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第一章 聖域
14、崩壊の元凶
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「そう。ユキがそう決めたのなら、ボクもついていくよ。残念ながらボクには世界を救う力は無いけれど、いざユキが危なくなった時に、連れて逃げるくらいならできるから」
ユキの決意を、スコットは危険だと止めることなく賛同した。
ユキはスコットがついて来てくれることが嬉しくて、抱きしめる腕に力を入れる。
と、こほん、と咳払いが聞こえた。
「俺もいるんですけどー。さっきから2人の世界を作ってくれちゃって」
「あ、ゴメンね、2号」
「ごめんなさい」
ジト目の2号が2人を見上げてくる。
慌てて離れたユキの肩に、2号がよじ登って来た。
「当然、俺もついていくぞ。何たって、俺はユキの友達だからな!」
「2号は、自分の身は自分で守ってね」
「酷くね!? 俺とユキとの対応違い過ぎじゃねぇ?!」
「あはっ、そうだね。友達だもんね」
スコットと2号のじゃれ合いがなんだかおかしくて、ユキは笑った。
それにつられたように、2号とスコットも笑う。
ひとしきり笑った後、本題を切り出したのは2号だった。
「それで、どうしたら良いんだ?」
ユキも、世界を救うと決めたものの、何をどうしたら良いのかわからないためスコットをじっと見る。
2人の視線を向けられたスコットは、小さくなってきた焚き火に枯れ枝を足すとユキを抱えて座り直した。
「そうだね、何から話そうかな……まずはこの世界の成り立ちから説明するね」
少し長くなるけど、と言うスコットに、2号が良いから話せ、と先を促す。
ユキは、きっとスコットの体に関係のある話なのだろうと思い、ただ黙って頷く。
「この世界は、初めは創世神である女神と精霊族、それから人間と動物が住んでいた。自然の力を操る精霊族と、道具を工夫して様々な物を創り出す人間。そして、生態系を支える動物達。みんな支え合って暮らしていた」
精霊族や動物との違いとかは今は関係ないから飛ばすけど、とスコットは話を進める。
初めは助け合って生きていたが、やがて女神が望みを叶えすぎて、自分達では何一つやろうとしなくなってしまったのは昨夜聞いた通りである。
「それで、魔物って呼ばれる悪いものが生まれたんだよね」
ユキの確認の言葉に、スコットが頷く。
では、どこにいるかわからないその魔物が世界を壊し、スコットの命を削っているのだろうか。
「でもね、世界を壊しているのは、実は魔物じゃないんだ」
「じゃあ何だ?」
「人間が生きるのに空気が必要なように、精霊や魔物が存在するために必要なものがある」
精霊に必要なものは、霊素と呼ばれている。精霊は霊素溜まりから産まれて、霊素によって存在を維持し、その力を揮うのにも霊素を使う。
霊素は初めに世界を構築する際に、消費されずに余って空気中に漂う膨大なエネルギーである。大地や草木、生命が誕生する際にも消費され、朽ちるとまた霊素となって循環する。
一方、魔物は魔素と呼ばれる物が必要となる。
「この世界は霊素によってできている、と思ってくれれば良いよ」
ユキが難しい話についていけずに目を回していると、スコットが苦笑しながらユキの頭を撫でた。
スコットは続ける。
「魔物を創り出した時に、魔素も創られた。正確には、魔素を生み出す装置だね」
その装置は、世界の数カ所に置かれ、周囲の霊素を吸込み魔素に変換する。
霊素でできている精霊達もその装置によって大部分が死滅したそうだ。
そして、その装置によって造られた魔素溜まりから魔物が生まれ、魔物以外のあらゆる生命を襲う。魔素の濃い所ほど強い魔物が産まれた。
魔物は魔素を消費すると同時に、魔素を撒き散らす。
「この世界は霊素でできているから、それを魔素に変換されたことによって、世界が維持できなくなっているんだ」
「そもそも、何でその女神はそんな装置を作ったんだ? 魔物だって魔素を撒き散らすってんなら、わざわざそんな装置を用意しなくったって十分だろう」
共通の敵っていうなら、協力すればギリギリ倒せるくらいの魔物を一匹用意すればそれで済む話だろう、と2号は言う。
その尤もな疑問に、実は、とスコットが言いにくそうに言う。
「魔物を創ったのも、装置を創ったのも、女神じゃないんだ」
「どういうことだ?」
それは、説話にも残されていない真実。
女神に仕え、創生の力を分け与えられた神獣と呼ばれる存在はスコットを含め4頭いたそうだ。
女神に煙たがられようとも、諌める役目を自ら負っていたフェンリル。そして、女神に様々な創造のアイディアを出していた悪戯好きな双子のビッグ・イヤー。
「ビッグ・イヤー?」
「ボクとは違う種族の猫型の妖精だよ」
そのビッグ・イヤーが、女神に無断で魔物と装置を創り出したのだと、スコットは淡々と語る。
女神は決して、世界を壊すことになると解っているそのアイディアを許可することはなかったと。
しかし、女神が双子の狂気に気がついた時には既に手遅れだった。
スコットは崩壊していくこの世界と断絶した空間に方舟を創り、女神と数人の精霊・人間を逃したのだそうだ。
それが、今この世界に本来いるはずの神がいない理由。
スコットは女神の代わりにこの世界を支え、方舟に乗れなかったあらゆる生命達の恨みを一身に引き受けることを選んだのだと言う。
「それが、あの子達を止められなかったボクにできる償いだと思ったんだ」
「何で誰もその装置を壊そうとしなかったんだ?」
「誰も近づけないからさ。霊素でできている精霊は、装置によって魔素にされるか、あるいはそのまま強力な魔物になってしまう。人間や動物も肉体はあるものの、やっぱり霊素で構築されているからね。魔素は猛毒ってわけ」
「待って。じゃぁ、どうやってその装置を壊したら良いの?」
世界を救うには、元凶である装置を壊し、魔物を殲滅すれば良い。しかし、装置に近づけないなら、壊しようがない。
それができるなら、とっくにこの世界の住人の誰かが成し遂げていただろう。
やるべき事はわかったが、それは不可能に近い事のようにユキには思えた。
「ユキの力を使う」
ユキの戸惑いを断ち切るように、きっぱりとスコットが言い切った。
ユキには世界を救う力がある、ユキならできると。
ユキの決意を、スコットは危険だと止めることなく賛同した。
ユキはスコットがついて来てくれることが嬉しくて、抱きしめる腕に力を入れる。
と、こほん、と咳払いが聞こえた。
「俺もいるんですけどー。さっきから2人の世界を作ってくれちゃって」
「あ、ゴメンね、2号」
「ごめんなさい」
ジト目の2号が2人を見上げてくる。
慌てて離れたユキの肩に、2号がよじ登って来た。
「当然、俺もついていくぞ。何たって、俺はユキの友達だからな!」
「2号は、自分の身は自分で守ってね」
「酷くね!? 俺とユキとの対応違い過ぎじゃねぇ?!」
「あはっ、そうだね。友達だもんね」
スコットと2号のじゃれ合いがなんだかおかしくて、ユキは笑った。
それにつられたように、2号とスコットも笑う。
ひとしきり笑った後、本題を切り出したのは2号だった。
「それで、どうしたら良いんだ?」
ユキも、世界を救うと決めたものの、何をどうしたら良いのかわからないためスコットをじっと見る。
2人の視線を向けられたスコットは、小さくなってきた焚き火に枯れ枝を足すとユキを抱えて座り直した。
「そうだね、何から話そうかな……まずはこの世界の成り立ちから説明するね」
少し長くなるけど、と言うスコットに、2号が良いから話せ、と先を促す。
ユキは、きっとスコットの体に関係のある話なのだろうと思い、ただ黙って頷く。
「この世界は、初めは創世神である女神と精霊族、それから人間と動物が住んでいた。自然の力を操る精霊族と、道具を工夫して様々な物を創り出す人間。そして、生態系を支える動物達。みんな支え合って暮らしていた」
精霊族や動物との違いとかは今は関係ないから飛ばすけど、とスコットは話を進める。
初めは助け合って生きていたが、やがて女神が望みを叶えすぎて、自分達では何一つやろうとしなくなってしまったのは昨夜聞いた通りである。
「それで、魔物って呼ばれる悪いものが生まれたんだよね」
ユキの確認の言葉に、スコットが頷く。
では、どこにいるかわからないその魔物が世界を壊し、スコットの命を削っているのだろうか。
「でもね、世界を壊しているのは、実は魔物じゃないんだ」
「じゃあ何だ?」
「人間が生きるのに空気が必要なように、精霊や魔物が存在するために必要なものがある」
精霊に必要なものは、霊素と呼ばれている。精霊は霊素溜まりから産まれて、霊素によって存在を維持し、その力を揮うのにも霊素を使う。
霊素は初めに世界を構築する際に、消費されずに余って空気中に漂う膨大なエネルギーである。大地や草木、生命が誕生する際にも消費され、朽ちるとまた霊素となって循環する。
一方、魔物は魔素と呼ばれる物が必要となる。
「この世界は霊素によってできている、と思ってくれれば良いよ」
ユキが難しい話についていけずに目を回していると、スコットが苦笑しながらユキの頭を撫でた。
スコットは続ける。
「魔物を創り出した時に、魔素も創られた。正確には、魔素を生み出す装置だね」
その装置は、世界の数カ所に置かれ、周囲の霊素を吸込み魔素に変換する。
霊素でできている精霊達もその装置によって大部分が死滅したそうだ。
そして、その装置によって造られた魔素溜まりから魔物が生まれ、魔物以外のあらゆる生命を襲う。魔素の濃い所ほど強い魔物が産まれた。
魔物は魔素を消費すると同時に、魔素を撒き散らす。
「この世界は霊素でできているから、それを魔素に変換されたことによって、世界が維持できなくなっているんだ」
「そもそも、何でその女神はそんな装置を作ったんだ? 魔物だって魔素を撒き散らすってんなら、わざわざそんな装置を用意しなくったって十分だろう」
共通の敵っていうなら、協力すればギリギリ倒せるくらいの魔物を一匹用意すればそれで済む話だろう、と2号は言う。
その尤もな疑問に、実は、とスコットが言いにくそうに言う。
「魔物を創ったのも、装置を創ったのも、女神じゃないんだ」
「どういうことだ?」
それは、説話にも残されていない真実。
女神に仕え、創生の力を分け与えられた神獣と呼ばれる存在はスコットを含め4頭いたそうだ。
女神に煙たがられようとも、諌める役目を自ら負っていたフェンリル。そして、女神に様々な創造のアイディアを出していた悪戯好きな双子のビッグ・イヤー。
「ビッグ・イヤー?」
「ボクとは違う種族の猫型の妖精だよ」
そのビッグ・イヤーが、女神に無断で魔物と装置を創り出したのだと、スコットは淡々と語る。
女神は決して、世界を壊すことになると解っているそのアイディアを許可することはなかったと。
しかし、女神が双子の狂気に気がついた時には既に手遅れだった。
スコットは崩壊していくこの世界と断絶した空間に方舟を創り、女神と数人の精霊・人間を逃したのだそうだ。
それが、今この世界に本来いるはずの神がいない理由。
スコットは女神の代わりにこの世界を支え、方舟に乗れなかったあらゆる生命達の恨みを一身に引き受けることを選んだのだと言う。
「それが、あの子達を止められなかったボクにできる償いだと思ったんだ」
「何で誰もその装置を壊そうとしなかったんだ?」
「誰も近づけないからさ。霊素でできている精霊は、装置によって魔素にされるか、あるいはそのまま強力な魔物になってしまう。人間や動物も肉体はあるものの、やっぱり霊素で構築されているからね。魔素は猛毒ってわけ」
「待って。じゃぁ、どうやってその装置を壊したら良いの?」
世界を救うには、元凶である装置を壊し、魔物を殲滅すれば良い。しかし、装置に近づけないなら、壊しようがない。
それができるなら、とっくにこの世界の住人の誰かが成し遂げていただろう。
やるべき事はわかったが、それは不可能に近い事のようにユキには思えた。
「ユキの力を使う」
ユキの戸惑いを断ち切るように、きっぱりとスコットが言い切った。
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