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第二章 プリメア
3、嘘がバレた
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「ライー、そいつは隠し子か?」
「おいおい、ここは子連れで来るところじゃないぜ?」
建物に入るなり、そんな野次とゲラゲラ笑う声を浴びせかけられる。
トラウマを刺激されたユキは、その声に身をすくませた。
ライーはそれに気づき、後ろに庇うようにしてユキを隠す。と言っても周囲にたくさんいるためちっとも隠せてないのだが。
「やめろ、子供が怯えてるだろ。ユキ、相手にするな」
俺の子じゃねぇ、と野次馬達に怒鳴ってから、おいで、とライーはユキの手を引く。
ユキは辺りをきょろきょろと窺う。
全身鎧に身を包み顔も性別も不明な巨体、ヤクザにしか見えないスキンヘッドの男や、腕や首に入れ墨を入れたヒョロリとした男性など、威圧的な外見の男性が圧倒的に多い。その多くがニヤニヤと厭らしい嗤いを浮かべながらユキを見ていた。
女性の姿もチラホラと見られるが、彼女達はユキには関心が無いのかチラリと一瞥しただけで壁の掲示物を見たり仲間たちとの歓談に戻ったりしている。
ユキは恐怖で無意識のうちにライーの体の影に隠れるように身を寄せる。
「あら、ライーさん珍しいですね。衛兵隊長自らギルドにお越しなんて」
「先にジグを知らせに寄越したはずだが……ギルド長はいないのか?」
カウンターらしき場所へと連れてくると、ライーが女性と何やら話している。
カウンターはユキの背丈からは高すぎて、その奥にいる女性の姿は見えない。
聞こえてきた声から、ライーは隊長だったのかと知る。
「子供を保護したって?」
「あぁ。先月からキーダンの避難民がチラホラ来てただろ。その中の子じゃないかって思うんだが……名前以外何も覚えてないらしいんだ」
やはりカウンターの奥から男性の声が聞こえてくる。
何も見えないカウンター内よりは、ギルドの壁面に貼られている紙や地図、絵画が気になったユキ。ライーの体に貼りついたまま、内容が見えないものかと注視していると不意に頭を触られた。
驚いて飛び上がるように見上げると、銀縁眼鏡で詰襟のような服を着た男性が薄く笑いながらカウンター越しに身を乗り出してユキの頭を撫でていた。
「ずいぶんと懐かれているじゃないか、ライー」
「懐かれたっていうより、隠れてるだけだろ。強面が多いからな」
「ふふ、違いない。場所を移そう。この体勢じゃ話にくい」
小さい子供が依頼者として来ることも想定して、もっと低いカウンターも設置しないとダメだなぁ、なんて話しながら2階にある立派な部屋へと案内される。
ふかふかとした椅子に座ると、体が沈み込むようで落ち着かない。
「さて、私はこのプリメアの冒険者ギルドのギルド長を務めているアルカという。君の名前を教えてくれるかな?」
「ユキ」
アルカと名乗った男は白髪が混じったグレーの髪ではあるが、ライーよりも若く見える。
一見微笑んで見えるが、糸目なだけで実際は笑っていないことにユキは対面してすぐに気が付いた。
値踏みするような視線に警戒しながら、ユキも同じようにアルカのひととなりを見極めようと観察する。
「ユキ、聞かせてくれるかな? 何故、精霊を連れている?」
「!」
「何?!」
アルカの言葉に、ユキは一気に緊張する。ライーは驚いたようにユキを見、それからスコットに視線を移した。
「まさかこんなに早く見破られるとはね」
スコットがユキの手の中からスルリと抜け出すと、人型を取りユキの真横に立つ。
剣を抜くライーに、ユキはオロオロとすることしかできない。
「よりにもよって、『猫』とは」
「ボクがケット・シーで何か問題でも?」
「大ありだ。『猫』が魔物を生み出したんだろうが。ここでも魔物を出す気か」
「スコットはそんなことしない!」
今にも斬りかかりそうな剣幕のライーとアルカ。あらぬ疑いをかけられたことに、ユキは憤慨して思わず叫んでいた。
人間が女神を憎むようになったとは聞いていたが、精霊であるスコットにまでいきなり敵意を向けられるとは思っていなかった。
視線が一斉にユキに集まり、ユキはまたガタガタと体が震えるのを感じる。
しかし、今ユキが動かなければ、スコットが殺されてしまうかもしれない。震える口で、ユキは言葉を紡ぐ。
「スコットは、あたしを助けてくれたんだもん。一緒に魔物を倒しに行くんだもん。悪いことしないよ! スコットは神様だもの。あたしの神様を悪く言わないで!」
「ユキ……」
嬉しそうに、スコットがユキを抱きしめる。
フーッと威嚇するような荒い呼吸で涙をボロボロと流しながら睨みつけてくるユキに、ライーは毒気を抜かれたようで剣を下ろす。
アルカはスコットとユキの様子を観察するような視線を向けたまま、フム、と呟いた。
「座りなさい。ライーも」
「ああ」
スコットはユキを抱っこする姿勢で椅子に腰かける。
ユキはまだ涙が止まらずにただアルカを睨んでいた。
ライーは困ったような顔をしているが、アルカは感情の読めない薄笑いを浮かべたままだ。
「魔物を倒しにいく、と言ったかね?」
「そうだよ。正確には、魔物を生み出している装置を壊しにね」
「何故今頃? いや待て、装置だと?」
「今までは装置が精霊を呑み込み、魔物に作り替えてしまうため近寄れなかった。それはボクも一緒。でも、今は違う。この子が現れた。魔素を霊素に作り替えられるこの子なら、装置に近寄って壊すことができる」
泣いたままのユキをあやすようにスコットが頭を優しく撫でながら、アルカと話を進める。
双子を止められなかった贖罪から、『猫』を代表してこの使命に乗り出したこと。
世界が装置のせいで崩壊していること。ユキの出自や能力などもアルカの質問に包み隠さず話していく。
「ユキはキーダンからの避難民じゃなかったのか?!」
「そんなこと、ユキは一言も言ってないよ」
ライーが自分の勘違いに気付いて声を上げる。
アルカは一通りスコットの説明を聞くと、フゥ、とため息を吐いた。
「嘘は吐いていないようだな」
どうやらアルカはスコットの正体を見破ったように、話の真偽を見破る能力を持っているようだった。
敵意は減ったものの、アルカがスコットをどうするのか、どんな行動に出るのかわからずユキはスコットにしがみついたままアルカをジッと見ていた。
「おいおい、ここは子連れで来るところじゃないぜ?」
建物に入るなり、そんな野次とゲラゲラ笑う声を浴びせかけられる。
トラウマを刺激されたユキは、その声に身をすくませた。
ライーはそれに気づき、後ろに庇うようにしてユキを隠す。と言っても周囲にたくさんいるためちっとも隠せてないのだが。
「やめろ、子供が怯えてるだろ。ユキ、相手にするな」
俺の子じゃねぇ、と野次馬達に怒鳴ってから、おいで、とライーはユキの手を引く。
ユキは辺りをきょろきょろと窺う。
全身鎧に身を包み顔も性別も不明な巨体、ヤクザにしか見えないスキンヘッドの男や、腕や首に入れ墨を入れたヒョロリとした男性など、威圧的な外見の男性が圧倒的に多い。その多くがニヤニヤと厭らしい嗤いを浮かべながらユキを見ていた。
女性の姿もチラホラと見られるが、彼女達はユキには関心が無いのかチラリと一瞥しただけで壁の掲示物を見たり仲間たちとの歓談に戻ったりしている。
ユキは恐怖で無意識のうちにライーの体の影に隠れるように身を寄せる。
「あら、ライーさん珍しいですね。衛兵隊長自らギルドにお越しなんて」
「先にジグを知らせに寄越したはずだが……ギルド長はいないのか?」
カウンターらしき場所へと連れてくると、ライーが女性と何やら話している。
カウンターはユキの背丈からは高すぎて、その奥にいる女性の姿は見えない。
聞こえてきた声から、ライーは隊長だったのかと知る。
「子供を保護したって?」
「あぁ。先月からキーダンの避難民がチラホラ来てただろ。その中の子じゃないかって思うんだが……名前以外何も覚えてないらしいんだ」
やはりカウンターの奥から男性の声が聞こえてくる。
何も見えないカウンター内よりは、ギルドの壁面に貼られている紙や地図、絵画が気になったユキ。ライーの体に貼りついたまま、内容が見えないものかと注視していると不意に頭を触られた。
驚いて飛び上がるように見上げると、銀縁眼鏡で詰襟のような服を着た男性が薄く笑いながらカウンター越しに身を乗り出してユキの頭を撫でていた。
「ずいぶんと懐かれているじゃないか、ライー」
「懐かれたっていうより、隠れてるだけだろ。強面が多いからな」
「ふふ、違いない。場所を移そう。この体勢じゃ話にくい」
小さい子供が依頼者として来ることも想定して、もっと低いカウンターも設置しないとダメだなぁ、なんて話しながら2階にある立派な部屋へと案内される。
ふかふかとした椅子に座ると、体が沈み込むようで落ち着かない。
「さて、私はこのプリメアの冒険者ギルドのギルド長を務めているアルカという。君の名前を教えてくれるかな?」
「ユキ」
アルカと名乗った男は白髪が混じったグレーの髪ではあるが、ライーよりも若く見える。
一見微笑んで見えるが、糸目なだけで実際は笑っていないことにユキは対面してすぐに気が付いた。
値踏みするような視線に警戒しながら、ユキも同じようにアルカのひととなりを見極めようと観察する。
「ユキ、聞かせてくれるかな? 何故、精霊を連れている?」
「!」
「何?!」
アルカの言葉に、ユキは一気に緊張する。ライーは驚いたようにユキを見、それからスコットに視線を移した。
「まさかこんなに早く見破られるとはね」
スコットがユキの手の中からスルリと抜け出すと、人型を取りユキの真横に立つ。
剣を抜くライーに、ユキはオロオロとすることしかできない。
「よりにもよって、『猫』とは」
「ボクがケット・シーで何か問題でも?」
「大ありだ。『猫』が魔物を生み出したんだろうが。ここでも魔物を出す気か」
「スコットはそんなことしない!」
今にも斬りかかりそうな剣幕のライーとアルカ。あらぬ疑いをかけられたことに、ユキは憤慨して思わず叫んでいた。
人間が女神を憎むようになったとは聞いていたが、精霊であるスコットにまでいきなり敵意を向けられるとは思っていなかった。
視線が一斉にユキに集まり、ユキはまたガタガタと体が震えるのを感じる。
しかし、今ユキが動かなければ、スコットが殺されてしまうかもしれない。震える口で、ユキは言葉を紡ぐ。
「スコットは、あたしを助けてくれたんだもん。一緒に魔物を倒しに行くんだもん。悪いことしないよ! スコットは神様だもの。あたしの神様を悪く言わないで!」
「ユキ……」
嬉しそうに、スコットがユキを抱きしめる。
フーッと威嚇するような荒い呼吸で涙をボロボロと流しながら睨みつけてくるユキに、ライーは毒気を抜かれたようで剣を下ろす。
アルカはスコットとユキの様子を観察するような視線を向けたまま、フム、と呟いた。
「座りなさい。ライーも」
「ああ」
スコットはユキを抱っこする姿勢で椅子に腰かける。
ユキはまだ涙が止まらずにただアルカを睨んでいた。
ライーは困ったような顔をしているが、アルカは感情の読めない薄笑いを浮かべたままだ。
「魔物を倒しにいく、と言ったかね?」
「そうだよ。正確には、魔物を生み出している装置を壊しにね」
「何故今頃? いや待て、装置だと?」
「今までは装置が精霊を呑み込み、魔物に作り替えてしまうため近寄れなかった。それはボクも一緒。でも、今は違う。この子が現れた。魔素を霊素に作り替えられるこの子なら、装置に近寄って壊すことができる」
泣いたままのユキをあやすようにスコットが頭を優しく撫でながら、アルカと話を進める。
双子を止められなかった贖罪から、『猫』を代表してこの使命に乗り出したこと。
世界が装置のせいで崩壊していること。ユキの出自や能力などもアルカの質問に包み隠さず話していく。
「ユキはキーダンからの避難民じゃなかったのか?!」
「そんなこと、ユキは一言も言ってないよ」
ライーが自分の勘違いに気付いて声を上げる。
アルカは一通りスコットの説明を聞くと、フゥ、とため息を吐いた。
「嘘は吐いていないようだな」
どうやらアルカはスコットの正体を見破ったように、話の真偽を見破る能力を持っているようだった。
敵意は減ったものの、アルカがスコットをどうするのか、どんな行動に出るのかわからずユキはスコットにしがみついたままアルカをジッと見ていた。
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