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転生したら、クソゲーの主人公でした。
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乾いた音。ジンジンと痛みを訴える左頬。
その瞬間、俺は唐突に理解した。
ここが、前世でやり込んだ恋愛シミュレーションゲームの中だってことを。
「――! ――!」
ピンク色のツインテールを揺らしながらヒステリックに罵声を浴びせてくる少女。
そう、この娘はメインヒロインで最初の攻略対象だ。間違いない。覚えている。
ツンデレ属性だっていうこいつの言動には散々イラついたからな。
だけど、アニメーションじゃない。実際に目の前にいる。
これが夢ではなく現実だってことは、さっき彼女に平手打ちされた顔が痛いほどに突き付けてくる。
(え、何これ。ゲームキャラに転生って、そんなのあり?)
前世の記憶は覚えている。
というか、転生したって自覚もある。
何故なら、つい先ほどまでいわゆる『白い空間』ってとこにいたからだ。
そこで、いかにもな恰好をした長い白髭のジジイに言われたんだ。
「佐藤宏伸くん。残念ながら、君は死んだ」
「死んだ?」
「そう。トラックに轢かれてな。ミンチじゃよ」
「そ、そんな……」
「可哀そうなのは運転手じゃよ。ゲームに夢中でふらふらと出できた君のせいで、責任を取らされておる……」
「な、なら! 何とかなりませんか?! あなた神様なんでしょう?!」
縋り付くと、ジジイはふむ、と顎髭を撫でながら考え込む。
しばらくして。
「自分の死の原因となった運転手のために必死になる優しさに免じて、君を初めからあの世界にいなかったことにしてやろう。そうすれば、事故自体なかったことになる」
そういう意味で言ったんじゃないんだけど、と訂正する暇もなく、ジジイは指をパチンと鳴らした。
途端に、足元にぽっかりと穴が開いた。
「君の魂を消滅させるわけにはいかんからな。別の世界に送ってやろう。第二の人生、楽しむが良い」
落ちていくと共に意識が遠のいていく耳に、ジジイのふぉっふぉ、と笑う声が響いていた。
そして、今、俺はヒロインに罵倒されている。
平手打ちが覚醒のきっかけとか、もう少しマシなシチュエーションはなかったのかよ。あのくそジジイ。
「ちょっと! 聞いているの?! もういい! 知らない!」
くるん、とツインテールが翻り、俺の腫れた頬に追い打ちをかける。
そのまま彼女は走り去っていった。
これは、確かメインヒロインとの最初のイベントだったはず。
追いかけると、泣きながら主人公の胸に顔をうずめ、バカバカ、と罵りながら胸をドンドンしてくるんだ。
あ、今は俺が主人公か。
「うん、まぁいいや。推しじゃねぇし」
俺は追いかけないことを選択した。
ぶっちゃけ、ツンデレなんてめんどくさいだけだ。
懐かない猫みたいで可愛い、なんていう奴もいるが、俺には良さがちっとも理解できない。
罵倒されて喜ぶ趣味もないしな。
「それにしても、あのジジイ……よりにもよってよくもこんなクソゲーに……」
俺が今いるのは、男性向け恋愛シミュレーションゲーム『Don‘t Stop! 恋』――通称『どすこい』と呼ばれているゲームの中。
CERO-C……15歳以上指定ゲームだっていうのに、特にエロハプニングイベントもなく、健全に進む。
シミュレーションと言いつつ、好感度を上げるには言動の選択肢ではなく攻略対象に勝負を挑み勝利することが必要で。それまで攻略対象とどう接していようが、勝負で勝っていけば無事攻略、というチョロさ。
だが、まずメインヒロインを攻略、エンディングを迎えてからの2周目を遊ばないと他の攻略対象者には勝負はおろか話しかけることもできない。そして、2周目でも一度に攻略できるのは一人だけ。
つまり、全員の好感度を一定まで上げておいて、そこから一番上がったキャラを選ぶっていう恋愛シミュレーションゲームの常套手段は使えない。
というのがクソゲーと呼ばれる所以。まぁ、他にもクソゲーと呼ばれる理由はたくさんあるが。
「スチルだけ見れば神ゲーなんだけどな……」
ストーリーはギャグなのか真面目なのかわからないカオスな妨害が入ったり、イベント盛り沢山なのだが、とにかくカオス。
だがその分スチルも多く、ヒロインはみんな可愛い。
ツンデレ、ヤンデレ、清楚系、ビッチ系と、どんな趣味の男でも楽しめるよう攻略対象のキャラメイクには工夫も凝らされている。
だというのに、いや、だからこそか。「パッケージに騙された」というのが総じてプレイした男たちの感想。
「だから、ほっといてもどこかで勝負を挑めば……いや、そもそも、今はこれが現実なんだから、メインヒロインすっ飛ばして推しキャラ攻略できるんじゃね?」
散々クソゲーと評価されたゲームだが、俺はひたすらやり込んだ。
だからこそ、知っている。
攻略対象者を全員クリアすると現れる、シークレット攻略対象者の存在を……!
そして、追加されたシークレット攻略対象者の方が、メイン攻略対象者よりも可愛い。
さらに! シークレット攻略対象者のエンディングスチルは、総じてエロい!
CERO-D(お子ちゃまお断り)ギリギリのラインを攻めた、明らかに事後! という扇情的なスチル!
あれを実際に見られるというのなら、クソゲーだろうと挑んでやろうじゃないか!
気持ちを切り替え、推しキャラ攻略の作戦を脳内で練り始めた俺はまだ知らなかった。
いや、知っていたけど認めたくなかったのかもしれない。
クソゲーはどこまでいってもクソゲーだってことを。
この世界の恐ろしさを思い知らされるのは、もう少し先。
その瞬間、俺は唐突に理解した。
ここが、前世でやり込んだ恋愛シミュレーションゲームの中だってことを。
「――! ――!」
ピンク色のツインテールを揺らしながらヒステリックに罵声を浴びせてくる少女。
そう、この娘はメインヒロインで最初の攻略対象だ。間違いない。覚えている。
ツンデレ属性だっていうこいつの言動には散々イラついたからな。
だけど、アニメーションじゃない。実際に目の前にいる。
これが夢ではなく現実だってことは、さっき彼女に平手打ちされた顔が痛いほどに突き付けてくる。
(え、何これ。ゲームキャラに転生って、そんなのあり?)
前世の記憶は覚えている。
というか、転生したって自覚もある。
何故なら、つい先ほどまでいわゆる『白い空間』ってとこにいたからだ。
そこで、いかにもな恰好をした長い白髭のジジイに言われたんだ。
「佐藤宏伸くん。残念ながら、君は死んだ」
「死んだ?」
「そう。トラックに轢かれてな。ミンチじゃよ」
「そ、そんな……」
「可哀そうなのは運転手じゃよ。ゲームに夢中でふらふらと出できた君のせいで、責任を取らされておる……」
「な、なら! 何とかなりませんか?! あなた神様なんでしょう?!」
縋り付くと、ジジイはふむ、と顎髭を撫でながら考え込む。
しばらくして。
「自分の死の原因となった運転手のために必死になる優しさに免じて、君を初めからあの世界にいなかったことにしてやろう。そうすれば、事故自体なかったことになる」
そういう意味で言ったんじゃないんだけど、と訂正する暇もなく、ジジイは指をパチンと鳴らした。
途端に、足元にぽっかりと穴が開いた。
「君の魂を消滅させるわけにはいかんからな。別の世界に送ってやろう。第二の人生、楽しむが良い」
落ちていくと共に意識が遠のいていく耳に、ジジイのふぉっふぉ、と笑う声が響いていた。
そして、今、俺はヒロインに罵倒されている。
平手打ちが覚醒のきっかけとか、もう少しマシなシチュエーションはなかったのかよ。あのくそジジイ。
「ちょっと! 聞いているの?! もういい! 知らない!」
くるん、とツインテールが翻り、俺の腫れた頬に追い打ちをかける。
そのまま彼女は走り去っていった。
これは、確かメインヒロインとの最初のイベントだったはず。
追いかけると、泣きながら主人公の胸に顔をうずめ、バカバカ、と罵りながら胸をドンドンしてくるんだ。
あ、今は俺が主人公か。
「うん、まぁいいや。推しじゃねぇし」
俺は追いかけないことを選択した。
ぶっちゃけ、ツンデレなんてめんどくさいだけだ。
懐かない猫みたいで可愛い、なんていう奴もいるが、俺には良さがちっとも理解できない。
罵倒されて喜ぶ趣味もないしな。
「それにしても、あのジジイ……よりにもよってよくもこんなクソゲーに……」
俺が今いるのは、男性向け恋愛シミュレーションゲーム『Don‘t Stop! 恋』――通称『どすこい』と呼ばれているゲームの中。
CERO-C……15歳以上指定ゲームだっていうのに、特にエロハプニングイベントもなく、健全に進む。
シミュレーションと言いつつ、好感度を上げるには言動の選択肢ではなく攻略対象に勝負を挑み勝利することが必要で。それまで攻略対象とどう接していようが、勝負で勝っていけば無事攻略、というチョロさ。
だが、まずメインヒロインを攻略、エンディングを迎えてからの2周目を遊ばないと他の攻略対象者には勝負はおろか話しかけることもできない。そして、2周目でも一度に攻略できるのは一人だけ。
つまり、全員の好感度を一定まで上げておいて、そこから一番上がったキャラを選ぶっていう恋愛シミュレーションゲームの常套手段は使えない。
というのがクソゲーと呼ばれる所以。まぁ、他にもクソゲーと呼ばれる理由はたくさんあるが。
「スチルだけ見れば神ゲーなんだけどな……」
ストーリーはギャグなのか真面目なのかわからないカオスな妨害が入ったり、イベント盛り沢山なのだが、とにかくカオス。
だがその分スチルも多く、ヒロインはみんな可愛い。
ツンデレ、ヤンデレ、清楚系、ビッチ系と、どんな趣味の男でも楽しめるよう攻略対象のキャラメイクには工夫も凝らされている。
だというのに、いや、だからこそか。「パッケージに騙された」というのが総じてプレイした男たちの感想。
「だから、ほっといてもどこかで勝負を挑めば……いや、そもそも、今はこれが現実なんだから、メインヒロインすっ飛ばして推しキャラ攻略できるんじゃね?」
散々クソゲーと評価されたゲームだが、俺はひたすらやり込んだ。
だからこそ、知っている。
攻略対象者を全員クリアすると現れる、シークレット攻略対象者の存在を……!
そして、追加されたシークレット攻略対象者の方が、メイン攻略対象者よりも可愛い。
さらに! シークレット攻略対象者のエンディングスチルは、総じてエロい!
CERO-D(お子ちゃまお断り)ギリギリのラインを攻めた、明らかに事後! という扇情的なスチル!
あれを実際に見られるというのなら、クソゲーだろうと挑んでやろうじゃないか!
気持ちを切り替え、推しキャラ攻略の作戦を脳内で練り始めた俺はまだ知らなかった。
いや、知っていたけど認めたくなかったのかもしれない。
クソゲーはどこまでいってもクソゲーだってことを。
この世界の恐ろしさを思い知らされるのは、もう少し先。
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続きぃ~!! ノシ。ÒㅅÓ)ノシバンバン
あ、あい(*´□`)ノ書きます
ありがとうなのヾ(=゚ω゚=)ノシ