライーの仕事が終わるまで正門にある衛兵の詰め所で待つことになった。
襲撃があった以上、ユキを家で一人にするのが心配だとライーが譲らなかったのだ。
翌朝、朝食を用意しているとガレートがやってきた。
ユキを一人にしたくないライーが、自分の出勤時間前にガレートに預けようと呼んだのだ。
「こんな朝早くに呼びつけて悪かったな」
「いいや。お陰で美味しい朝食にありつけたから大丈夫」
今日の朝食はパンと卵焼きに、ジャガイモのポタージュスープ。
パンもポタージュスープもライーが買ってきた温めるだけのもので、手間暇かからないお手軽メニューだ。
それでも、ガレートは美味い美味いと平らげた。
「昨日ユキを襲った連中だが、例によって背後にいる奴はわからなかった」
「まぁ、そう簡単に依頼者を喋ったら信用を失くすからな」
ライーは昨日の襲撃事件について調べてくれたらしい。
実行犯が傭兵だったということで依頼した何者かがいるはずだが、そこまでは突き止められなかったのだと。
ガレートも予想はしていたようで、特に何も文句は言わない。
「ギルドの方には抗議を入れておいた。犯罪の依頼を受けないとは言っていたよ」
「口約束だろう? あいつらが守るもんか」
「まぁな。むしろ、ギルド員が殺されたとお前達が訴えられる可能性もある」
「あのギルド長ならやりかねんな」
嫌悪感を隠そうともせずに話す二人。
冒険者ギルドと傭兵ギルドでは仕事が重なることもあると言っていたから、ガレートが傭兵ギルドにあまり良い感情を持っていないのは理解できるが……。
二人の会話を聞きながら、ユキは何故そんな人物がギルド長などをやっているのかと不思議に思っていた。
ユキが目覚めると、寝ている間に移動していたらしく既に神樹が遠くに見えた。
力を使って眠った後だったため例に漏れず異常なほどお腹が空いている。
薪が燃える匂いと共に漂う美味しそうな香りが余計に空腹を刺激する。
「やぁ、そろそろ起こそうかと思っていたところだよ」
「おはよう、ユキちゃん」
「おはよう」
「……おはよう、ございます」
ユキが身を起こしたのに気付いて、次々に声をかけられる。
いつの間に合流したのか、ガレートも一緒だった。
スープ鍋をかき混ぜるアッバスと、串に刺さった魚や肉の位置を調節しているガレート。
人型のスコットはユキの鞄からサンドイッチを取り出していた。
「お腹空いているでしょ? たくさんお食べ」
「うん」
ユキがお腹を空かせて目が覚めるのを知っていたスコットが食事を用意しておいてくれたのだと思った。
差し出された卵とベーコンと野菜たっぷりのサンドイッチを頬張り、貝の旨味が凝縮された塩風味のスープで流し込む。
がっつくユキに、アッバスが一晩眠っていたのだと教えてくれた。
アッバスとガレートにとっても朝食となるようで、出来上がった焼き魚を手に輪になって座り一緒に食べた。
「街に戻ったら、1日だけ休みをもらいたいんだけど、良いかい?」
食べていると、アッバスがそう聞いてきた。
恐らく、祝福の実を奥さんに渡したいのだろう。
保健体育の授業は始まっていたから、実を食べただけで子供ができるわけではないことはユキにも想像できた。
少しだけ顔を赤らめて頷くと、アッバスはホッとしたように顔を崩した。
「じゃあ、街についたら1日休みってことで。その間、ユキは俺と一緒に買い物な」
ガレートがユキの予定まで決めてしまった。
買物って、何を買うつもりなんだろう? と必要な物は全て揃えた気でいるユキは首を傾げる。
街を出た途端襲われそうになったので街中を歩くのは少し不安だが、ガレートと一緒なら大丈夫だろうとユキは思うことにした。
食事が終わると、早速出発する。
足の遅いユキは、再びスコットが大きな猫型になり背に乗せた。
精霊と高ランク冒険者は足場の悪い森の中を風のように駆け抜け、あっという間に森の出口まで来る。
「じゃあ、スコット交代ね。今度はあたしが抱っこしてあげる」
「ふふ、じゃあ甘えちゃおうかな」
スコットは小さくなると、大人しくユキに抱かれた。
整備されていない獣道を少し進むと、行きで襲われた街道へと出る。
既に遺体は片付けられ、地面は炭のような黒色と土が混ざっていた。
「血の臭いで獣や魔物が集まってこないよう、藁を敷いて燃やしてから土を被せたんだ」
ガレートがそう説明してくれた。
だからなのだろう。大勢の人がここで死んだなどとわからないほどで。
あれほど怖い思いをしたユキも、特に恐怖が再燃することもなくこの場所を通れた。
「ユキ! おかえり! 無事で良かった!」
正門前で出入りする人をチェックしていたライーが、ユキの姿を見つけるなり駆け寄ってきた。
怖かっただろう、とユキを抱きしめてくるライーにユキはおずおずと「ただいま」と言う。
こんな風に出迎えてくれる人なんて今までいなかったから、「ただいま」「おかえり」というやり取りがなんだかくすぐったい。
「お前達も、よくユキを守ってくれた! 感謝する」
「大げさだよ、ライーさん」
「そうそう、俺達は当たり前のことをしただけで」
ライーの言葉に、アッバスもガレートもどこかむず痒い顔をしていた。
ガレートはユキを家まで送ると言ってくれたのだが、ユキはライーの仕事が終わるまで正門にある衛兵の詰め所で待つことになった。
襲撃があった以上、ユキを家で一人にするのが心配だとライーが譲らなかったのだ。
翌朝、朝食を用意しているとガレートがやってきた。
ユキを一人にしたくないライーが、自分の出勤時間前にガレートに預けようと呼んだのだ。
「こんな朝早くに呼びつけて悪かったな」
「いいや。お陰で美味しい朝食にありつけたから大丈夫」
今日の朝食はパンと卵焼きに、ジャガイモのポタージュスープ。
パンもポタージュスープもライーが買ってきた温めるだけのもので、手間暇かからないお手軽メニューだ。
それでも、ガレートは美味い美味いと平らげた。
「昨日ユキを襲った連中だが、例によって背後にいる奴はわからなかった」
「まぁ、そう簡単に依頼者を喋ったら信用を失くすからな」
ライーは昨日の襲撃事件について調べてくれたらしい。
実行犯が傭兵だったということで依頼した何者かがいるはずだが、そこまでは突き止められなかったのだと。
ガレートも予想はしていたようで、特に何も文句は言わない。
「ギルドの方には抗議を入れておいた。犯罪の依頼を受けないとは言っていたよ」
「口約束だろう? あいつらが守るもんか」
「まぁな。むしろ、ギルド員が殺されたとお前達が訴えられる可能性もある」
「あのギルド長ならやりかねんな」
嫌悪感を隠そうともせずに話す二人。
冒険者ギルドと傭兵ギルドでは仕事が重なることもあると言っていたから、ガレートが傭兵ギルドにあまり良い感情を持っていないのは理解できるが……。
二人の会話を聞きながら、ユキは何故そんな人物がギルド長などをやっているのかと不思議に思っていた。
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